NTTジャパンラグビー リーグワン 2024-25
ディビジョン2 第1節
2024年12月22日(日)12:00 太田市運動公園陸上競技場 (群馬県)
日野レッドドルフィンズ 24-25 清水建設江東ブルーシャークス
昇格組同士の熱戦は1点差で決着。その差を分けたのは、気まぐれの“風”と江東BSの気持ち
日野レッドドルフィンズ(以下、日野RD)は群馬県の太田市運動公園陸上競技場でのホストゲームで清水建設江東ブルーシャークス(以下、江東BS)と対戦。昨季、ディビジョン3から昇格した両者が激突した試合は終了寸前までどちらが勝つかまったく予測ができない展開となったが、最後は1点差を死守した江東BSが勝利を収めた。
後半37分、日野RDがトライを奪って24対25と1点差に迫り、決まれば逆転のコンバージョンキックの局面を迎える。しかし、トライ30秒前には追い風として吹き渡っていた“空っ風”がそのときは逆風となっていた。今季から試験実施ルールで90秒から60秒へと短縮されたショットクロック。その残り8秒まで待って土肥恵太が右タッチライン際でモーションを開始。風が収まるギリギリまで待って蹴り出されたボールは逆風に押し戻されるように右から左へと弧を描きながらゴールポストのわずか左側へ逸れ、勝利の女神は江東BSに微笑んだ。
最少得点差での勝利に江東BSの仁木啓裕監督兼チームディレクターは会見で開口一番、「今季の開幕に向けて『気持ち、気持ち』と言い続けてきましたので、そこの差が1点差での勝利という形で表れたかな」と率直な思いを口にし、「『前半最初の時間帯に集中して試合に入ろう』と話したが、選手たちはそこをしっかり遂行してくれた」と選手たちを称える。白子雄太郎キャプテンも「試合の最後の最後で1点差になりましたが、『ディシプリン(規律)』と選手同士で言い合ってペナルティをせずに守り切れたことがまた一つ成長できたところだと思います」と選手の気持ちが一つになったことが勝利を呼び込めた要因だったと振り返った。
敗れた日野RDも、気持ちの面では江東BSに負けず劣らず高いレベルを維持していた。
後半24分まで相手の分厚い攻めを粘り強くしのぐと、チャンスとみるや中鹿駿の突破から追い上げのトライ。中鹿は「トライの前はずっと『我慢、我慢』とみんなに言い続けるくらい守りの時間が続いていた。そこからトライを二つ奪えてエキサイティングなプレーを少しは見せられたと思うが……、やはり完全燃焼し切れなかったのが何よりも悔しい」と日野RDらしいラグビーを見せながらも1点差での敗戦という厳然たる事実をかみ締めた。
「来季はお互いにD2で旋風を」と誓い合い、切磋琢磨して迎えた開幕戦は、両チームともに総合力を積み上げてきたことが如実に分かる激戦だった。次回のこの対戦も“名勝負”となる予感がする。
(関谷智紀)
日野レッドドルフィンズ
日野レッドドルフィンズ
苑田右二ヘッドコーチ
「シーズン開幕戦を無事に迎えることができました。皆さんの支えがあってこそ今日を迎えることができましたので、まずはこの試合を開催するにあたっての多くの方の支えに深く感謝申し上げます。清水建設江東ブルーシャークス(以下、江東BS)の皆さんにまずは、『おめでとう』とお伝えしたいです。
試合のほうは、われわれのほうで良い面も悪い面もあったと思います。その中で今日は風がとても強く、ボールの転がりが江東BSさんに傾いた部分もありました。そういった部分が勝負のアヤとなった部分はあると思います。良い部分、悪い部分がともに出た試合だったと思うので、われわれはしっかりと次のゲームに向けて改善して、良い準備をして次の花園近鉄ライナーズ(以下、花園L)戦に臨んで、われわれらしいエキサイティングなラグビーをしていきたいと思っています」
──1点差という接戦でした。ミスや昨季はあまり見かけなかったオブストラクションのペナルティが多かった印象ですが、その部分を振り返っていかがですか?
「新しくルールが変わった部分もあって、ペナルティを重ねる場面もありました。われわれにも前半早々にゴール前でのチャンスもありましたし、前半終盤にもチャンスがありましたが、そこでうまくプレーできずに22mラインを相手側に入ったゾーンから押し戻されるような形もありました。決定力をしっかりもう一度見直して、チャンスのときはトライや得点を取って帰る。相手のチャンスのときは粘り強くボールを取り返すというところをもう一度全員がクリアにして、次の花園L戦に臨むことが大事だと思っています。
ご質問のとおりペナルティに関しても、そういうペナルティがなぜ起こるのか原因をクリアにして次の試合に臨みたいと思います。戦っているメンバーが一番悔しさもあるし、『自分たちの力を出し切ったら勝てていた』という思いを感じた試合だったと思います。選手たちが力を出し切れなかったのは私の責任だと思っています。みんなが力を出せるようにしっかり準備して、次の試合は選手たちが力を出し切って勝って、全員で笑って終われるように準備をしていきたいと思います」
──グラウンドレベルでは風向きや風の強さが常に変化しているような感じもしましたが、風に対してどんな指示をされましたか?
「試合前に風の流れをチェックして中鹿(駿)バイスキャプテンとも話をしました。特にメインスタンド側からパスをするときは、ボールが風に乗って速くなったり、その逆側からだとボールが揺れたりするので、キャッチの部分でしっかり距離感をコントロールすることなどを話しました。そういう対策はできたと思うのですが、実際に試合をやってみたら、風の一瞬の強さや変化は、予想していたよりもコントロールがしづらかった面が両チームともあったと思います。ダイレクトでボールを取りに行けずにバウンドさせてからの処理になってしまうなど、多少のミスはありました。『小さなコミュニケーションが今日はゲームの流れをつかんでいく』と試合前にも話して、『もうちょっとここはこうしたら良い』といった小さなコミュニケーションの言葉を積み重ねてチームがつながり続け、自分たちのやるべきことを明確にするということが大事だと思っています。それができている場面も多かったと思います。
ただ、常に練習から小さなコミュニケーションをつなげてクリアにプレーしていくということが、こういった条件の試合ではより大事になると思います」
──群馬県での試合でした。太田市運動公園陸上競技場に対しての印象についてお願いします。
「太田市運動公園陸上競技場は、埼玉パナソニックワイルドナイツさんが元々使っていて、ホストチームがなかなか負けないというような素晴らしい伝説のあるスタジアムだと思っています。われわれもこのスタジアムで良いスタートを切りたかったです。でも、われわれの目指す『見ている人もプレーしている人もワクワクするエキサイティングなラグビー』は随所に見せられたと思いますので、次回このスタジアムで試合をするときは、80分間エキサイティングなラグビーをできるようにしたいですね。群馬県の皆さんにラグビーの楽しさや、われわれの姿勢を見て何か感じてもらえるようなゲームを引き続きやっていきたいと思います。
われわれもホストゲームとして扱わせていただく機会がこれからもありますので、ぜひグラウンドに足を運んでもらって、日野レッドドルフィンズの試合を見に来ていただければと思っています」
日野レッドドルフィンズ
中鹿駿バイスキャプテン
「まずは開催にあたって、群馬県の皆さんはじめ関係の皆さまに感謝を申し上げたいと思います。今日の試合は、そもそも自分たちにとっても風が強いなどいろいろな要因がありましたけど、なかなか流れに乗れず、展開を自分たちのほうにもってくることができませんでした。江東BSさんは昨季と変わらずどこからでもアタックしてきて、フィールドを全部使うようなアタックをされて自分たちもディフェンスしにくい部分がありましたし、プレッシャーを受け続けていました。強かったという印象でした。次の試合ではもっと流れを自分たちのものにできるように、これからの1週間みんなで取り組んでいきたいと思います。開幕戦でのホストゲームで自分たちの力が出し切れなかった、完全燃焼し切れなかったのが何よりも悔しかったです。次の試合では自分たちの力を100%出し切ってもっと流れを自分たちのものにできるように、これからの1週間、みんなで取り組んで、次の試合に臨みたいと思います」
──後半の一つ目のトライは中鹿選手からの突破でした。そのプレーについて振り返りをお願いします。
「後半1本目のエイジェイ・ウルフのトライにつなげたシーンは、後半に入ってディフェンスが多く自陣でずっとプレーしていたのですが、ひさびさに敵陣に入った局面でローリー・アーノルドも走り込む中、彼がパスをくれたとおりにもうそのスペースに走り込んでいこうと考えていて、うまく走り込んでそれが結果的に良いトライにつながったと思います。トライの前はずっと『我慢、我慢』とみんなに言い続けるくらい守りの時間が続いていたのですが、トライが取れ、エキサイティングなプレーを少しは見せられたのかなとも思います」
清水建設江東ブルーシャークス
清水建設江東ブルーシャークス
仁木啓裕監督兼チームディレクター
「はじめに、日野レッドドルフィンズ(以下、日野RD)さんの皆さま、群馬県協会の皆さま、開催にあたりご尽力してくださった皆さま、本当にありがとうございました。素晴らしい環境でプレーさせていただきました。
本当に風の強い試合でしたし、なかなかどちらに転ぶか分からない試合だったのですが、今季に向けて『気持ち、気持ち』と言い続けてきましたので、最後はその差が1点差での勝利という形で表れたかなというふうに思っています」
──1点差の接戦をものにしましたが、初戦で勝てたということに関してはいかがでしょうか。
「初戦と言いながらも、われわれはディビジョン3から昇格してきたチームで、今季は最下位からのスタートだと思っているので、もう一戦一戦が勝負です。まず今季の14分の1を勝ったというところだと思っています。昨季、日野RDさんに開幕戦で負け、そこで若干チームとしてガタガタっとする部分があり、そこから修正まで時間かかってしまい、前半戦はとても苦戦したという思いもあったので、今日は勝てて良かったと思います。反省すべき内容もしっかりあると思いますし、勝った上で反省できる状況であることは本当に素晴らしいことと考えています。
今日出場したメンバーだけでシーズンを終えることは絶対にないので、今日試合に出られなかった選手はこういう熱い試合を見て何かしら感じてもらえたと思います。『ブルーシャークスは本当にいつも総力戦だ』と常に言っていますし、誰が出ても同じプレーをしてくれると思っていますので、今日勝てたというのはまず14分の1を取って勝ったというところだと思います」
──前半からしっかり自分たちのペースで入れた印象ですが、ディシプリンやチームのまとまりについてはどう感じましたか?
「試合を始める前に、『意識なくゲームに入るのはもうやめよう』、『気持ちを集中して試合に入ろう』という話をさせてもらって、選手はしっかり遂行してくれたというふうに思っています。ただやはりミスからペナルティをして、陣地を奪われて失点につながるというケースがあったので、そこに関しての改善は絶対にしていかなければならないと思っています」
──風への対応はどんな指示をしていましたか。
「指示というよりは、15番にコンラッド・バンワイク、10番にリマ・ソポアンガと経験豊かな選手がいたので、彼らはこういう風の強いゲームもたぶん何百試合と経験してきているでしょうから、基本的にゲームプランは信頼して彼らに任せました。ヘッドコーチである吉廣広征にも任せたところをしっかり彼らは意気に感じて対応してくれたのかなというふうに思います」
──群馬県で試合をすることは少ないと思いますが、率直に群馬の環境はいかがですか?
「となりにアリーナがあって、バスケットボールの試合観戦の方々も多くいました。そしてラグビーの試合もあって、本当にスポーツで多くの人が集まる場所なんだなというふうに思っています。当社、清水建設は全国都道府県に営業所や支店が存在しています。今回も群馬営業所の方々が応援に来てくださったので、非常に心強かったです」
──粘り強く競り勝てた試合の中で、どこが良かったか教えてください。
「冒頭にも言いましたとおり、気持ちの差かなというふうに思いました。夏から江東BSを指導させていただく中、今季のスタッフ、人に関しては、手前味噌になりますけれども、本当に素晴らしいスタッフだと思っています。そのスタッフが作ってくれたラグビーを遂行するために必要なのは、われわれがラグビーを始めたときにおそらく全員が言われている言葉……、いわゆる気持ちだったり、低さだったり、というところがカギになるのではないかという話を試合前にもして、もうそこの差かな、と率直に思いました」
清水建設江東ブルーシャークス
白子雄太郎キャプテン
「日野RDさんからのプレッシャーを受けて、何回かペナルティをしてしまい自陣に抑えられてしまう時間がありましたし、攻めあぐねた結果、点数を取れずに自陣に戻される展開も多く苦しい時間帯が続いたのですが、最後のギリギリで勝つことができて良かったと思っています。
試合の最後に1点差とされて守り切る展開になりましたが、そこでペナルティをしなかったところがすごく大きかったと思います。今まではそこでペナルティをしてしまい、自陣に入られてのペナルティゴールや、プレッシャーを掛けられての失点というケースが多かったですが、今日は『ディシプリン、ディシプリン』とメンバー同士で言い合ってコミュニケーションを掛け合い、連係して守り切れたことがまた一つ成長できたところだと思います。率直に言えば、勝ちでスタートを切れたことは選手としてうれしいです。ただ、できなかった部分も多かったので、年内にまだホストゲームがあるのでしっかり修正し勝利して今年を終われるように準備を進めていきたいと思います。
前回D2で戦ったときよりも選手としてはすごく強度が高くなっているというか、ラグビーのレベルが上がっているな、ということはとても感じています。昨季のD3でも勝つことは容易ではなかったですし、常に自分たちも進化が求められています。シーズンごとではなく、毎試合ごとに成長していくということがすごく大事だと思っていますので、引き続きそこは追い求めていきたいと思います。勝敗の価値もすごく大事なのですが、『自分たちが前回より良くなれているか、成長できているか』ということにわれわれはフォーカスしているので、結果に一喜一憂することなく、これから格上のチームとの対戦もありますが星勘定はせずに、一戦一戦大事に自分たちの準備と『自分たちが成長できているか』にフォーカスして積み上げていけたらと思っています」