NTTジャパンラグビー リーグワン2023-24 ディビジョン1(リーグ戦)第3節 カンファレンスB
2023年12月23日(土)14:10 ニッパツ三ツ沢球技場 (神奈川県)
横浜キヤノンイーグルス 66-26 花園近鉄ライナーズ
途中出場でハットトリック。
大勝劇の立役者にも、恩師は平常運転の一言で返答
開始4分に日本代表のシオネ・ハラシリが先制トライを奪い、主導権を握った横浜キヤノンイーグルス(以下、横浜E)が終始リードする展開に。横浜Eとの昨季2試合でノートライだった花園近鉄ライナーズ(以下、花園L)は前半に2トライを奪って横浜Eに肉薄したものの、地力に勝るホストチームが突き放し、計10トライを奪う大量得点で花園Lを退けた。
交代出場の声が掛かったのは後半8分のこと。「準備はできていた」中村駿太はマシュー・フィリップに代わって、「(桐蔭学園)高校時代から慣れ親しんだ」ニッパツ三ツ沢球技場のピッチへと駆け出した。
中村がピッチに入った時間帯は、後半立ち上がりの相手のトライによって、スコアが26対19と7点差に詰め寄られていたタイミング。さらに庭井祐輔が後半4分の不当なプレーでシンビンとなり、横浜Eは一人少ない状況だった。
それでも途中出場のわずか2分後である後半10分、中村はモールの展開からトライを奪取。相手を突き放す貴重なトライに会場の観衆は沸いた。
さらに後半13分、中村は相手のパントキックを目の前でブロック。「たまたま。ラッキーだった」と本人が振り返るこのディフェンスから、ラインアウトで仕切り直したアタックで攻め込んでいく。すると最後は中村が後半14分に二つ目のトライを奪った。
後半立ち上がりの途中出場でチームに大きなエネルギーを注入した中村は、終盤の後半37分にもモールの展開から3つ目のトライを奪取。途中出場からの“ハットトリック”を達成し、大勝劇の立役者となった。
試合後のロッカールーム。U20日本代表でプレーしていた当時から薫陶を受けてきた沢木敬介監督とのやり取りの一端を、中村はこう明かした。
「『何トライ取ったの?』と聞かれたので、『3トライです』と答えたら、『あっそ』と言われました。敬介さんらしい平常運転でしたね(笑)」
“孝行息子”の活躍にも素っ気なかった沢木監督。それもきっと、中村に対する期待の裏返しに違いない。
(郡司聡)
横浜キヤノンイーグルス
横浜キヤノンイーグルス
沢木敬介監督
「今日はフォワード陣がセットピース、特にスクラムやモールで頑張ってくれました。最近はモールがうまくいっていなかったので、試合前のミーティングで『モールからのトライを今日取れなければ、今季はもうモールは組まない」とハッパを掛けたら、4本ぐらいモールからのトライを取れました。今日の試合で自信は付いたと思いますが、もちろん細い修正点はやっていかなければなりません。ただ、フォワード陣のメンタルの強さや執念は見ていても感じました。ゲーム全体で言うと、(トライを)取り急ぐシーンがあったことで本来のアタックはできていませんでしたが、そういう課題が見つかり、チームとして、より成長できると思います。また年明けから良いスタートが切れるように、良い準備をしていきたいです」
──前節のトヨタヴェルブリッツ戦に続き、アグレッシブなゲームができたのではないでしょうか?
「ただ、ディフェンスは引き続き、課題として残っています。プレシーズンでも質を高めるための準備はしてきましたが、まだまだ改善点があります。次につなげたいです」
──途中出場から3トライを取った中村駿太選手について評価をお願いします。
「まあ、いいんじゃないですか。庭井(祐輔)とポジション争いをしている環境にあるので、二人にとってはとても良い状況だと思います。お互いに高め合えるような関係性にあります。駿太には駿太の良さはありますが、スクラムに関しては、まだまだ庭井のほうが上です。お互いが強みをしっかりと発揮して、選手として次のレベルにいくには、良い環境にあると思います」
──新しいシステムでの修正点はどういったところでしょうか?
「一人ひとりのタックルのスキルがそのまま試合に出てしまうシステムです。一人がタックルミスをすると、そこから崩されるリスクがあるシステムではありますが、一人ひとりのタックルの精度がハマればバチっと(全体も)ハマるシステムです。目先の結果を追い求めて新しいことから逃げていると、チームとして進化できません。仮に失敗を繰り返すようなことがあっても、我慢の時期でもありますし、一人ひとりがレベルアップする過程でもあると思います」
横浜キヤノンイーグルス
梶村祐介キャプテン
「結果的にボーナスポイントを取った上で勝利できたことが良かったです。沢木監督の話にもあったように、今日はフォワード陣が戦ってくれたことがこの結果につながりました。チームとしては仕留められるチャンスが多かった中で、トライを取れなかったシーンが数多くありました。それは今日だけの課題ではなく、最近の試合でも続いていることです。そうしたチームとしての課題に向き合い、毎試合修正をしながら、チームとしてもっと成長していきたいです」
──点差を詰められた後半の序盤は、危険な時間帯に見えました。どのように立て直していったのでしょうか?
「システム上の問題ではなく、簡単にボールを失うなど、個人的なミスがありました。それによって自陣に釘付けにされる時間帯になりました。前半も劣勢な時間帯があった中で、もう一度気持ちを引き締めるような声掛けはしました」
──10トライ(一つはペナルティトライ)を奪えたことはポジティブな点ではないでしょうか?
「スコアを重ねられたことよりも、新しいシステムに取り組んでいる中で、個人のタックルや、個人の努力を見つめ直し、新しいシステムの精度をもっと高めていきたいです」
花園近鉄ライナーズ
花園近鉄ライナーズ
向井昭吾ヘッドコーチ
「いろいろと準備してきたことを表現しながら、30点あたりのスコアで勝負することをイメージしていましたが、直前にメンバーが変更になったことも影響したのか、あまりうまくはいきませんでした。前半の途中まではある程度思いどおりにいきましたが、後半の途中には追い上げてトライがあれば追いつけるぐらいまでのスコアにはいきました。ただ、それ以降は一つひとつのプレーの精度が低下し、相手のプレッシャーに負けて、慌ててしまい、気が付けば点差が広がっていました。できた点はありますが、できなかったことは見てのとおり、ペナルティがあれだけ出れば自分たちのリズムは作れません。まずはマイボールとセットピースを安定させることが攻撃をするための起点になるので、重要な局面でマイボールの展開がくるように、もう一度、次のゲームに向けて修正していきたいです」
──途中まで良い試合ができた中でも突き放されてしまいました。修正点はどこでしょうか?
「まだこの試合のレビューが済んでいる状況ではありませんが、アタックする時間を増やすことです。アタックする時間を増やすことができれば、そんなに点差が開くこともないと思います。追いかける状況でエリアを取れていないのに、無理にアタックを仕掛けて相手のプレッシャーに掛かってしまうこともありました。エリアマネジメントとアタックのアンバランスを解消していくことが必要だと思います。自分たちの武器を発揮できる状況を作れれば、もっとゲームは作れると思います。そういったことが後半の残りの20分でできていないですし、代わって出る選手たちも先発の選手と同じクオリティーのプレーができるように鍛えていきたいです」
──できたこと、ポジティブな点をもう少し聞かせてください。
「ディフェンスに関して、前に出て止めていくという意味ではできるようになってきたので、昨季と比べれば改善されていることだと思います。また、判断が遅いことで相手にボールを渡してしまうようなプレーは個人スキルの問題です。個人スキルのレベルがまだまだ高くないので、これが難しいのですが、常に言っているのは普通のことを普通にやってほしいということ。それができるようになれば試合内容も改善されると思います。ディフェンスは良くなってきていますし、アタックに関しては、相手陣地に持ち込んだボールが相手に引き抜かれることや、相手からのボールをキャッチできずに、また相手に渡してしまうこともありました。そのボールが逆に自分たちのボールになっていれば、そのぶん、アタックの回数を増やせます。そういったことができる選手たちにしていきたいです」
──相手が14人になったあとにペナルティが続いた原因は何でしょうか?
「相手には走れるプレーヤーがかなりいるので、その選手を1対1で止められなければ、2対1で止めたり、相手の足を止めたりしなければならないのに、それができなかったために押し込まれる展開になりました。また、クイックボールでリスタートをされて、こちらの出足が悪くなる。そして、押し込まれるという悪循環に陥っていました。接点でしっかりと止めることができれば、そういうことはなかったですし、接点で相手の走れるプレーヤーを止められなかったことが、連続したペナルティにつながった原因だと思います」
──ジェシー・クリエル選手のランニングについて、感じることはありますか?
「うまく相手をコントロールすれば止めることはできると思いますが、足が速い選手に対して、斜めに追いかけっこをすれば絶対に抜かれます。そのぐらいジェシー・クリエル選手は世界レベルのスピードを持った選手であるということです」
花園近鉄ライナーズ
片岡涼亮バイスキャプテン
「(向井昭吾)ヘッドコーチの話にもあったように、後半の序盤で相手の背中を捕まえられるぐらいの点差までいきましたが、そこで取れずに次第に崩れ始めると、気がつけば点差が離れていました。ただ、チームとしてポジティブなこともたくさんありました。前節は無得点でしたが、フォワード陣も頑張ったことで点を取れました。ディフェンスで我慢できなかったことが今回の試合の課題です。相手のプレッシャーがある中で、自分たちのシステムが崩れてしまいました」
──相手が14人になったあとにペナルティが続いた原因は何でしょうか?
「相手が14人で戦っている中で、一人少ないということはこちらがプレッシャーを掛けにいかないといけない状況。でも、相手のほうがプレッシャーを掛け続けにきていたことは、戦い方の勉強になりました」
──ジェシー・クリエル選手と対峙する機会が多かったが、彼のランニングについて感じたことはありますか?
「間合いとスピードは素直にすごいと思いました。何度かブレイクされるシーンもありましたし、彼のような相手に対して、今度はしっかりと立ちはだかれるように、1本も抜かれないようなディフェンスをしたいと思っています。僕が止めることができれば、もう少しチームとしても流れに乗っていけたのかなと思います。僕の個人的なタックルミスで相手に流れを持っていかれてしまいました。個人のスキルをもっと上げていきたいです」