2025.05.26NTTリーグワン2024-25 D2/D3入替戦[D2 7位 vs D3 2位]第1戦レポート(江東BS 17-15 狭山RG)

NTTジャパンラグビー リーグワン2024-25
D2/D3入替戦[D2 7位 vs D3 2位]第1戦
2025年5月24日(土)14:30 江東区夢の島競技場 (東京都)
清水建設江東ブルーシャークス 17-15 狭山セコムラガッツ

重圧にも揺るがぬ“不動心”。期待を背負い、信頼に応えるベテランが夢の島に歓喜をもたらした

清水建設江東ブルーシャークスのコンラッド・バンワイク選手は今季、ディビジョン2のベストキッカーとなった。ペナルティゴールとコンバージョンをあわせたゴールキック成功率は85.0%

清水建設江東ブルーシャークス(以下、江東BS)は、狭山セコムラガッツをホストスタジアムである江東区夢の島競技場に迎えてD2/D3入替戦第1戦を戦った。10対15と5点を追う展開で迎えた後半39分、江東BSはフェーズを重ねながら粘り強く攻め込み、執念のトライで同点に。勝ち越しが懸かるコンバージョンゴールを託されたのは、今季ディビジョン2のベストキッカーに選ばれた、コンラッド・バンワイクだった。

誰もが息をのむ。静寂と緊張に包まれるスタジアム。その中で、バンワイクだけはいつもと変わらぬ所作でボールをセットし、ルーティンを崩さず、左足を振り抜いた。楕円球は美しい弧を描いて2本のポールの間へ吸い込まれ、スコアは17対15。江東BSが劇的な逆転勝利を手にした瞬間だった。

試合後、バンワイクにその瞬間の心境を尋ねた。

「特に緊張や不安はなかったです。練習から常に同じようなプレッシャーを意識して蹴っていますし、私はこうした大事な場面を託される立場であることも分かっています」

ラグビーがチームスポーツである一方、キックだけは唯一無二の“個人戦”だ。たった一人で背負う責任に、バンワイクは揺るがない。

「今回は蹴る直前、相手がペナルティ気味にチャージしてきたので、『これは無理だ』と判断して、いったん仕切り直しました。慌てずに、もう一度自分のプロセスに集中し直して臨んだことが功を奏して、うまく蹴ることができました」

冷静かつ緻密なルーティン。しかし、その先で込み上げる感情は、また別のものだという。

「決まった瞬間はもちろんうれしかったです。チームからどういったことを期待されているのかも知っていますし、コーチたちが『全部決めてほしい』と信じてくれていることも知っていますから。なので、どのキックも決められるようにいつも頑張っています」

今年37歳を迎えたベテランが、無邪気な笑顔を見せてくれた。次は敵地での決戦だ。静寂を切り裂くようなキックに、もう一度夢が託されている。

(奥田明日美)

清水建設江東ブルーシャークス(D2)

清水建設江東ブルーシャークスの仁木啓裕監督兼チームディレクター(左)、立川直道ゲームキャプテン

清水建設江東ブルーシャークス
仁木啓裕監督兼チームディレクター

「まず初めに、開催にあたりご尽力いただきました関係者のみなさん、本当にありがとうございました。また夢の島でようやく勝つことができ、ほっとしています。しかし、内容的にはただ勝っただけという2点差の展開で、本当に狭山セコムラガッツ(以下、狭山RG)の素晴らしいラグビーに対して、ディフェンスに回ってしまった結果かなと思っています。ただ、2点差で勝って反省ができるということで次につながったかなと思います。何がなんでもディビジョン2に残留することを目標にして、来週1週間を掛けて反省しながら過ごしていきたいなと思います。本日はありがとうございました」

──もともとのゲームプランと、うまくいったポイント、うまくいかなかったポイントを教えてください。

「想定外は、となりにいる立川(直道)が早い時間帯でグラウンドから去ったことです。ただ、その後、田森(海音)がしっかりラインアウトも含めて(要所を)押さえてくれましたので、ここは本当に田森の成長につながったとプラスに捉えられればと思っています。用意してきたプレーというよりは、狭山RGのひた向きなディフェンスに対してわれわれが受けてしまって、駒がなくなったという状況だったと思っています。われわれも全体をとおして、たぶんエリアはほとんど取れたと思いますので、そこは評価するところかなと思っています。次負けてしまったら意味がないので、必ずD2に残るために、今日出た反省をしっかりチーム全員で受け止めて、1週間を過ごしたいなと思います」

──ハーフタイムではどのような声を掛けたのでしょうか。

「『先手必勝』というのは昨季D3のころから選手たちに言い続けてきた言葉です。やや受けに回っていた印象があったので、まだまだ走れる顔をしていた安達航洋には『自分が引っ張れ。一歩、二歩と前に出てディフェンスしろ』と声を掛けました。あとはコミュニケーションを取ること、チームプレーとして選手全員で反応しましょうということ。そして『誰かがやってくれる』という意識を捨てて、『自分がやるんだ』という気持ちをもつよう伝えました。この3点を中心に、後半への意識付けを行いました」

──ビジターでの第2戦に向けて、どのような準備をしていきたいですか。

「これまで積み上げてきたものを信じて戦うだけです。いまさら特別なプレーを準備する必要はありません。われわれはD2で1年間戦ってきたという自負がありますし、受けに回ればD3から昇格を狙う狭山RGさんの勢いにのまれてしまう。大事なのはメンタリティー。気持ちの部分です。この1週間はそこにフォーカスして、来週の試合にピークをもっていければいいのかなと思っています」

──レギュラーシーズン最終戦とその1節前の試合は、終了間際で点を取られて勝ち切れませんでしたが、今回は逆転で勝利しました。何が変わったのでしょうか。

「今日の試合に関してだけ言えば、意地だったんじゃないかなと思います。D2で花園近鉄ライナーズにも勝利して、全員で上位でも戦えるという認識はしていたはずなので、もうここは意地だと思います。もう意地で取り切ったトライで、クーニー(コンラッド・バンワイク)もコンバージョンを入れてくれました。クーニーには本当に感謝です」

──次の試合への意気込みをお願いします。

「今日みたいな祈るような試合はイヤなので、しっかり前半から受けずに、一歩でも二歩でも前に出て勇敢に戦ってほしいなと思いますし、戦う準備をしたいなと思っています。やはり気持ちの部分は見ていたら伝わるものだと思っていますし、観客の方にはそういった気持ちを見に来ていただいていると思っています。なので、そういった気持ちを見せる場はもう来週しかないので、今季はそういった気持ちをしっかりブルーシャークスで見てもらって、『D1に昇格できるんじゃないか』と思ってもらえるようなプレーをしっかりしたいと思っています」

清水建設江東ブルーシャークス
立川直道ゲームキャプテン

「私もこの試合の開催にあたってご尽力いただいた関係者の方々にまずは感謝を申し上げたいと思います。入替戦という形だったので、急きょ試合開催が決まったと思うんですけど、本当に素晴らしい環境を用意していただいたと思っています。試合内容は入替戦というプレッシャーがあり、狭山RGの強い気持ちをかなり受けてしまったところはあったんですけども、内容はどうであれ最終的に勝ち切れたことは、チームの成長を実感できる試合だったかなと思います」

──前節から少し時間が空いた中でラインアウトがかなり安定したと思います。どの点を改善しましたか。

「まず大前提として、ラインアウトに関わる一人ひとりが、自分の役割を100%やり切ることを徹底しました。ラインアウトには“投げる・跳ぶ・上げる”という3つの要素がありますが、それぞれが細部までこだわって遂行することをあらためて意識しました。例えば、ジャンパーは跳ぶタイミングをしっかり合わせる。リフターは全力で、つま先立ちになるくらい高く持ち上げる。そしてスロワーは、ルーティンどおりに確実なスローを行う。そういった基本的なことを、丁寧に積み重ねた結果が、今日の安定したラインアウトにつながったと思います」

──練習中のコミュニケーションの質や量も高まっていたように見えましたが、いかがでしたか。

「はい、そこも非常に大きかったと思います。もちろん練習中にもミスはありましたが、その都度、“なぜミスが起きたのか”という要因をその場で言い合い、改善に努めていました。そういった積み重ねが、実戦での精度向上につながったと感じています」

──次戦に向けた抱負をお願いします。

「二つあります。まず一つは、監督が常におっしゃっている“メンタル”の部分です。勝ちたいという強い思い、もっと強くなりたいという気持ちが自然とプレーににじみ出るような、そんな姿勢をグラウンドで示したいと思います。そしてもう一つは、“ユニットプライド”の体現です。今季掲げてきたスローガンでもあるこの言葉に込められた思いを、フォワード、バックス、そして、それぞれの細かなユニット単位でも表現したい。それぞれが自分たちの役割に誇りをもち、それを試合で表現することが、次戦につながると信じています」

狭山セコムラガッツ(D3)

狭山セコムラガッツのスコット・ピアス ヘッドコーチ(左)、飯田光紀キャプテン

狭山セコムラガッツ
スコット・ピアス ヘッドコーチ

「両チームとも、もてる力を100%出し切った試合だったと思います。ただ、どちらのチームにも規律の部分で課題が見られました。今回の試合は2点差での敗戦となり、われわれは勝ち点がマイナス3点のビハインドから第2戦に臨むことになります。今週の試合に向けては、試合の最初のコンタクト、そして、ラックやラインブレイクの場面でいかに優位に立つかという点にフォーカスしてきました。前半は相手のボールキャリアーへの対応が遅れ、試合のテンポを失ってしまった部分がありましたが、後半は非常に勇気あるプレーを選手たちが見せてくれたと思います。試合前のミーティングでも話したのですが、こういった僅差のゲームでは、小さなエラーが試合の結果に大きく影響を与えます。まだもう1試合、チャンスがあります。すでに次節にフォーカスして準備を始めています」

──当初のゲームプランと、うまくいった点、課題が残った点について教えてください。

「狭山RGは、今季からリーグワンに加入しました。リーグワンに入ってからコンタクトレベルが変化しました。いまいるメンバーのうち数人はトップリーグ時代に経験がありましたが、そうしたフォーカスポイントがありました。今日の良い時間帯と悪い時間帯の平均は、このレベルでプレーするには、まだ上がり下がりが大きいと思います。そして今日は、ラックの部分で両チームともペナルティが多かったです。おそらく私たちは、相手の新しい選手にフォーカスできなかったと思います。そして、ボールにプレッシャーを掛けられました。良かったことは、最後まで全然なかったです。この試合が始まる前は、どんなレベルでプレーしないといけないか分かりませんでしたが、この試合で必要なレベルが分かったので、来週はおそらく違う雰囲気でプレーできると思います」

──規律の部分については、入替戦ならではのプレッシャーや、リーグ戦との違いが影響したのでしょうか。

「最大の要因は、やはりコンタクトレベルの違いです。D3ではラックで簡単にゲインできていた場面でも、上のカテゴリーが相手ではそうはいきません。われわれのラックへの入り方が適切でなかったり、タックルの初動が高すぎたので、セカンドテイクでもう少しボールにプレッシャーを掛けられれば、ペナルティが少なくなるかもしれません。そして、そういう規律はレベルに関係ありません。レフリーのやり方にフィットしないといけませんでした。キーエリアとコンタクトエリアは大事です」

狭山セコムラガッツ
飯田光紀キャプテン

「まず、リーグワン関係者の皆さま、ファンの方々、そして清水建設江東ブルーシャークスの皆さま、今日は本当にありがとうございました。今日の試合に関しては、前半、後半ともに自陣で戦っている時間が長く、大変な場面が多かったです。受けてしまった部分がありました。来週ビハインドの状況から試合に臨むことになりますが、そこは気にせずに1週間良い準備をして、またいい試合ができるようにしていきたいと思います」

──D2のチームと戦ってみて感じたことはありましたか。

「D3よりコンタクトレベルの部分と、アタックのスピードの速さ、ブレイクダウンの質などがまったく違うので、最初の時間帯で受けてしまった部分がありました。しかし、時間が経つにつれて徐々にアジャストできたのかなというふうに思います」

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