2024.04.28NTTリーグワン2023-24 D1 第15節レポート(神戸S 63-19 静岡BR)

NTTジャパンラグビー リーグワン2023-24 ディビジョン1(リーグ戦)第15節 カンファレンスA
2024年4月27日(土)14:30 東大阪市花園ラグビー場 (大阪府)
コベルコ神戸スティーラーズ 63-19 静岡ブルーレヴズ

山下裕史、変わらぬ「試合に出たい」気持ち。
「一日一善」の歩みで達成した大記録

この日で177試合。リーグ公式戦最多出場タイ記録を達成したコベルコ神戸スティーラーズの山下裕史選手

両チームとも前節でプレーオフトーナメント進出の可能性が消えた中での一戦だったが、キックオフ直後から5位のコベルコ神戸スティーラーズ(以下、神戸S)が8位の静岡ブルーレヴズ(以下、静岡BR)を圧倒。前半からトライを重ねて、終わってみれば9トライ、今季最後のホストゲームを63対19という圧勝で締めくくった。

それは、ジャパンラグビー トップリーグ&ジャパンラグビー リーグワンで通算177試合というリーグ公式戦最多出場記録に並んだ38歳のプロップ、山下裕史の偉業に花を添える勝利でもあった。

前半を神戸Sが28対0で折り返し、後半も42対7にリードを広げた同16分、具智元に代わって山下裕史が出場すると、大記録の達成がアナウンスされ、6,908人が詰めかけた聖地・東大阪市花園ラグビー場が大歓声に包まれた。

その後も、山下裕史を中心に静岡BRの武器であるスクラムでも主導権を渡さなかった神戸S。ホーンが鳴ったあとも攻め続けて北出卓也のトライで大勝を締めくくった。

試合後は、山下裕史の177試合出場と、前節でジャパンラグビー トップリーグとジャパンラグビー リーグワンの公式戦100キャップを達成した山下楽平を祝うセレモニーが催され、ロッカールームに戻ったあとは二人の記者会見も行われた。

山下楽平選手もリーグ公式戦出場100試合ということで、二人の記者会見も行われた

そこで山下裕史は「自分の記録より、チームがしっかり持ち味を出せて、ボールを動かして危なげなく勝てたことがうれしいです。いまも試合に出たいという一心でプレーしていることが(記録に)つながったのかなと。よく寝て、よく食べる。けががないというのは、僕の強みかもしれないですね」と語った。

スクラムの中でも非常に大きな負荷のかかる3番(タイトヘッドプロップ)というポジションで「これだけのキャップ数を重ねることは簡単ではないと思う。なかなか破ることができない素晴らしい功績だと思います」と共同キャプテンのブロディ・レタリックも称えた。

またデイブ・レニー ヘッドコーチは、「普段からクラブハウスの掃除を率先してやってくれるし、チーム内で常に高いスタンダードを設定して、良い手本になってくれています」と山下裕史の人間性にも言及する。

それらの言葉に対して山下裕史は「一日一善、良いことを1日に一つでもやっていったら、家族や、巡り巡ってチームにも良いことが起こるかなと思ってやっています」と答えた。負傷の少なさは、183cm/120kgの肉体を日々しっかりと管理している努力によるところが大きいだろうが、そうした日頃の行いも影響しているのかもしれない。

会見内で、山下裕史を祝いたいという気持ちも快勝の原動力になったのかと聞かれた山下楽平が「もちろんじゃないですか。それだけですよ(笑)」と答えると、「ちょ……、ウソをつくな」と山下裕史がツッコミを入れるなど、チーム内での関係性の良さも感じられた。

先に記録を作った元日本代表の久富雄一(当時・日野レッドドルフィンズ)が昨季177試合を達成したのは44歳のとき。6歳若い山下裕史はまだまだ記録を伸ばす可能性がある。

デイブ・レニー ヘッドコーチは「来年に彼のモチベーションを残すために、最終節はあえて出さない(今季中に新記録を作らない)という選択肢もある」と周囲を笑わせたが、本人は今後の目標を聞かれて「けがなく引退すること。まずは元気に来シーズンを迎えること」と語った。

彼の中のひたすら「試合に出たい」と思う気持ちは揺るぎなく、今後もチームに良い影響を与え続けていくことだろう。

(前島芳雄)

コベルコ神戸スティーラーズ

コベルコ神戸スティーラーズのデイブ・レニー ヘッドコーチ(左)、ブロディ・レタリック共同キャプテン

コベルコ神戸スティーラーズ
デイブ・レニー ヘッドコーチ

「トライも9回取ることができましたし、ポジティブな結果だったと思います。チャンスもたくさん作ることができました。それをすべてフィニッシュする(得点につなげる)ことはできませんでしたが、最初から試合を圧倒することができたと思います。ディフェンスも全体をとおして良かったと思います。それによってターンオーバーからトライという状況もたくさん作れました。先週の残念な結果から(挽回して)、自分たちの良いパフォーマンスを見せられて良かったと思います」

──リーグ戦最多出場記録タイに並んだ177試合出場の山下裕史選手がチームに与えている影響というのは、どんなものでしょうか?

「本当に素晴らしい人間です。(ブロディ・)レタリックも言いましたが、チーフスに自分がいたときに彼と初めて会って、そこから関わりがあります。彼はリーダーシップグループには入っていませんが、外の部分からしっかりとリーダーシップを発揮して、常にチームをリードしてくれています。普段からクラブハウスの掃除をするなど、そういうことを率先してする選手なので、チームの中でも常に高いスタンダードを設定してくれて、良い手本になってくれています。山下は社員選手で、自分たちにとっても社員の選手はすごく大事な存在なので、素晴らしい模範になってくれていると思います。ただ来週に関しては、あえて使わないというのも選択肢かなと思っています。来週出場すると新記録になってしまうので、来シーズンのモチベーションを残させるためにはわざと使わないのもありかなと思います(笑)」

──今日15番で起用した李承信選手が素晴らしい働きをしたと思いますが、彼をあの位置で使った理由と成果を聞かせてください。

「李承信は本当に素晴らしいラグビー選手だと思っています。今シーズンここまでセンターでプレーすることが多くて、それまでは10番でプレーすることが多かった選手です。彼の一番の強みは、やっぱりアンストラクチャー、ブロークンフィールドのところで見せるランニング能力や判断のスキルのところだと思います。今まで自分がコーチングしてきた選手を振り返っても、ダミアン・マッケンジー、ロビー・ロビンソン、ガレス・アンスコムといった10番でもプレーできる選手たちも、アンストラクチャーの状況で高いスキルを発揮できることで15番になるというケースはありました。彼も同じような力があると思っています。今日は15番でプレーする中で、良い判断をしてくれましたし、素晴らしいスキルを見せてくれたと思います」

コベルコ神戸スティーラーズ
ブロディ・レタリック キャプテン

「(内容はデイブ・レニー ヘッドコーチと)同じようになりますけど、アタックの部分でしっかりとボールを動かすことができて良かったと思います。自分たちのラグビーの中でもスピードアップというところを特にポジティブにやっていこうと話していたので、今日一番ポジティブだったと思うところは、クイックスローなどでテンポを常に意識してプレーができたということです。すべてフィニッシュすることはできなくて、ちょっとタッチラグビーのような状況になってしまうところもありましたが、ほとんどの場合ではボールを生かし続けるという良い形ができたと思います。先週の残念な結果から、自分たちがしっかり前を見てすごく努力したということは今日の結果からも分かると思うので、そこはポジティブだと思います」

──前節の結果でプレーオフトーナメント進出を逃した中から、今週はどういった声掛けをしたことで、今日の素晴らしい試合につながったと感じていますか?

「このチームの中には、『自分たちはプレーオフトーナメントに行けないから、今週は簡単にあきらめよう』という気持ちの人間は誰もいません。プレーオフトーナメントに行けないことはすごく残念な気持ちになりますが、自分たちがチームとしてどういうことができるのか、そこを信じようというところを今日はしっかりと出せたと思います。試合の最後のスクラムのところも、『自分たちの“神戸ラグビー”をしよう、自分たちのアタックを絶対にしていこう』という話をしていて、それが今日の結果につながったのかなと思います」

──今日は山下裕史選手がリーグ最多タイの177試合出場という大記録を作りましたが、山下選手はどういう存在ですか?

「本当に素晴らしい功績だと思います。山下さんと最初に会ったのは彼がチーフスで1年間プレーしたときで、その際にもクオリティーの本当に高い選手だと思いました。そのシーズンもチーフスで何試合も出ていましたし、その後継続して3番の選手としてこれだけのキャップ数を重ねるということは簡単なことではないと思うので、なかなか破ることができない素晴らしい功績だと思います」

静岡ブルーレヴズ

静岡ブルーレヴズの藤井雄一郎監督(左)、庄司拓馬バイスキャプテン

静岡ブルーレヴズ
藤井雄一郎監督

「今日は本当にコベルコ神戸スティーラーズ(以下、神戸S)さんのやりたいようにやられて、ウチはエンジンが掛かるのも遅かったですし、けが人も出てなかなか……。80分間をとおして、そういう試合になってしまったと思います。若い選手も出ているので、しっかり立て直して最終戦に臨みたいと思います」

──今日は立ち上がりからターンオーバーされる回数が非常に多かったと思いますが、その原因はどう感じていますか?

「コンタクトエリアの部分で、ウチが到達するのが遅いのと、少し姿勢も高かったのと、ブレイクダウンでも(問題があった)。その辺りが原因だと思います」

──後半開始からに一気に5人を代えて入りましたが、後半に向けてはどんな指示をされましたか?

「疲れのせいで動きの悪い選手も何人かいたので、ちょっとインパクトを与えないといけないということと、流れを変えるには一気に代えるしかないかなと思いました。点数も離れていましたし、代えられる人数をすべて代えたということです。しっかりインパクト(プレーヤー)で出る人間がインパクトを出して、そこでできたスペースをしっかり判断して、ボールを運ぼうということでしたけど、けがなどの影響で(いつもと)違うポジションで出た選手がいたりして、なかなか難しいところだったと思います。(話した)内容としてはそのぐらいです」

静岡ブルーレヴズ
庄司拓馬バイスキャプテン

「藤井監督が言われたとおりになりますが、自分たちのやるべきことを、神戸Sさんにやらせてもらえなかった。神戸Sができることをやってきたという試合展開だったと思います。ただ、下を向いている時間はなくて、あと1試合しかないので、自分たちのやるべきことをしっかり見直して、最終戦、ホストで良いゲームをして終われるように準備していきたいと思います」

──今日は立ち上がりからターンオーバーされる回数が非常に多かったと思いますが、その原因はどう感じていますか?

「コンタクトエリアで前に出られないシチュエーションの中で、どうしてもサポートが遅くなって、セットアップも遅くなるという悪循環が続いてターンオーバーが増えたのかなと思います」

──前半は流れが良くない中で、グラウンドの中でどんなことを話していましたか?

「前半の始めからけが人がポンポンと出てしまいましたけど、その中でもボールを持って継続的にアタックしながら前に出ていこうというのが自分たちのプランとしてあったので、それをやり続けようと声を掛けてやっていました。ただ、なかなかうまくいかず、どうしても相手に蹴らされて、また裏を取られるという展開で、自分たちがやりたいことをさせてもらなかったと思います」



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