2025.04.18[LR福岡] 止まっていた針を自らの手で動かす。もう一度楕円球を追う、“人生の新章”

NTTジャパンラグビー リーグワン 2024-25
ディビジョン3 第13節
2025年4月19日(土)12:00 厚木市荻野運動公園競技場 (神奈川県)
クリタウォーターガッシュ昭島 vs ルリーロ福岡

ルリーロ福岡(D3)

ルリーロ福岡の久田侑典選手。「僕の中では時間が止まっていた。だから、いまがスタート地点なんです」

その男は、7年という時間を背負って戻ってきた。ルリーロ福岡(以下、LR福岡)のジャージーに袖をとおす久田侑典は、今季、静かにして確かに歩を進めている。フィールドに立つその姿には、ほかの誰とも違う“文脈”がある。

大学卒業後、一度はラグビーの舞台から遠ざかった。ラグビーを嫌いになったわけではない。むしろ逆だった。大学卒業後は留学でプレーを継続していたが、1年間の留学を終えて帰国後は競技の環境に恵まれず、気付けば実戦の場から離れて7年が経過していた。だが久田は、トレーニングだけは欠かさなかったという。どこかに、再び楕円球と向き合える場所があると信じていた。

その機会が訪れたのは、LR福岡のクラブの創設だった。すぐには飛び込めなかった。仕事の都合もあった。だが、「このまま終わるわけにはいかない」。人生一度きり、久田はそう自らに言い聞かせ、LR福岡の門を叩いた。

だが、甘くはなかった。かつての感覚で飛び込んだコンタクトプレーは、想像を超える衝撃となって返ってきた。「理想と現実のギャップ」。それは競技から離れた者にとっての宿命かもしれない。

それでもあきらめなかった。不安よりも「ラグビーをしたい」という情熱のほうが勝っていた。シーズン開幕戦。チーム内でメンバーが発表された瞬間、胸に去来したのは、歓喜とともに走る緊張だった。自分の名が呼ばれたとき、7年の空白を埋めるに足る喜びだった。

しかし、試練は続く。第4節で顎を骨折し、顔は腫れ、かみ合わせがずれ、計3枚のプレートを埋め込む大けがを負った。医師からは「4月末復帰」が告げられた。それでも久田は、予定よりも早い3月中旬の第9節でグラウンドに戻ってきた。無理はしていないという。長年、自身の体と向き合い続けた男にしかできないリスク管理があった。復帰後も最初の数試合は痛みと恐怖がつきまとったが、徐々に不安は消えた。

「もうやるだけです」。その言葉に虚勢はない。久田の中には、実戦から離れていた7年の“沈黙の時間”が確かに流れている。年齢的にはチームでも上のほうに属する。しかし、久田はこう語る。「僕の中では時間が止まっていた。だから、いまがスタート地点なんです」

残り3試合。「相手に『久田とはやりたくない』と思われるようなプレーをしたい」。ただ激しいだけではない。紳士的に、しかし、魂でぶつかるラグビーを。いま、このフィールドで、再びときが刻まれ始めた。止まっていた針が動き出したいま、久田侑典という男の物語は、新たな章に入った。

(柚野真也)

2025.04.17[WG昭島] いつもどおりで挑む今季初先発。ベテランの冷静なスタイルで、望みをつなぐ

NTTジャパンラグビー リーグワン 2024-25
ディビジョン3 第13節
2025年4月19日(土)12:00 厚木市荻野運動公園競技場 (神奈川県)
クリタウォーターガッシュ昭島 vs ルリーロ福岡

クリタウォーターガッシュ昭島(D3)

クリタウォーターガッシュ昭島のスクラムハーフ、大政亮選手。「キックをうまく使って圧倒して、前半で試合を決められるような展開にしたい」

クリタウォーターガッシュ昭島(以下、WG昭島)は5連勝と好調をキープしている。今節はルリーロ福岡(以下、LR福岡)を神奈川県の厚木市荻野運動公園競技場に迎えて、ホストゲームに臨む。

「うれしいです。キックをうまく使って圧倒して、前半で試合を決められるような展開にしたいです」

大政亮が今季初めてスターティングメンバーとして名を連ねた。今季はコンディション不調で、モチベーションの維持も難しい時期が続いた。それでも、「ようやく巡ってきたこのチャンスで、良いパフォーマンスを出せるように」と、100%の力で練習に打ち込み続けてきた成果がついに実を結ぶときがやってきた。

福岡県出身の大政は、4歳からラグビーを始めた。東福岡高校では全国の舞台を経験し、3年時には優勝も果たしている。2015年にWG昭島へ加入して以降、スクラムハーフとして長年チームを支えてきた。さまざまな経験を重ねてきた彼だからこそ、試合に臨む際は「いつもどおり」を意識しているという。

「昔は、気合いを入れ過ぎて空回りしたこともあったし、気合いが入り過ぎて崩れていく選手も見てきました。だからこそ、いまは“いつもどおり”の気持ちで臨むようにしています。スクラムハーフというポジション柄、冷静さも大事ですから」

WG昭島に残された今季のレギュラーシーズンの試合はあと3試合。たとえすべての試合でボーナスポイント付きの勝利を収めても、D2/D3入替戦進出は厳しい状況にある。それでも、大政は決してあきらめていない。

「他力本願の状態に持ち込んだのは自分たちの責任です。あとは全試合出場して、ボーナスポイントを獲得して勝つこと。落ち込んでも何も変わらないので、望みをつなげられる状況にしたいです」

試合での冷静な判断、仲間を生かすサポート力、そして頭を使いながら、チャンスがあればトライも狙いにいく。それが、大政のスタイルだ。今季初めて先発する彼は、試合に出場できる喜びと、変わらぬ情熱を胸に、“いつもどおり”の覚悟でピッチへと足を踏み出す。

(匂坂俊之)

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