静岡ブルーレヴズ(D1 カンファレンスA)

酸いも甘いも経験した、日野剛志が迎える通算100試合目

前節は上位の横浜キヤノンイーグルスに惜しくも勝ち切れなかった静岡ブルーレヴズ(以下、静岡BR)だが、堀川隆延ヘッドコーチは「(内容的には)ベストゲームだったと思います」と手ごたえを口にする。そんな中、今季初開催となるエコパスタジアムに迎えるのが、2位のクボタスピアーズ船橋・東京ベイ。非常に強力な相手だが、だからこそ勝ち切ることができれば、惜しい試合を逃し続けているチームにとって大きな自信となる。

大一番に向けて静岡BRには明るい話題が二つある。一つは、肩の負傷で2試合欠場していた日本代表の大戸裕矢が復帰すること。そして、もう一つはこちらも日本代表の日野剛志がリーグ戦通算100試合目を迎えることだ。

2012年に同志社大学を卒業し、トライアウトからヤマハ発動機ジュビロ(現・静岡BR)に加入した日野は、当初は思うようにいかない時期もあった。だが着実に成長を重ね、2016年11月に日本代表初キャップを獲得。チームに欠かせない存在として出場を重ね、国内では静岡BR一筋の12年目で節目の100試合を迎える。

「自分はトライアウトで入ってきて、節目節目で挫折というか、うまく試合に出れない時期もあったんですが、そこを乗り越えるのは正直、自分だけでは難しかったと思います。仲間の助け、長谷川慎さんや清宮(克幸)さんといったコーチの方々にケツを叩いてもらいながら本当に成長させてもらいました。もっと言えば、4歳からラグビーを始めてから今までの指導者の方々にも本当に助けてもらいましたし、自分が人間形成をする上でラグビーというのは必要不可欠なものでした。今までの積み重ねがあった上で、その成果として100試合を迎えられるのは、本当に幸せなことだと思います」(日野)

ただ、「あくまでシーズン中の1試合ですし、対戦相手も強敵なので、まずは自分の役割である、静岡BRの2番としての責任をしっかり果たすことに集中したいです」(日野)と気持ちを引き締めている。

2月19日のコベルコ神戸スティーラーズ戦で一足早く100試合を達成した大戸も、「ずっと一緒に試合にも出ていますし、代表でも何試合も出ているので、本当に自分のことのようにうれしいです。勝ってお祝いしたいと思います」と顔をほころばせる。

日野と大戸のコンビといえば、ラインアウトでの安定感も抜群。「タイミングやボールの球筋というのは、お互いによくわかっていて、長年やっている強みがあると思います」と大戸は言う。前節はラインアウトの失敗が目立ったが、ラインアウトに限らず静岡BRの生命線であるセットピース全体の安定にも、彼らが大きな役割を果たすはずだ。

日野については、「今年の(ラグビー)ワールドカップに向けて、まだチャンスはあると思っています。まだまだ伸びしろがあるし、スクラムでの優位性もあるので、ワールドカップに出るという高い視点を持ってプレーしてほしいです」と堀川ヘッドコーチも期待を寄せる。

酸いも甘いも噛み分けた経験豊富な33歳だが、初心や向上心は少しも失っていない。もちろん、チームの勝利に向けての献身性や責任感という意味でも、本当に頼もしい存在であることに変わりはない。

(前島芳雄)

この試合でリーグ戦通算100試合目を迎える、静岡ブルーレヴズの日野剛志選手。「今までの積み重ねがあった上で、その成果として100試合を迎えられるのは、本当に幸せなことだと思います」


クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(D1 カンファレンスB)

前節の悔しさを糧に。ハラトア・ヴァイレアという名の可能性

後半、残り時間が8分を切ったところで彼が動いた。この時点でのスコアは15対23。トライを決めれば、土壇場での逆転も不可能ではない。ボールを奪ったハラトア・ヴァイレアは大きく前進。後方から相手チームの2選手が猛追する中、トライラインを一気に駆け抜けようとしていた──。

前節、埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)戦でのワンシーンである。思えば、ハラトア・ヴァイレアにとって埼玉WKは因縁の相手だった。2015年にトンガより来日して日本体育大学柏高校に入学。日本体育大学ラグビー部ではスタンドオフ、ウイング、センター、フルバックなどさまざまなポジションで活躍し、非凡な才能を見せて注目を集めた。

2022年にはクボタスピアーズ船橋・東京ベイ(以下、S東京ベイ)に入団。来日当初は言葉に苦労し、いまも決して日本語を器用に操れるわけではないものの、チームの空気に馴染むのにそれほど時間はかからなかった。

「S東京ベイの特徴でもあるチームの温かい雰囲気は、すぐに感じ取ることができました。もちろん先輩後輩の関係はありますが、みんなに“ファミリー”という感覚で接することができ、それは私にとってうれしいことでした。また、(ライアン)クロッティさん、ナード(バーナード・フォーリー)さん、ハル(立川理道)さんなど、先輩たちがスキルを教えてくれました」

昨季、第14節のコベルコ神戸スティーラーズ戦でデビュー。だが、リーグ最終戦の第16節で右ヒザを負傷。その試合の相手が、埼玉WKだった。

「じん帯を切って、手術をしました。そこからの2カ月間はリハビリに費やしました。そのリハビリのメニューは、いまも続けています」

今季、2月24日のトヨタヴェルブリッツ戦で控えメンバーとして戦線に復帰。以後の試合では先発メンバーに名を連ねた。

「ここまで試合を重ねてきて、体もかなり慣れてきました。いまはもう、何も怖くはないです」

そして3月4日、S東京ベイは敵地・熊谷に乗り込んで王者・埼玉WKと対峙した。ハラトア・ヴァイレアは、あの日の借りを返すかのごとく疾走。相手の猛追を腕で突き放して(ハンドオフ)しのごうとした。ところが──。

「トライチャンスだと思ったのですが、後ろを見たら2人追いかけてきていたので、少しスピードを落として、ハンドオフしてサポート(する味方)を探したんです」

次の瞬間、グラウンドには引きずり倒されたハラトア・ヴァイレアの姿があった。トライラインまで、あと数m。チャンスを手にすることができなかった。

「埼玉WKにリベンジしたかったのですが、それを達成することができず、今回も悔しい思いをしました。次に埼玉WKと対戦するときは、勝ちにいきます。ガンガンいきます」

今節は静岡ブルーレヴズ戦。これまでセンターとして出場していたヴァイレアであるが、ウイングとしてエントリー。トライゲッターとしての期待がかかる。

「今週の試合で、埼玉WK戦のときのようなチャンスがあれば、そのときは思い切りトライを取りにいきたいと思います」

完敗を喫した熊谷の陣。そこで見えた、“ハラトア・ヴァイレア”という名の可能性。同じ轍は、もう踏まない。

(藤本かずまさ)

クボタスピアーズ船橋・東京ベイのハラトア・ヴァイレア選手はトンガ出身、日本体育大学から入団して2年目。膝の靭帯損傷から、2月24日にようやく復帰した


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