花園近鉄ライナーズ(D1)

スクラムを制して残留させる。
『仁義の男』に残された最後の大仕事

この試合を最後に引退する花園近鉄ライナーズの樫本敦選手。「残留させることは本当に最後の自分の大仕事だと言い聞かせて、勝利に貢献できるようなプレーをしたいと思っています」

NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン1で花園近鉄ライナーズ(以下、花園L)が手にした勝ち点はわずかに5。しかし、悪戦苦闘が続いた日々がチームの肉となり、血となっていたことが、浦安D-Rocks(以下、浦安DR)との入替戦第1戦でハッキリした。

今季のディビジョン2で全勝を誇った浦安DRに対して36対14で快勝。ボーナスポイントも手にした花園Lが有利な状況で5月13日に東大阪市花園ラグビー場で行われる第2戦を迎える。

「いい選手とかいいチームに対してプレーすることでレベルアップすると思うし、それを今季、経験できた」。ウィル・ゲニアは1勝15敗に終わったリーグ戦の意味をこう話したが、チームの成長の象徴が浦安DRに対して終始優位に立ったスクラムの安定感だった。

シーズン中、ときにチームのふがいないプレーに遠慮のない指摘も口にしたウィル・ゲニアだったが、第1戦の勝利の要因をこう振り返った。

「特にフォワードのプレーが良かった。セットピースでのスクラムとかラインアウトで圧倒していました」

大きなアドバンテージを手にし、ディビジョン1残留に王手を掛けている花園Lだが、あとのない浦安DRも死に物狂いで立ち向かってくるはずだ。ただ、花園Lは長丁場のシーズンで積み上げた確固たる武器を手にしている。

クウェイド・クーパーのような華麗さはないが、スクラムを支える、35歳のベテラン樫本敦である。すでに現役引退を表明している樫本が花園L一筋で積み上げてきた試合数は114。キャプテンの野中翔平は「樫本さんを二文字で表すなら『仁義』です。男が好きになる男ですね」と評する。

そんな樫本が開幕前からこだわっていたのがスクラムだったが第2戦でも勝利のカギになるはずだ。
樫本は言う。

「『スクラムで優位に立つぞ』とずっと言ってきて、やっと形になってきたのがシーズン後半。最後、自分がずっとこだわってきた集大成として、最後の試合でぶつけたいと思っています」

ディビジョン1残留を決めても、来季ピッチに樫本の姿はない。ただ、キャプテンも務めた経験を持つ『仁義の男』は、自らに言い聞かせるように言葉を紡ぐ。

「残留させることは本当に最後の自分の大仕事だと言い聞かせて、勝利に貢献できるようなプレーをしたいと思っています」

スクラムで勝つ、樫本とともに勝つ──。チームにはいま、微塵のブレもない。

(下薗昌記)


浦安D-Rocks(D2)

チャレンジャー精神で狙うは大逆転。
スクラムで押し切り、D1へ駆け上る

浦安D-Rocksの竹内柊平選手(右プロップ=写真中央手前)。「向こうもスクラムがチャンスだと思っているでしょうけど、次はスクラムでやってやろうという気持ちです」

まさかの結果と言うべきか、第1戦は22点差をつけられての敗戦。第2戦を前に、浦安D-Rocksは苦しい状況に追い込まれた。ただ、チームの雰囲気は決して悪くない。試合2日前の練習では、いい緊張感が漂いつつ明るさもあった。竹内柊平の話しぶりも明快だったが、それは強がりによるものではなさそうだ。

「やっぱり、どこかに少し慢心的なものがあったと思います。『チャンピオンマインド』というのを言ってきて、それももちろん大事ですが、僕らはやっぱりチャレンジャーなので」

第1戦を思い起こすと、入りは悪くないどころか良かった。このまま勝ち切るのではないかと感じさせるものがあった。

「(ディビジョン1のチームとの)コンタクトの差は一切感じなかったし、通用してドミネート(支配)できていた実感はあります。しかし、スクラムで相手にモメンタム(勢い)を与えてしまって、相手が計算していた展開やプレーにさせてしまいました。それで僕らは、逆にやりたいことができなかった」

リーグ戦でもペナルティの多さは課題だったが、第1戦で目立ったのはスクラムのペナルティ。ここですべて流れを渡してしまった。

「僕のコネクションのところがうまくいかなくて、左に流れてしまったところはありました。新しいチームで、初めてのカオスというか。一時13人にもなりましたし、強い相手にセットピースで負けるシーンがこれまであまりなかったので、そういったところでパニックになってしまったところはありました」

勝つことで成長してきた新しいチームが、初めて経験した逆境だったかもしれない。しかし、だからこそ、吹っ切れた部分もある。

「あらためて、自分たちがやってきたことを思い出して、プレーはもちろん精神的にも、立ち帰っていけるように一人ひとりが1週間準備しました。いい準備ができましたし、雰囲気もめちゃくちゃいいです」

一見、厳しい状況ではあるが、「自信はある」と言う竹内。第1戦では手ごたえもあった。

「あれだけカオスな状態で、この得点差だったことです。僕らがフィジカルでも負けていたらもっと点差は開いていたと思いますし、ディテールの部分はうまく回って、大きなラインブレイクは少なかった。そこはやってきたことの成果が出ていると思います」

こんな状況でも、練習見学に来ていたファンからは『花園まで行くよ!』との声援が飛ぶ。ここまで来て、たった2試合の結果で止まるわけにはいかない。狙うは大逆転のみだ。

「スコア的にも、いまはチャレンジャーとしてやるしかないので、フィールドでそれを表現するだけです。向こうもスクラムがチャンスだと思っているでしょうけど、次はスクラムでやってやろうという気持ちです。ペナルティをしなければ勝てると思いますし、自分たちがやってきたことを信じて80分間プレーします」

(沖永雄一郎)

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