2024.12.17[入替戦で分かれた明暗]浦安D-Rocks & 花園近鉄ライナーズ 「希望に満ちたそれぞれの再出発」
URAYASU D-Rocks
HANAZONO KINTETSU LINERS
昨季のD1↔D2の入替戦での逆転劇を経て、D-Rocksとライナーズは戦いのステージを変えて今季の開幕を迎えることになった。明暗分かれた両チームの再出発への決意を、双方のHCが力強く語る。
生島淳=文
text by Jun Ikushima
2024年5月24日に行われたリーグワンの入替戦第2節。浦安D−Rocksと花園近鉄ライナーズの運命が分かれた。
第1節はD−Rocksが21−12で勝利。ライナーズ側から見れば、第2節で10点差以上をつけて勝たなければディビジョン1(D1)に残留できない。ライナーズは試合開始から果敢に攻め、後半16分までに23−11とリードする。残留可能な点差だった。しかし、ここからD−Rocksが反撃。後半27分に、途中交代で入った竹内柊平のチャージから逆転、最終的には35−30で勝ち、D1昇格を決めた。
今季からヘッドコーチに就任したグレイグ・レイドロー(入替戦当時はコーチ)は、こう振り返る。
「初戦に勝ったことで、前半はプレーに保守的な面が見られました。しかし、後半は選手たちが積極的にプレーしてくれました。最高にハッピーな後半でしたし、チーム一丸になってD1昇格を果たせたこと、これにまさる喜びはありませんでしたよ」
一方、逆転を喫したライナーズの向井昭吾HCは、受け入れがたい敗戦を前にして、自らの指導を顧みていた。
「みんなを信じていました。必ず勝ってくれるだろうと。終わってみると、私自身の覚悟と徹底が足りなかった。そう思いました」
12月21日に開幕するリーグワンの新シーズン、こうしてD−RocksはD1、ライナーズはD2で戦うことになった。昨季の結果を受け、ふたりのヘッドコーチは、どんなプランを描いているのだろうか。向井HCは、こう話す。
「ライナーズには、オーストラリア代表経験を持つSHのウィル・ゲニア、SOのクウェイド・クーパーというふたりの大黒柱がいます。周りの選手からすれば、ふたりは世界的なビッグネームですから、『彼らのプレー選択に間違いはないだろう』という先入観があった気がします。それが昨季の反省点のひとつ。その結果として、周りの選手たちからの声が少なくなっていた。今季はチームとして〝声〟を大切にしていきたいと思っています」
ラグビーはコミュニケーションのスポーツだ。ライナーズの面々からたくさんの声が生まれるよう、向井HCは練習だけでなく、食事会や何気ない日常からも、選手同士が話す機会を増やしている。
今季のチームスローガンは「All Attack」。
ボールを保持しているときだけでなく、ディフェンスでも相手にアタックする意識を徹底していこうと向井HCは選手たちに話している。メンバーを見ると、今季はニュージーランド代表として21キャップを持つNO8のアキラ・イオアネが加入し、アタックのオプションが増えた。
「昨季までは、NO8がスクラムサイドの突破を図るようなプレーが少なかったんです。イオアネは推進力をもたらしてくれています。もちろん、彼に頼るのではなく、チーム全員が10%、実力を上積みしていく意識を持つ。これが大切です」
リーグワンに風穴を開ける
北半球のラグビー。
一方、D1の強豪と戦うことになるレイドローHCは、「ポジティブなラグビーをお見せしたい」と抱負を語る。
「観客のみなさんが、見ていて心を奪われるような、ワクワクするラグビーをお見せしたいですね。D−RocksはD1の他のチームと比べれば体格的には小さいかもしれない。だからこそ、賢くプレーし、面白いラグビーにつなげていきたいのです」
レイドローHCはスコットランド出身。リーグワンには南半球出身の指導者が多いが、北半球で育ったコーチとして「風味」の違うラグビーを見せてくれるのではないか、という期待がある。
「たしかに北半球には『ディフェンスを制する者が王者になる』という格言があります。D1には昨季王者のブレイブルーパスを筆頭に攻撃力のあるチームがたくさんあります。防御網を整備するのを基軸にしつつ、トライを取り切る場面では全員の集中力を高めていこうと思います」
賢いラグビーを進めるうえで、期待しているのは誰か? と質問すると……。
「ヘッドコーチの私としては、みんなに活躍してもらわないと困りますよ(笑)。それでも、ツイヘンドリックは経験も豊富ですし、突破力に期待しています。日本代表の活動に参加しているPRの竹内柊平は技術に磨きがかかっていて、彼の成長ぶりを誇りに思います。それに、キャプテンを務めるSHの飯沼蓮はリズミカルなアタックを演出してくれるはずです」
12月の開幕に向け、両チームともに着々と整備は進んでいる。入替戦では明暗が分かれたが、新しいステージに対する思いの強さは一緒だ。ライナーズの向井HCはいう。
「もう、昨季のような思いはしたくありません。今季はD1に上がりたいという思いで全員の気持ちは一致していますから、チームの方向性を示しやすい。D2で圧倒的に勝ち、それを未来のD1での強さにつなげていく。それだけです。それに今季勝ち切らなければ、私の居場所はなくなりますから」
背水の陣。そんな言葉も思い浮かぶ。
一方、レイドローHCは新しいシーズンの到来が楽しみで仕方がないという。
「D1でのプレー、これはもう、ワクワクが止まりませんよ。選手たちにとって、ラグビーは結果を出さなければならない仕事ですが、毎日、練習場にはワクワクしながらやってきて欲しい。私はそういうチームづくりを目指しています。そしてこのワクワクする感じを、ファンのみなさんと共有していきたい。そんなラグビーを展開できたらうれしいですね」
希望が両チームを満たしている。その思いをピッチの上で表現できるかどうか。ふたりのヘッドコーチの舵取りが始まる。