2025.05.09[L戸田]引退試合でリーグワン初キャップへ。すべてを出し切る覚悟で臨む“ミスターレビンズ”

NTTジャパンラグビー リーグワン 2024-25
ディビジョン3 第15節
2025年5月11日(日)12:00 AGFフィールド (東京都)
ヤクルトレビンズ戸田 vs ルリーロ福岡

ヤクルトレビンズ戸田(D3)

ヤクルトレビンズ戸田の西條正隆選手、40歳。リーグワン出場はこの試合が最初で最後。「走り回って、タックルして、チャンスがあればトライをして、最後に勝って、みんなで笑って終わりたいんです」

今季限りでジャージーを脱ぐミスターレビンズ、西條正隆がディビジョン3最終節となる今節のルリーロ福岡戦に今季初めてメンバー入りを果たした。

「タフマンズ(バックアップメンバー)も含めて全員でレベルアップできたからこそ、いまがあると思える1年でした。この日のためにやってきたし、やるしかありません」

ヤクルトレビンズ戸田(以下、L戸田)とともに丸18年。まだ選手寮もグラウンドもいまの半分ほどの大きさだったころから、「やるからにはラグビーを楽しみながら上を目指そう」と時間を紡いできた。仕事から離れ、1日の最後にラグビーに没頭できるL戸田は掛け替えのない人生の居場所だった。

30歳のときに引退が脳裏をよぎったことがある。肩を手術した影響でウイング一筋ではいかなくなり、慣れないフランカーへポジション変更を模索することに。当時、引退を決めた同期のフランカー、太田晴之(現L戸田GM補佐/コーチングアドバイザー)から手解きを受けたことはいい思い出だ。グラウンド外では苦しくても1日5食や6食を無理矢理にかき込んで筋肉の鎧を10kgほど増量した。当初はモールを組んだときに過呼吸になるなど、別世界への適応に苦労したが、これでラグビーを続けられる、との思いが勝っていた。

数年前、東京ガスとの(トップイーストリーグ)最終戦に敗れてリーグワンへ参入できなかったときは潮時に思えたが、「まだまだ一緒にやりましょうよ」と声を掛けてくれ、労を分かち合った戦友たちの存在が背中を押した。「中途半端にやるんだったら辞める。やるんだったらとことんやろうよ」。この数年はそんな妻の言葉が一番の支えだった。そうして練習グラウンドに立てば、20代の若手選手にもまだまだ負けられないとの闘志が足を動かした。

今節のグラウンドに立てば、リーグワンの舞台で初キャップを刻むことになるが、西條には大事にしたい思いがある。L戸田にはほかにもずっとリーグワンの舞台に立ちたいと努力してきたメンバーが多数いるということ。

「だからこそ、『西條さんが最後に出てくれて良かった』と思ってもらえるようなプレーをすることが絶対だと思っています。不甲斐ない試合は絶対にしたくないし、ここで中途半端をやってしまったら、この年齢までラグビーをやってきた意味がない。最後に自分のプレーを見せつけて、『40歳でもまだまだいける』と言われるくらい、走り回って、タックルして、チャンスがあればトライをして、最後に勝って、みんなで笑って終わりたいんです」

すべてを出し切る覚悟はできている。ミスターレビンズが、これまでの感謝の思いを込めて、憧れ続けたリーグワンの舞台に立つ。

(鈴木康浩)


2025.05.09[LR福岡]スポーツの仕組みを耕し、チームを動かす者。それを体現する創設メンバーの存在感

NTTジャパンラグビー リーグワン 2024-25
ディビジョン3 第15節
2025年5月11日(日)12:00 AGFフィールド (東京都)
ヤクルトレビンズ戸田 vs ルリーロ福岡

ルリーロ福岡(D3)

ルリーロ福岡の創設メンバーのひとり、黒川ラフィ選手。登録はウイング

地元企業にチラシを手配りして、マーカーとボールをそろえる。クラブ創設の「リアル」は、そんな地味な手作業の連続だった。

今季、リーグワンのディビジョン3に初参戦したルリーロ福岡(以下、LR福岡)。その骨格を形作った一人が、創設メンバーの黒川ラフィである。

2021年冬。所属していたコカ・コーラレッドスパークスが活動を休止し、黒川は一度アメリカンフットボールに挑戦する。しかし運命のように、地域密着型クラブ「ルリーロ福岡」の立ち上げメンバーとして声が掛かる。わずか3人のスタート。練習場も確保されておらず、近隣の高校生の練習に交ざって体を動かした。

「ゼロからチームを“創る”」とは、何を意味するのか。それは、選手としての挑戦であると同時に、スポーツの新しい仕組みを耕す作業だった。昼は営業マンとしてスポンサー獲得に奔走し、夜は練習に打ち込む。会社員でもなく、プロ選手でもない「地域クラブの担い手」として、黒川は自らの体一つで可能性を切り開いてきた。

シーズン序盤、10連敗。だが、そこからつかんだ1勝は、ただの1勝ではない。チーム全員の汗と涙が染み込んだ“意味ある勝利”だった。選手もスタッフも、そして観客までもがその価値を知っていた。

黒川は今季、公式戦のグラウンドには立っていない。最終戦でもメンバーに名を連ねることはできなかった。しかし、彼の存在がこのクラブの精神的支柱であることは間違いない。

10連敗からの1勝、そして2勝。その裏には、日々の地道な努力がある。グラウンドの外で信頼を築き、内側では若手を支える。黒川の役割は「試合に出ること」だけではない。「クラブを“創る”こと」そのものだった。

「ラグビーとは、自分に誇りをもたせてくれるもの」。黒川がそう語るとき、それは勝利や数字では測れない何かを意味している。誇りとは、自分の信じた道を貫くこと。敗れても立ち上がり、背中で伝えること。だからこそ、黒川はまだキャリアハイを夢見ているのだ。

LR福岡は、わずか3年で80人近い選手が所属するチームとなった。だが、数ではなく「機会の平等」に意味がある。誰にでも挑戦のチャンスがあるチーム。その理念を、黒川は体現し続けてきた。グラウンドに立たずとも、チームを動かす者がいる。黒川ラフィという名の存在は、その証明である。

(柚野真也)

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