2024.03.11NTTリーグワン2023-24 D2 第8節レポート(釜石SW 28-11 九州KV)

NTTジャパンラグビー リーグワン2023-24 ディビジョン2 第8節
2024年3月10日(日)13:00 釜石鵜住居復興スタジアム (岩手県)
日本製鉄釜石シーウェイブス 28-11 九州電力キューデンヴォルテクス

“魂のラグビー”と“鵜住居の風”がもたらした、
歴代最多観客の前での初勝利

「ここの風は特殊で、舞ったり変わったりする。(風向きに関しては)運が良かった、としか言えないかな」と日本製鉄釜石シーウェイブスの中村良真選手

NTTジャパンラグビー リーグワン2023-24 ディビジョン2第8節。日本製鉄釜石シーウェイブス(以下、釜石SW)が、釜石鵜住居復興スタジアムに、九州電力キューデンヴォルテクス(以下、九州KV)を迎えた一戦は、釜石SWが28対11で九州KVを下し、今季初勝利を手にした。3月11日を翌日に控えるタイミングで『東日本大震災復興祈念試合』と銘打たれたこの日、同スタジアムでのリーグワン公式戦としては過去最多となる3,947人の観客が詰めかけ、強い風が吹き抜けるスタンドから選手たちに声援を送った。

この日、釜石SWの選手たちが見せたかったのは、“釜石のラグビー”、“魂のラグビー”だった

試合開始から釜石SWは何度も相手陣に入るが、惜しいところで決定機を逃していた。あと1本のパスが通っていたら、もっとグラウンドを広く使えていたら、トライを取れそうな場面が何度もあった。ただ、釜石SWの選手たちはボールを持てば、必ず前を向いていた。いや、前だけを見ていた。「ダイレクト(あまりパスで展開せずに相手に当たっていくようなプレー)に行く。強いプレーを選ぶ。前に出る。それを選手たちがほぼパーフェクトに遂行してくれた」と須田康夫ヘッドコーチ。この日、釜石SWの選手たちが見せたかったのは、“釜石のラグビー”、“魂のラグビー”だった。

そうしてピッチの中で体を張り続ける選手たちに、“幸運”が手を差し伸べた。それは鵜住居の風だ。試合前のコイントスで勝った九州KVは、前半から勢いをつけるべく、風上を選んだ――はずだった。実際にコイントスのタイミングでは、たしかに風上だった。ところが、試合開始と同時に、風は向きを変える。後半になって、今度こそ風上のはずの九州KVがキックの蹴り合いに負け、自信を持って選択したペナルティキックは風に押し流されてポールから逸れた。

「ここ(鵜住居復興スタジアム)の風は特殊で、舞ったり変わったりする。(風向きに関しては)運が良かった、としか言えないかな」(中村良真)

今季初勝利、そして鵜住居復興スタジアムでの2シーズンぶりとなる勝利を、スタンドを埋めた多くのファンに届けることができた。そのことの喜びはもちろん大きいが、それ以上に、この試合でチームは、もっと大きな“自信”を得た。

中村が続けて言った。

「今日が特別な試合ということはもちろんありますが、準備の段階で全員が細かいコミュニケーションを取るなど、今までとは違う部分があって、それが結果に出た。これを継続することが大事。しっかり準備して、今日みたいに気持ちを一つにして戦うだけです」

試合が終わって、誰もいなくなったスタンドは、いつの間にか風が止んで、またいつもの、静かなスタンドに戻っていた。

(平野有希/Rugby Cafe)

日本製鉄釜石シーウェイブス

日本製鉄釜石シーウェイブスの須田康夫ヘッドコーチ(左)、サム・ヘンウッド バイスキャプテン)

日本製鉄釜石シーウェイブス
須田康夫ヘッドコーチ

「本日はたくさんのお客さんに入っていただき、素晴らしい環境でラグビーができたことを非常に光栄に思っておりますし、日本製鉄釜石シーウェイブス(以下、釜石SW)としても、“3.11”の前日ですが、復興祈念試合としてゲームを執り行うことができて、光栄に思います。ゲームの内容としましても、選手たちがこの日に込めた思いが全面に出たと思います。この日の九州電力キューデンヴォルテクス(以下、九州KV)戦をターゲットにして、これまでやってきたことが、ほぼパーフェクトに近い内容で遂行できました。その結果、今季初勝利できたことをうれしく思いますし、選手たちにも本当におめでとうと言いたいと思います」

──今回の試合は震災復興祈念試合として開催された。どのような気持ちで臨んだのでしょうか?

「13年前、釜石で何が起きたのか。3月10日は“普通”の日で、日常があった中で、その次の日には、その“普通”がなくなってしまった。そのことをわれわれが一番理解していないといけないし、“普通”にあるものに対して感謝の気持ちを持って取り組む姿勢や、最後まであきらめない釜石の文化、釜石のラグビーを自分たちが体現することで、その思いを伝えることができたらいいなと。そういうことをチームで共有しながら、この試合に挑みました」

──釜石鵜住居復興スタジアムでのリーグワン公式戦として過去最多となる3,947人の観客が集まった。ファンの声援をどのように感じていたのでしょうか?

「非常に期待の表れを感じましたし、その期待に応えることができたと思います。選手たちが素晴らしいパフォーマンスを発揮できたのも、スタンドからのたくさんの歓声があったからだと思います」

──今日のプレーに関して、『ほぼパーフェクトに遂行できた』というのはどういう部分のことでしょうか?

「ダイレクトに行く(あまりパスで展開せずに相手に当たっていくようなプレー)というところです。やはり、ディビジョン1を見ていても、D2のチームとやっても、やはりダイレクトに行く力がないと、この先のレベルには上がっていけないと思うので、しっかりこだわってトレーニングしてきました。(今日の試合は)そういった部分ができたので、今後チームで共有できる、いい画を見られたと思います」

──次戦に向けての意気込みをお願いします。

「先週の試合が延期になったところも踏まえて、仕切り直しという部分が大きいですが、自分たちがやることは変わらないです。もともとはNECグリーンロケッツ東葛のために準備していたプランを、今日の九州KVにぶつけた部分もあったので、自分たちの力が試される試合になると思います。ホストゲームですし、チャンスを狙っていきたいです」

日本製鉄釜石シーウェイブス
サム・ヘンウッド バイスキャプテン

「今日のチームをとても誇りに思います。今まで見せたパフォーマンスの中で最高だったと思います。多くの人が集まってくれた中で、こういうパフォーマンスを見せることができてうれしいです」

──今日の試合に臨むにあたって、どのような気持ちでいたのでしょうか?

「私が釜石SWでプレーするのは4シーズン目となりますが、少しずつ震災のことを学んで、より身近なものとして感じられるようになりました。そして、どれだけこの日が大事な日なのかも分かるようになりました。震災のときに、わたしは釜石にはいなかったのですが、地域の人やファンの人からたくさん話を聞いて、込み上げてくる思いはありましたし、それが今日のパフォーマンスにつながったのかもしれません」

──プレーヤー・オブ・ザ・マッチの受賞は二度目だが、前回はホストゲームで引き分けた試合だった。ホストゲームで勝ってもらうPOTMはどのような気持ちでしょうか?

「勝たないとキャップ(POTMの副賞)はもらえないので、今回は私がいただいたわけですが、これはチームを代表してもらったものだと思っています。トライも取りましたが、一人でトライを取ったわけではありません。POTMはうれしいですが、自分のことよりも、(試合に勝った)チームを誇りに思います」

九州電力キューデンヴォルテクス

九州電力キューデンヴォルテクスの今村友基ヘッドコーチ代行(左)、ウォーカー アレックス拓也キャプテン

九州電力キューデンヴォルテクス
今村友基ヘッドコーチ代行

「本日の開催にご尽力いただいた関係者のみなさまに、厚くお礼を申し上げたいと思います。本日は震災復興祈念試合ということで、この日に向けた釜石SWの魂のようなラグビーを見せつけられました。私たちとしても、リスペクトを持って、いい準備をして挑みましたが、結果に関しては残念に思っています」

──前節までの2試合はとてもいい内容でした。今日の試合に向けて、どのように準備してきたのでしょうか?

「D3からD2に上がって、結果が欲しいところではあるのですが、シーズンをとおして、今季は結果よりもまず目の前のディテールを突き詰めていこうと。もちろん、本心では勝ちたいという気持ちはありますが、今日に向けても、『ディテール』と言い続けながら準備してきました」

──コイントスに勝って、前半に風下を選んだ意図を教えてください。

「実は、結果的に、風下になっていたということでした。(スタジアムの)風は本当に読みづらかったので。コイントスの時点では風上を取ったつもりだったのですが、試合が始まったら、いつのまにか風下になっていました。それで後半は『風上だからキックでエリアを取って』と話していましたが、逆に釜石SWのキックで返される場面が多かったと思います」

九州電力キューデンヴォルテクス
ウォーカー アレックス拓也キャプテン

「試合を開催するにあたりましてご尽力いただきました関係者のみなさま、そして応援してくださったファンのみなさま、本当にありがとうございました。今日の試合は、釜石SWの選手が特別な思いを抱いて出てくるということで、前半からフィジカルを押し出して来るというのが分かっていました。こちらとしても先制して、相手にプレッシャーを掛けていこうという話はしていたんですけども、やはりディテールというか、自分たちのちょっとしたミスで相手に勢いを持っていかれる場面があったかと思います。ここで気持ちを落とすことなく、チームの目標である“ネクストレベル”に向けて、またチーム全員で頑張っていきたいです」

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