2025.05.25NTTリーグワン2024-25 D1/D2入替戦[D1 12位 vs D2 1位]第1戦レポート(S愛知 43-42 浦安DR)

NTTジャパンラグビー リーグワン2024-25
D1/D2入替戦[D1 12位 vs D2 1位]第1戦
2025年5月24日(土)12:00 ウェーブスタジアム刈谷 (愛知県)
豊田自動織機シャトルズ愛知 43-42 浦安D-Rocks


28点ビハインドから、ラストプレーで劇的な逆転勝利。ドラマを完結させた司令塔の右足

激戦を制して1点差で勝利をもぎとった豊田自動織機シャトルズ愛知。ディビジョン1昇格の可能性がみえてきた

28点差を覆しての逆転劇。豊田自動織機シャトルズ愛知(以下、S愛知)の歴史に、新たな1ページが刻まれた。

曇天模様で始まったD1/D2入替戦の第1戦。ディビジョン2首位のS愛知が、ウェーブスタジアム刈谷にD1で12位の浦安D-Rocks(以下、浦安DR)を迎えた。

試合開始から攻勢を掛けたのは浦安DR。前半13分までに4トライを奪い、28対0とロケットスタートを決めた。S愛知は、いきなり苦境に立たされた。

今季のS愛知は、一度流れが相手に渡ると、それを取り戻すのに苦労していた。第10節の九州電力キューデンヴォルテクス戦では逆転勝利を収めたものの、ビハインドを背負った状況はもちろん、リードしている時間帯でも、劣勢に陥るとなかなか勢いに点火できない。ミスがミスを呼び、ペナルティが増えてしまうことが、明白な課題としてあった。

ただ、このまま引き下がることはできない。ここは自分たちの未来を決める入替戦の舞台。共同キャプテンを務めるジェームズ・ガスケルは「ポジティブなアクションを起こそう」とチームに団結を呼び掛けた。これまで積み上げてきたものに、疑いの余地はなかった。

「焦らずに、自分たちのタスクに戻ってプレーできた」と大山卓真が話すように、徐々にS愛知は本来の姿を取り戻す。これまで磨き上げてきたスクラムでペナルティを誘うと、これで勢いに乗ったプロップの高橋信之が二度のスティール(ジャッカル)を決めてみせた。今季ブレイクを果たした26歳が、流れを手繰り寄せた。

齊藤大朗が執念のトライで反撃の狼煙を上げると、そのあとにも2トライが生まれ、19対28で前半を折り返す。

後半に入ると、雨が強く降り出した。それでも、S愛知の勢いはとどまることを知らない。後半13分、フレディー・バーンズのペナルティゴールでついに逆転。その後はシーソーゲームの展開となり、息が詰まるほどの熱戦が繰り広げられた。

36対42で迎えた後半40分。ホーンが鳴り響いたとき、楕円球はS愛知の手の中にあった。トライライン5m手前で迎えたマイボールラインアウトからの攻撃。激しいぶつかり合いでペナルティアドバンテージを得ると、バーンズのキックパスを呼び込んだのは齊藤。大外に飛び込み、トライを奪った。

41対42。最後のコンバージョンキックが決まれば、勝利。すべてはこれまで数々のドラマを生み出してきた、バーンズに託された。

時間をいっぱいに使い、右足を振り抜く。S愛知に関わるすべての人の思いを乗せたボールは、放物線を描きながら、ポストの間を通過した。

「大事なのは、自分とチームを信じること。そして、自分に自信をもつことです」(バーンズ)

取られたら取り返せばいい。口にするのは簡単だが、その言葉の裏には、並々ならぬ努力、入念な準備、強い信念が必要だ。そのすべてを体現したS愛知。目指してきた場所まで、あと一歩だ。

(齋藤弦)

豊田自動織機シャトルズ愛知(D2)

豊田自動織機シャトルズ愛知の徳野洋一ヘッドコーチ(右)、ジェームズ・ガスケル共同キャプテン

豊田自動織機シャトルズ愛知
徳野洋一ヘッドコーチ

「入替戦1戦目ということ、そして今季最後のホストゲームという中で、天候には恵まれませんでしたが、多くのファンの方々に応援いただきました。浦安D-Rocks(以下、浦安DR)のファンの方々も来て応援していただいた中で、素晴らしい環境でラグビーができたこと、チームを代表して御礼申し上げます。ありがとうございました。

入替戦は内容よりも結果が重要だと思っていますので、そういう意味では1点上回って勝ち点4を取れたこと、その努力に選手のこれまでのプロセスがすべて詰まっていたと思いますし、選手は非常に素晴らしい努力をしてくれたと思っています。本日はありがとうございました」

──本日の試合に臨むにあたって、自信があった部分はどんなところでしょうか。

「まず、浦安DRというチームはディビジョン1で最下位という順位ではありますが、個々のキャラクターを見たら、世界的なスーパースターも多いですし、日本代表経験者も非常に多くいる中で、決して弱いチームじゃないと受け止めています。われわれとしては、その個人の部分で勝負をしても勝ち目がないということは、このチームをスタートする当初から分かっていた話ですので、われわれのやり方で、彼らの個の高いインテンシティーをチームとしてどのように覆していくのかをしっかりプランニングして準備していました。相手の個に対してどうプレッシャーを自分たちが掛けるのか。そういった準備がうまくいった結果だと思います」

──0対28になった瞬間は正直にどう思っていましたか。

「開始約10分間で4トライを失った部分で、取られ方は浦安DRさんの個人に崩されたと捉えていました。その部分は浦安DRさんがわれわれよりも優れている部分だということは分かっていましたので、その部分でうまくやられたなという印象です。ただ、ある程度そういうプレッシャーを受けることは想定済みではあったので、自分たちの形を徐々に80分間の中で出せれば、この28点差は追い付いていけるという手ごたえはありました。点差こそ開きましたが、やられ方が想定内だったことで、まずは自分たちのやるべきスタイルをしっかりやること。そこがしっかりできれば、こういうゲームにもっていける自信があったので、私はさほどインパクトはなかったです。ただ、観客席がどんよりしていたので、スタンドにいる私たちは鋭い視線を感じていました(笑)。すごく居心地が悪かったです(笑)」

豊田自動織機シャトルズ愛知
ジェームズ・ガスケル共同キャプテン

「本当に多くのファンの方々が来てくれたことに感謝しています。勝ったことはうれしいですが、この試合から学ぶことがたくさんありました。まずはしっかり休んで、月曜日からまた頑張っていこうと思います」

──劣勢の中でスクラムから状況を好転させていきましたが、スクラムの手ごたえはいかがでしょうか。

「試合開始直後からプレッシャーの中で戦ってきました。何か一つでもポジティブなアクションを起こさないといけないと思っていましたが、2週間前の花園近鉄ライナーズ戦でも、フロントローはプレッシャーがある中で戦ってくれていたので、まずスクラムで有利になったことが大きかったと思います。あまり一人を選んで称えることはしないですけど、それでもノブ(高橋信之)がすごく頑張ってくれました。スクラムでも大きな力をもたらしてくれましたし、スティール(ジャッカル)でペナルティを誘ったので、自分たちに力を与えてくれました」

──0対28になった瞬間は正直にどう思っていましたか。

「『長い日になるな』と思っていました。そこからはさっきも言ったように、ポジティブなアクションを一つ作ることができれば良いというようなところから、チームとして固まっていきました。ポジティブなアクションが生まれてからはみんなリラックスしてやっていけたと思います」

──ロッカールームから出てくるときに、選手たちのご家族が花道を作って声援を送っていました。どなたが発案されたのでしょうか。

「私のアイディアです。家族は世界の中で一番大事な存在だと思っています。家族は犠牲を払ってさまざまなサポートをしてくれています。花道を作ってもらって子供の笑顔を見られたことがうれしかったですし、このような結果で終わって、みんなの笑顔が見られたこともうれしかったです」

浦安D-Rocks(D1)

浦安D-Rocksのグレイグ・レイドロー ヘッドコーチ(右)、藤村琉士ゲームキャプテン

浦安D-Rocks
グレイグ・レイドロー ヘッドコーチ

「この結果は、自分たちのパフォーマンスの悪さに付随するものだと思います」

──13分で4トライを奪うことができましたが、要因はどうお考えですか。

「当たり前のことをしっかりできていたと思います。そのあとは、ラグビーの仕方を忘れてしまったように見えました」

──その後、流れを失ってしまいました。どんな原因があったのでしょうか。

「スキルエラーや規律の部分で、どうすればいいのか忘れてしまったような振る舞いでした。選手たちが個々でバラバラにプレーしていました」

──濱野隼也選手と坂和樹選手が今季初出場でした。起用の意図を教えてください。

「けが人が出たこともあり、彼らにチャンスが訪れました」

浦安D-Rocks
藤村琉士ゲームキャプテン

「(グレイグ・レイドロー)ヘッドコーチの言うとおりです。単純に、自分たちのパフォーマンスが悪かったと思います」

──第2戦に向けて、どういった姿勢でカムバックしていきたいとお考えですか。

「一人ひとりがフィジカルを出して、規律を守ることが大事だと思います。弱い気持ちで挑んだら負けるので、強い気持ちでつぶすだけです」

──ミスやペナルティが増えたときにチームではどのようなことが起きていたのでしょうか。

「スキルエラーやペナルティが続いてしまったので、『落ち着こう』と口では言っていたものの、ボールが手に付かない時間が多かったです」

──D2のチームの強度や昨季対戦したときとの違いは感じましたか。

「豊田自動織機シャトルズ愛知さんも強いですが、自分たちがしっかりフィジカルを出していけば、苦しい試合にはならなかったと思います」

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