2025.05.23[埼玉WK]負傷が心配されるも、背番号1で先発へ。稲垣啓太は不撓不屈で唯一無二

NTTジャパンラグビー リーグワン2024-25
プレーオフトーナメント準決勝
2025年5月25日(日)14:30 秩父宮ラグビー場 (東京都)
埼玉パナソニックワイルドナイツ vs クボタスピアーズ船橋・東京ベイ

埼玉パナソニックワイルドナイツ

埼玉パナソニックワイルドナイツの1番はやはりこの人か。稲垣啓太選手。ロビー・ディーンズ監督も「彼の経験はプレーオフトーナメントで生きてくる」と信頼を寄せる

プレーオフトーナメントに向けた5月21日の公開練習に、稲垣啓太の姿があった。

5月10日のD1最終節・東京サントリーサンゴリアス(以下、東京SG)戦で後半10分から途中出場したが、直後に負傷してピッチに倒れた。

苦痛の表情を浮かべて天を見上げた稲垣。彼は今季、第7節で負傷し、リーグ終盤の第15節で約2カ月ぶりに復帰。そうしてプレーオフトーナメントに照準を合わせていた中での再負傷だった。ファン、関係者たちが不安を覚える中、スタッフに両肩を支えられながら出場わずか2分でグラウンドから下がった。

あれから約2週間、稲垣は何事もなかったようにピッチに戻っていた。まさに不撓不屈。“笑わない男”と言われる彼の表情にはプレーできる喜びがあふれていた。ロビー・ディーンズ監督によると、東京SG戦後の検査でも問題はなく、プレーに支障はないという。

長田智希が「(稲垣が交代したときは)『えっ』と思いましたが、(オフ明けには)『大丈夫やったわ』と普通に戻っていました(笑)。本当に良かったです」と安堵すれば、ディーンズ監督は「技術、経験の面で優れている選手で、何を背負っているかを理解している。彼の経験はプレーオフトーナメントで生きてくる」と目を細めた。

ラグビーワールドカップ2019日本大会でベスト8進出を果たした日本代表であり、日本ラグビー界の生きるレジェンド。今季のオフには、自身がアンバサダーを務めるスイス時計メーカーの本社を訪れて、制作現場などを見学したという。

「本社には歴代の時計が飾ってあって、工場では職人たちがプライドをもって一つひとつのパーツを組み上げていた。時計は何か一つでも欠けてしまったら作動しなくなる。その作業は、ラグビーのチームに通じる部分があった。どんなポジションでもプロフェッショナルとして役割を果たしていくことが大切だとあらためて感じた」

昨季はシーズン中に負傷して長期離脱。プレーオフトーナメント決勝をスタンドで見守った。言葉には出さないがプレーオフトーナメント、そして3年ぶりの王座奪還への思いは誰よりも強く、熱い。

「ラグビーでは僕一人で勝利をつかむことはできない。チームの中で与えられた役割を遂行するだけ。役割をもっと紐解いていけばセットピースやブレイクダウンのコントロールに加えて、ディフェンス、アタックでチームに勢いを付けていくこと。自分のエリアでの仕事をやり切るだけ」

クボタスピアーズ船橋・東京ベイとのプレーオフトーナメント準決勝、稲垣は背番号1でピッチに立つ。唯一無二の存在が、埼玉パナソニックワイルドナイツを決勝に導くはずだ。

(伊藤寿学)


2025.05.23[S東京ベイ]最高のお手本が教えてくれた積み重ねの重要性。再構築してきた自分をピッチに刻む

NTTジャパンラグビー リーグワン2024-25
プレーオフトーナメント準決勝
2025年5月25日(日)14:30 秩父宮ラグビー場 (東京都)
埼玉パナソニックワイルドナイツ vs クボタスピアーズ船橋・東京ベイ


クボタスピアーズ船橋・東京ベイ

クボタスピアーズ船橋・東京ベイの先発2番は、準々決勝に引き続きマルコム・マークス選手。江良颯選手はリザーブから出場に備える

まっすぐに進んだその先で、道が沈黙を教えてくれることがある。立ちはだかる分厚く高い壁は、進む者にしか訪れない、静かな通過儀礼である。

「初めての経験かもしれないです」と、江良颯は言う。これまでのキャリアで、自分のポジションを脅かす存在はいなかった。だが、昨季加入したクボタスピアーズ船橋・東京ベイ(以下、S東京ベイ)には、異なる世界線が広がっていた。そこには、世界最高峰フッカーの一人、マルコム・マークスがいた。

「ナンバーワンプレーヤーのすごさをあらためて感じました。コリジョンやセットピースだけでなく、ボールを持っていないときの動きなど、すべてにおいて勉強になります。まだまだ自分には足りない部分、通用しない部分があるんだと痛感しました」

今季序盤、S東京ベイは逆転勝ちを重ねながら白星を積み上げていった。後半に投入されるマークスやオペティ・ヘルら“ボムスコッド”が試合の潮目を変え、その前段を支えたのが先発2番の江良。「自分のやるべきことをやってチームに貢献する」姿勢は、「自分たちが戦い続けるからこそ、後半の勢いにつなげられる」という実感へと変わっていった。

だが、第11節・浦安D-Rocks戦では歯がゆさを味わう。前半は無得点。江良はそこで入替を告げられ、静かにピッチをあとにした。かみ締めたのは、役目を果たした実感ではなく、自身への不甲斐なさだった。

「自分自身のプレーはそこまで悪いわけではなかったんですが、『ただプレーをしているだけ』という感覚に陥っていました。そして、後半にマルコムが出てきて、チームに勢いがついた。とても悔しかったです」

ただ、マークスと時間を重ねる中で、あらためて気づかされたことがある。「最初は、すべてを完璧にやろうとしていました」。しかし、そこで学んだのは、完璧を求めるのではなく、やるべきことを積み重ねることの重要性だった。

そうした中で、見つめ直した自身の強み、それはスクラムワーク、低さ、そして速さ。その本領の片鱗が見えたのが、第17節・埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)戦だった。試合は痛み分けに終わったが、S東京ベイは後半に怒とうの追い上げを仕掛けた。

「ピッチに立つからには、マルコム(・マークス)以上のものを出さないといけないです。あの試合では(途中出場から)トライも取りましたが、ディフェンスでは相手にフェーズを重ねられる中で、取られた場面もありました。自分としては、まだまだです」

その「まだまだ」を晴らすときが、ついにやってきた。迎える準決勝。埼玉WKとの再戦が待っている。

「これまで積み上げてきたもの、すべて出し切ろうと思っています」

あの壁に遭遇した日から、江良は自分という選手を明確に再構築してきた。その歩みの答えを、ピッチの上に刻む。

(藤本かずまさ)

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