NTTジャパンラグビー リーグワン2023-24 ディビジョン1(交流戦)第10節
2024年3月15日(金)19:00 秩父宮ラグビー場 (東京都)
横浜キヤノンイーグルス 26-29 クボタスピアーズ船橋・東京ベイ
双方のスタンドオフが観衆を魅了。
ラグビーの魅力が詰まったフライデーナイト
昨季3位の横浜キヤノンイーグルス(以下、横浜E)が前年度王者のクボタスピアーズ船橋・東京ベイ(以下、S東京ベイ)を迎えたホストゲームは、劇的な展開で終幕。最終的に18点差をひっくり返した大逆転劇にS東京ベイを率いるフラン・ルディケ ヘッドコーチは「私がこのチームに来てから一番の逆転勝利」と興奮を隠せなかった。
白熱の“秩父宮フライデーナイトゲーム”は、前年度王者の意地が上回った。大逆転劇の立役者は、プレーヤー・オブ・ザ・マッチ(POTM)にも輝いたスタンドオフの岸岡智樹だ。
「すごく大変だった前半」(岸岡)は、横浜Eのスタンドオフ、田村優が秩父宮ラグビー場の観衆を魅了した。前半33分のローハン・ヤンセ・ファンレンズバーグによるトライは、直前の田村によるショートパントが効いた。さらにS東京ベイを突き放す前半終了間際のトライは、田村がボールに右パンチを当てる形でチームメートにパスを展開したことがヴィリアメ・タカヤワのトライにつながった。偶発的なプレーに見えるが、田村本人は「自分が持っているスキルの一つ」とコメント。完全に狙っていたプレーだったという。
田村のビューティフルプレーに沸いた前半から一転、後半はS東京ベイのスタンドオフ、岸岡が秩父宮ラグビー場の観衆を魅了した。後半24分に岸岡が反撃の狼煙を上げるトライを奪うと、22対26で迎えた試合終了間際には岸岡がビッグプレーを見せる。
後半39分、ボールキャリーを敢行した岸岡がショートパントを選択。自らそのボールを回収し、相手陣地深くに進入すると、岸岡の果敢なアタックは嶋田直人のタックルに阻まれた。それでも逆転勝利に執念を見せるS東京ベイは、ラックの展開から最後は大外の根塚洸雅が逆転勝利を完結させるトライを奪った。劇的な逆転トライのシーンを岸岡がこう振り返る。
「背の高いフォワードの選手が近くにいたので、パスを出そうかとも思ったが、思いのほか前のスペースが空いていたから、強気に自分の前に蹴った形です。なんとかしないといけない状況で、キックからのランオプションがトライにつながってよかったです。“手負いの虎”のイメージで行きました」
前半は田村の美技に酔いしれ、後半は岸岡のアタックに魅了された“秩父宮フライデーナイトゲーム”。殊勲の岸岡は「見ている方々が楽しんでくれればよかったですけど」と謙遜したが、8,910人の目撃者は、ラグビーの魅力が詰まった一戦を堪能したに違いない。
(郡司聡)
横浜キヤノンイーグルス
横浜キヤノンイーグルス
沢木敬介監督
「残念な結果で、このような負け方をするのはショックですが、しっかりと現実を受け止めて次の試合に切り替えていかなければなりません。試合に関して言うと、65分間はわれわれがゲームを支配していましたが、それでも勝敗がひっくり返るのがラグビーです。最後に勝ち切れるようなチームにするための準備をしていきます」
──リードしていた展開で最後に勝ち切るために今日の試合で足りなかったことは何でしょうか?
「ボーナスポイントを取りに行けるような状況でそうするための選択をしたことは良い判断だったと思います。今日の敗因は3本ぐらい相手陣地の深いところでのラインアウトをスコアにつなげられなかったことです。あそこで1本トライを取れていれば勝てていたと思います。この結果はプレッシャーが掛かる状況を練習の中で作ることができなかった自分の責任でもあります。勝負どころでしっかりとプレーできるようにトレーニングしていきます」
横浜キヤノンイーグルス
梶村祐介キャプテン
「結果は残念でしたが、ほとんどの時間帯で自分たちがゲームをコントロールできたと思います。勝負どころで点を取れなかったことが勝敗を分けました。ただ、チームとしては前を向いて進んでいくしかありませんし、来週も大きな試合(東京サントリーサンゴリアス、以下、東京SG戦)を控えているので、チーム一丸で準備をしていきたいです」
──前半からショットを狙える場面でもショットを選択しないことがありました。その理由を教えてください。
「敵陣に入ったらボールを持ちたいという話はしていました。確かにショットを狙おうかというタイミングもありましたが、敵陣でプレーできたらスコアを取れる自信がありました。守っていてもスコアを取られる印象はなかったのですが、65分以降にディフェンスのディシプリンが崩れて、勝負どころでのミスが相手のスコアにつながってしまいました」
──この試合を迎えるまではショートウィークの試合があり、大分遠征も組まれていました。その中でこの試合に向けてのコンディションを作る上で、難しさはあったのでしょうか?
「個人的にはゲーム当日は体が軽いと感じていました。チームとしてもコンディション作りの難しさは感じていませんでした」
──来週の大事な東京SG戦に向けて、どのあたりにフォーカスをして準備をしたいと思っていますか?
「相手どうこうよりも、自分たちのスタンダードでどれくらいプレーできるかだと思います。ゲームのプレッシャーが掛かった中でしっかりとしたプレーのできる選手がまだまだ少ないので、プレッシャーが掛かる強度の中で力を発揮できる準備をしていきたいです」
クボタスピアーズ船橋・東京ベイ
クボタスピアーズ船橋・東京ベイ
フラン・ルディケ ヘッドコーチ
「今日の大逆転勝利は、私がクボタスピアーズ船橋・東京ベイ(以下、S東京ベイ)に来てから一番の逆転勝利と言えるかもしれません。選手には感謝しています。みんなが信じる力を発揮できました。前半は自陣に釘付けになってしまいましたが、地に足を付けて戦ってくれました。レッドカードが出される状況もありましたが、この結果は選手たちがしっかりとゲームをコントロールしてくれた成果です。特に過去2試合は大事な局面でスコアに変えることができませんでしたが、そこを修正して得点に変えることができたのは今後の試合につながると思います」
──岸岡智樹選手を長く起用していることで成長している部分は何でしょうか。
「確実に彼は成長しています。状況に応じて、落ち着いてプレーすることなども成長しています」
──前節のトヨタヴェルブリッツ戦から起用している江良颯選手の評価を聞かせてください。
「毎試合良くなっています。ボールキャリーやブレイクダウンなどでインパクトを残せる選手ですし、接点も強いです。また後半には大事な局面でしっかりとスクラムを組んでくれたことは、大きな成長の跡が見えています」
クボタスピアーズ船橋・東京ベイ
立川理道キャプテン
「前半はペナルティが多く、なかなかペースをつかめませんでしたが、とても良い試合の入りをできた中で点を取り切れない前半になりました。後半の立ち上がりにトライを取られましたが、そこからはやるべきことを明確にできました。その中でゲームをうまく進められたことがこの結果につながりました。タイトな試合を戦っていく中で、若い9番(藤原忍)と10番(岸岡智樹)も良い経験が積めていると思います。途中から入った選手も良いインパクトを与えてくれたことで最後の勝利につながりました。けが人が多い中でもチームの力を示す試合ができました。次の埼玉パナソニックワイルドナイツ戦に向けて、良い準備をしていきたいです」
──今日の勝利の価値をどう捉えていますか。
「勝ち点4を取れたことは大きいです。ここからは勝ち続けないとプレーオフトーナメントには行けません。その点においても今日の勝利は大きいです。ただ、今後の改善点としてはうまくいったこととうまくいかなかったことを整理し、われわれの大きなフォワードの選手が前でプレーできるような状況を作っていきたいと思います」
──ショートウィークが続いた中で、チームとして何か変えたことはありましたか。
「大きなことを変えずにやってきました。ここ2試合は結果に対してコミットし過ぎました。勝てるチャンスがあった中で自分たちのペナルティで首を絞めるようなことがあったので、試合のことをレビューしていきながら、ショートウィークが続く限られた時間の中でやるべきことを明確にしてきました。結果に捉われると、自分たちがやろうとしてきたことから外れていくこともあるので、これまでのプロセスを信じてやっていくことを大事にしながら、準備を進めてきました」