そのころ、チームはまだ発展途上にあった。前年度のシーズンの成績は7位。カンファレンスを3位で通過して「当初の目的を達成した」と小さな胸を張っていた、そんな時代。 2019年、ライアン・クロッティはオールブラックスの肩書を引っさげ、クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(以下、S東京ベイ)にやってきた。現在のフラン・ルディケ ヘッドコーチ、立川理道キャプテンの体制がスタートして4度目のシーズン。ニュージーランド代表出場試合数は44(当時)、クルセイダーズのスーパーラグビー3連覇にも大きく貢献したワールドクラスの名プレーヤーに期待されたのは、「強いチームのカルチャー」の構築とその定着だった。

「2019年の時点でその文化の土台はすでに築かれていたので、私はとてもラッキーなタイミングで入団できたと思います。フラン(・ルディケ)ヘッドコーチを始め、スタッフや以前から在籍していた外国人選手たちが、土台を作ってくれていました。そこに、2019年に入団した私やバーナード・フォーリー選手、田邉淳コーチなどがディフェンスのディテール面で国際レベルのものを導入したという側面はありますが、そういったことができたのも、そこにいい選手がいて、いい文化の土台があったからだと思います」 「優れたチームには『勝てる文化』というものがあり、それは人とのつながりや友情などがあって成立する」とライアン・クロッティは語る。入団後は積極的に日本人選手たちともコミュニケーションを図り、人間関係を構築。のちにS東京ベイの大きな武器となるファミリー意識の高さ、温かいチームの空気が次第に醸成されていく。

「まず、人とつながりを持ち、その人の優しさを感じることで私自身がハッピーになれるんです。そして、試合でタフな状況に陥った局面で最も大切なのは、チームメートとの信頼関係です。何か解決すべき物事が起こった際に、次のタスクとしてどれだけみんなが一つになれるか。だから今シーズンも、人とのつながりや友情などを意識しながら取り組んできました」 フラン・ルディケ ヘッドコーチも「彼はスペシャルな人間でスペシャルな選手。チームのディフェンスシステムを変えてくれましたし、チーム文化、アタックシェイプ(攻撃の戦術)などもサポートしてくれました。オールラウンドにチームに貢献してくれました」と評する。入団して4シーズン。そしてS東京ベイは「勝てる」チームへと成長を遂げた。

「会社を含め全員が一生懸命に取り組んできた結果だと思います。そうしたチームに関わることができたこと自体が、私にとってはギフトです。これまでの経験であったり、学びであったりをほかの選手に伝えることができたことを誇りに思います」

まるでその使命を果たしたかのように、ライアン・クロッティは、今季を最後にS東京ベイを去る。ホストスタジアム「スピアーズえどりくフィールド」でその雄姿に触れられるのも、これが最後。左ふくらはぎの負傷から、満を持しての復帰戦。ラストランの準備は整った。 「今週もしっかりと準備ができ、いいパフォーマンスができると思います。試合に戻ってくることができ、うれしいです。私にとっては最後となる『えどりく』で、熱心に応援してくれるオレンジアーミーたちの前でプレーができます。試合が待ち切れない気持ちでいっぱいです」