埼玉パナソニックワイルドナイツ(D1 カンファレンスA)
首位攻防戦で先発。2年目の野武士が握る連覇へのカギ
埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)が3月4日のホストゲームでクボタスピアーズ船橋・東京ベイ(以下、S東京ベイ)を迎え撃つ。9戦全勝の首位・埼玉WKと、8勝1分の2位・S東京ベイの上位直接対決は、見逃せない一戦だ。
埼玉WKは、昨季第16節の対戦で35対14と勝利。そのあとのNTTジャパンラグビー リーグワン 2022 プレーオフトーナメント準決勝での再戦を24対10で制して決勝へ進出、リーグワン初代王者となった。今季、S東京ベイはさらなるチーム強化を図っているため激戦は必至。埼玉WKは王者のプライドをかけて挑戦状を受け取る。
埼玉WKのチーム状態は、右肩上がりだ。シーズン序盤は前半にスイッチが入らずに苦戦する試合が目立ったが、試合を重ねるにつれてチーム強度は増した。前節もコベルコ神戸スティーラーズに48対10で完勝し、この大一番を迎える。
今節のスターティングメンバーで注目プレーヤーは、センターの長田智希だ。世代別代表として名を連ね、早稲田大学ではキャプテンを任された。2022シーズンに埼玉WKへ加入し、今季で2年目。昨季は出場機会がなかったが、今季はワールドクラスのプレーヤーが集うチームの中で、第5節リコーブラックラムズ東京戦に先発しリーグワンデビュー。第7節NECグリーンロケッツ東葛戦では初トライを決めた。
「試合に出ていることでの手ごたえはあるが、まだまだ課題が残っている。ポジションが変わる中でチームの役割を果たしていきたい」
第9節を終えた時点で4試合に先発。リーグは折り返し地点を回って後半戦へ突入していく。
「自分のプレーにはまだ満足できない。ボールを持ってもっと前に出たいし、タックルで仕留め切るところなどがまだ足りないと感じる。プレーの質を高めて、チームに対する貢献度を高めていきたい」
S東京ベイ戦では14番としてグラウンドに立つ。首位攻防戦での先発起用は、ロビー・ディーンズ監督の信頼の証だ。
「埼玉WKは常に全員がオプションとなってアタックをしていく。そこを大事にして勝利に貢献したい」
2年目の野武士がリーグ連覇へのカギを握る。今ゲームは、首位攻防戦であると同時に、プレーオフへの前哨戦でもある。
(伊藤寿学)
クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(D1 カンファレンスB)
あれから7年。進化を示した「50試合目」、そして王者に挑む「51試合目」
あの日、チームは惨敗した。2015年11月14日、トップリーグ・レギュラーシーズン開幕節でクボタスピアーズ(現・クボタスピアーズ船橋・東京ベイ。以下、S東京ベイ)は東芝ブレイブルーパス(現・東芝ブレイブルーパス東京。以下、BL東京)と対戦。結果は3対47の大敗。一つもトライを決めらないまま、敗れ去った。
それは、S東京ベイのプロップ・松波昭哉のデビュー戦でもあった。このシーズン、松波は先発として活躍するも、チームは勝ち星に恵まれず、リーグを12位で終了。また、松波自身も首と肩に不安を抱えながら戦い続け、リーグ終了後には悲鳴を上げた両肩にメスを入れた。さらに、2018年には頸椎ヘルニアを患い、首を手術。戦線離脱を余儀なくされた。
「両肩の手術を終えたあとのシーズンは試合に出ていたのですが、首の手術のあとはまったくダメでした。スクラムを組んで力んだときに、ものすごい痛みが走って…」
2020年、世界はコロナ禍に見舞われ、アスリートたちは活動の場を失った。それはトップリーグも例外ではなく、3月以降の試合が中止に。しかし、そんな危機的局面に、松波は希望にも似た何かを見いだしていた。
「逆に、ここはチャンスだと思いました。首のトレーニングをする器具を自宅に持ち込んで、ずっと鍛えていました。この首さえ良くなれば、まだまだできる。首が治りさえすれば、また試合に出られる。そう思っていました」
練習再開後は、首と連動する背中の筋肉のケアにも注力。全体練習後の自主練では課題に感じていたタックルの克服を図り、またハンドリング(キャッチやパスなど)の技術の向上にも取り組んだ。そして今季、開幕節の先発メンバーに「松波昭哉」の名はあった。
「地道なことをやってきて良かったと思います。練習で積み重ねてきたことが、いまにつながっています」
去る2月25日、ホームスタジアム「えどりく」で、松波はトップリーグ&リーグワン通算50試合出場を達成した。相手は、デビュー戦で対戦したBL東京。あの日、完膚なきまでに叩きのめされたS東京ベイはNTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン1で優勝争いを演じる強豪チームとしてBL東京を迎え撃ち、えどりくでの連勝記録を14に更新。この7年間の進化と成長の証が、グラウンドに描かれた。
「デビュー時と比べると、チームもすごく良くなって、フォワードの8人がまとまっているように思います。あのころのスクラムは『押されないように頑張っている』という感じでした。いまはそうではなく、『どのようにして押すか』。1年目のころとは違っています」
「これまでに辞めようと思ったことは?」。そう問いかけると、松波は「理由は分からないですが」と前置きした上で「ありません」と答えた。いまやるべきことを普通に実行し、これからもそれを普通に継続する。新たな一歩となる51試合目。今節は熊谷スポーツ文化公園ラグビー場に乗り込み、前季王者・埼玉パナソニックワイルドナイツと対峙する。
「いつもどおりです。いつもどおりに、いきたいです」
(藤本かずまさ)