NTTジャパンラグビー リーグワン2024-25
プレーオフトーナメント準決勝
2025年5月25日(日)14:30 秩父宮ラグビー場 (東京都)
埼玉パナソニックワイルドナイツ vs クボタスピアーズ船橋・東京ベイ
埼玉パナソニックワイルドナイツ
プレーオフトーナメントに向けた5月21日の公開練習に、稲垣啓太の姿があった。
5月10日のD1最終節・東京サントリーサンゴリアス(以下、東京SG)戦で後半10分から途中出場したが、直後に負傷してピッチに倒れた。
苦痛の表情を浮かべて天を見上げた稲垣。彼は今季、第7節で負傷し、リーグ終盤の第15節で約2カ月ぶりに復帰。そうしてプレーオフトーナメントに照準を合わせていた中での再負傷だった。ファン、関係者たちが不安を覚える中、スタッフに両肩を支えられながら出場わずか2分でグラウンドから下がった。
あれから約2週間、稲垣は何事もなかったようにピッチに戻っていた。まさに不撓不屈。“笑わない男”と言われる彼の表情にはプレーできる喜びがあふれていた。ロビー・ディーンズ監督によると、東京SG戦後の検査でも問題はなく、プレーに支障はないという。
長田智希が「(稲垣が交代したときは)『えっ』と思いましたが、(オフ明けには)『大丈夫やったわ』と普通に戻っていました(笑)。本当に良かったです」と安堵すれば、ディーンズ監督は「技術、経験の面で優れている選手で、何を背負っているかを理解している。彼の経験はプレーオフトーナメントで生きてくる」と目を細めた。
ラグビーワールドカップ2019日本大会でベスト8進出を果たした日本代表であり、日本ラグビー界の生きるレジェンド。今季のオフには、自身がアンバサダーを務めるスイス時計メーカーの本社を訪れて、制作現場などを見学したという。
「本社には歴代の時計が飾ってあって、工場では職人たちがプライドをもって一つひとつのパーツを組み上げていた。時計は何か一つでも欠けてしまったら作動しなくなる。その作業は、ラグビーのチームに通じる部分があった。どんなポジションでもプロフェッショナルとして役割を果たしていくことが大切だとあらためて感じた」
昨季はシーズン中に負傷して長期離脱。プレーオフトーナメント決勝をスタンドで見守った。言葉には出さないがプレーオフトーナメント、そして3年ぶりの王座奪還への思いは誰よりも強く、熱い。
「ラグビーでは僕一人で勝利をつかむことはできない。チームの中で与えられた役割を遂行するだけ。役割をもっと紐解いていけばセットピースやブレイクダウンのコントロールに加えて、ディフェンス、アタックでチームに勢いを付けていくこと。自分のエリアでの仕事をやり切るだけ」
クボタスピアーズ船橋・東京ベイとのプレーオフトーナメント準決勝、稲垣は背番号1でピッチに立つ。唯一無二の存在が、埼玉パナソニックワイルドナイツを決勝に導くはずだ。
(伊藤寿学)