クボタスピアーズ船橋・東京ベイ
あの日見たのは夢だったのか。いや、違う。2023年5月20日の国立競技場。僕らは確かに目撃したのだ、彼らがジャパンラグビー リーグワンの頂点に立った瞬間を──。
それはトップリーグの時代には想像できなかった光景だった。前身は1978年に発足したクボタ東京本社の有志によるラグビー同好会。全国大会出場に至るまでに19年、日本選手権出場までには23年もの時間を要した。トップリーグには初年度から参加するも、2010年度にはトップイーストに降格。13年度に再昇格し、16年度からは現在のフラン・ルディケ ヘッドコーチ-立川理道キャプテン体制がスタート。これまでの道のりは決して平坦ではなく、振り返ればそこには悔し涙の轍がある。
そして、新時代の扉は開かれた。ジャパンラグビーに新たな息吹をもたらすリーグワン。その元年の2022年はトップリーグ時代からの強豪・埼玉パナソニックワイルドナイツ(埼玉WK)、東京サントリーサンゴリアス(東京SG)に次いで単独3位。そして昨季は開幕戦で東京SGに18年ぶりの勝利。決勝では最強王者・埼玉WKを下し、創部45年目にして初のリーグ制覇を達成。今季、クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(S東京ベイ)はチームの歴史上、初めて王者としてリーグに臨む。
「ただ、ディフェンディングチャンピオンだということはあまり考えていません。もう一度優勝するためには何が必要なのかを話し合いながら準備を進めてきました。(優勝という)先を見過ぎずに、一戦一戦を戦っていきたいと思います」
チームをまとめる立川の言葉には、いい意味で王者らしさが感じられない。その原動力は、不屈のチャレンジャースピリット。満身創痍で泥だらけになりながらつかんだ栄光に、長い時間の中で育まれてきた魂は微塵も左右されない。「リーグ制覇」という過去の扉は一度締め、新たなる戦いと向き合う。これが、今季も変わらぬS東京ベイのスタンスである。
グラウンドから聞こえてくる真剣勝負の刃の響きは美しく、日々の生活の中で僕らの心の蓄積された毒をきれいにろ過してくれる。昨日よりも明日、明日よりも明後日、少しでも強くなれるように一つひとつ積み上げていくことの大切さ。S東京ベイの戦いは、そんなことを観る者に語りかけてくる。
追い求めるのは進化と成長。その行く先に「連覇」がある。そして僕らはもう一度、再会するのである。オレンジの歓喜に包まれた、あの場所で。
(藤本かずまさ)
●注目選手
世界最高峰のフッカーでチームの躍進にも大きく貢献したマルコム・マークス負傷の報を聞いて、大きく肩を落としたファンは少なくないだろう。だが、ご安心あれ。ラグビーワールドカップのフランス大会を最後に引退を表明していたニュージーランド代表の超大物、デイン・コールズが電撃加入。184cm・110kgの巨体ながら猛スピードで走る、走る! 世界を震撼させた驚異の男が、今季日本にやってくる。その衝撃は、観る者の期待を決して裏切らない。