2025.05.08[トヨタV]苦しいシーズンだったからこそ。最後に見せたい、今季最強で最高のトヨタV

NTTジャパンラグビー リーグワン2024-25
ディビジョン1 第18節(リーグ戦)カンファレンスB
2025年5月10日(土)14:30 豊田スタジアム (愛知県)
トヨタヴェルブリッツ vs クボタスピアーズ船橋・東京ベイ

トヨタヴェルブリッツ(D1 カンファレンスB)

「みんな最終戦でもモチベーションは落ちていない」と語るトヨタヴェルブリッツの彦坂圭克選手(写真中央)。負傷の姫野和樹キャプテンの代わりに、たびたびゲームキャプテンを務めてチームのまとめ役となった

前節で、ディビジョン1残留を決めたトヨタヴェルブリッツ(以下、トヨタV)が、レギュラーシーズン最終戦でホストゲームに迎えるのは、3位のクボタスピアーズ船橋・東京ベイ。プレーオフトーナメント進出を決めているチームを相手に目指すのは、「トヨタVらしい強さを見せる」、その1点だ。

難しいシーズンだった。日本代表選手を複数人ようし、ピーターステフ・デュトイやアーロン・スミスなど世界的な名手も在籍。加えてニュージーランド代表を世界一に導いたスティーブ・ハンセン ヘッドコーチとイアン・フォスター共同コーチを首脳陣のトップに据えた最強布陣で臨んだ2024-25シーズンだったが、デュトイをはじめ主力に負傷者が続出。良いラグビーをしていても勝ち切れない試合が続き、想定とは真逆の残留争いに巻き込まれた。

落胆した気持ちでスタジアムをあとにすることも多かったが、それでもチームや選手個々は成長を続けていた。姫野和樹が負傷離脱中にキャプテンマークを巻くことの多かった彦坂圭克は、「(今季は)メンタル的にすごく成長できました。チーム状況がしんどいときに、声掛け一つでチームが良くなったり悪くなったり、そういうことも経験できてすごく勉強になった」と語る。チームとしても得点が動いたあとのマインドセットが、試合を重ねるごとに良くなっていったという。

双子のラグビー選手として鳴らした彦坂だが、昨季限りで兄の匡克さんは引退。今季は初めて一人で戦うシーズンだった。その上で慣れないゲームキャプテンを任され、チームの結果が出ないことでメンタル的に難しいところもあっただろう。ただ、どんなときもポジティブな言葉でチームを引っ張った。そのご褒美なのか今季挙げた4勝のうち3試合でプレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれている。

「みんな最終戦でもモチベーションは落ちていないし、トヨタVの存在証明というか、『自分たちのラグビーをするんだ、出し切るんだ』という気持ちになっています。今季は何かを成し遂げた実感がないので、最後の最後にトヨタVらしいラグビーができればいいですね」

シーズンの最後に多くのファンの前で、今季の最強で最高のトヨタVを見せる。

(斎藤孝一)

2025.05.08[S東京ベイ] きっかけは、父の教え。苛立たず、背伸びせず、できることを着実に

NTTジャパンラグビー リーグワン2024-25
ディビジョン1 第18節(リーグ戦)カンファレンスB
2025年5月10日(土)14:30 豊田スタジアム (愛知県)
トヨタヴェルブリッツ vs クボタスピアーズ船橋・東京ベイ

クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(D1 カンファレンスB)

前節の埼玉パナソニックワイルドナイツとの首位攻防戦で、終了間際の劇的な同点トライでヒーローとなったクボタスピアーズ船橋・東京ベイの山田響選手

残された時間はすでに30秒を切り、ノーサイドの足音が迫っていた。託された楕円球を手に、芝を切り裂くかのごとくサイドライン際を疾駆しながらも、その段階ではトライラインまで到達できる確信はなく、追走者のタックルのタイミングをずらし、弾き返したところで逆転への道筋が拓かれた。あとは、駆け抜けるのみ。だが、研ぎ澄まされた集中力とともに加速した瞬間、山田響はふと気づいた。逆転? いや、これで同点なのだと。

「だから、(トライエリアで)少し内側に入ったんですが、試合後にスラッシーさん(田邉淳アシスタントコーチ)に『もっと内側に入るべきだった』と指摘されました」

バーナード・フォーリーのコンバージョンキックはゴールポストを射抜けず、埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)との首位攻防戦は痛み分けに終わった。「勝ち切れませんでした」と、秩父宮ラグビー場が感情の渦と化した前節のあの瞬間を、悔いを含む言葉で振り返る。

快足とワークレートの高さが武器の24歳。幼きころからラグビーに親しみ、報徳学園高校時代にはブエノスアイレスユースオリンピックの7人制日本代表に選出され、慶応義塾大学ではフルバック、スクラムハーフ、スタンドオフと複数のポジションをこなすユーティリティーバックスとして覚醒。2024年に入団したクボタスピアーズ船橋・東京ベイではウイングもカバーする。

しかし、今季はけがに悩まされ、第1節のトヨタヴェルブリッツ戦で初キャップを飾るも、第2節の埼玉WK戦で右足首を負傷。第7節の横浜キヤノンイーグルス戦で復帰し、続く第8節のコベルコ神戸スティーラーズ戦では11番を背負うが、右ハムストリングの肉離れに見舞われた。

だが、山田は焦りに惑わされることなく、冷静に足元を見つめ続けた。欠場中にもっとも注力したのは「再受傷しないこと」。そうした堅実な思考は、彼を幼少期から指導してきた父であり、明石ジュニアラグビークラブ代表の山田賢氏の教えに根ざしている。

「僕はもともとヤンチャで、試合中もイライラするタイプでした。でも、イライラした試合に限って勝てていないと、父に指摘されたんです。確か、中学のころだったと思います」

ここで山田は、スポーツの現場においては苛立ちというものが足手まといになることを知る。だから、無茶な背伸びなどは無用。自分ができることを、着実に、遂行する。その姿勢は、いまも崩さない。

レギュラーシーズン最後の一戦となる、トヨタヴェルブリッツ戦。山田は先発の11番でメンバーに名を連ねる。前節で一躍ヒーローになったばかりではあるが、気負いはまったくない。抱負を聞かれ、落ち着いたトーンで「やるべきことを、しっかりとやります」と答えるその様は、まるで静かなるスナイパー。

前節の熱狂は、もう過去のもの。最終戦、そしてプレーオフトーナメント。やるべきことをやり抜くために、山田は静かに明日を正視する。

(藤本かずまさ)


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