2023.05.19プレーオフトーナメント決勝 埼玉WK vs S東京ベイ-見どころ

埼玉パナソニックワイルドナイツ(D1)

2連覇へ。
不死身の“弾丸”は誰にも止められない

準決勝では強烈なインパクトをもたらした埼玉パナソニックワイルドナイツのマリカ・コロインベテ選手

埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)が5月20日のNTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 プレーオフトーナメント決勝戦でクボタスピアーズ船橋・東京ベイ(S東京ベイ)と対戦する。昨季のリーグワン覇者・埼玉WKが2連覇を懸けて国立競技場のフィールドに立つ。

マリカ・コロインベテが決勝戦へ向けてスタンバイしている。規格外のパワーとスピードを誇る埼玉WKの“弾丸”は準決勝・横浜キヤノンイーグルス戦で、怒涛の3トライを決めて決勝進出に貢献した。

準決勝は前半を15対17で折り返す展開だったが、後半に入り、マリカ・コロインベテが敵陣を次々と切り裂いてハットトリック。51対20の逆転勝利を演じてみせた。しかし、勝利の原動力となったマリカ・コロインベテは後半36分に相手と交錯した際にグラウンド脇のコンクリートフェンスに激突しそのまま負傷退場。試合後の取材エリアに姿を見せなかったため、決勝戦への出場が懸念されていた。

週明けの15日から別メニューでコンディションを整えると、チームメートのトレーニングをピッチサイドで見守った。「決勝戦のためにもチームのコンテンツや戦術を理解しておきたかった」。そして、5月18日の一般非公開トレーニングでは決勝戦へ向けた実戦練習に参加。攻守のコンビネーションを入念に確認しながら最終調整を行った。そして、そのあとに発表された決勝戦のスターティングメンバーに名を連ねた。

決勝のS東京ベイ戦へ向けて、マリカ・コロインベテの存在は大きい。準決勝後、ロビー・ディーンズ監督は「マリカ(・コロインベテ)はコンクリート(フェンス)しか止められない」とジョークを交えながら背番号11への絶対的な信頼を口にした。その言葉を受けたマリカ・コロインベテは「S東京ベイはパワーのあるフォワードがそろっているが、決勝戦のディフェンスも“コンクリートの壁”を意識して突破していきたい」とユーモアたっぷりに話した。

ちなみに国立競技場はピッチ外に陸上トラックがあるためフェンス激突の心配はない。「思い切り走れるので、それはありがたいことだ」と笑みを浮かべた。

頂点まで“あと1勝”。数々の世界の大舞台のピッチに立ち、昨季の決勝でもトライを決めたマリカ・コロインベテは「やるべきことはシンプルだ。選手全員が攻守においてやるべきことを遂行することがタイトルへつながっていく。今季、チーム全員で築き上げてきたものを体現して勝利をつかみたい」とキックオフを待つ。このプレーヤーは、誰にも止められない。

(伊藤寿学)


クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(D1)

まだ見ぬ頂点はもうすぐそこ。S東京ベイはその歴史と想いを背負い、最後の一段に足をかける

クボタスピアーズ船橋・東京ベイの立川理道キャプテンは言う。「僕はこのチームで優勝するために、入団したと思っています」

天理高校ラグビー部では全国高校大会ベスト8、天理大学時代は大学選手権準優勝。クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(以下、S東京ベイ)を率いるキャプテン・立川理道は、実はまだ『頂点』からの景色を知らない。

「僕がS東京ベイに入団したとき、チームは(下部リーグの)トップイーストだったので、そこから頂点を目指せるかと言えば、まだ難しい状況にありました。でも、僕はこのチームで優勝するために、入団したと思っています」

チームとともに成長し、頂点を目指す。その原体験は大学時代にある。立川は2008年に天理大学に入学。同校ラグビー部は低迷期を脱し、徐々に強豪チームへの階段を昇り始めていた時期にあった。2010年には関西Aリーグを35年ぶりに制覇。立川がキャプテンに就任した2011年の大学ラストシーズンでは関西Aリーグ2連覇を達成。大学選手権では惜しくも大学日本一には届かなかったが1925年の創部以来、初めての決勝進出を果たした。

「僕が入る前年はまだ関西Aリーグで6位でした。大学4年間で関西Aリーグ優勝、そして全国大会出場という目標に向かって進むことができたのは、僕にとってはすごく大きな経験でした」

2012年、S東京ベイに入団。翌2013年、チームは3季ぶりにトップリーグに復帰した。2016年には現在のフラン・ルディケ ヘッドコーチ-立川理道キャプテンの体制がスタート。その成果はすぐには表れず、入替戦を経験するなどもがき苦しんだ時期もあった。『頂点』を現実的な目標として捉えられるようになったのは、2019年のトップリーグカップ戦。ここではプレーオフトーナメントに駒を進めた。

「この年にようやく、『プレーオフ』というものを経験できたんです。負ければ終わりの一発勝負のトーナメントを決勝まで戦えた。そこで初めて、『頂点』というものをリアルに感じられたというのはあると思います」

今季、S東京ベイでは選手一人ひとりにチームオリジナルの『ラグビーノート』が配られた。オレンジのハードカバーをめくると、巻頭カラーページには創部から2022年度までの全所属メンバーの名がシリアルナンバーとともに刻まれている。まさに、チームのヒストリーが込められた一冊。また、昨年2022年10月にはクボタの創業者である久保田権四郎翁の出生地、広島県尾道市因島をチームで訪問。S東京ベイのルーツに触れた。

「ノートもそうですが、どういった人たちがS東京ベイを作って、どんな歴史を歩んできたのか。日本人選手だけではなく、外国人選手たちにもそういったことを感じてもらうことができました」

優勝に王手をかけたのは、奇しくもそんなシーズンだった。創部以来、初のプレーオフトーナメント決勝進出。5月20日、S東京ベイはこれまでの歴史のすべてを背負い、決勝の舞台・国立競技場に向かう。

「近年、チームが力を付けてきて、『頂点』というものをリアルに考えられるようになり、それが手に届くところまできた。やはり、優勝したいという気持ちは強いです」

また、同期の井上大介が今季を最後に退団を発表。井上は、4歳でやまのべラグビー教室で出会って以来、約30年もの時間を共有してきた盟友。ともに現役選手として『優勝』の喜びを分かち合えるのも、これが最後のチャンスとなる。

「このタイミングで優勝を狙える機会を得られたことが、すごくうれしいです。最後、一緒に喜びたいと思います」

チームに関わったすべての人たちの想いとともに、いま、昇るべき階段の、最後の一段に足をかける。

(藤本かずまさ)

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