NTTジャパンラグビー リーグワン2025ー26
プレーオフトーナメント3位決定戦
2026年6月6日(土)13:30 秩父宮ラグビー場 (東京都)
東京サントリーサンゴリアス 19-26 埼玉パナソニックワイルドナイツ
パニック状態から初トライまで。『プライド』がぶつかる中で迎えたデビュー
プレーオフトーナメント3位決定戦。優勝を逃したチーム同士が向き合う80分は、ともすれば心の向け方が最も難しい一戦なのかもしれない。それでもグラウンドに立つのは、『プライド』という目に見えない思いを表現するためにほかならない。
その舞台で、埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)のルーキー・楢本幹志朗がファーストキャップを刻んだ。
準決勝で山沢拓也が負傷すると、翌火曜日、バックスコーチのベリック・バーンズから「準備はできているか」と声を掛けられたのち、金沢篤ヘッドコーチから「頼むぞ」とメンバー入りを告げられる。
「うれしい気持ちになった反面、『本当にしっかり準備しないといけない』とすぐに気持ちを切り替えました」
映像を見返し、サインを確認し、試合に向けて頭を整理する。支えになったのは、仲間の存在だった。試合に出場できない山沢拓也、そして10番を託された齊藤誉哉とともに、多くの時間を過ごした。
「練習のフィードバックや、“こういうときはどうしたらいいか”と教えてもらって。本当にいろいろな方に支えられているなと思いました」
この日の埼玉WKは、リザーブのバックスが二人だけという布陣。「誰かがけがをしたときには自分が入る」という覚悟はもっていたが、それでも前半13分で巡ってきた出番は「予想より早かった」という。そこから67分間。スタンドオフとしてタクトを握った。
だが、デビュー戦はビターテイストだった。「あそこまで何もコントロールできないというか、“10番がいない状態になっているな”と客観的に思う状態は初めてでした」。言うなれば、「パニックになった状態で前半は入ってしまった」のだという。
転機はハーフタイムだった。ロッカールームでバーンズ バックスコーチから掛けられた言葉が、迷いを断ち切った。
「これ以上ひどくなることはないから、自信をもっていけ」
その一言で「間違ってもいいから、自信をもって決断しよう」と腹を括ることができた。
後半10分には自らトライも奪い、リードを広げた。「すごくうれしかったし、みんなも喜んでくれてうれしかったです」。リアム・ミッチェルが勢いよく抱きついてきたことも、小山大輝が優しい抱擁をしてくれたことも。すべてがうれしかった。
7点のリードを守り切って迎えたノーサイド後、楢本は、幼いころから画面越しに見ていた選手たちと言葉を交わした。この日限りで現役を退いた、東京サントリーサンゴリアスの中村亮土、流大、垣永真之介。福岡県出身の楢本にとって、九州出身の大先輩ばかりだ。
「僕が小学生のころにテレビの前で熱狂していた方々。そんな人たちとデビュー戦を戦うなんて想像もしていませんでした。最後に対戦できたのは光栄です」
垣永とは、ラグビーを始めたスクールも高校も同じ。「感謝の言葉を伝えることができました」、と喜んだ。
試合後、仲間から受けた祝福を忘れない。山沢拓也からは「今日、良かったよ。また頑張っていこうね」との言葉をもらった。山沢拓也だけではない。「みんなが惜しみなく『おめでとう』と祝ってくれました。すごくいいチームだなと思いましたし、そんなチームでファーストキャップを取れたことが、心の底からうれしいです」
両チームがプライドをぶつけ合った80分。伝統の一戦でデビューを果たしたルーキーに、埼玉WKのプライドが刻まれた。
(原田友莉子)
東京サントリーサンゴリアス
東京サントリーサンゴリアスの小野晃征ヘッドコーチ(左)、サム・ケイン キャプテン東京サントリーサンゴリアス
小野晃征ヘッドコーチ
「試合を振り返ると、特に前半は両チームともエラーが多かったと思います。後半は、埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)の立ち上がり(の勢い)についていけなかったことでスコアを離されてしまいました。ただ、その中でもサンゴリアスとしてのクラブスピリッツは大きく見せられたのではないかと思います。『プライド』『リスペクト』『ネバーギブアップ』というものは、このエンブレムをつける以上、大切にしなければなりません。来季も、そのクラブスピリッツをもった上で優勝を目指していきたいです。4位という結果は、自分たちが求めていたものではありません。ただ、この経験をしっかり来季の優勝につなげていきたいと思います」
──リーグワンが始まってから埼玉WKになかなか勝てないことや、ここ数シーズン、プレーオフトーナメント決勝に進めていないことについて、現時点でどのように考えていますか。また、今日の試合で引退する流大選手にはどのような思いがありますか。
「今季の埼玉WKとの3試合は、いずれも7点差以内のゲームに持ち込めていました。ただ、最後にワントライを取り切る、あるいはワントライを止め切るという部分が、勝敗を分けていると感じています。内容については、シーズンが終わってからあらためて振り返りたいと思いますが、まずは自分自身がもっと成長しなければいけないと感じています。
また、流選手とは数年間一緒にプレーした経験がありますし、今回はヘッドコーチと選手という立場でしたが、彼は本当にラグビーに対する熱量が高い選手でした。『自分も成長したい、周りも成長させたい、チームを勝たせたい』という思いを強くもっていて、その姿勢はチームに大きな影響を与えていたと思います。9番というゲームを動かすリーダーがいなくなることは、チームにとって大きなことだからこそ、誰かがその穴を埋めていかなければなりません。彼が残してくれたクラブスピリットからは、若い選手だけでなく、ヘッドコーチである自分自身も多くを学ばせてもらいました。本当に感謝しています。これからも、彼のラグビーとの関わりは続いていくと思います。選手として積み重ねてきた経験を、また違った形でラグビー界に還元してくれることを期待しています」
東京サントリーサンゴリアス
サム・ケイン キャプテン
「タフな1週間だったというのは、両チームに共通していたと思います。セミファイナルで敗れたことは非常に残念でしたが、それでももう一度試合ができる機会を楽しみにしていたことは間違いありません。
試合の立ち上がりは少し乱れた展開になりましたが、両チームともハードワークしながら、相手のエラーを突いてプレーしていたと思います。後半の序盤に埼玉WKにいくつかトライを奪われ、追い掛ける展開になったことで苦しい時間帯が続きました。最後はなんとか同点に持ち込もうと戦いましたが、届きませんでした。選手たちとは、この約9カ月半をともに過ごしてきました。ここからは、しっかりと休養を取る必要があると思っています。フィジカル面でもメンタル面でも、多くのものを犠牲にしながら戦ってきましたので。だからこそ、休養を経て戻ってきたときに、今季学んだことを来季へつなげていければと思います。ただ、最終結果が4位というのは、東京サントリーサンゴリアス(以下、東京SG)のスタンダードではありません。結果としては、非常に残念に感じています」
──ラグビーワールドカップでも3位決定戦はありますが、チームや選手がモチベーションを保つのが難しい3位決定戦について、どのように感じていましたか。
「セミファイナルで敗れ、優勝のチャンスを逃したことは本当に残念でした。ただその悔しさを乗り越えて、もう一度ジャージーを着て試合ができることに感謝しました。そもそも自分が子供のころからラグビーを続けている理由は、ラグビーが大好きだからです。そして、特別な仲間たちともう一度プレーできること、何人かにとってはこのジャージーを着る最後の機会になるということを考えたときに、そのチャンスを大切にしたいと思いました。だからこそ、できるだけポジティブな部分にフォーカスして、この試合に向かってきました。もちろん結果は自分たちが求めていたものではありませんでした。ただ、スポーツは人生に似ていて、思いどおりにならないことや、自分たちではコントロールできないこともあります。その中で、自分たちがコントロールできるものにしっかりフォーカスしてきました。マインドセットは、自分たちで選べるものだと思っています。それでも、勝てなかったことは本当に残念です」
埼玉パナソニックワイルドナイツ
埼玉パナソニックワイルドナイツの金沢篤ヘッドコーチ(左)、坂手淳史キャプテン埼玉パナソニックワイルドナイツ
金沢篤ヘッドコーチ
「プレーオフトーナメント3位決定戦に挑むにあたり、自分からは『すごく難しい状況ではあるけれど、自分自身のパフォーマンスや家族、ファンの方、支えてくれる方々、試合に出られないチームメートへの思いなど、それぞれにいろいろなモチベーションがあると思うので、それをしっかり出していこう』と伝えました。一番は、グラウンドの中で坂手淳史キャプテンが引っ張ってくれました。最後を勝利という結果で終えられたことは、本当にうれしく思います」
──後半の入りがすごく良かったですが、ハーフタイムには具体的にどのようなアドバイスをされましたか。また、リーグワンでのデビュー戦となった楢本幹志朗選手や、POTMを獲得したモーリス・マークス選手ら若手の活躍についての評価を教えてください。
「前半は、アタックもディフェンスも決して悪くはありませんでした。ただ、特にアタックの部分で細かいミスや無理なオフロードパス、ノックフォワードなどがあり、自分たちでプレッシャーを積み重ねることができませんでした。なのでハーフタイムには、『こういうゲームは必ずある』と伝えた上で、絶対に個人にならず、自分たちの強みである"つながりをもってチームとしてプレーする"ことを強調しました。そういう意味では、後半の立ち上がりで良い流れを作れたのは、選手たちが気持ちの面でポジティブに入れたからだと思いますし、非常に良い後半の入りだったと思います。
若い選手二人についても、素晴らしかったと思います。良いプレーもありましたし、これから改善していくべきプレーもありました。才能のある若い選手たちなので、今後が楽しみです。特に楢本は、早い段階で負傷者が出たことで途中出場となりました。試合後に本人とも話しましたが、想定外の出場で前半はかなり緊張していたようです。それでも力のある選手ですし、こうした経験を積み重ねていく中で、中身のあるデビュー戦になったのではないかと思います。これからに期待しています」
埼玉パナソニックワイルドナイツ
坂手淳史キャプテン
「ショートウィークということもあり、プレーオフトーナメント準決勝での敗戦を消化しながら次に向かう難しさがありました。チーム全体としても、個々人としても、その結果と向き合うには少し時間が必要だったと思います。ただ、チームをドライブしていく上で、『自分たちがこのゲームにどんな意味をもたせるのかが重要だ』と伝えました。自分たちはどうしたいのか、どんなゲームをしたいのか。そして、このメンバーで戦う最後のラグビーの中で、どんなマインドで臨むべきなのかを話しました。その中で、『ワイルドナイツのプライドを見せよう』と。チームとしてまとまりながら、少しずつではありましたが、1週間をとおして良い準備ができたのではないかと思います」
──この試合に対して、ご自身はどういう意味をもたせて臨みましたか。また、前半序盤にグラウンドを退くことになりましたが、いかがでしたか。
「僕自身、いろいろなことを考えながらこの試合に臨みました。試合に出ている選手は、努力が見えやすいですし、試合に向かって成長していくことができます。でも、試合に出ていないメンバーや、長くけがをしている選手、裏方としてチームを支えてくれているスタッフも含めて、今季は本当に"努力が見える"1年だったと感じています。そういう人たちの存在がすごく頭によぎりましたし、『その人たちのために頑張ろう』という気持ちが、自分の大きなモチベーションになっていました。
また、この試合に対するモチベーションの一つが、今季限りで引退する東京SGの先輩方(流選手、中村亮土選手、垣永真之介選手)とプレーできることでした。ラグビーワールドカップを一緒に戦った選手もいますし、大学時代から長く時間をともにしてきた仲間もいます。最後の1試合を一緒に戦えたことは、本当にうれしかったです。3人とは試合前にも少し話をしました。垣永さんは『泣きそうや』と言っていました(笑)。そのあとに『スクラム押したるわ!』と言われたので、『かかってこいや』と返しましたね(笑)。そういう気持ちで臨めたことも含め、彼らがこれまで積み重ねてきた功績に、本当にリスペクトしています。
そしてプレーオフトーナメント3位決定戦にも関わらず、チケットを買って来てくださったファンの方々にも、すごく感謝しています。プレーオフトーナメント準決勝で負けたあとの1週間で、14,280人もの方が会場に来てくださいました。そこからも、いろいろな気づきをもらいました。ファンの方々は、いつも僕たちを応援するためにグラウンドや練習場へ来てくれますし、今日も両チームのファンが本当に素晴らしい応援をしてくれました。あらためて、ラグビーにおける応援の力はすごいなと感じました。
個人的には、グラウンドに立てる時間が短くなってしまい、すごく申し訳ない気持ちがあります。島根(一磨)は本当に頑張ってくれましたが、最後の最後に少しチームに迷惑を掛けてしまったという思いもあります。ただ、プレーオフトーナメント準決勝のあとにもここで話しましたが、ラグビーは常に勝ち筋を見つけ、それを手繰り寄せながら勝っていくスポーツです。今日は、それをチームがゲームの中で表現してくれました。本当に誇りに思います。ミスは多かったですが、みんなの努力は変わりません。この試合に向けた、チーム全員のモチベーションがすごくうれしかったです」




























