クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(D1 カンファレンスB)

一に準備、二に準備。“人のために”走り続ける杉本博昭は、転ぶたびに立ち上がる

あきらめたら、そこですべては終わってしまう。もしかしたら、そうしてしまったほうがラクになれるのかもしれない。しかし、まだまだ戦い続けなければならない理由がある。

杉本博昭、33歳。クボタスピアーズ船橋・東京ベイの最年長日本人選手で、昨季プレーオフトーナメント準決勝でチーム100キャップを達成したベテランである。プロキャリアは今年で13年目を数える。

今季、杉本はスタートダッシュをかけそこねた。プレシーズンマッチ開幕直前に体調不良で離脱。練習に合流するもけがを負い、回復に向かう段階でそのけがが再発。転んだその位置から立ち上がって、元いた場所にまで戻る。それは年齢を重ねるにつれて、肉体的にも精神的にも大きな労力を強いられる作業となる。

「だから、人一倍、準備をするようにしています。これは昔からそうなのですが、(練習日は)グラウンドで100%のパフォーマンスを発揮するために、クラブハウスに最初に入って、しっかりと準備をするのが僕のルーティンになっています」

いまの自分がやるべきことを把握して、しっかりと実践していく。杉本の行動理念は実にシンプルなものだ。そして、戦線復帰のときはやや唐突に訪れた。

今季第3節の花園近鉄ライナーズ戦。杉本は急きょ、リザーブメンバーに名を連ねた。練習に復帰してまだ2週目。試合勘が鈍り、思い描いていたプレーが実践できない。チームは快勝を収めたものの、試合後の杉本は一人、唇をかみしめた。

思えば、杉本のラグビー人生は逆境からのスタートだった。クボタスピアーズ船橋・東京ベイに入団した2011年、チームはトップイーストに降格。13年、3シーズンぶりにトップリーグ復帰を果たすも、そのタイミングでアキレス腱を断裂。魂が砕け、ラグビーを投げ出したくもなった。だが、そのたびに自分を鼓舞してくれたのが家族、チームメイト、同期、そしてファンの声。杉本に、戦い続ける理由ができた。

「いまの僕があるのはみなさんのおかげです。これまで僕を指導してくれた人たち、応援してくれた人たちのためにラグビーを頑張る。それが僕のモチベーションです。だからこそ、準備は疎かにできません。俺のラグビー人生はこれで終わっていいのかと、そう思いながら続けています」

いまの自分がやるべきこと。そして、支えてくれた誰かのためにできること。今節、ホストゲームでのNECグリーンロケッツ東葛戦でもリザーブに入った。杉本は再びフィールドに向かう。

(藤本かずまさ)

13年目のシーズンを迎えているクボタスピアーズ船橋・東京ベイの杉本博昭選手

NECグリーンロケッツ東葛(D1 カンファレンスB)

リーグ戦通算100キャップも「縁の下の力持ち」は不変。土井貴弘は感謝を胸に勝利でメモリアルマッチに花を添える

2連敗中のNECグリーンロケッツ東葛だが、東京サントリーサンゴリアス戦も、コベルコ神戸スティーラーズ戦も「チームは戦えている」という感覚を多くの選手がつかんでいる。その手ごたえがあるからこそ、1月14日に江戸川区陸上競技場で行われるクボタスピアーズ船橋・東京ベイ戦では連敗を食い止めたい。

今節の大きなトピックのひとつは、土井貴弘のトップリーグとリーグワンの「リーグ戦100キャップ」達成である。2009年の入団以来、今季は土井にとって14年目のシーズン。いまの心境を問われた土井が真っ先に口にしたのは「1年目から14年目まで関わっていただいたいろいろな人に支えられて、みなさんのおかげでここまで来ることができました」と感謝の言葉だった。100キャップを迎える試合前にしても、彼はあくまで“不変”を貫く。

「けがで1年を棒に振ったシーズンもあって、14年目で100試合は恥ずかしいんですけど、自分なりに毎試合毎試合しっかり準備をして、自分の役割を果たすことを考えてここまできました。クボタスピアーズ船橋・東京ベイ戦でも、自分の求められている仕事をしっかりやって、チームに貢献することしか考えていません」

若い選手の多いNECグリーンロケッツ東葛にとっては、土井がここまで積み上げてきた経験値は大きな財産でもある。若い選手は成長のために、これまでチームを支えてきた土井の背中から何を学ぶか。土井自身は「毎試合毎試合緊張していて余裕がないんですけど…」と謙遜しながらも、「開幕の花園近鉄ライナーズ戦では菊田(圭佑)が先発しましたし、チームには若い選手が多いので、スクラムのところではもっと若い選手にアドバイスをしていかなければいけないと思います」と成長過程にあるチームの飛躍を見据えて、自らにタスクを課した。

今節は、開幕3試合でリーグ最多の135得点を叩き出しているクボタスピアーズ船橋・東京ベイが相手となる。土井は相手の強力フォワード陣をいかに抑えるかを警戒ポイントに挙げた。

「クボタスピアーズ船橋・東京ベイのフォワードは僕らよりも大きいため、しっかり低く、相手よりも高くならないことにフォーカスして戦っていきたいです。NECグリーンロケッツ東葛も戦えるところを見せて、自分の仕事をしっかりやって勝てればいいと思います。縁の下の力持ちとして、しっかりチームを支えたいと思います」

この「縁の下の力持ち」という言葉どおり、14年にもわたりNECグリーンロケッツ東葛を支えてきた男が迎える100キャップ達成の試合。メモリアルマッチに花を添え、3試合ぶりの勝利を手にするためにも、チームは一丸となって戦う。

(鈴木潤)

NECグリーンロケッツ東葛の土井貴弘選手(先頭)。14日の試合では3番で先発出場予定

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