NTTジャパンラグビー リーグワン 2024-25
ディビジョン1 第1節(リーグ戦) カンファレンスA
2024年12月22日(日)15:05 日産スタジアム (神奈川県)
横浜キヤノンイーグルス 21-28 東芝ブレイブルーパス東京
緊張、チャージ、そして突き放す。
世界的名手が見せた「勝ちたいという気持ち」
日産スタジアムでの開幕戦は、昨季の王者・東芝ブレイブルーパス東京(以下、BL東京)が貫禄の逆転勝ち。大接戦の末、昨季の4位・横浜キヤノンイーグルス(以下、横浜E)の挑戦を退けた。
さすがのスーパースターも、リーグワンの開幕戦を前に緊張の色が隠せなかった。
「もちろん緊張していました。お腹がちょっと痛くなるぐらいに」とBL東京のリッチー・モウンガ。幾多の修羅場を乗り越えてきた世界的名手も“人の子”だった。
それでも、試合が始まれば、リッチー・モウンガはスーパースターの実力を存分に発揮した。0対16からの逆転を信じて戦ったBL東京は、前半終了間際の初トライを機に反撃の機運を高めると、後半15分にリッチー・モウンガのトライで逆転に成功。直後のコンバージョンキックも決めた。
ところが、突き放しても追いすがる横浜Eは後半23分、ヴィリアメ・タカヤワが左の大外でトライを奪取。これでスコアは21対21と、両者は一歩も譲らなかった。
田村優のコンバージョンキックが決まれば、横浜Eの勝ち越し──。最大のピンチにリッチー・モウンガが立ち上がった。キックモーションに入った田村に対し、リッチー・モウンガは少しでもキックの精度を狂わせようと果敢にチャージをしかけた結果、田村のキックがゴールの枠を外れた。
「勝ちたいという気持ちの一心でチャージを掛けに行きました。プレシーズンの時期に横浜Eと戦ったときも、キッカーはけっこう時間を取ってゆっくり蹴るタイプの選手だったので、絶好のチャンスかなとプレッシャーを掛けに行きました」
点差をつけられても、決して勝負は捨てない。リッチー・モウンガの機転でピンチを乗り越えたBL東京は後半30分に眞野泰地のトライで突き放すと、リッチー・モウンガがコンバージョンキックも決めて熱戦に決着を付けた。
「追い掛ける状況において大事なのは、何か特別なことをしようとするよりは、目の前のことを一つずつ信じてやるしかない」。モウンガ流の持論とポリシーが導いた逆転劇に、横浜Eの田村は「勝負どころで相手が1枚も2枚も上手だった」と脱帽していた。
なお殊勲のリッチー・モウンガは、ロサンゼルス・ドジャースのキャップを被って取材エリアに登場。その理由を聞かれた彼は冗談混じりにこう応えている。
「ショウヘイ・オオタニ(大谷翔平)と会える方法があれば教えてください。ピッチャーの山本(由伸)選手も好きですね。(来年3月日本開幕の)プラチナチケットをください。オネガイシマス(笑)」
開幕戦のヒーローは、どこまでも饒舌だった。
(郡司聡)
横浜キヤノンイーグルス
横浜キヤノンイーグルス
沢木敬介監督
──前半から相手にプレッシャーを掛けることはできていましたが、80分をとおしてやり続けるという課題が出たと思います。シーズン序盤でまだ整理ができていないのでしょうか?
「相手との差は我慢比べにあると思います。いろいろな局面での我慢比べがラグビーにはあると思いますが、その我慢比べにわれわれは負けていたぶん、この点差につながったと思います。こういう試合を勝ち切れるようにチームが成長していかなければいけません」
──我慢比べを制するには普段の練習をどう変えていけば良いのでしょうか?
「練習と試合で同じ強度を設計できますが、メンタル的なプレッシャーに対しては、一人ひとりが意識をして取り組んでいくことで、緊迫した場面で落ち着きをもてるか。自分の感情をコントロールできるか。そういったことが必要です。それを経験という言葉にしてしまうと、とても悔しいのでそうは言いませんが、勝負の肝はそこにあると思っています。ただ、まだまだわれわれには伸びシロがあるということです。まだ1試合が終わった段階ですから、今後の伸びシロに期待しています」
──リッチー・モウンガ選手にトライセーブをされた場面が2回ありました。
「勝負所を分かっています。オールブラックスで経験を積んでいると思いますし、まさしく経験だと思います」
横浜キヤノンイーグルス
梶村祐介キャプテン
──後半はうまくいかなかった印象ですが、なぜでしょうか?
「うまくいかなかった原因はスコアにつなげられそうな場面でスコアにつなげられずに、相手に流れをわたしてしまいました。理由は自分たちからリズムを崩してしまい、ちょっとタイミングが合わずにズレが生まれて大きなミスにつながっていました。今後もこういう試合が続いたときは、一つのミスで局面が変わることもあると思うので、自分たちにフォーカスして修正したいです」
──前半はとてもうまくいっていた印象ですが、開幕戦に向けたテーマは何だったのでしょうか?
「前半は極力敵陣でプレーしたいという話はしてきました。自分たちはペナルティを少なくした中で、逆に相手のほうがペナルティは多く、自分たちが敵陣でプレーする機会が多かったです。またキックを使いながら敵陣でプレーできたことが大きかったです。ただ後半は真逆の展開になったことでペナルティが増え、自陣に釘付けになってしまいました。ディシプリン(規律)の部分は厳しく指摘してきましたが、徹底し切れなかったので、東芝ブレイブルーパス東京(以下、BL東京)さんのようなフィジカリティーの優れたチームと対戦する際は、無駄なペナルティを多くしてしまうと、自陣でのプレーが多くなってしまうので、修正したいです」
──良い時間帯を80分続けることに課題があるのでしょうか?
「80分の中ですべてが悪かったかと言えば決してそうではありません。良かった時間帯も多かったですし、準備をしてきたことが出せた時間帯も多かったです。ただ、ちょっとした気の緩みや気持ちがオフになってしまう時間帯があると、強度が高い相手にはスコアにつなげられてしまいます。気の緩みが出るような時間を極力減らしていく必要があると思います」
──100キャップに到達した小倉順平選手は、いつも以上に声を出しているように見えましたが?
「いつも声を出すタイプなので、今日の試合で特別に気合いが入っていたかと言われたら、ほとんど普段と変わっていなかったかもしれません」
──前半はディフェンスの機能性が素晴らしく見えましたが、全体的な手ごたえはいかがでしたか?
「自分たちのシステム的に相手のスキルにプレッシャーを掛けたいという根本的な考えがある中で、前半はそれがうまくいったと思います。ただスコアの取られ方が、あまり良くなかったです。先ほど沢木(敬介)監督も仰っていましたが、我慢強さが足りずに1フェーズ、2フェーズで簡単に取られてしまうというシーンが多かったことは、自分たちのシステムの問題ではなく、個人個人の問題なので、すぐに修正できると思います」
東芝ブレイブルーパス東京
東芝ブレイブルーパス東京
トッド・ブラックアダー ヘッドコーチ
──試合全体の印象はいかがでしょうか?
「これ以上ないくらい選手たちの奮闘を誇らしく思います。0-16という厳しい展開から選手たちはよく逆転してくれました。リーチ(マイケル)が話したようにうまく試合に適応できました。とてもタフでフィジカルな試合でした」
──逆転するために、後半に向けた課題は何だったのでしょうか?
「まずは規律面です。前半はとてもペナルティが多い中で後半に修正できたのは良かったことです。後半はブレイクダウンの面でもよく対応できたことも大きかったです」
──昨季のトップ4の相手に開幕戦で勝てたことをどのように捉えていますか?
「開幕戦のプレッシャーもありましたし、素晴らしい相手のプレッシャーに苦しむ場面もありましたが、ディフェンスセットが長く続いた中でも、規律の面からうまく修正ができました。ディフェンスセットが長く続いた時間帯に適応できたことが一番大きかったです」
──眞野泰地選手にスタメンが変更された理由の詳細と彼のパフォーマンスの評価はいかがでしょうか?
「もともとはロブ・トンプソン選手がスタメン予定でしたが、風邪をひいてしまいました。泰地はスタメンに慣れている選手ですから、ギリギリまで判断を待って、試合の24時間前に変更する決断を下しました」
──次節にはワーナー・ディアンズ選手が出場停止から戻ってきます。フッカーの原田衛選手もコンディションが戻れば、チームとしてのモメンタム(勢い)も復活するのではないでしょうか?
「良い選手がそろい、選手層が厚いのは良いことだと思いますが、われわれはそういう集団です。幸運だとは思いますが、ポジションの競争はチームにとって大事なことです。ただ、今日の試合でジャージーを着た選手たちもよく戦ってくれたと思っています。
最後に私からよろしいでしょうか。対戦相手の横浜キヤノンイーグルス(以下、横浜E)さんがとても良い試合をして下さったことに感謝しています。また、たくさんのファンの方々にお越しいただいたことで素晴らしい雰囲気になりました。良い試合ができたのも、ファンの皆さんのおかげです。そして小倉順平選手が100キャップを達成したことに対して『おめでとう』とお伝えさせて下さい。われわれのチームの池戸将太郎もファーストキャップを獲得し、とてもうれしい出来事となりました」
東芝ブレイブルーパス東京
リーチ マイケル キャプテン
──前半の苦しい展開を後半に挽回できたのは、どんな修正の効果があったのでしょうか?
「相手はアタックが優れたチームですし、プレシーズンから違った形のアタックをしかけてくるようになっていたという印象はもっていました。相手の対策はしてきましたが、田村優のうまさでちょっとしたギャップを作られましたし、開幕戦特有のプレッシャーも影響したと思います。でも、修正はできましたし、モメンタム(勢い)が出てきたことも逆転できた要因です。自陣でのペナルティが多く、リズムを作りづらい展開でしたが、最終的に立て直して勝つことができて良かったです。本当にタフなゲームでした。昨日のほかの対戦カードの結果を見ても、リーグワンは勝つのが難しくなっています。今季はタイトなリーグになると思います」
──連覇が懸かるシーズンの開幕戦に勝てたことで得られた自信はありますか?
「横浜Eさんは以前から不得手としている相手ですし、10番には優がいて、世界一の9番(ファフ・デクラーク)と13番(ジェシー・クリエル)がいます。素晴らしい日本人選手もいます。そんな横浜Eさんに勝てたことは非常に大きいです。これまでとは違ったアタックをしかけてきましたし、ディフェンスのスピードも速かった相手に勝てたことは自信につながります。勝利の喜びはとてもうれしいです。開幕戦のプレッシャーが掛かる試合でしたし、レベルアップしようという目標がある中で理想的な試合ではなかったですが、それでも勝てて良かったです」
──開幕戦のプレッシャーはあったのでしょうか?
「自分たちにのし掛かるプレッシャーや昨季の王者としてのプレッシャーもある中で、よく対応できました。自信を持って前に進むことができる大きな勝利です」
──試合の流れを読むという意味では、リッチー・モウンガ選手が素晴らしかったのではないでしょうか?
「ボールを持ったら何かをしてくれる。それが得意な選手です。また勝つためのきっかけを作れる選手です。ただそこに頼り過ぎるとあまり良くないなと正直に思います。今日はひさしぶりにバテた様子だったので、勝てて良かったです(笑)」