NTTジャパンラグビー リーグワン 2024-25
ディビジョン3 第13節
2025年4月19日(土)12:00 厚木市荻野運動公園競技場 (神奈川県)
クリタウォーターガッシュ昭島 vs ルリーロ福岡
ルリーロ福岡(D3)

その男は、7年という時間を背負って戻ってきた。ルリーロ福岡(以下、LR福岡)のジャージーに袖をとおす久田侑典は、今季、静かにして確かに歩を進めている。フィールドに立つその姿には、ほかの誰とも違う“文脈”がある。
大学卒業後、一度はラグビーの舞台から遠ざかった。ラグビーを嫌いになったわけではない。むしろ逆だった。大学卒業後は留学でプレーを継続していたが、1年間の留学を終えて帰国後は競技の環境に恵まれず、気付けば実戦の場から離れて7年が経過していた。だが久田は、トレーニングだけは欠かさなかったという。どこかに、再び楕円球と向き合える場所があると信じていた。
その機会が訪れたのは、LR福岡のクラブの創設だった。すぐには飛び込めなかった。仕事の都合もあった。だが、「このまま終わるわけにはいかない」。人生一度きり、久田はそう自らに言い聞かせ、LR福岡の門を叩いた。
だが、甘くはなかった。かつての感覚で飛び込んだコンタクトプレーは、想像を超える衝撃となって返ってきた。「理想と現実のギャップ」。それは競技から離れた者にとっての宿命かもしれない。
それでもあきらめなかった。不安よりも「ラグビーをしたい」という情熱のほうが勝っていた。シーズン開幕戦。チーム内でメンバーが発表された瞬間、胸に去来したのは、歓喜とともに走る緊張だった。自分の名が呼ばれたとき、7年の空白を埋めるに足る喜びだった。
しかし、試練は続く。第4節で顎を骨折し、顔は腫れ、かみ合わせがずれ、計3枚のプレートを埋め込む大けがを負った。医師からは「4月末復帰」が告げられた。それでも久田は、予定よりも早い3月中旬の第9節でグラウンドに戻ってきた。無理はしていないという。長年、自身の体と向き合い続けた男にしかできないリスク管理があった。復帰後も最初の数試合は痛みと恐怖がつきまとったが、徐々に不安は消えた。
「もうやるだけです」。その言葉に虚勢はない。久田の中には、実戦から離れていた7年の“沈黙の時間”が確かに流れている。年齢的にはチームでも上のほうに属する。しかし、久田はこう語る。「僕の中では時間が止まっていた。だから、いまがスタート地点なんです」
残り3試合。「相手に『久田とはやりたくない』と思われるようなプレーをしたい」。ただ激しいだけではない。紳士的に、しかし、魂でぶつかるラグビーを。いま、このフィールドで、再びときが刻まれ始めた。止まっていた針が動き出したいま、久田侑典という男の物語は、新たな章に入った。
(柚野真也)