リーグワン2023-24 シーズン展望[DIVISION 1]

もう一度、あの場所で頂点に。追い求めるのは進化と成長

クボタスピアーズ船橋・東京ベイ

あの日見たのは夢だったのか。いや、違う。2023年5月20日の国立競技場。僕らは確かに目撃したのだ、彼らがジャパンラグビー リーグワンの頂点に立った瞬間を──。

それはトップリーグの時代には想像できなかった光景だった。前身は1978年に発足したクボタ東京本社の有志によるラグビー同好会。全国大会出場に至るまでに19年、日本選手権出場までには23年もの時間を要した。トップリーグには初年度から参加するも、2010年度にはトップイーストに降格。13年度に再昇格し、16年度からは現在のフラン・ルディケ ヘッドコーチ-立川理道キャプテン体制がスタート。これまでの道のりは決して平坦ではなく、振り返ればそこには悔し涙の轍がある。

そして、新時代の扉は開かれた。ジャパンラグビーに新たな息吹をもたらすリーグワン。その元年の2022年はトップリーグ時代からの強豪・埼玉パナソニックワイルドナイツ(埼玉WK)、東京サントリーサンゴリアス(東京SG)に次いで単独3位。そして昨季は開幕戦で東京SGに18年ぶりの勝利。決勝では最強王者・埼玉WKを下し、創部45年目にして初のリーグ制覇を達成。今季、クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(S東京ベイ)はチームの歴史上、初めて王者としてリーグに臨む。

「ただ、ディフェンディングチャンピオンだということはあまり考えていません。もう一度優勝するためには何が必要なのかを話し合いながら準備を進めてきました。(優勝という)先を見過ぎずに、一戦一戦を戦っていきたいと思います」

チームをまとめる立川の言葉には、いい意味で王者らしさが感じられない。その原動力は、不屈のチャレンジャースピリット。満身創痍で泥だらけになりながらつかんだ栄光に、長い時間の中で育まれてきた魂は微塵も左右されない。「リーグ制覇」という過去の扉は一度締め、新たなる戦いと向き合う。これが、今季も変わらぬS東京ベイのスタンスである。

グラウンドから聞こえてくる真剣勝負の刃の響きは美しく、日々の生活の中で僕らの心の蓄積された毒をきれいにろ過してくれる。昨日よりも明日、明日よりも明後日、少しでも強くなれるように一つひとつ積み上げていくことの大切さ。S東京ベイの戦いは、そんなことを観る者に語りかけてくる。

追い求めるのは進化と成長。その行く先に「連覇」がある。そして僕らはもう一度、再会するのである。オレンジの歓喜に包まれた、あの場所で。

(藤本かずまさ)

●注目選手

世界最高峰のフッカーでチームの躍進にも大きく貢献したマルコム・マークス負傷の報を聞いて、大きく肩を落としたファンは少なくないだろう。だが、ご安心あれ。ラグビーワールドカップのフランス大会を最後に引退を表明していたニュージーランド代表の超大物、デイン・コールズが電撃加入。184cm・110kgの巨体ながら猛スピードで走る、走る! 世界を震撼させた驚異の男が、今季日本にやってくる。その衝撃は、観る者の期待を決して裏切らない。

HO デイン・コールズ

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西の名門が育む、強者のメンタリティー

コベルコ神戸スティーラーズ

オーストラリア代表や強豪チームを率いてきた歴戦の名将、デイブ・レニーを新ヘッドコーチに招聘した2023-24シーズンのコベルコ神戸スティーラーズ(神戸S)。昨季は9位という不本意な結果で終えた中、捲土重来、王座奪還を期して戦う今季、プレシーズンから厳しさを伴ったトレーニングで鍛え上げられている。

10月28日に加古川運動公園陸上競技場に昨季のリーグワン王者、クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(S東京ベイ)を迎えて実施されたプレシーズンマッチは、神戸Sが確かに生まれ変わろうという意思を存分に見せつける戦いぶりだった。

一つのタックルに執着心を持ち、決して相手の体から手を放さず、死に物狂いで味方のサポートを呼び込む選手たち。ワンプレーに対するこだわりは、スタンドから見ても存分に感じられた。明らかに神戸Sは成長している。そんな感想をもったのと裏腹に、新指揮官の開口一番は厳しいものだった。

「雑な部分がすごく多い試合だった」

最終的に昨季王者から白星を挙げ、観ている者にも一つの高揚感をもたらしたのが実際。ただ、歴戦の指揮官は満足感を伝えなかった。

「もちろん勝利することはうれしいこと。ただ、練習試合にトロフィーがあるのかと言えば、掲げられるトロフィーは何もない」

あくまでその視線で捉えるのはチームや個々の“成長”。トレーニングと試合のサイクルをこなしていく過程において、常に進化に矢印を向け続ける新生・神戸S。選手からも、チーム関係者からも飛び出すのは「優勝した2018-2019シーズンの雰囲気に似ている」ということ。神戸Sは強者のメンタリティーを着実に育んでいる。

S東京ベイ戦後、横浜キヤノンイーグルス、トヨタヴェルブリッツ、花園近鉄ライナーズとのプレシーズンマッチを実施。その試合と準備のサイクルに、リーグ戦での成功へ向けた貴重な成長の糧を積み上げていることは確実だ。レニー神戸が示す“本気”。今季のジャパンラグビー リーグワンは西の名門が盛り上げる。

(小野慶太)

●注目選手

「イヤボイ!」の掛け声でおなじみ、大型プロップ・中島イシレリ。日本開催の2019年ラグビーワールドカップで一躍時の人となった経験豊富な彼は、新たな指揮官のもとでさらなる野心を育んでいる。「今までの神戸のトレーニングで一番走っている。厳しさは代表になったときの感じです」。ハードトレーニングに真っ向勝負し、なお成長を希求する34歳。「今季、新しい神戸のラグビーはすごい面白いと思いますよ」。新シーズンへ、進化を止めない中島に注目だ。

PR 中島イシレリ

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使命は「王座奪還」。ワールドカップに出場した各国代表が力を合わせ、あの場所へ

埼玉パナソニックワイルドナイツ

「王座奪還」が使命だ。ジャパンラグビー リーグワン初年度には破竹の進撃で頂点に立ち初代王者となった。連覇を狙った昨季はプレーオフトーナメント決勝に進出したが、クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(S東京ベイ)に惜敗し準優勝。決勝で敗れたあと、ロビー・ディーンズ ヘッドコーチは「We will be back(この場所へ戻ってくる)」と語った。日本代表の松田力也は涙を流しながら、S東京ベイの優勝セレモニーを見守った。あの光景は忘れることができない。青のジャージをまとった野武士たちは決勝で敗れた悔しさを力に変換して“返り咲き”を狙う。

今季の埼玉パナソニックワイルドナイツは「継続」だ。昨季の主軸がチームに残り、攻守において戦術面での積み上げが可能となる。フロンローは坂手淳史、稲垣啓太、堀江翔太ら日本代表を軸にゲームを構築。リアム・ミッチェル、ルード・デヤハーらのセカンドロー、ベン・ガンター、ジャック・コーネルセンらのバックローの強度はリーグ屈指。堅実な守備を土台にして鋭い攻撃へつなげていく。

松田力也、山沢拓也のダブル司令塔のゲームメークからフォワード、バックス一体の多彩な攻撃を演じていく。ダミアン・デアレンデは南アフリア代表としてラグビーワールドカップ制覇を成し遂げてリーグワンに再参戦。マリカ・コロインベテ、ディラン・ライリーらのバックス陣のパワー、スピードは迫力を増す。長田智希を始めとする、昨季ブレイクした若手の存在も頼もしい。新戦力のオッキー・バーナード、ゼイビア・スタワーズらがスタメン争いに絡めば戦力値がさらに上がっていく。福井翔大、小山大輝、竹山晃暉らの進化も連覇には欠かせない。

チームは今秋に実施したオーストラリアキャンプで本格始動。キャンプで培ったベースにラグビーワールドカップ2023出場の日本代表、各国代表らが加わり、リーグ開幕へ向けて最終的な調整を図っていく。昨季の積み上げがあるだけに開幕からのスタートダッシュがカギになりそうだ。継続プラスαを体現できるかが王座奪還への焦点。国立競技場で再びトロフィーを掲げるために、一戦一戦を全身全霊で闘っていく。

(伊藤寿学)

●注目選手

4度のラグビーワールドカップ出場を誇る日本ラグビーのレジェンドで、リーグワン初代MVP。昨季はリーグ通算150試合出場を達成し、プレーに円熟味が増す。「ラスボス」の異名を持つ最強フッカーの登場でチームは数々の逆転勝利を収めてきた。今季の目標は「王座奪還」。「1プレー1プレーを大切にしていくことが結果につながっていく」。彼の新たな挑戦が始まろうとしている。

HO 堀江翔太

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スキのないスコッドで回転数を上げる。目標はタイトル争い

静岡ブルーレヴズ

1984年創部のヤマハ発動機ラグビー部を母体とする伝統のクラブ。ジャパンラグビー リーグワンでは初年度からディビジョン1に所属して2年連続8位に終わっているが、今季はその壁を越えてプレーオフトーナメントに進み、タイトル争いに絡むことが目標となる。

そのための強化の一環として大きいのは、ともに日本代表チームでラグビーワールドカップ2023に参戦していた藤井雄一郎監督と長谷川慎アシスタントコーチが加わったこと。5年ぶりの指揮官交代として就任した藤井監督は、選手、コーチ、GMなどのチームマネジメント役としても経験豊富で、日本代表の強化委員長として2019年ラグビーワールドカップでのベスト8初進出に貢献した。

静岡BRでの1年目は「簡単には負けないし、(相手が)勝ち星を挙げるのは本当に大変という“しぶとい”チームを作って、開幕から見せていきたい」と藤井監督は言う。最後に勝ち切る勝負強さという部分は昨季の課題になっていただけに、そこを改善する手腕に注目したい。

長谷川アシスタントコーチは、過去にも静岡BRのコーチを務め、スクラムをチームの武器に育て上げた功労者。その実績を買われて日本代表に加わり、国際舞台でさらに経験値を高めてきただけに、「スクラムにより磨きがかかった」と鹿尾貫太も手ごたえを口にする。

戦力的にも、ラグビーワールドカップ2連覇に貢献した南アフリカ代表のクワッガ・スミス、昨季のチームトライ王のマロ・ツイタマと日野剛志、日野とともに長くチームを支えてきた大戸裕矢、経験豊富なブリン・ホールら主力の多くが残り、元ニュージーランド代表で、今はトンガ代表のチャールズ・ピウタウをはじめ5人の実績ある即戦力が加入。昨季よりもスキのないスコッドが整っている。

今季のチームスローガンは、「RevAmp(リヴァンプ)」。チーム名でもある「Rev」(エンジンの回転数を上げる)と「Amp」(増幅させる)を組み合わせて、チームをより加速させていくことを意味する。成績はもちろん、ファン層の厚さや営業成績の面でもさらに成長させていくという願いを込めている。それを実現させるためにも、難敵との戦いが続く序盤戦で好スタートを切ることが欠かせないだろう。

(前島芳雄)

●注目選手

昨年は層の薄さが感じられたフルバックにトンガ代表の主力が加入。23年のラグビーワールドカップでは個人スタッツでオフロードパス数1位を記録しており、チームにとって非常に頼もしい存在となる。サイズがあり、スピード豊かなラインブレイクも武器。本人も「自分のポジションで世界一になりたいし、成長している過程のチームをリードしていくような存在になっていきたい」と大きなやりがいに燃えている。

FB チャールズ・ピウタウ

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日本代表7人と世界最高峰の新加入3選手を筆頭に、見せつける「これがサンゴリアスだ」

東京サントリーサンゴリアス

今季のスローガンに「THIS IS SUNGOLIATH」を掲げた東京サントリーサンゴリアス。そのスローガン成立の背景には、14人という数的不利ながら、最後の1秒まで逆転勝利を目指してアタックし続けた昨季プレーオフトーナメント準決勝のクボタスピアーズ船橋・東京ベイ戦が大きいと田中澄憲監督は語る。

「昨季、セミファイナルでああいう敗戦をしましたが、勝ち負けは別にして、『あのパフォーマンスに心が動いた』という声をたくさんいただきました。われわれが目指すのは、まさに心が動くラグビー。『これがサンゴリアスだ』というラグビーを毎試合見せなければならないと再確認し、その思いをスローガンに込めました」

「これがサンゴリアスだ」という言葉の根っこにあるのは、チームの伝統である「アグレッシブ・アタッキング・ラグビー」。その“らしさ”を出すためにも、今季はよりボールを保持し続けることにフォーカスする。

「われわれはボールを持っているときに相手の脅威になるチームです。だからこそ、ボールを持っていないときにどう相手の脅威になるかが大事。今季は『Win The Ball』の部分を大事にしています」(田中監督)

球際でいかに勝つか。そこで中心になるのは、ラグビーワールドカップフランス大会の日本代表メンバーの7人(堀越康介、垣永真之介、下川甲嗣、齋藤直人、流大、中村亮土、松島幸太朗)であるのは間違いない。チームの頭脳、流大も優勝への決意を強くにじませる。

「優勝しか見ていません。そのためにも、ほかのチームとの違いをいかに生み出すか。『THIS IS SUNGOLIATH』と掲げたように、仮に違うジャージを着ていたとしても『このプレーはサンゴリアスだ』と思われるラグビーがしたい。新しいメンバーも増え、チームのエネルギーはとても高いです」

その「新しいメンバー」として期待がかかるのは、ニュージーランド代表主将でフランカーのサム・ケイン、ラグビーワールドカップ連覇に貢献した南アフリカ代表のウイング、チェスリン・コルビ、ウェールズ代表のスタンドオフであるガレス・アンスコムという、世界最高峰の3選手。豪華布陣で狙うのはもちろん、2017-18シーズン以来の優勝だ。

(オグマナオト)

●注目選手

今季、主将に指名されたのは堀越康介。昨季も齋藤直人とともに共同主将を務めたが、今季は一人でその重責を担う。「チームのマインドセットの部分、モチベーションを上げる役割を徹底したい」と意気込む堀越の自分自身のモチベーションは、ラグビーワールドカップ2023でメンバーに選ばれながらもピッチに立てなかった悔しさだ。「出られなかったのは僕の実力。その不甲斐なさ、悔しさを自分自身にぶつけて、練習でも試合でもさらに経験を積んでいきたい」。

HO 堀越康介キャプテン

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「世界最高の10番」が加入。「とにかく優勝」と意気込むは主将のリーチ マイケル

東芝ブレイブルーパス東京

昨季は5位でプレーオフトーナメント進出を逃した東芝ブレイブルーパス東京(BL東京)に、インパクトのある新戦力が加わった。ニュージーランド代表としてラグビーワールドカップ準2023優勝に貢献したリッチー・モウンガとシャノン・フリゼルだ。二人はラグビーワールドカップの疲れも見せずに合流し、早くもチームに溶け込もうとしている。世界トップレベルのファンタジスタとして観客を沸かせてきたモウンガは「チームの力になりたい。すべてを捧げたい」と意欲十分だ。

今季から主将にはリーチ マイケルが復帰。トッド・ブラックアダー ヘッドコーチからの打診に「びっくりしました。最初は速攻で断って……」と笑いつつも、「ただただ勝ちたい。とにかく優勝したいです」と力強く言い切った。

副将には原田衛が選ばれた。リーチから「(新主将は)衛が良いと思っていた」と評価されている24歳は「チームが優勝できるように自分の力を存分に発揮していきたい」と燃えている。

今季のスローガンは「BE THE ONE」。頂点を目指す、チームが一つになる、あらゆる事で1番を目指す……といった意味が込められた言葉になっている。

このスローガンについて、日本代表のワーナー・ディアンズは「自分をベストにする。チームのために自分がこのポジションでベストになれるように」と意気込み、ジョネ・ナイカブラは「僕にとっては信用される人になることだと思っています」と静かに語った。

伝統の強力フォワードには、日本代表12キャップを持つアニセ サムエラや京都産業大学で活躍したアサエリ・ラウシーらが加わり、ポジション争いも激しさを増している。バックスではゲームコントロールに長けた中尾隼太、松永拓朗がモウンガとともに攻撃をリードし、ナイカブラらスピードあるランナーを走らせたい。

12月9日の開幕戦では静岡ブルーレヴズ、第2戦では東京サントリーサンゴリアスと対戦する。リーチ主将は「どのチームも強い」と警戒しつつも、「勝って勢いをつけたい」とスタートダッシュを誓った。

(安実剛士)

●注目選手

リーチ マイケルが「世界最高の10番」と称賛するリッチー・モウンガが、BL東京の一員としてジャパンラグビー リーグワン優勝に挑む。モウンガはニュージーランド代表56キャップを誇り、司令塔としてラグビーワールドカップ準優勝に貢献。圧巻のスピードとパススキル、正確なゴールキックで見る者を魅了してきた。モウンガは日本での新たな挑戦について「できるだけ長くここでプレーしたい。すべてを捧げたい」と断言。世界的ファンタジスタの一挙手一投足から目が離せない。

SO リッチー・モウンガ

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世界のスターが集結。超大型補強で目指す初制覇

トヨタヴェルブリッツ

超大型補強で目指すはジャパンラグビー リーグワン初制覇だ。昨季は6位に終わったトヨタヴェルブリッツ。2023年のラグビーワールドカップで日本代表キャプテンを務めた姫野和樹や、同大会の決勝でプレーヤー・オブ・ザ・マッチに輝いた南アフリカ代表のピーターステフ・デュトイなど実力派の選手がそろう中、今季はさらにニュージーランド代表“オールブラックス”でともに120キャップ以上を誇るアーロン・スミスとボーデン・バレットが加入。リーグワンで主役を張れるだけのメンバーがそろった。

世界最高のスクラムハーフとも評されるアーロン・スミスは、オールブラックス不動の9番として、2015年のラグビーワールドカップで世界一に貢献。小柄だが身体能力が高く、長短のパスのクオリティーは正に超一級品で、キックもランも鋭いオールラウンダーだ。

ボーデン・バレットも2015年の優勝メンバーの一人。また2016年と2017年の2年連続でワールドラグビー最優秀選手賞を受賞している。冷静なゲームコントロールと正確なキック、そしてスピードあふれるランが武器で、2023年のラグビーワールドカップ決勝では、両チーム合わせて唯一のトライを挙げた。この世界的な二人の名プレーヤーが、どんなプレーを見せるのか、トヨタヴェルブリッツ(トヨタV)のファン”VOLTs”だけでなく、多くのラグビーファンを魅了してくれるだろう。

ただ、一部の選手の力だけで勝てるほど甘くないのがラグビーというスポーツだ。大事なのはそのスター選手が持つ力を存分に発揮できる土台があること。つまりチームにいる全選手の質が高くなければ、優勝も絵に描いた餅になる。そこでクラブはこのオフの期間を利用して、若手選手6人をニュージーランドにラグビー留学させた。ベン・へリング ヘッドコーチは「6名の若手選手が武者修行を通じて成長して帰ってきてくれた。とても楽しみなシーズン。トヨタVのラグビーに期待していただきたい」と、チームの底上げにも自信を見せる。開幕前には時間をかけて、フィットネスやスキル、コネクトの部分を積み重ねてきた。最終目標は優勝だが、目の前の一戦一戦を勝つことに集中して、一歩ずつ階段を上っていく。

(斎藤孝一)

●注目選手

代名詞の“ジャッカル”で一躍有名になった日本ラグビー界の顔。愛知県で生まれ育ち、子どものころから「トヨタVは特別なチーム」として応援していたという。そのため入団時は他チームのオファーには見向きもせずに即決。ルーキーイヤーから7年間ずっとキャプテンを務めている。「今シーズンも愛と情熱を持ってトヨタVの優勝のために全力を尽くします」。その言葉には砂粒ほどの偽りもなく、トヨタVの魂としてチームを勝利へ導く。

FL 姫野和樹

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伸びシロは無限大。新ヘッドコーチとともに立て直す

花園近鉄ライナーズ

昨季はディビジョン1で最下位に終わり、入替戦に回る苦しみを味わった花園近鉄ライナーズ(花園L)。攻撃陣にはタレントを擁しながらも、リーグワーストの失点数854という守備の脆さに苦しんだ。今季は、日本代表でも指揮を執った向井昭吾氏をヘッドコーチに招聘した。

日本選手権で3度の優勝を誇り、ジャパンラグビー リーグワン所属ではコベルコ神戸スティーラーズに次ぐ歴史の長さを持つ名門クラブの立て直しに本腰を入れている。

鉄道会社を母体に持つチームだけに、昨季からファンの呼び名を「パッセンジャー(乗客)」にあらあめた花園L。選手やパッセンジャーが一体となって上位を目指すべく、今季のスローガンは「ONE TEAM」に決定。ラグビー界の「聖地」東大阪市花園ラグビー場を本拠に昨季のレギュラーシーズン1勝に終わった悔しさを晴らしたい考えだ。

「スマートな男のチームにする」と就任会見で語った向井ヘッドコーチが着手してきたのは守備の立て直しである。

「昨年は131の被トライがあった。30点以下に失点は抑えるようにディフェンスは鍛えてきた」と向井ヘッドコーチ。伝統的にスクラムの強さには定評がある一方で、タックルや規律が今季の課題になる。

本来の強みは攻撃的なスタイルであり、要所にリーグ屈指のタレントも擁している。日本代表のシオサイア・フィフィタがトヨタヴェルブリッツに移籍したが、ウィル・ゲニアとクウェイド・クーパーのハーフ団はオーストラリア代表としてラグビーワールドカップ出場経験を持つ世界的な名手。また、リーグ屈指の快足を持つジョシュア・ノーラも将来的な日本代表入りを目指している。

また日本代表キャップを持つサナイラ・ワクァや2023年のラグビーワールドカップに日本代表として出場したセミシ・マシレワらに加えて、昨季は負傷で出場機会が少なかった片岡涼亮と木村朋也のウイングコンビもプレシーズンマッチではキレのあるプレーを披露。負傷で主力が大量離脱した昨季序盤とは異なる戦いを見せる力は十分に備えている。

U20ニュージーランド代表歴を持つジェームス・ブラックウェルやベテランの小林広人が新加入。選手層も厚みを増しているが、今季もキャプテンを務める野中翔平は「守備の組織としては積み上がってきている。ベストメンバーがハマれば強い、というのでは勝っていけない。誰が出ても同じラグビーをしたい」と気合い十分だ。

課題も多いが伸びシロも無限大――。2年目のディビジョン1で昨季とは違う花園Lを披露する。

(下薗昌記)

●注目選手

昨季はアキレス腱断裂でシーズンの大半を棒に振り、レギュラーシーズンの最終節で復帰し、入替戦では活躍して残留に導いた。あらためてディビジョン1に挑むことになるクウェイド・クーパーは、並々ならぬモチベーションで今季に挑む。

SO クウェイド・クーパー

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初のD1は世界的名将とともに。チーム一丸で新たな道を切り拓く

三重ホンダヒート

現役時代はニュージーランド代表(オールブラックス)として活躍し、2023年のラグビーワールドカップでイタリア代表を率いた世界的名将キアラン・クローリー氏を迎え、三重ホンダヒートは初めてのディビジョン1へ挑む。

今季はラグビーワールドカップ連覇に貢献した南アフリカ代表のフランコ・モスタートやオーストラリア代表経験を持つトム・バンクス、史上最年少で日本代表デビューを果たした藤田慶和ら昇格の立役者に、U20ニュージーランド代表経験を持つミッチェル・ハントやテビタ・リーら実力者が新たに加わり、スピード感のある力強いラグビーが可能な戦力が整った。

チームは7月中旬に始動し、ディビジョン1に所属する6チームとプレシーズンゲームを戦った。11月には和歌山で2週間の合宿を行い、「新加入選手ともいろいろなことを話し、お互いを知ることができた」(トム・バンクス)と準備は順調だ。

クローリーヘッドコーチが目指すラグビーについて、トム・バンクスは「ラグビーのスタイルはそれほど大きくは変わっていない。(クローリーコーチは)長いコーチ経験があり、豊富な知識を持っていて、カリスマ性がある。これまで積み上げてきたヒートの良さを生かしながら、そこにエナジーと面白さを加えている」と話す。

『Heat Way~Powered by Effort~』というスローガンは、「チームビルディングの一環として、選手・スタッフ全員でスローガンを定めた。高い目標の達成に向けて、想いをひとつにして、全力でチャレンジするという新たな意思を込めている」とクローリーヘッドコーチは説明する。

さらに「4年後に日本一」という高い目標も掲げた。その第一歩となる今シーズンは「ベスト8」入りを目指す。目標達成のカギになるのはシーズン序盤の戦い方だとトム・バンクスは語る。「ディビジョン1は強いチームばかりなので、開幕戦から良い結果を出して、チームとして自信をつけて、シーズンを駆け抜けていきたい」。

革新的で、熱いチャレンジングスピリットで、チーム一丸となって新たな道を切り開いていく。

(山田智子)

●注目選手

オーストラリア代表キャップ数21を数えるトム・バンクス。昨季に加入したフルバックは、最後尾から爆発的なスピードのランで守備網を突破してトライにつなげる世界基準のプレーで昇格の立役者となった。「昇格できてとてもうれしい。新しいコーチ、仲間とともにさらに飛躍したい。厳しい戦いになるが、チームとして常に成長することに集中したい。個人としては毎週毎週ベストを尽くしてプレーしたい」と意気込む。「自分以外の注目選手は?」と聞くと、「ダーウィッド ・ケラーマン」を挙げた。昨シーズンの入替戦で負傷したトム・バンクスに替わって途中出場し貴重なトライを奪った若き才能にもあわせて注目したい。

FB トム・バンクス

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積み重ねたハードな練習。1年をとおして「ダイナボアーズ旋風」を

三菱重工相模原ダイナボアーズ

クラブ創設52年目にして初の1部残留を果たした三菱重工相模原ダイナボアーズ(相模原DB)。2シーズン目の課題は、昨季序盤にラグビーファンを驚かせた「ダイナボアーズ旋風」のチーム力をシーズンとおして発揮することだ。

他チームがラグビーワールドカップ2023で活躍した世界トップレベルの選手を獲得する中で、相模原DBには各国代表の現役選手はいない。これを弱みと捉えるのではなく、アップセットを目論む反骨精神を持つ選手らが集まり、昨季以上にハードな練習を積み重ねて、スローガンに掲げる「心燃える瞬間を」体現する。

グレン・ディレーニーヘッドコーチが「(吐き気を催して)朝ごはんを二度味わう選手もいる」と形容した練習はさらにハードになったという。ケガから復帰した知念雄は「コーチが提示する練習に意気込みを感じるプレシーズン。グラウンド以外での準備も、より意識しないと練習についていけない。ハードな練習で、ただ根性がつくだけではなく、選手の向き合い方にも変化を感じている」と手ごたえを明かす。

持ち前の粘り強いディフェンスは細部にまで調整を加える一方、アタックでは新加入のジョー・マドック アシスタントコーチのもと、ボールを動かす展開力のあるアタックに磨きをかける。ニュージーランド代表入りも期待される新鋭マリノ・ミカエリトゥウ、重量級センターのトニシオ・バイフという新加入選手がプレシーズンマッチで力強いボールキャリーを見せ、大きな期待を抱かせた。

さらに吉田杏、ジャック・ストラトンの即戦力に加え、スタンドオフにはジェームス・グレイソンの加入が開幕直前に決定。U20やユース各年代でイングランド代表に選ばれた新鋭がどんなプレーを見せてくれるか注目したい。

相模原ギオンスタジアムのスタンドをファン「ダイナメイト」「ウリボアーズ」が緑に染める光景は名物。今季は「相模原1万人プロジェクト」を立ち上げ、より多くの地元ファンとともに強敵に挑む構えだ。グレン・ディレーニーヘッドコーチは「ファンの応援は、一人多い16人目の選手がいるような大きな力になる。素晴らしいエナジーの中で戦う一瞬を皆さんと共有できる試合を見せたい」とプロジェクトの成功に意欲を見せる。

(宮本隆介)

●注目選手

相模原市ラグビースクール出身。早稲田大学を経て地元トップチームに入団するという夢を叶えた、地域密着を掲げるチームの象徴的存在だ。昨季はアーリーエントリーで4試合に出場。先発にも名を連ね、手ごたえを得た。オフシーズンも自主練習に励み、高強度の戦いに備える。「今季が実質的なシーズン。チームで信頼される選手になって、できるだけ多くの試合に、スタメンで出場できるように頑張りたい」と意気込む。

FB 小泉怜史

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ターゲットは「チャンピオン」。守備力を高めて目標達成へ

横浜キヤノンイーグルス

開幕前メディアカンファレンスに参列したチームキャプテンの梶村祐介は、壇上でこう宣言していた。

「昨季は史上初の3位でした。今季はチャンピオンをターゲットにプレシーズンから準備を重ねてきました」

プレーオフトーナメント進出をターゲットに掲げた昨季から一転、今季の横浜キヤノンイーグルス(横浜E)は優勝を唯一無二の目標に掲げている。

プレシーズンは、チャンピオンになるためのチーム強化に余念がなかった。大枠のテーマはディフェンスの強化。昨季リーグ2位の得点数を維持しながら、ディフェンス力を高めていく。チームは攻守のバランスを取るという難しいテーマに取り組んでいるが、沢木敬介監督を筆頭としたコーチングスタッフの意図を梶村はこう理解している。

「あくまでも自分たちのアタックを増やすためのディフェンスだと思っています。その意図をチーム全員が理解し、それを遂行することでもっとアタックの回数を増やせるはず。そのためにもこのプレシーズンは、インディビジュアル(個人)のタックルのスキルを上げることにも注力してきました」

プレシーズンでのチーム強化は、横浜Eが掲げる“アタッキングラグビー”を、もっと上のレベルへ引き上げるためのアプローチとも言えそうだ。

キャプテンの梶村いわく、プレシーズンに台頭してきた戦力が大卒ルーキーのフランカー・レキマ・ナサミラ。東海大学出身のレキマ・ナサミラは、プレシーズンマッチ各試合でインパクトを残しているという。「イーグルスのラグビーへの理解を深めて、運動量も増えてくれば、僕らにとってのキーマンになってくれる」と梶村も期待を寄せる。

なお、チームの大黒柱であるスクラムハーフのファフ・デクラークとセンターのジェシー・クリエルは、母国の南アフリカをラグビーワールドカップ連覇に導いた上でチームに合流した。「ワールドカップでは際立ったパフォーマンスを見せてくれて頼もしかった」と梶村も目を細めた世界王者連覇の経験者が、チームに還元する相乗効果にも期待が膨らむ新シーズン。横浜Eは史上初のチャンピオンしか見ていない。

(郡司聡)

●注目選手

ラグビーワールドカップ連覇経験者がチームに合流すると、早速プレシーズンマッチに詰めかけたファンからの大声援を浴びた。横浜キヤノンイーグルス加入2年目。世界的スクラムハーフは今季、どんなプレーを魅せてくれるのか。チームキャプテンの梶村祐介も「ファフの予測不能な動きは相手も厄介」と期待を膨らませる。またピッチ外でのすこぶる明るいキャラクターは、チームのムードメーカーとして、昨季の3位躍進に一役買ってきた。そんなデクラークはまさにイーグルスの“太陽”だ。

SH ファフ・デクラーク

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トップ4入りへ。戦術面の強化を図り、いざブレイクスルー

リコーブラックラムズ東京

今季のスローガンは『BREAKTHROUGH(ブレイクスルー)』。選手一人ひとりがブレイクスルーするマインドを持ち、チームがこれまで達成したことのないトップ4という見えない壁を突き破るべく策定した。「僕自身がまずは次のレベルに行かないといけないと思っています。また昨季はシーズン後半、試合に出場できなかったので、そういうところもブレイクスルーしていきたい。そして、日本代表へもブレイクスルーしたい」と話すは、主将3季目の武井日向だ。

一足先にブレイクスルーを果たしたのは、アマト・ファカタヴァ。2023年のラグビーワールドカップでは、いくつものスーパープレーを見せた。「あれだけの活躍に値する選手だとは思っていました。日本を背負って、あのような大舞台でブレイクスルーしたアマトを尊敬しています」と武井キャプテン。チームにとっても心強い存在となり、そして「自分たちのやってきたことは間違っていなかった」(武井)という自信にもなったという。

チームに根付いた『泥臭さ』と『DNA』は、もちろん変わらない。そこにプラスして、今季は戦術面の強化を図った。「昨季は反則から失点を許すことが多かったです。しかもその反則は、自分たちでコントロールできるものが大半でした。だから今季は規律を特に意識してトレーニングを積み重ねています」(武井)。

自信を持つディフェンスから流れを作り、得点へと結びつけたい。

リコーブラックラムズ東京は今季、大型補強を行ったわけではない。2023年のラグビーワールドカップで活躍した、諸外国の代表選手もいない。だが、ピーター・ヒューワット ヘッドコーチ、武井キャプテン体制で築き上げてきた絆がある。

ファンも含めての『FAMILY』。一体感のある応援が、チームを後押しする。

創部70周年となる今季、着用するジャージーの胸には『70』をモチーフとした『H』マークを施す。70年の歴史の中に宿る、歴代選手たちの魂を込めた。「Heart(想い)」「Hope(希望)」「Honor(名誉)」を象徴する「70」という数字とともに、悲願のトップ4入りを目指す。

(原田友莉子)

●注目選手

2023年のラグビーワールドカップで一躍時の人となった、アマト・ファカタヴァ。初戦・チリ戦でのプレイヤー・オブ・ザ・マッチに始まり、アルゼンチン戦では狭いスペースで自らボールを蹴り上げ独走トライ。多くのラグビーファンを沸かせた。日本代表ではロックを務めたが、BR東京ではFW第3列としての出場が期待される。「アマトがいると、良いエネルギーが生まれる。彼の突破力、そしてハードワークに期待してください!」。武井日向はこう呼びかけた。

No8 アマト・ファカタヴァ

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