2024.03.18NTTリーグワン2023-24 D1 第10節レポート(BL東京 41-19 相模原DB)

NTTジャパンラグビー リーグワン2023-24 ディビジョン1(交流戦)第10節
2024年3月17日(日)14:30 秩父宮ラグビー場 (東京都)
東芝ブレイブルーパス東京 41-19 三菱重工相模原ダイナボアーズ

大けがを乗り越えた先の古巣戦。
知念雄が進む、誰も歩んだことのない道

大腿四頭筋の断裂という大きなけがから復帰を果たした、三菱重工相模原ダイナボアーズの知念雄選手

三菱重工相模原ダイナボアーズ(以下、相模原DB)は3月17日、秩父宮ラグビー場で東芝ブレイブルーパス東京(以下、BL東京)に19対41で敗れた。これで相模原DBは4勝6敗の9位、BL東京は9勝1敗の2位となった。

相模原DBの18番、知念雄の特別な瞬間は後半8分に訪れた。

交代出場直後に二人の選手がシンビンとなり、相模原DBは13人に。“緊急事態”の中で、知念はかつての仲間たちと対峙したのだ。

「1週間前ぐらいから、自分の中でいろいろな感情になるのかな……と思っていたのですが、スッキリした感じで、『絶対に勝とう』という気持ちで臨めました。(出場時の感情は)ピンチのスクラムに集中していたので、逆にあまり覚えていないです」

2022年にBL東京から移籍したが、古巣との初対戦がこの日になったのは、昨季の開幕前に大けがを負ったからだった。左脚の大腿四頭筋の断裂。日本ラグビー界ではほとんど例のない負傷に、ドクターらは文献を調べるところからスタートしたという。

「復帰まで13カ月ぐらいかかりました。けがをしたときは、みんなが初めて見るけがと言っていたのでナーバスになりましたが、ドクターやトレーナー、コーチングスタッフのみんなが助けてくれて戻ることができました」

順天堂大学ではハンマー投げで大学王者となった知念。陸上部のオフ期間に、関東大学リーグ戦4部に所属していたラグビー部の試合に出ると、すぐに会いに来たのが東芝ブレイブルーパス(当時)の薫田真広氏だった。本格的なラグビーは未経験だったにもかかわらず転向を決めた知念は、熱く、激しい練習の中で成長し、日本代表6キャップを獲得。異例の決断を、自身の努力で成功にしてみせた。

そして2022年7月に相模原DBに移籍。リハビリ、猛練習を越えて、リーグワンの舞台で戦ったBL東京のメンバーをどう感じたのか。

「(眞壁)照男は試合の映像を見ても頼もしくなっていて、堂々としているなと思っていました。前はもっとオドオドしていたので(笑)。実際に(スクラムを)組んでみても自信がみなぎっていました。三上(正貴)さんは僕がラグビーを始めたときからいっぱい鍛えてもらって、たくさん教えてもらった人なので、初めての感情でした。(BL東京との)昨季の試合を見て、『絶対にここでやりたい』と思って燃えていました。次は勝つことが目標になったので……、勝ちます」

知念選手にとってこの日の対戦相手の東芝ブレイブルーパス東京は、ハンマー投げから転向して最初に所属した特別なチームだ

ハンマー投げからラグビーに転向という異例の決断から10年。血と汗と涙をともに流してきた仲間との戦いが、新たなパワーを生み出した。誰も歩んだことのない道を行く、知念のラグビー人生は続いていく。

(安実剛士)

東芝ブレイブルーパス東京

東芝ブレイブルーパス東京のトッド・ブラックアダー ヘッドコーチ(右)、原田衛バイスキャプテン

東芝ブレイブルーパス東京
トッド・ブラックアダー ヘッドコーチ

「全体的にうれしく思っています。先週に今季初の敗戦がありましたが、そこから立ち直って勝利することができました。原田衛選手のトライもそうですし、素晴らしいスキルの遂行力でトライを取れたことがうれしいです。ただ、ラインアウトは明らかに課題になっています。スクラムに関してはしっかり押せていてすごく良かったです。ラグビーにはいろいろな要素がありますが、もっと正確性を上げていかないといけない部分も見つかりました」

──ニュージーランド代表のスコット・ロバートソン ヘッドコーチが来日していますが、話をしましたか?

「『オールブラックスへ入閣しないか?』と言われたが断りました(笑)。ジョークです。私を東芝ブレイブルーパス東京(以下、BL東京)から離すことは、たとえオールブラックスからのオファーであってもできません。実際には会って話しただけです。先週には練習を見に来てくれました。『原田をオールブラックスに連れて行きたい』と言われましたが、『原田だけは渡せない』と断りました(笑)」

──原田選手の良いところを教えてください。

「頭と心が強く、メンタルはものすごくタフです。フィジカルもパワーもあります。あまり見た目には分からないかもしれませんが、賢いです(笑)。ステップも切れるし、スキルもあるし、スーパースターです。サイズも大きくなって、試合に出ているぶん、自信もついています。毎試合、自信を持ってプレーしてくれているので頼もしく思っています。セットピースも強みです。褒めても褒め切れない素晴らしい選手です」

東芝ブレイブルーパス東京
原田衛バイスキャプテン

「個人的にはコイントスに負けてしまって、みんなに『また負けたのか』と言われました(笑)。ただ、風下の割に良いスタートが切れました。そのあとは自分たちのミスから相手に流れをわたしてしまったので、修正しないといけません。全体的にはポジティブな印象だと思っています」

──先週は埼玉パナソニックワイルドナイツとの大事なゲームでした。次のゲームに臨む難しさはありましたか?

「僕らのテーマとしてはスピード。セットのスピードなどにこだわって臨んだ試合でした。前半の前半は良いアタックから連続トライを取れたので、ポジティブな結果で、そこにスピードというテーマが見られたと思います。先週の試合に負けて、メンタル的に持っていくのは難しかったかもしれませんが、選手たちはしっかりと良い準備ができたと思います」

──前半の良い入りから、そのあとに得点を取り切れなかった原因は?

「相手が良かったのもあります。ただ、相手にモメンタム(勢い)を与えたのは自分たちのハイタックルなどのペナルティだったので、そこは自分たちに原因があったと思います。前半の最後のほうにトライチャンスがあったのに取り切れませんでした。もっと堅実なプレーを選択していれば取れた場面でもあったので、反省して修正したいです」

──キャプテンのリーチ マイケル選手が離脱していますが、チームをどう引っ張っていますか?

「あまり変えていないです。発言しないといけなくなってしまったので、『円陣の中で何を話そうか……』とは考えています。あくまでキャプテンはリーチさんなので、キャプテンがいない中でキャプテン的な役割を遂行できればとは思っています」

──キャプテンとしての会心の言葉はありますか?

「(『衛はスバラシイ。心から話してくれます』とトッド・ブラックアダー ヘッドコーチが話を挟む)選手は日本人だけではないので、普通に日本語で話すだけでは聞いてくれる姿勢が見えないときもあるので、ユーモアを入れたりしています。今週は1回ぐらい笑いが取れたと思います(笑)」

──試合で一貫性を持つにはどんな準備が必要でしょうか?

「今日の試合については、ラインアウトをもっと精度高くできれば、と思いました。スクラムでペナルティを取ってからマイボールラインアウトでミスをしたのが僕らの一貫性を欠く部分でした。そこができていれば、もっと締まった試合になったと思います。ラインアウトはずっと同じ感じでやってきたので、相手のスカウティングも要因かと思います。ラインアウトリーダーと話して修正していきます。(『ラインアウトは根本から見直そうと思っています』とトッド・ブラックアダー ヘッドコーチが追加)」

──今季のご自身のパフォーマンスが良い要因はどう考えていますか?

「変えたところはないのですが、オフシーズンから自分の中で計画してトレーニングを積んでいるのが結果につながっているかと思います。僕の強みはスピードなので、そこを上げるのと、1週間や1日の計画を立てるようになりました。ボールキャリーで前に出られていますし、ボールを持つ回数も増えています。日本代表は意識していて、なりたい気持ちがあります」

三菱重工相模原ダイナボアーズ

三菱重工相模原ダイナボアーズのグレン・ディレーニー ヘッドコーチ(右)、岩村昂太キャプテン

三菱重工相模原ダイナボアーズ
グレン・ディレーニー ヘッドコーチ

「良い戦いができて、エキサイティングな試合でした。自分たちのスタートが良くなくて、大きくリードされて、追い付くことができませんでした。ポジティブなところを見ると、(二人の選手がシンビンで)13人になった時間帯によく耐えたと思います。後半は良いアタックができて、もう1トライ取れたかなとも思います。ラストプレーでトライを取られたのは残念でしたが、後半は良いプレーが多かったですし、試合の入りがもうちょっと良かったら自分たちが勝てるような展開にできたかもしれません。ただ、スタートが悪かったので、そこまで戻すことができませんでした。BL東京は知り合いもいるチームで、今季も素晴らしいプレーをしているので、これからも頑張ってほしいと思います」

──前半にキックを蹴ったあとにライン際を抜かれることもありましたが、どのように見ていましたか?

「前半は左のライン際で抜かれたシーンが多かったのですが、ディフェンスの選手の間隔が狭過ぎていました。ハーフタイムに、『内側の選手を信じて広さを保つように』と話して、修正できたと思います」

──ジョー・マドック アシスタントコーチは昨季までBL東京に所属していましたが、そのことについて話すことはありましたか?

「このリーグのベストなものの一つだと思いますが、われわれはいろいろなチームに知り合いがいますし、試合が終わってからはリスペクトをして、友達としてBL東京の選手とも話をしました。この1週間をとおして、ジョー・マドックは試合に100%集中していました」

──今季のBL東京はどこが良いのでしょうか?

「まず、一つは『まあまあの能力を持った10番(リッチー・モウンガ)』がいます(笑)。すでに良い組織の中に素晴らしい選手が入れば、グッとレベルが上がるのは間違いありません。もちろん、リッチー・モウンガ選手だけではないですし、周りにも素晴らしい選手がそろっています。昨季も良いチームでしたが、何人か選手を加えてレベルアップしました。トッド・ブラックアダー ヘッドコーチも素晴らしい指導をしていると思います。プレーオフトーナメントに向けて順調だと思いますし、これからも良いプレーを続けるのではないでしょうか」

──選手のコンディションという事情もあると思いますが、今日のメンバー起用の狙いと評価は?

「おっしゃったようにフィジカルが強いチームとの3連戦(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ、コベルコ神戸スティーラーズ、BL東京)だったので、体を痛めている選手もいます。私たちも次に出てくる選手については自信を持っていて、今日で言えば徳田亮真選手は今季初出場でしたが、すごく努力をして、素晴らしいパフォーマンスでした。コンディションのために選手を代えることもありますが、次に出てくる選手が自ら手を挙げて、チャンスをものにしないといけませんし、今日頑張った選手もいるので、自分たちの今後につながります」

三菱重工相模原ダイナボアーズ
岩村昂太キャプテン

「試合に入る前に、『自分の仕事を80分間遂行しよう』と話してグラウンドに出ましたが、特に前半に自分たちがやりたいこと、練習でやっていたことを出せなくて、ディフェンスで受けに回ってしまいました。一人ひとりの役割が不明確になって遂行できなかったのが原因だと思うので、しっかり反省して次に生かしたいと思います。後半はわれわれのアタックができて、攻撃的なプレーをお見せできたのではないかと思います。後半をチームのベーシックにして、成長していきたいです」

──前半に鶴谷昌隆選手の一時交代や、坂本侑翼選手の負傷交代もあって流れがつかめなかったかと思いますが、チームの雰囲気はいかがでしたか?

「もちろん、想定外ではありましたけど、入ってきた選手がすごく努力してくれました。ただ、途中で入ってきた選手のところで(ディフェンスの)コネクションが切れたこともあったので、いろいろな想定をしながら練習に取り組む必要があることを学びました」

──ペナルティが多くなってしまった原因はどう考えていますか?

「難しいですね。ブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)のところで、こちらが思ったような判定ではないこともあったのですが、それがラグビーですし、レフリーが判断することなので、僕らはそれにアジャストしていこうと臨みました。また、僕らがブレイクダウンで自立できていなかったり、受けに回ってしまったりしたこともあったので、レフリーの判定よりも自分たちにフォーカスしてやっていかないといけないと思います」

──前半の入りが悪かったところからどう修正しましたか?また、終盤は相手のほうが疲れているように見えましたが、いかがでしたか?

「試合前にロッカールームで言ったことと同じで、『自分たちの仕事を考えてやり続ける。どんなプレッシャーがあっても、その中でもしっかり考えて、そこにフォーカスしよう』と話しました。(リーグ戦中断期間の)空いた1カ月でフィジカルやフィットネスを強化してきたので、相手が疲れていたなら、その成果が最後の20分に出たのかなと思います」

──TMO(テレビジョンマッチオフィシャル)が多いですが、どう対処していますか?

「状況によりますが、レフリーとコミュニケーションを取りにいこうと考えています。TMOに限らず、キャプテンとしてコミュニケーションは大事なので。あとはチームが間延びしないようにハドルを組んで、次のプレーに向けていくようにしています。TMOは多かったかもしれませんが、間延びすることなくやれました」

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