トヨタヴェルブリッツ(D1 カンファレンスA)

負傷者続出のチームを救うのは、32歳の“新人フォワード”

前節、逆転勝ちで連敗を4で止めたトヨタヴェルブリッツ(以下、トヨタV)。終盤に3枚のイエローカードを受けて12人になっても、あきらめずにボールをつなぎ、トライを取り切る姿勢は感動的でもあった。しかし大切なのは常に次の戦い。今節は開幕から無敗で2位につけるクボタスピアーズ船橋・東京ベイをホーム・パロマ瑞穂ラグビー場に迎え撃つ。

トンネルは抜けたが苦難は続く。強敵が相手ということもあるが、チーム内には負傷者が続出。特にフォワード陣は厳しい状況にある。だが、その中で前節は一つの光明が見えた。

背番号“6”として先発したウィリアム・トゥポウ。日本代表の経験もあり、身体能力の高さと強烈なタックルが武器で、スピードも兼ね備える選手である。これまではバックスとして活躍してきたが、前節はフランカーとして初めて先発出場を果たした。

「フォワードとしてキャリアを積むなんて、今まではまったく考えたことがありませんでした。長い期間バックスでプレーしていて、結構フォワードに文句を言ってしまうこともあったんですけど(笑)、実際に自分自身がプレーをしてみて、フォワードがスクラムやモールをやってからああいう動きをしないといけないとか、『本当にハードワークだな』って実感しました」(ウィリアム・トゥポウ)

このコンバートは、ウィリアム・トゥポウの能力をチーム戦術に生かしつつ、膝に爆弾を抱える彼のキャリアを伸ばしたい側面もあるという。フォワードはサインプレーなど、覚えなければならないことも多くあるが、それにも前向きに取り組み、前節先発のチャンスをつかみ取ると、勝利に大きく貢献した。

「トヨタVの中には、ものすごく質の高いバックローの選手が集まっていて、姫野(和樹)選手や吉田(杏)選手、古川(聖人)選手など、そういったグループの中にいることができてすごくラッキーだなと感じています。いまは自分にとって学びのフェーズだし大変なところもありますけど、この新しい役割、新しい挑戦をエンジョイしながら、チームに貢献していきたいと思います」(ウィリアム・トゥポウ)

バックスとフォワードの二つの視点を新たな武器に、32歳のウィリアム・トゥポウはさらに進化を遂げていく。

(斎藤孝一)

バックスからフランカーへコンバート。トヨタヴェルブリッツのウィリアム・トゥポウ選手

クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(D1 カンファレンスB)

“普通だった”男のラグビー人生を変えた、ロックとの出会い

「僕はあくまでロックでやっていきたい。そう伝えました」

ラグビーにおいて自分の意志を頑なに貫いたのは、あとにも先にもこのときだけかもしれない。青木祐樹は、フラン・ルディケ ヘッドコーチとの初面談の席での出来事を、そう振り返る。

高校時代のポジションはバックスのスタンドオフ。このときはまだ、ラグビーに取り組むのは高校の3年間だけで、卒業後は普通に大学に進んで、普通に教員になって、普通の人生を過ごすつもりでいた。ところが、周囲の勧めもあり、大学でも競技を継続。日本体育大学ラグビー部で出会ったのが、大柄な選手が務めるポジョション、「ロック」だった。

「実際に大学の練習に参加してみたら、スピードについていけませんでした。大学レベルでバックスをやっていく難しさを、身に染みて感じました」

それは決して積極的な選択とはいえなかった。しかし、身長188cmの青木にとって、ロックは可能性に満ちたポジョション。さらには、チームメートの多くは花園を経験したエリートたち。ロックへの転向は、強豪校ではないところから日本体育大学に進んだ青木に、ラグビー選手としての新たな自我を目覚めさせた。

「バックスを経験したからこそ可能なプレーもありました。ロックなら戦えると、そう感じました」

1年次からメンバー入りし、2年次から試合に出場。かつて普通の人生を歩むことを望んだ普通の男は、やがてエリートたちと渡り合うようになる。クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(以下、S東京ベイ)に入団したのは2014年。当初は試合出場の機会には恵まれず、翌2015年にようやくデビュー。ここでのポジョションはロックではなく、フランカーだった。

2016年には、フラン・ルディケがヘッドコーチに就任。身長180cm台後半という体格は、プロの世界のロックでは大きいほうとは言えない。フラン・ルディケ ヘッドコーチは、青木にフランカーに専任することを助言した。

「僕は小さいほうだというのは分かっていたんですが、ロックでバチバチやりたかったんです。それまでは言われるがままに流されてきましたが(苦笑)、ここでは自分の意見を曲げませんでした」

やがてチームに2m級の外国人選手が加入し、青木は次第にピッチから遠ざかる。しかし、その胸の内には、いかなる状況にも左右されない確固たる信条があった。それは、「チームが困ったときに、助けられる人間であること」。

昨季のNTTジャパンラグビーリーグワン2022 ディビジョン1第7節、トヨタヴェルブリッツ(以下、トヨタV)戦でヘル ウヴェが急遽欠場。代わって先発で出場したのが、当日リザーブにも名がなかった青木だった。試合ではトヨタVに15年ぶりの勝利。「誰が出てもS東京ベイのラグビーができる。それが僕たちの強み」と試合後の青木は胸を張った。

「自分の順番がきたら、自分の役割を全うする。そうしたマインドセットをもっています。また、(ほかのメンバー外の選手たちに)たとえメンバー外でもチャンスがあるということを見せていきたいです」

今季の第7節、相手はあのときと同じトヨタV。頼れるベテランのロック魂が、緑の芝生で静かに燃える。

(藤本かずまさ)

クボタスピアーズ船橋・東京ベイの青木祐樹選手。ルディケ ヘッドコーチからは当初フランカーでと助言されていたという

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