2023.02.28NTTリーグワン2022-23 D3 第8節レポート(九州KV 14-23 RH大阪)

NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン3 第8節
2023年2月26日(日)13:00 白波スタジアム (鹿児島県)
九州電力キューデンヴォルテクス 14-23 NTTドコモレッドハリケーンズ大阪

薩摩隼人が目に焼き付けた景色。リーグワンのチームが九州にあることの意義

NTTドコモレッドハリケーンズ大阪の川向瑛選手

NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン3の首位攻防戦。鹿児島県の白波スタジアムでの九州電力キューデンヴォルテクス(以下、九州KV)とNTTドコモレッドハリケーンズ大阪(以下、RH大阪)の激突は、14対23でRH大阪が勝利。首位交代に成功した。

試合後のミックスゾーンに現れた薩摩隼人は真っ赤に目を腫らしていた。鹿児島県出身、鹿児島実業高校を卒業したRH大阪の川向瑛にとって地元での試合に感慨も一入だったのだろう。しかし、本人からは意外な答えが返ってきた。

「鹿児島に着いた瞬間、花粉でやられてしまって(笑)。キャプテンズラン(試合前日の練習)もできないくらいで。勝ったことはうれしいんですが、目も開けられないし、鼻水もひどくて、試合を忘れるくらいヤバかったです」

花粉が影響したのか、試合ではコンバージョンキックを3本中2本失敗。「大丈夫か、大丈夫じゃないかと聞かれたら、いつもどおりではなかったです。試合中も『大丈夫か?』ってずっと言われていました」と実情を明かし、笑いを誘っていた。

ただ、まともに目を開けられない状態でも焼きつけた光景があった。それは九州KVに声援を送る子どもたちの姿だ。「やっぱり、みんな、九州KVさんを応援していた。九州のチームは九州の小さい子どもたちにとって憧れ。僕もその気持ちがわかります」。

それはかつての自分もそうだったから。「僕も小さいころから九州KVさんは憧れのチームでした」。憧れのチームはいま、九州で唯一のリーグワン参戦チームとして奮闘している。「九州のチームが残っていることは九州出身の人全員がありがたいと思っているし、僕としてもこれからも絶対に(九州のチームとして)残ってほしいという思いが強くあります」。憧れのチームが九州のラグビー界をけん引し続けてくれたからこそ、川向も地元で雄姿を見せることができた。

また、九州KVにとっても鹿児島での試合は価値あるものになった。高井迪郎キャプテンは2,000人を超える鹿児島のファンの声援を受け、「九州を代表してやっていることを実感できましたし、それに加えて、みんなにまた責任も芽生えたんじゃないかなと思います」と振り返った。試合には敗れたが、この試合で得た感情は今後の九州KVの大きな力になるはずだ。

(杉山文宣)

スタンドの観客に挨拶する九州電力キューデンヴォルテクスの選手たち


九州電力キューデンヴォルテクス

九州電力キューデンヴォルテクスのゼイン・ヒルトン ヘッドコーチ 高井迪郎キャプテン

九州電力キューデンヴォルテクス
ゼイン・ヒルトン ヘッドコーチ

「鹿児島のファンのみなさん、ありがとうございました。2,000人を超えるファンの方々が来てくださって本当にうれしかったです。九州全体を代表しているつもりですので、ここに来ることができて、とても楽しむことができました。

試合については、今日の私たちは(勝つには)ちょっと十分ではありませんでした。勝つために必要な機会を作り出すことはできましたが、そこまで遂行することができずにNTTドコモレッドハリケーンズ大阪(以下、RH大阪)さんに上回られてしまいました。セットピースとフィジカルのところでRH大阪さんに負けてしまいました。相手に敵陣から脱出されてしまって、こちらがプレッシャーを掛け切れなかった。そこはすごく残念でした。シーズン全体を見れば、まだまだシーズンは続くので、これからの試合をすべて勝つつもりで臨み、首位に返り咲きたいと思います。それは十分に可能なことだと個人的には思っています。チームに対して、本当に自信があります。今日は残念でしたが、明日また、太陽は昇るので、私たちはまた自分たちのやるべきことに取り組みます」

──ショートウィークで準備期間が短いが、次節までに修正したいところは?

「広島での中国電力レッドレグリオンズ(以下、中国RR)さんとの一戦ですし、彼らは強いチームです。グループの中で必ず変更は出てくると思います。チームの中で変更したとしても、誰が出ても自信がありますし、中国RRさんはどこからでもプレーしてくるチームですが、しっかりと止めて自分たちのプレッシャーを相手に移行することが重要だと思います。今日はそこができなかったので修正していきたいです」

──ひさしぶりにチームとして負けるという経験をしましたが、この敗戦で得た学びがあれば教えてください。

「勝って学ぶこともありますが、もちろん、負けて学ぶこともあります。負けたからといってすべてを変える必要はないと思っています。RH大阪さんに負けた試合はどちらも大差ではありませんでした。私たちも十分にチャンスはありました。作ったチャンスをどれだけ遂行していけるか。それが大事だと思います」

九州電力キューデンヴォルテクス
高井迪郎キャプテン

「鹿児島の多くのファンの方々に来ていただいて、感謝しています。ありがとうございます。僕たちが取らなければいけないところで取れなかった。NTTドコモレッドハリケーンズ大阪さんがプレッシャーをそこに掛けてきて、取るべきところでしっかりと取った。そういう80分だったと思います。勝てるチャンスも十分にありましたが、見直さなければいけないところや改善しなければいけないところもたくさんあるので、そこはしっかり、逃げずに全員が改善できるように明日からやっていきたいと思います。本当にありがとうございました」

──ひさしぶりの敗戦になりましたが、この経験を今後にどう生かしていきたいと考えていますか?

「いま、ひさびさに暗い雰囲気のロッカールームになりましたが、いいチームはここでまとまることができると思いますし、いいチームはこの負けから自分たちを強くできると思います。僕たちがここでまた伸びていくのか、それとも、停滞してしまうのか。それは自分たち次第だと思います。スタッフが来週の試合に向けたメニューを与えてくれるので、それを遂行することがまずは大事だなと思います」

──九州全域をフレンドリーエリアと掲げている中での鹿児島開催。2,000人を超えるファンが来場し、試合中は子どもたちの声援も響いていました。こういった環境で試合ができたことへの感想をお願いします。

「本当にうれしかったですね。アップのときからみんながわくわくしていて、ちょっとアップが元気過ぎました(笑)。『本当にうれしかった』の一言ですね。鹿児島の子どもたち、大人の方々もかなり声援を送っていただいていましたし、九州を代表してやっていることを実感できましたし、それに加えてみんなにまた責任も芽生えたんじゃないかと思います。今年はもう(ホストゲームは)福岡での試合だけですが、来年以降、鹿児島だけではなく九州各地で試合をしたいと本気で思いました」

NTTドコモレッドハリケーンズ大阪

NTTドコモレッドハリケーンズ大阪のマット・コベイン ヘッドコーチ 杉下暢キャプテン

NTTドコモレッドハリケーンズ大阪
マット・コベイン ヘッドコーチ

「選手に対しては本当に誇り高く思います。ゲームの頭からしっかりとゲームプランに沿って戦えたと思います。エナジー高く活動できたと思います。もちろん、厳しい時間帯もありました。九州電力キューデンヴォルテクス(以下、九州KV)が本当にいいチームなので、フォワードパックやキックゲームでは厳しい時間帯がありました。とはいえ、全体としてはすごくいい試合内容だったと思います。チームとしてもディビジョン3で優勝するという旅の途中で本当に一歩、前進できたんじゃないかなと思います」

──首位攻防戦でもありましたが、そこに対する意識はあったのでしょうか?

「週の初めに首位との戦いになるという話はしましたが、そのあとすぐにどうやってプレーをするのかというところを話してきました。そこについてずっと話をしてきて、首位との戦いであることが逆に邪念になってしまわないように、可能な限り、自分たちのプロセスや仕事に意識を置きました」

──後半はノートライでしたが、うまくゲームをコントロールしていた印象です。その点について選手たちのパフォーマンスをどう評価しますか?

「ハーフタイムにも『後半もしっかりとゲームプランに沿って戦いましょう』と話をして、可能な限り、フィールドポゼッションを取りましょうということも伝えました。もちろん、後半は風向きが変わったところもありましたが、その中でも選手たちは冷静にゲームプランやエリアを取っていくこと。そして、セットピースに対して、プレッシャーを掛けていく。それがいい結果につながったと思います」

──大きな1勝だが、シーズンはまだ続きます。ここまで得た学びと今後に向けては?

「映像を細かく見ていかないといけないと思っています。ただ、その中でも今季で一番、しっかりとプレーができたと思いました。考えていたことをしっかりと遂行できていましたし、基礎的なところもちゃんとできたと思います。課題であったボールキャリーしたあとのラックでのロングリリース(ジャッカルされるのを防ぐために、ボールキャリアがボールをなるべく後方に置くこと)に関しても、今回はしっかりできたと思います。特に九州KVにはジャッカルをする選手が多い中で、それに対してもちゃんとできたんじゃないかなと思います。しっかりと準備ができて、自信をもってプレーできていたと感じました。ただ、ここで終わりではないので、しっかりと継続してやっていかなければいけないと思っています。今回勝ったからといって次の対戦相手をなめてかかるのではなく、しっかりとリスペクトし、自分たちをリセットして、もう1回、試合に臨まないといけないと思っています」

NTTドコモレッドハリケーンズ大阪
杉下暢キャプテン

「まず、本当に勝利できてよかったと思っています。前半も後半も入りのところで自陣に張りつけられてしまうところがあったんですが、その中でも自分たちの強みであるセットピースの優位性やアタックで相手を上回ることができていたので、そこで今日は勝利することができたと思っています。ディフェンスに関しても簡単にトライを許すのではなく、粘って、粘って(対応する)。最後、相手の強い選手、サム・ヴァカ選手に突破されたシーンはあったんですが、簡単にモールトライを許さなかったところが自分たちで成長できたところかなと思います」

──ロースコアゲームになりましたが、守備面についてはどう感じていますか?

「今週のディフェンスの練習の日にすごくいい練習ができていたので、そこでやったことを今日の試合でもうまく出すことができていたのかなと思っています」

──目標のディビジョン3優勝へ大きな1勝だったと思いますが、その点についてはどう受け止めていますか?

「(シーズンの)中盤戦に差し掛かっているところでこの一戦をどちらがモノにするかでディビジョン3の優勝が大きく左右されるというのは私もほかの選手もヘッドコーチも全員が理解していたので、モチベーションは非常に高いものがありましたし、そのモチベーションをいい集中力に変えてプレーできた結果がこのような勝利につながったと思います」

──アグレッシブにトライを重ねていくのがチームの持ち味だと思うが、後半はノートライ。それでもしたたかに試合を進めていた印象があります。ピッチ内での意思統一はどう図っていたのでしょうか?

「ゴール前のチャンスのところでラインアウトのミスがあり、ゴールポスト前でのスクラムで押し切るチャンスもあったんですが、メンバーが交代したタイミングだったので、スクラムでどちらが優勢になるのか私も読みづらい状況でした。22mラインに入ったのであれば、確実に(ペナルティゴールで)3点を取っていくのがスマートな選択だと思って、それを実行しました」

──大きな1勝だが、シーズンはまだ続きます。ここまで得た学びと今後に向けては?

「僕たちは新しいチームになって、毎週、毎週出てくる課題と向き合っていますし、今日の試合であれば、入りのところは課題として残っているので、そこを修正していきたい。次の試合はショートウィークなのでリカバリーをして、しっかりとゲームプランを立てて、いい結果を得られるように頑張っていきたいと思います」

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