2025.12.12[釜石SW]カツカレー、コーヒー、シーウェイブス。すでに釜石は、愛する“第二の故郷”

NTTジャパンラグビー リーグワン 2025-26
ディビジョン2 第1節
2025年12月13日(土)14:30 江東区夢の島競技場 (東京都)
清水建設江東ブルーシャークス vs 日本製鉄釜石シーウェイブス

日本製鉄釜石シーウェイブス(D2)

日本製鉄釜石シーウェイブスのアンガス・フレッチャー選手。「日本のカレーってなんであんなにおいしいんですか」

釜石に来て2年目。アンガス・フレッチャーは、穏やかに、しかし迷いのない声で言った。

「もう釜石は、第二の故郷なんです」

南アフリカで1シーズンを過ごしたことはあるが、文化も言葉も違う国に腰を据え、日々の生活を積み重ねることは初めての経験であり、想像以上にエネルギーを必要とする挑戦だったはずだ。それでも彼は、ゆっくりとこの街に根を下ろし、「いまは自分の家のように安心して過ごせている」と笑った。

もちろん、最初から順調だったわけではない。言葉の壁に戸惑い、生活リズムをつかむまでに時間もかかった。さらに加入1年目の昨季はけがも影響してプレータイムをコンスタントに得られなかった。それでも「最初は大変だと思ったけれど、だんだん楽しくなってきた」と振り返る。

その背景には、仲間やスタッフ、そして英語で支えてくれるチームメートの存在があった。「本当に幸運でした」と何度も口にしたその表情には、人の温かさに触れてきた実感がにじんでいた。

彼の生活を語るうえで、欠かせないのが“カツカレー”だ。初めて食べたときの衝撃を、彼は少年のように目を輝かせて語る。「信じられないくらいおいしかった。日本のカレーってなんであんなにおいしいんですか」。「ほかのメニューもおいしいんですけど、結局いつもカツカレーを注文してしまう」というお気に入りの店では、店員が大盛りのさらに上を行く、いわば“シーウェイブス盛り”にそっとサービスしてくれるのだという。

そしてもう一つ、彼の生活を豊かに彩っているのがコーヒーだ。昨季けがで離脱した期間に「ラグビー以外の得意なものを持ちたい」との思いから本格的にのめり込み、こだわり抜いた器具をそろえ、自宅の一角には“カフェコーナー”も整えた。「本当においしいと思ってくれているかは分からないけど、仲間が飲みに来てくれるんです(笑)」。彼のコーヒーは、チームにとって小さな癒しの時間になっている。

そんなフレッチャーのプレーがいま、力強く輝いている。オツコロ カトニ アシスタントコーチは「いまの“ガス”(フレッチャーの愛称)はラグビーを心から楽しんでいる」と語った。環境に慣れ、仲間との絆が深まり、彼は本来のプレーをグラウンドで表現できている。自身も「コーチやスタッフが、楽しめる環境とチーム文化を作ってくれている」と感謝を忘れない。

ニュージーランドで育ち、ラグビーを通じて世界を知った若者が、いまは海沿いのこの街で、新たな人生を積み上げている。「ここに来られたのは幸運。できるだけ長くいたい」。

その言葉は、すでに“故郷”と呼び始めた釜石への、まっすぐな愛情にあふれていた。

(髙橋拓磨)

2025.12.12[江東BS]過酷な病を患いながらも、2年ぶりの舞台へ。積み重ねた時間を証明する開幕戦

NTTジャパンラグビー リーグワン 2025-26
ディビジョン2 第1節
2025年12月13日(土)14:30 江東区夢の島競技場 (東京都)
清水建設江東ブルーシャークス vs 日本製鉄釜石シーウェイブス

清水建設江東ブルーシャークス(D2)

「絶対に、選手として帰ってこい。何年かかってもいい」という仁木監督の言葉に応えて──清水建設江東ブルーシャークスの長谷銀次郎選手

いよいよリーグワンの新しいシーズンが幕を開ける。

清水建設江東ブルーシャークスには、この日を2年間待ち続けた男がいる。加入5年目のフランカー、長谷銀次郎だ。今節の開幕戦は、彼にとってようやく辿り着いた公式戦の舞台となる。

1年目から試合に出場し、2年目もコンスタントに出場を重ねてチームの力になっていた。順調なキャリアを歩んでいた長谷だったが、最後に公式戦に出場したのは2023年12月の開幕戦、日野レッドドルフィンズとのゲームとなった。プレーのコンディションは良かったが、試合前から続いていた原因不明の頭痛が試合後にはさらに悪化。休めば和らぐが、動けば痛む。その不安定なサイクルが続き、下された診断は『脳脊髄液漏出症』。硬膜の損傷により髄液が漏れ出すことで、頭痛をはじめとした症状を引き起こす、過酷な病だった。

この2年間で2回受けたブラッドパッチ療法は、硬膜周辺に血液を注入してかさぶたを作り、髄液の漏れを塞ぐ治療法だ。激痛を伴い、痛みに強いラガーマンの長谷でさえ「二度と受けたくない」と思うほどだった。

しかしそうした肉体的苦痛以上に心を削ったのは、“グラウンドに立てない日々”が静かに積み重なっていく現実だった。

それでも長谷は、練習場に通い続けた。外傷とは異なり、自分にしか分からない波のあるコンディションでも、「症状を話しても良い影響を与えないと思って」常に明るく振る舞った。復帰の見通しが立たなくても、仲間にはそんな素振りを感じさせないようにした。だが1年半が経とうとするころ、長谷の心は折れかけていた。

今年6月の面談で仁木啓裕監督兼チームディレクターと吉廣広征ヘッドコーチに伝えたのは、苦渋の選択だった。「年内に復帰できなかったら、選手ではなく、コーチとしてチームに携わらせてください」。ラグビーから離れたくない一心で自分なりに出した結論を伝えた。

しかしその言葉に対して仁木監督から返ってきたのは、想像もしなかった一言だった。

「絶対に、選手として帰ってこい。何年かかってもいい」

長谷はその瞬間をこう振り返る。「そのときは正直、戻れないだろうという気持ちが大きかったです。だけど、この短い期間ですけど、グラウンドに戻れるんじゃないかな、というのがあって、もう絶対に選手として戻ろうと思っていました」。

それからおよそ半年後、今年11月15日のプレシーズンマッチ・ヤクルトレビンズ戸田戦でついに実戦に復帰する。

「戻ってこられて、本当にホッとしていますし、仁木さんがかけてくれた言葉に感謝しています」

さらに、迷いなくこう続けた。「やるからにはレギュラーを取りにいきます。開幕戦のスタメンを狙います」。

それからさらに1カ月の間、体を張ることをいとわず、リーダーシップも発揮。誰が見ても、長谷のプレーには確かな説得力があった。そして宣言どおり、長谷は背番号7を手にして開幕戦に戻ってくる。

「誰よりもタックルして、ブレイクダウンで頭を突っ込んで体を張るのが7番の役割なので、それを80分間全うします」

いまも症状と向き合いながらプレーしている。それでも、2年分の思いを背負い、公式戦で再び示したい姿がある。失われた時間ではなく、積み重ねてきた時間を証明するために。

止まっていた長谷銀次郎の時計が、いま再び動き出す。

(奥田明日美)

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