2024.12.27[埼玉WK]黙る。話さない。今季の稲垣啓太は、どん欲に黙々と勝利を追求する

NTTジャパンラグビー リーグワン 2024-25
ディビジョン1 第2節(リーグ戦) カンファレンスB
2024年12月28日(土)14:30 熊谷スポーツ文化公園ラグビー場 (埼玉県)
埼玉パナソニックワイルドナイツ vs クボタスピアーズ船橋・東京ベイ

埼玉パナソニックワイルドナイツ(D1 カンファレンスB)

スクラムの最前列、左プロップの稲垣啓太選手(写真中央)。「慢心が僕は一番良くないと思っている」

開幕連勝を目指す埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)が12月28日に熊谷スポーツ文化公園ラグビー場で開催されるディビジョン1第2節でクボタスピアーズ船橋・東京ベイと対戦する。

稲垣啓太が開幕戦で約11カ月ぶりに復帰し、攻守に力強いプレーで勝利の原動力となった。「(負傷期間は)どんな形でもチームを支えたいと思っていたが、個人的には自分以外の選手がそのポジションにいるのは、良い意味で“気に食わない”。その気持ちをなくしたらいけないと思う。自分自身、こんなに長い時間を休んだのは10年以上ぶりだったが、マイナスな部分はなかった」。手術、リハビリ期間に心技体を磨き直して開幕に備えた。

『笑わない男』として知られている稲垣が、今季は『(ピッチ上で)話さない男』になるという。

どんな意図があるのか。昨季終了後、埼玉WKは、堀江翔太と内田啓太が引退。絶対的司令塔であった松田力也がトヨタヴェルブリッツへ移籍した。取材陣から、役割の変化を問われた稲垣は「何も変わらない。自分のやるべきことは分かっているし、役割を遂行するだけ。プレーで何か問題があったときはみんなで言い合うのではなく、話すべき選手である2番、10番、15番が話すべきだと思っている。だから、特別僕が話す必要はないと考えている」と説いた。

昨季のプレーオフトーナメント決勝・東芝ブレイブルーパス東京戦は、国立競技場のスタンドから観戦。敗戦をじっと見つめていた。今季は、あの場所で感じたことをピッチで黙々と体現する。

「2年連続で一番大事なところ(決勝)を落とした。慢心が僕は一番良くないと思っている。結果として負けているので何かが足りなかった。一戦一戦に集中して最終的にそこ(決勝)にいければいい。(いつ話すのか)慢心などが見えて自分が言わなければいけないと思ったときだけ、はっきりと言っていく」

トップリーグ時代から公式戦通算100キャップ、代表50キャップをクリアする百戦錬磨のベテランはときにチームに苦言を呈することのできる貴重な存在。だが、あえて黙る。どん欲に勝利を追求する稲垣は「話さない」ことでチームを支えていく。

(伊藤寿学)

2024.12.27[S東京ベイ]もがき突き進んで勝ち取った先発。癒えぬ渇望感を胸に、まだ見ぬ頂を目指す

NTTジャパンラグビー リーグワン 2024-25
ディビジョン1 第2節(リーグ戦) カンファレンスB
2024年12月28日(土)14:30 熊谷スポーツ文化公園ラグビー場 (埼玉県)
埼玉パナソニックワイルドナイツ vs クボタスピアーズ船橋・東京ベイ

クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(D1 カンファレンスB)

廣瀬雄也選手。日本人のセンターとして埼玉パナソニックワイルドナイツのデアレンデ選手・ライリー選手に挑む

かつて、松井秀喜は語った。「悔しさは、それに耐えられる人間にしか与えられない」と。

昨季、第10節の横浜キヤノンイーグルス(以下、横浜E)戦。アーリーエントリーでクボタスピアーズ船橋・東京ベイに入団した廣瀬雄也は、ここで初めてリザーブとしてメンバーに名を連ねた。試合は、最大18点のビハインドをはね返してS東京ベイが劇的な逆転勝ち。だが、チームが勝利を収めたにもかかわらず、試合後の廣瀬の表情は凍てついていた。

「僕はまだあのような場面で起用してもらえるプレーヤーではなかったんです。ここ数年間で、一番悔しい出来事でした」

その日、廣瀬には最後まで出番が訪れることはなかった。大量リードを奪われた危機的状況の中で起用されなかった無力感。そして、「この場面に俺が出ていって流れを変えられるのか……」と不安を抱いてしまった自分自身の不甲斐なさ。打ちひしがれた廣瀬は、選手バスには搭乗せず、一人で会場をあとにしたという。

リベンジへの道が始まった。世界最高峰レベルの選手たちが集うリーグワン。試合におけるプレッシャーは大学時代の比ではない。自身に課したテーマには「そうしたプレッシャーの中で、本来の自分が持っているスキルをしっかりと発揮する」こと。その取り組みは次第に形となっていき、11月に行われたニューサウスウェールズ・ワラターズとのプレシーズンマッチでは確かな手ごたえが感じられた。横浜E戦後に大きく肩を落とした廣瀬の姿は、そこにはなかった。

迎えた今季開幕戦。廣瀬はセンターの先発で12番を背負い、ピッチに立った。屈辱から立ち上がり、もがきながら突き進んで勝ち取ったポジションである。

「こうして評価してもらえたのは、とてもうれしいです。まだまだ課題がありますが、開幕戦では自分のルーティンを崩さずに闘うことができ、次につながる自信を得ることもできました」

その「次」の試合となるのが、今節の埼玉パナソニックワイルドナイツ戦。廣瀬はここでも12番を背負って敵地・熊谷に乗り込む。

「相手のセンターにはダミアン・デアレンデやディラン・ライリーがいます。センターは日本人選手が少ないポジションで、(日本人のセンターとして)世界最高峰の選手たちを相手にすることになります。でも、日本人だから負けて当たり前とは思いません。試合がとても楽しみです」

悔しさは、それに耐えられる人間にしか与えられない。癒えぬ渇望感を胸に、廣瀬はまだ見ぬ頂を目指す。

(藤本かずまさ)

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