クロスボーダーラグビー2024 レポート(埼玉WK 38-14 ギャラガー・チーフス)

まさにクロスボーダー。日本で実現したボーシェー兄弟の“初対戦”

攻守に高いパフォーマンスを示した埼玉パナソニックワイルドナイツのラクラン・ボーシェー選手

2月4日に熊谷スポーツ文化公園ラグビー場で開催された「THE CROSS-BORDER RUGBY 2024」で、埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)がギャラガー・チーフスに38対14で勝利した。今季のNTTジャパンラグビー リーグワン2023-24 ディビジョン1で首位を走る埼玉WKが、スーパーラグビー・パシフィックの強豪に対して一歩も引かない闘いを披露して勝利をつかみ取った。

埼玉WKのラクラン・ボーシェーと、ギャラガー・チーフスのケイラム・ボーシェー ゲームキャプテン。幼いころ、自宅の裏庭でラグビーを楽しんだ兄弟が、交流戦で初めて相まみえた。

「埼玉WKはリーグワンで活躍しているチームなので、簡単なゲームにはならないと思った」(ケイラム・ボーシェー)

ラクラン・ボーシェーとケイラム・ボーシェーは、同じ7番で対峙した。ラクラン・ボーシェーは、ジャッカルを武器に相手に圧力を掛けて埼玉WKのダイナモとなっていった。ケイラム・ボーシェーは全体の流れを把握しながら攻守のバランスを整えた。埼玉WKが徐々にリードを広げる展開も、後半早々にギャラガー・チーフスが1トライを返して10点差に詰める。だが、埼玉WKはマリカ・コロインベテ、マーク・アボットのトライで突き放してリードを広げてタイムアップの笛を聞いた。

プレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれたラクラン・ボーシェーは「パワーのあるニュージーランドのチームに対してタフな試合だったが、しっかりと戦えた。個人的にも、チームにとっても良い機会になった」と笑顔を見せた。

ケイラム・ボーシェーは「(ギャラガー・チーフスにとって)プレシーズンマッチの一戦という状況だったが、兄がプレーするチームに負けたことはやはり悔しい。兄は、もともとギャラガー・チーフスでプレーしていて“オールブラックス”ニュージーランド代表が目標だったが、人生の大きな決断として日本でのプレーを選択した。その決断の意味が分かった」と兄に敬意を表した。

ラクラン・ボーシェー選手(右)とケイラム・ボーシェー選手

2021年から埼玉WKでプレーするラクラン・ボーシェーは「ニュージーランドで長くプレーしていたが、自分自身に変化を与えるために日本でのプレーを選択した。人生の新しいキャリアとして日本を選んで良かったと思う。将来的には、弟がリーグワンに来るかもしれないし、また日本で対戦できることを楽しみにしている」と語った。

激闘を終えた二人。試合当日の夜は、兄の自宅に、弟が宿泊。年末に生まれたラクラン・ボーシェーの長男に「初対面」したという。国境を越えた戦いは、兄弟のドラマと絆を演出してその幕を閉じた。

(伊藤寿学)

埼玉パナソニックワイルドナイツ

埼玉パナソニックワイルドナイツのロビー・ディーンズ監督(左)、坂手淳史キャプテン

埼玉パナソニックワイルドナイツ
ロビー・ディーンズ監督

「リーグ戦にフォーカスしている中で、この試合に意味を持たせたいと考えました。目的を持って取り組めたと思います。シーズン中だったので精神的には簡単ではなかったが、相手をリスペクトして、プライドを懸けて戦いました。

もしかしたら(けがなどで)失うものが大きいかもしれないと思っていましたが、選手たちが、この試合へ目的を持って、プライドを示せたと思います。その点ではリスペクトしています。このような試合は自分たちでできることではないので、リーグワンがしっかりと準備してくれました。2月は試合数が少ないのですが、このようなゲームができて良かったと思います。

(ギャラガー・)チーフスにとっては開幕へ向けて良い準備になったと感じています。埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)は2週間後には東京サントリーサンゴリアス戦が待っていますが、同じように良いゲームができると考えています。ファンに喜んでもらえると信じています」

埼玉パナソニックワイルドナイツ
坂手淳史キャプテン

「最初の10分で埼玉WKらしいプレーをしようと思いました。ハカに対してはハカが終わった時点でスイッチを入れようと考えました。良いイメージでゲームに入っていけたと思います」

──ゲームへのモチベーションはいかがでしたか?

「難しかったです。このゲームに対して、ハードなゲームになることは予想していました。特にメンタル的に。スタンダードを示す機会だと考えました。リザーブも良いプレッシャーを掛けてくれて準備できたと思います。強くなる、うまくなる、勝ち続けるという高いスタンダードを示すことができました。タフなチームを誇りに思います」

──ラクラン・ボーシェー選手の存在について教えてください。

「僕らは、ラクラン・ボーシェー選手をロッキーと呼んでいますが、タックラーとして良いパフォーマンスを見せてくれたと思います。堀江(翔太)さんから『最初の10分でタフに来る』という話があって、そこをはね除けるアドバイスがありました。スーパーラグビーの相手への良い助言になったと思います」

──この勝利の意味はどういったものでしょうか?

「勝ったことの好材料は、これからのリーグ戦へつながるということです。今週を良いメンタルで乗り越えたことがチームの財産だったと思います。タフなチームになったと思いますし、次へつながっていくと思います。チームのスタンダードを見せ続け、高め続けていきたいと思います。スケジュールは大変ですが、若い選手がこういう機会を経験できるのは良い機会です。チームの成長にとっては良い機会で、良い試合ができたと思います」

ギャラガー・チーフス

ギャラガー・チーフスのクレイトン・マクミラン ヘッドコーチ(左)、ケイラム・ボーシェー ゲームキャプテン

ギャラガー・チーフス
クレイトン・マクミラン ヘッドコーチ

「まずはこのゲームに足を運んでいただきサポートしてくれたことに感謝しています。素晴らしい試合の雰囲気でした。勝者である埼玉WKにお祝いの言葉を送りたい。埼玉WKはリーグを代表するチームですが、ゲーム内容も良く、一貫性を持って戦っていることが分かりました。昨日の試合も含めて、リーグワンの選手たちがコミットしていて、日本のチームはスキルも高いと感じています。結果についてはがっかりしていますが、言い訳はまったくありません。良い準備をしてより良い結果を導きたいと思っていましたが、このゲームでは結果をつかめませんでした。この試合では、自分たちの現在地を把握することができましたし、この学びを今シーズンへつなげていきたいと思います」

──今日のハカの種類について教えてください。

「今日のハカは、(ギャラガー・)チーフスしかやっていないハカの種類です。どういうことを象徴しているかと言うと、自分たちが何者であるかを表現しています。ハカを披露した経緯は、軽い気持ちではありません。今回は埼玉WKとファンのことを尊重して、ハカをすることを決めました。ハカは優勝したあとや節目の試合しかやっていないものです。日本のファンのために今日は特別にハカを披露しました」

──試合の印象を教えてください。

「元(ギャラガー・)チーフスのラクラン・ボーシェー選手がプレーしているのを観てうれしかった。このゲームのMVPだったと思います。質の高い選手で、失いたくない選手でした。埼玉WKは全体で素晴らしいチームでした」

──この試合に出場しなかった選手は来週の試合には出場するのでしょうか?

「試合を分析してレビューをした上で決断したいと思います。(ニュージーランド代表)オールブラックスのメンバーでプレー可能な選手もいるので、出場機会を与える意味でも、レビューをしたあとにメンバーを決めたいと思います」

ギャラガー・チーフス
ケイラム・ボーシェー ゲームキャプテン

「まずは埼玉WKを讃えたいと思います。ヘッドコーチも話していましたが、だからこそ埼玉WKがリーグのトップを走るチームだと感じました。ゲーム自体は、パワーのある選手が多く、ボールキャリーを止めることができませんでした」

──最初のペナルティでタッチではなくキックを選択した意図はなんでしょうか?

「真剣に試合に取り組みたいことが理由にありました。相手を尊重したいと思いましたし、埼玉WKはリーグワンで活躍しているチームなので、キックを選択しました」

──ラクラン・ボーシェー選手との兄弟対決となりましたが感想を教えてください。

「初めて兄と対戦しました。コンタクトしたのはいくつかのプレーだけでしたが、本当にエキサイティングでした。対戦することはなかったので、この機会だけかもしれません。(ニュージーランド代表)オールブラックスになりたい願望があった中で、兄がニュージーランドを去って日本に来るのは大きな決断だったと思います。私たち兄弟は会話が多くないが、バックヤードで一緒に遊んでタックルをしていたのを思い出しました。5歳上なので当時は負けていましたが、いまは負けないと思います(笑)」

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