NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン1(リーグ戦) 第12節 カンファレンスB
2023年3月18日(土)14:30 江戸川区陸上競技場 (東京都)
クボタスピアーズ船橋・東京ベイ 15-5 横浜キヤノンイーグルス
「えどりく」無敗神話を継続
悪天候の中で光った遂行力
3月に入って暖かな日が続いた東京は一時的に「寒の戻り」となり、最高気温が10度を下回る肌寒い一日となった。前日の夜から降り続いた冷たい雨は試合開始時刻が近づいても止む気配がなく、濡れたスタンド席がオレンジと赤のポンチョにゆっくりと彩られていく。
昨季の対戦成績は1勝1敗。今季は第2節、12月25日の大分決戦で両者痛み分けのドローに終わった。NTTジャパンラグビー リーグワンが生んだ“因縁の対決”、クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(以下、S東京ベイ)と横浜キヤノンイーグルスの注目の決着戦が、雨にさらされた「えどりく」(江戸川区陸上競技場)で開催された。
水分をたっぷりと含んだ芝生の上では、摩擦はその力を弱め、慣性が幅を利かせた。屈強な男たちがときに足を滑らせ、そして、ときに豪快にスライドしていく様は、もはや氷上競技。さらには、濡れたボールがノックオンなどのハンドリングエラーを誘発する。2位と3位による上位チーム同士による一戦は、将棋で言うなら飛車角を駆使しづらいような、そんな状況下で行われた。
「こういう天候の中では、フォワードの試合になると思います。基本的にはフォワードでアタックしたいと思っていましたし、もし、チャンスがあれば最後のフィニッシュまで持っていきたかったです」
試合後、この日のプレーヤー・オブ・ザ・マッチに輝いたルアン・ボタがタフなコンテストを振り返った。前半38分、モールを押し込む力技で先制トライを決めたのはマルコム・マークス。後半12分には、相手チームがこぼしたボールをキャッチしたルアン・ボタが、そのままトライ。どちらも、フォワードの選手である。
そして、バーナード・フォーリーがキックで得点を重ねる。悪天候の中でS東京ベイの遂行力が光った。最終的なスコアは15対5。ホームスタジアムの「えどりく」では無敗神話を継続し、これで15連勝となった。順位は10勝1分1敗で2位。リーグワン 2022-23 プレーオフトーナメント進出が、現実味を帯びてきた。
「今日もすごく大事な一戦だったと思います。順位の中では重要な位置付けだと思うのですが、これからもタフな試合が続きます。あまりプレーオフには目を向けずに、毎週毎週、一戦一戦を大事に戦っていくことが大切だと思います」
前節でトップリーグ&リーグワン通算100試合出場を達成し、試合後には記念セレモニーが行われた立川理道。その飾らないコメントが、S東京ベイのこれまでの歩みと、これから進むべき道を言い表していた。
翌日、東京には前日の寒さが嘘のような青空が広がった。リーグ公式戦も、残すはあと4試合。春、遠からじ。
(藤本かずまさ)
クボタスピアーズ船橋・東京ベイ
クボタスピアーズ船橋・東京ベイ
フラン・ルディケ ヘッドコーチ
「コンニチワ! いい試合ができ、横浜キヤノンイーグルスさんに感謝しています。今日は悪天候でランニングラグビーができませんでしたが、フォワードバトル、キックバトルそれぞれでコントロールでき、勝利を収められ、すごくハッピーです。また、リーダーの選手たちが、しっかりとリーダーシップを取ってくれたと思います」
──ハーフバックスの活躍についてはどのように感じていますか?
「こういう天候の中、二人とも大事な場面でしっかりとやってくれたと思います。特に9番、10番、15番がどれだけキッキングゲームをコントロールできるのかという部分で、基本的なことをしっかりと遂行してくれました。彼らがしっかりとゲームチェンジャーの役割を果たしてくれたと思います。
また、それを遂行するための土台をフォワードがしっかりと築いてくれました。いいボールを出して、しっかりと判断をして、役割を遂行してくれました」
クボタスピアーズ船橋・東京ベイ
立川理道キャプテン
「ゲームの内容に関しては、このコンディションの中、今日の天候を見てキッキングゲームが主な戦いになるということは分かっていました。また、前回戦ったときもキッキングゲームで9番、10番とタフな試合になったので、今日の試合もそういう流れになっていくのかなというのがあったのですが、ゲーム中にセイムページ(ビジョンを共有)で自分たちのフォーカスするポイントを明確にやってくれたことで、前半の最後の大事な時間帯でポイントを取れました。
後半の入りも(トライまでに)12分かかりましたが、ずっと自陣にいながらも相手のキックをうまく守りつつ、敵陣に入ったときにポイントできたというのがすごく大きかったと思います。そういうところがいまのチームの成長だと思いますし、こういう試合をしっかりと経験して、さらに成長していきたいと思います」
──後半の序盤は自陣に押し込められ、脱出するのが難しい場面がありました。
「後半の入りはかなり攻め込まれて、相手もボールを保持してアタックするというよりも9番と10番のところで22mライン関係なくコンテストキックを蹴ってきているところがありました。その中でバックスリーであったり、バーナード・フォーリーがうまく処理してくれているところで、相手のイエローカードもあって、一気に流れがくると思っていました。フォワードのモールであったり、ラインアウトがすごく安定していて、攻め込まれてはいましたが、そこまで慌てずに、チャンスが来たところで(得点)できたのは、そういうところだと思います」
──前半のキックゲームについてはどう振り返っていますか?
「あのキックバトルは想定内というか、相手の9番、10番、15番というメインキッカーのところは想定していました。もちろん雨の天候もあったので、ハンドリングエラーはありましたが、バックスリーがうまくカバーしてくれていたため、逆に自分たちも相手にプレッシャーを掛けることができていたと思います。こういう天候もあった中で、キッキングバトルに勝てたのはすごく良かったと思います。たとえ天候が良くても、キッキングバトルの中でこういう経験ができたことは、すごく良かったと思います」
──大事なところでちゃんと点を取れるチームになったことについてどう感じますか?
「先ほど言ったように、一人ひとりがそのときに何をしなければいけないのかということが分かっていると思いますし、前半の最後の大事な時間帯でフォワードがしっかりと固まりになってモールを押してくれました。後半の12分でトライを奪ったところも、バックスとフォワードでうまくしのぎながらエリアを取って、最後にプレッシャーを掛けて点を取ってくれました。ああいうところも、すごく集中できていたと思います。フォワードもラインアウトでプレッシャーを掛けられるのが分かっていたと思うので、そういうところでうまくゲームをコントロールできたのかなと思います」
横浜キヤノンイーグルス
横浜キヤノンイーグルス
沢木敬介監督
「こういう天候でボールを動かすのが難しかったのですが、前半も後半もミスがスコアに直結してしまうのがこういう日の展開だと思います。練習で確認してきていることなのに、その遂行力のところでクボタスピアーズ船橋・東京ベイ(以下、S東京ベイ)さんのほうが上だったのではないかと思います。まだ全然、下を向く必要はないと思いますが、次に向けてまたいい準備をしながら、しっかりとターゲットに対してハングリーに進んでいくしかないと思います」
──来週、大分のホストゲームに向けて考えていることを教えてください。
「勝ち点5を取って、残りの試合はすべて勝ち点5を取りにいくということをやっていかなければいけないです。また、今日の試合の後半のように、こういう天候の中でバックスリーを一人失うというのは命取りになります。だから、テリトリーで勝てなくなる。今日のようなもったいないペナルティをやってしまうと、相手に全部勢いを持っていかれるので、そういうところは『経験値』という言葉で片付けたくはないですけど、そういうのを学んでいく段階だと思います。次にしっかりと生かせればいいと思います」
──タイトなゲームの中で、選手たちが判断を下していけるようになるために、どのような練習を取り組んでいきたいと思っていますか?
「練習というか、これはチームミーティングでも言いましたが、プレッシャーというものに対してしっかりと向き合っていかないといけないです。これは上に行けば行くほどプレッシャーは出てくると思います。そのプレッシャーを回避しようとしていたら、絶対にうまくいかないです。プレッシャーは悪ではありません。プレッシャーとしっかりと向き合って、それをどうやって力に変えて、どうやって対処していくかというマインドを持っている選手が、まだこのチームには(多くない)。ここから成長していく段階だと思います。今まではたぶん、みんなが掛かったプレッシャーに目をつぶって、というマインドだったと思うんです。ただ、それでは勝てません。プレッシャーはあって当たり前。そのプレッシャーをどうやってうまく力に変えていくか、そのマインドを持てるようになってくれば、こういうゲームでも正しい判断ができると思いますし、一つのミスに一喜一憂しないようになると思います。そういうところが、今日は経験値でS東京ベイさんのほうが上でした」
横浜キヤノンイーグルス
梶村祐介キャプテン
「今日の試合は、スコアは先行されましたけど、その中でも前半はしっかりと我慢ができた40分だったと思います。ただ、その中で相手のビジョン(狙っていた流れ)に入ってから、自分たちのミスでボールを失ってしまったり、スコアするチャンスを失ってしまったのが、最終的にスコアの差になってしまったと思います。自分たちがスコアをするチャンスのときの集中力、遂行力をもっと上げていかないといけないなと思いました。後半はキッキングゲームのところで完全に後手に回ってしまったので、こういう雨の試合の中で、もう少しボールの運び方、試合の進め方というのは、この試合をしっかり学びとして次につなげていきたいと思います」
──前半は少し風上にいたと思いますが、どういったことをゲームプランで思い描いていたのでしょうか?
「風は関係なく、自分たちのプラン通りに、ボールは手放すけどもその中でプレッシャーを掛けて取り戻すというのは遂行できていたと思います。ただ、スコアにつながるという面で、最後の1フェーズ、2フェーズ、自分たちがコントロールしていればスコアになるところを、自分たちのミスでボールを手放してしまっているので、その遂行力が今日は足りなかったと感じます」
──後半うまくいかなかった理由をどのように分析していますか?
「相手のラインアウトのムーブからの動きで、簡単に自分たちのエリアに入られてしまったり、前半我慢できていた部分で、簡単にゲインラインを切られるシーンが多くなってしまったことが一つの原因かなと思います。我慢はしていたんですけど、同じムーブで何度もゲインラインを切られたり、スコアされたりというのが続いてしまうと、S東京ベイさんが相手だとこういうふうにスコアを取られてしまうので、同じ失敗を繰り返さないというのが今日の勉強になったところです」