2024.01.22NTTリーグワン2023-24 D1 第6節レポート(相模原DB 34-36 東京SG)

NTTジャパンラグビー リーグワン2023-24 ディビジョン1(交流戦)第6節
2024年1月20日(土)14:00 相模原ギオンスタジアム (神奈川県)
三菱重工相模原ダイナボアーズ 34-36 東京サントリーサンゴリアス

大敗直後の試合で見せた“あと一歩”の熱戦。
一時は引退を意識した男が見せた意地

けがもあり今季ようやく初出場となった三菱重工相模原ダイナボアーズの岩下丈一郎選手

三菱重工相模原ダイナボアーズ(以下、相模原DB)の猛攻で始まったゲームは、最後の攻撃で21フェーズを重ねてトライを奪った東京サントリーサンゴリアス(以下、東京SG)による2点差での逆転勝利で幕を閉じた。

相模原DBは前節の大敗からチームを立て直し、強敵の東京SGを追い詰めた。

試合前に岩村昂太キャプテンが語っていた、「メンバー外も含めてチーム全員が試合で同じようなパフォーマンスを出す準備を毎週行うこと」をグラウンド上で明確に体現した一人が、岩下丈一郎だ。

岩下は最初のトライを演出すると、さらに佐藤弘樹がランで3人をかわしてトライを奪う。今季初出場の二人が前半の相模原DBの攻撃に勢いをもたらし、一時は29点差をつけた。しかし、その後は守勢に回り、風下の後半、東京SGに逆転を許してしまう。それでも、相模原DBは食い下がった。

劣勢だった相模原DBボールのスクラムで、この試合初めて東京SGのペナルティを引き出すと、ゴールライン間際の攻防で圧力を掛けて左サイドに展開。ボールを受けた岩下が二人を振り切り、インゴールに飛び込む。後半33分の再逆転劇だった。

岩下はその場面を想定していたという。「フォワードがどんどんピックで前に出ていたので、外側が空くだろうと、これまでの試合から見込んでいました。ジェームス(・グレイソン)にどういう状態でパスをもらいたいかを話していて、準備はしっかりとできていたので、あとはボールを置くだけという感じでした。最後の2対1の場面でパスを放るか迷いましたが、気持ちで行きました」と振り返る。

この試合にたどり着くまで、岩下はコカ・コーラレッドスパークス、宗像サニックスブルースと二つの所属チームの廃部を経験した。昨季に相模原DBに加入するも、靭帯断裂の大けがに見舞われる。

「ラグビーをやめるかの瀬戸際でした」

それでもラグビーを続けた理由について、「実力があってもラグビーをやめた人もいます。私は続ける権利を与えられました。だから、ボロボロになるまでラグビーをやりたいという気持ちがあります」と明かす。

そして、チャンスが巡ってきた。「毎試合のメンバー発表のたびに、入っていないときも同じミーティングに参加して、自分の役割を再確認していました。そん色なくプレーするというメンタリティーを持っていたので、ブレることはありませんでした」。

試合後、相模原DBの選手たちは “悔しさ”を滲ませた。それは、どんなに強い相手でも自分たちは“勝てる”という気持ちの表れだろう。チームの可能性は確信に変わりつつある。

(宮本隆介)

三菱重工相模原ダイナボアーズ

三菱重工相模原ダイナボアーズのグレン・ディレーニー ヘッドコーチ(左)、岩村昂太キャプテン

三菱重工相模原ダイナボアーズ
グレン・ディレーニー ヘッドコーチ

「正直に悔しいです。選手みんながとてもいいハートを持って私のゲームプランにコミットしてくれて、すごくいいところもたくさんありましたし、たくさんプレッシャーを掛けることができたと思います。最後のところで止めきれなかったところは残念でしたが、そういう大きい場面で何回か負けたと思います。それでもぎりぎりのところで、あと少しで大きな勝利を取れたかもしれない試合だった。そこは残念でした」

──先週、埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)にやられたあと、この1週間、どういうふうにチームを持ち直そうと努力をされてきたのでしょうか?

「まずは自分たちが埼玉WK戦で見せたようなチームではないということをみんな信じています。(先週は)僕たちのキャラクターを見せられなかったが、今日はそれを見せることができたと思います。トヨタヴェルブリッツ戦も横浜キヤノンイーグルス(以下、横浜E)戦も、もう少しで勝てるところまでいけていたと思うので、そういうハードワークをするチームだというところを僕たちはみんな分かっていますし、そこに集中するという意識にまた戻しただけです」

──今日、7番の佐藤弘樹選手、13番の岩下丈一郎選手と今季初出場の選手二人、それぞれスコアに絡むいいパフォーマンスを見せたと思います。彼らを起用した理由と、彼らのパフォーマンスをどういうふうにお考えでしょうか?

「二人は(ほかの選手の)けがなど、そういうところで出場の機会があったと思いますが、どの選手にも常に言っているのは、チャンスが来たら準備をしてそれをつかめるようにすること。二人とも長い間、我慢し続けて、チャンスが来たときにそれをつかんで、いいパフォーマンスを見せてくれたと思います」

──マインド的に、守りに入るようなところがあったりしましたか?

「戦術のところは、こういう天候のときにはいっぱい蹴ってプレッシャーを掛けることがよくあると思いますが、試合をとおしても風上のチームが点数を取っていたことが多かったと思いますし、そこは僕たちがプランしていたものを遂行できていたと思います」

──今日のゲームで反省したいところと、反省すべきことが起きた理由はなんでしょうか?

「常に課題はあると思いますけれど、毎日それを改善できるようにみんなで努力していますし、自分をはじめ、コーチみんながこんなに素晴らしい、成長したいという気持ちが強い選手と毎日練習できることが本当に自分もうれしいです。さっきも話してくれたように、僕たちは過去だったらもしかしたらここで満足していたかもしれないですが、そういうチームではもうない。そこはみんなが毎日、ベーシックでコアなスキルの努力をしています。そこは僕たちの今季と昨季の一番大きな違いで、そういうベーシックのところにこだわって、ディテールのところを遂行する。そこをやり続けることでこういう試合もどんどんできてくると思います。あとはそれを80分間とおしてやるだけだと思います。そこは自分がこのチームと一緒に練習を毎日できて本当に幸せです」

──リーグ再開までにどういう準備をされるのか、お聞かせ願えますでしょうか。

「選手がイヤというまで、ハードな練習をし続けます。それが僕たちのスタイルなので。ほかのチームよりもハードワークをするというのが僕の毎日の狙いなので、明日は1日休んで、そこからまたしっかり頑張ってもらいます。一緒に参加しては?(笑)」

──2点差という僅差で敗れてしまいましたが、東京サントリーサンゴリアスとの2点の差をまだまだ大きな壁があると捉えているのか、あともう少しなのか、どう捉えていますか?

「そこは一瞬で変わるところだと思いますが、そういう一瞬、一瞬は80分間の中でいろいろあると思います。最後のところも一つの例ですが、そういうところはあと3%良ければ、もしかしたらその2点差が逆になっていたかもしれない。自分たちが少しずつどうやってそれをひっくり返すのかを練習し続けることが大事だと思います」

──ハーフタイムの時点ではまだリードをしていました。そのときのロッカー内の雰囲気と、選手たちに掛けた言葉があれば教えてください。

「いつでもシンプルなメッセージ、明確なメッセージ(を発信しています)。いっぱい送ると意味がないので。こういう天候だと、風上、風下で前半、後半(の流れが)変わると思うので、そこは陣地が大事というところで、そういうところの技術、キックの話をしました。プレーを見ても分かったと思いますけれど、フィジカルで圧倒する、勝つというところが僕たちのフォーカスで、そこをまたみんなが忘れないように話しただけです」

──横浜E戦に敗れたときにも、「われわれはいいゲームをするために練習するのではなくて、勝つために練習している」とおっしゃった。いいゲームではなく、勝つために何が足りないのか、何を感じていらっしゃいますか?

「シンプルにどの試合でも80分間集中して、フォーカスし続けられるかどうかが勝負を決めると思いますし、僕たちが上手くなっているからこういう試合ができていると思います。けれど、最後の1%というところ、最後の大事なプレーで自分たちがちょっとでも集中が落ちたら敗れると思うので、そこのフォーカスの違いだと思います。僕たちは絶対にそこまでいきます。みんな一緒にそこの道のりを楽しみましょう」

三菱重工相模原ダイナボアーズ
岩村昂太キャプテン

「まずは、雨の中、いつもどおりダイナメイトのみなさんが応援してくださって、本当に感謝しております。試合に関しては、僕も本当に悔しいの一言だと思います。しっかり振り返って、(次の試合まで)5週間あるので、また次から、始まるときにしっかり強くなった三菱重工相模原ダイナボアーズ(以下、相模原DB)をお見せできればいいなと思います」

──先週、埼玉WKにやられたあと、この1週間、どういうふうにチームを持ち直そうと努力をされてきたのでしょうか?

「ヘッドコーチがおっしゃったように、先週はわれわれのスタンダードではまったくなくて、グラッグス(グレン・ディレーニー)ヘッドコーチになってから、一人ひとりが役割をしっかり遂行しようと話をしていて、そこにフォーカスはしていました。グラウンドに立つときのマインドセット、まずは相手に勝つ、というところが先週の試合はまったくなくて、一人ひとりのそういったところが欠けた結果、ああいう大差(21対81)で負けてしまった、恥ずかしい試合をしてしまったという振り返りがあったので、今回は特にマインドセットのところ、『しっかり強い気持ちをもって戦おう』という話をして、1週間準備しました」

──前半20分あまりで29点リードというところで、残りの60分間のゲームコントロールをどういうふうに考えたのでしょうか?

「特に変えることはないという話をしていて、ただ、キックミスだったり、ペナルティで自陣に入られてしまったりというところが、残りの60分にあったので、そこはすごくもったいなかったなと思います」

──マインド的に、守りに入るようなところがあったりしましたか?

「そういうところはないと思います。ただ、シンプルに自分たちのディシプリンだったり、精度だったりのところが問題だと思います」

──負けて悔しいというのは前提としても、なぜここまでこのゲームで悔しくなれるのかというところはいかがでしょうか?大昔だったら、ひょっとしたら、これで満足していましたか?

「簡単に言えば、このチームで勝ちたいという気持ちが僕はいま一番強くて、チームとしてこの結果に満足している人は誰もいないと思います。われわれは今後、トップチームにも勝てるようなチームになるというのが目標であるので、昔とは全然違う相模原DBになっていると思います」

──2点差という僅差で敗れてしまいましたが、東京SGとの2点の差をまだまだ大きな壁があると捉えているのか、あともう少しなのか、どう捉えていますか?

「ヘッドコーチと似た感じで、近くに来ているとは思います。試合の流れが変わる瞬間とか、そういったものが何回かあると思うのですが、そういったところを相手に流れを与えないようなプレーをしていくとか、そういった細かいところを改善できれば、この壁は越えられると思います」

──ハーフタイムの時点ではまだリードをしていました。そのときのロッカー内の雰囲気と、選手たちに掛けた言葉があれば教えてください。

「この試合、勝ちたいという気持ちを前面に出したかった。キャプテンとして、誰よりも出したかったので、何回も、1個1個の局面で勝つということをハドルの中で言い続けました。それをやり切れれば、80分後、僕らの得点が上回っている。だからそれを信じてやり切ろうという話をしました」

東京サントリーサンゴリアス

東京サントリーサンゴリアスの田中澄憲監督(右)、堀越康介キャプテン

東京サントリーサンゴリアス
田中澄憲監督

「今日もタフなゲームで、最後勝ち切れて本当に良かったなという思いです。相模原DBさんは前節の試合でああいう負け方をして、おそらくこの試合でいろいろなものを取り戻しにくるというのは分かっていました。その準備をしたつもりだったのですが、最初、0対29からスタートしてしまいました。これは自分たちが招いた結果だと思うので、甘さというか一貫性のなさというのをしっかりと見直して、どんどんレベルアップしたいなと思います。ただ、0対29からひっくり返せる力があるということは間違いないと思いますし、選手が最後まであきらめないというファイティングスピリッツというのも間違いなく自分たちのカルチャーとしてありますので、それをまた違った方向で出せるようにしていきたいと思います」

──このゲームに向けての準備のところで、振り返って、こういうところをこうしていきたいと思ったところはありますか?

「今週、週末の天気が悪くなるかもしれないということは分かってはいたのですが、(天候が)もつかなというのもあって、そこまで、今日みたいな環境でのシチュエーションというところでは選手に意識させることができなかったというふうに思っています。こういうときほど、堀越(康介)もさっき言いましたが、シンプルに、フィジカルでしっかりプレーして、そこからキックでプレッシャーを掛けるところは、どちらかというと天気がいい状況での設定が多かったので、そこがコーチ陣としてはすごく反省すべきところかなと思います」

──細木康太郎選手と堀越康介選手を後半22分で交代させた理由はなんでしょうか?

「追いかけていく立場で、どんどんフレッシュな選手を入れて何かを変えていかなければいけないというのもあります。今日は積極的にフィニッシャーを投入したことは悪くなかったというふうに思います」

東京サントリーサンゴリアス
堀越康介キャプテン

「前半、最初の15分、自分たちの甘さが出た試合だったと思います。ただそこから、もう1回、自分たちのやることに立ち返って、この雨の中でシンプルなラグビーを遂行できて、最後の最後、逆転できたことは、僕はチームのみんなを誇りに思いますし、勝って反省できるのが一番良かったかなと思います」

──0対29と離されたときに、どういう気持ちになったか。また、チームメートにどのような言葉を掛けましたか?

「自分たちがやりたいことをそのままやられたなという感覚だったのですが、僕たちも最初の20分、とにかく激しくいこうと入りました。自分たちのフィジカルですべて受けてしまったのと、相手が準備してきたことがすべてうまくハマってしまったので、そこはあまりうまくいかなかったなと。ハドルのときにみんなちょっとパニックになっていて、人任せになっている雰囲気があったので、『もう1回、一人ひとりがスイッチオンしろ』と(伝えて)、シンプルにフィジカルのところでもう1回、接点のところで絶対受けるなという話をしました」

──このゲームに向けての準備のところで、振り返って、こういうところをこうしていきたいと思ったところはありますか?

「キックを使いながら敵陣に入ってプレッシャーを掛けていくのが僕たちのプランだったのですが、相模原DBの10番の選手(ジェームス・グレイソン)のキックがすごくうまくて、そこのキックの競り合いのところでちょっと後手に回ったかなという感じではあります」

──ハドルを組んだときにみんながパニックになっていて、「スイッチオンしろ」ということを言ったとおっしゃいました。スイッチオンになった言葉は何でしょうか?具体的にどういう言葉を掛けたのですか?

「『スイッチオン』という言葉そのままです。特に2トライ目か3トライ目か、キックオフからそのままゲインを切られたのも、みんなが周りの選手に『誰が行くんだ?』みたいな感じで、パチンって入る選手がいなかったので、『それは絶対ダメだよね、サントリーのラグビーじゃないよね』と。『誰かのせいではなくて、自分で自分の気持ちを持って入りにいけ』というふうに話しました。それをスイッチオンという言葉で言いました」

──いまおっしゃっていた、パニックになっていた、あるいは人任せになっていた、その要因はどのように考えていますか?

「難しいですね。まず自分たちがやろうとイメージしていたゲーム展開ではなかったということと、さっきも言ったのですが、ボールの転がり方とか、相手のやりたいことが本当にバシッと綺麗に決まったので、『え、ちょっとどうしよう?』みたいな、ふわっとした雰囲気かなと思います。パニックはちょっと言い過ぎたかもしれません。パニックというよりは、ちょっとふわっとした雰囲気が、前半の15分、特にあったのかなと思います」

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