2023.02.21NTTリーグワン2022-23 D1 第8節レポート(神戸S 32-29 静岡BR)

NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン1(交流戦) 第8節
2023年2月19日(日) 14:30 神戸総合運動公園ユニバー記念競技場 (兵庫県)
コベルコ神戸スティーラーズ 32-29 静岡ブルーレヴズ

逆転のドラマ。殊勲のビッグゲインを見せた山下楽平、その耳に届いた「声」

コベルコ神戸スティーラーズの山下楽平選手。「僕たちはいま、失うものは何もない」

劇的な結末にスタンドの観客は大歓声を上げた。2月19日、勝ち点差「1」と拮抗する静岡ブルーレヴズ(以下、静岡BR)を神戸総合運動公園ユニバー記念競技場で迎撃したコベルコ神戸スティーラーズ(以下、神戸S)。後半30分過ぎまでビハインドを追う苦しい展開だったが、マスク着用を前提とした声出し応援が解禁された中、ファンの熱いエールを受けて怒涛の反撃を開始。土壇場の後半40分に李承信が逆転となるペナルティゴールを決め、前節に続く連勝を飾った。

「楽平さん!」

神戸Sが誇るトライゲッターの耳に大きな声が届いた。

後半33分の自陣5m付近。7点のビハインド。ここでトライを許せば敗色が濃くなるという状況下、中嶋大希のタックルが相手FWをつかまえた。「(相手がボールを)放るだろうなと思って間に入った」と予測したのは山下楽平だ。インターセプトに成功すると、そのまま一気におよそ70mのビッグゲイン。スタンドはどよめく。

だが、静岡BRも必死だ。追いつかれた。万事休すか。その刹那、聞こえたのが自身の名前を呼ぶ声だった。

「隼大。濱野隼大ってね、基本的に1試合を通して1回くらいしか声を出さないんです。その1回があそこでめちゃくちゃ大きく聞こえた。『楽平さん!』って」

楽しそうな笑顔を見せた山下楽平。11番を猛追し、パスを受けた濱野はさらなる前進を図った。李承信、井関信介らも続々と詰めかけて援護していく。左から右に展開し、ジェラード・カウリートゥイオティが押し込み、最後はマルセル・クッツェーがトライを決める。全員のハードワークは結実した。

李承信が続くコンバージョンとペナルティゴールの二つのキックを確実に決め、ドラマチックな逆転劇を成し遂げた神戸S。勝敗を4勝4敗の五分に戻し、6位で前半戦を終了した中で、次節は首位の埼玉パナソニックワイルドナイツを迎撃するホストゲームが待つ。まさに最強の相手だが、山下楽平はチームの総意を言葉にした。

「僕たちはいま、失うものは何もない。チャレンジャーとして自分たちが持っているものを80分間通してやりたい。試合までの1週間でどれだけ準備できるかにチャレンジしていきたいと思います」

着実に育まれる反骨のメンタリティー。神戸Sが後半戦での巻き返しに照準を合わせた。

(小野慶太)

コベルコ神戸スティーラーズ

コベルコ神戸スティーラーズ(D1 カンファレンスB)のニコラス・ホルテン ヘッドコーチ(左)、橋本皓キャプテン

コベルコ神戸スティーラーズ
ニコラス・ホルテン ヘッドコーチ

「今日の試合ですが、選手の姿勢の部分は素晴らしかったと思います。戦術の部分、テクニックの部分に関しては完璧だったかと言われたらそうではなかったと思いますが、静岡ブルーレヴズ(以下、静岡BR)さんに関しては戦術の部分でうまくコベルコ神戸スティーラーズ(以下、神戸S)に対してプレーしてきたと思います。また、その要因を作ってしまったのは自分たちのスキルエラーの部分だったと思います。ただ、最初に伝えたように、アタックしていこうという選手の姿勢は本当に良かったと思います。今日の試合はこれで終わりなので、次の試合に切り替えていきたいと思います」

──終盤の山下楽平選手のインターセプトが大きいポイントになったと思いますが、どのような認識をお持ちでしょうか?

「そうですね、勝敗を分けた瞬間だったと思います。(山下)楽平のインターセプトの前の状況を考えると、自陣の手前のところで自分たちにプレッシャーが掛かった状態でしたからね。ただ、なぜ相手の選手に追い付かれたのかは本人に確認する必要があると思いますけど(笑)。あのラインブレイクのあと、しっかりとトライになるところまでかなりほかの選手もハードワークしないといけない状況で、何とかトライを取ってくれました。自分たちが勝ちにいく意思、さきほど橋本(皓)キャプテンも話していましたが、そこのハードワークが結果につながったと思います。静岡BRさんの強さはどのチームも分かっていると思いますが、認識しなきゃいけないと思います。どのチームも簡単に静岡BRさんに勝てないと思いますし、どんな状況でも最後までファイトするチームだと思うので、そういうチームだからこそ今日のゲームは難しかったと思います。そこに関しては静岡BRさんに称賛を送りたいと思います」

──今季の中でもフォワードのパスがすごくつながっていた印象です。どういうふうに改善されてきたのでしょうか?

「フォワードのパスの精度が上がったのは今日の試合だけではなくて、(前節の)三菱重工相模原ダイナボアーズ戦から上がっていると思います。あまり秘訣を言い過ぎてしまったらほかのチームから対策をされてしまうのであまり言うことはできないのですが、できていない部分にフォーカスし続けた結果、やっと変わってきたのかなということだけは伝えられるかなと思います」

──次節の埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)との対戦へ向けての修正点を教えてください。

「一番大事にしたいと思っているのは、埼玉WKさんに取られる得点よりも、どれだけ多くの得点を取れるかに重きを置いていきたいと思っています。橋本キャプテンも言ったとおり、間違いなく強いチームです。ここまでのシーズンを振り返っても神戸Sは試合の中でのミスが多く、今日の試合も戦術の部分で相手にうまくプレーされた部分がありました。最初に挙げた戦術の部分、技術の部分、規律の部分、自分たちが修正できるところはまだまだたくさんあるので、全部の部分を埼玉WK戦に向けてどう修正していけるか、というところを全体をとおして見ていきたいですが、最終的に相手よりもどれだけ多くの得点を取れるかにかかってくると思うので、そこに重きを置いていきたいと思います」

コベルコ神戸スティーラーズ
橋本皓キャプテン

「ニック(ニコラス・ホルテン ヘッドコーチ)が言ったとおり、自分たちの良くないところも多々あり、最後までどうなるかという展開になったと思っています。その中で、勝ちたいという意思を持って全員がプレーをしていたので、最後にああいう勝ち方を見つけて勝つことができたと思っています」

──雨が降って滑りやすい環境だったと思いますが?

「ボールが滑るということは意識していましたが、それでも恐れずに自分たちのスキルを使おうと言っていました。細かな調整などは李(承信)や日和佐(篤)らと話しながらやっていこうと話していました」

──後半の中ごろはハンドリングエラーなどもあって苦しい時間があったと思いますが、どんな意識を持って逆転勝利につなげられたと思いますか?

「時間もありましたので、『切り替えろ』とポジティブに言っていました。『自分たちのやるべきことをしっかりやり続けよう』『絶対にチャンスが来るから』と」

──前半の終了間際にペナルティをもらった際、タッチキックを選択しましたが、ゴールを狙う選択肢もあったと思います。そこはおっしゃっているアグレッシブな姿勢でトライを狙ったのでしょうか?

「トライが欲しかったというのもありますし、その前のモールを組んだ時点で『押せる』と。自分たちで自信を持てたのでその選択をしました」

──静岡ブルーレヴズ(以下、静岡BR)が強みにしているラインアウトで、相手ボールを取ることが多かったと思います。相手の得意な部分をどのように分析していたのでしょうか?

「ラインアウトに関しては、アンドリース・ベッカー コーチがいます。彼やJD・シカリング、ジェラード・カウリートゥイオティらとコミュニケーションを取りながら、静岡BRさんがどうやっているかを(試合までの)1週間でしっかり話しました」

──次節の埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)との対戦へ向けての修正点を教えてください。

「埼玉WKさんはすごくラグビーがうまいチームなので、スキを与えるとどんどん得点を取られてしまうと思います。今日の試合で言えば、ミスであったり、ペナルティの部分であったり、スキを見せてしまうと相手の思うツボになってしまいますので、しっかりと修正をする必要があると思っています」

静岡ブルーレヴズ

静岡ブルーレヴズ(D1 カンファレンスA)の堀川隆延ヘッドコーチ(左)、クワッガ・スミス共同キャプテン

静岡ブルーレヴズ
堀川隆延ヘッドコーチ

「みなさんこんにちは。結果的には最後、逆転されましたけれども、前半は自分たちのスタイルを発揮することができて、得点もしっかり重ねることができました。課題であった22mを含めてフォワードとバックスが一体となってスコアするというところに関しては、今日は非常にいいトライを取ることができたんじゃないかと思います。勝負の世界なので、あの3点が入っていればとか、この5mのモールからの球出しをもう少し改善できればとか、自分たちで作り出したチャンスを自分たちで生かし切れなかったことがすべてかなと思います。来週、ショートウィークで、ヤマハスタジアムで東京サントリーサンゴリアスと対戦しますけど、今日は自分たちの成長できた部分をしっかり見ながら、改善すべきことを明確にして次に進んでいきたいと思います」

──全体的にバックス陣のキックのミスが多く出ていた面があったと思いますが、相手のプレッシャーなどどう見ていましたか?

「個人的なミスだと思います。たとえばペナルティのキックをタッチに出せないとか、ダイレクトタッチキックをしてしまうとか、相手のプレッシャーというよりは、その選手のアンダープレッシャーの中でのスキルだと思うので、そういったところはしっかりと選手と話をしていきたいと思います」

──昨季と似たような悔しい負け方が続いている印象です。同じようなことが起きていることをどう受け止めていますか?

「そこがこのチームに足りないところかなと思います。競ったゲームの中でチャレンジできるかできないかというところで言うと、そうやって前進できる選手がもう少しわれわれには必要かなと思います。そういうタフさがこのチームには足りないんじゃないかなと。そういう話はいま、ゲームが終わったあとにリーダーと話をしましたけど、そういった部分は変えていきたいと思います」

──どういうふうに変えていきますか?

「具体的なアクションプラン、どうアクションしていくかということだと思いますので、競った状況の中で自分たちがどういうふうにチャレンジしていくのか、そこを具体的に話していきたいと思います」

──アーリーエントリー制度で槇瑛人選手が出場しました。あまりボールタッチはなかったですが、どのように見られていましたか?

「あまりボールに絡むシーンがなかったですね。来週以降、おそらく彼はまたチャンスを手にすることができると思うので、彼の良さがしっかり出るように一緒に準備していきたいなと思います」

──今節で前半戦が終わりましたが、総括をお願いします。

「満足のいく結果ではないと考えています。前半戦、特に6戦目までもがき苦しんで、前節まで2連勝して、自分たちのカルチャーをもう一度見直して、自分たちのスタイルを発揮し始めているタイミングでの今日だったのですが、そういった意味では結果には満足していないです。ただ、いろいろな部分で成長しているので、残りの8節、しっかりと一戦一戦、レビューをしながら、課題を克服しながら、前進していきたいと思います」

──大戸裕矢選手、山口楓斗選手はアクシデントによる交代でしょうか?

「プレー続行できる状況ではない、ということしかいまは言えません。なので、来週以降どうなるのか、これからしっかりメディカルと話をします」

──ラインアウトがうまくいかなくなったのは大戸選手がいなくなったことも影響していますか?

「その影響は少なからずあったと思います」

──サム・グリーン選手が入ったあと、ペナルティキックを蹴る選手が変わりました。

「前半の後半くらいから奥村(翔)の足の状態があまり良くないということだったので、現場の中でサム・グリーンが蹴るという判断の中で蹴りました」

──終盤に相手ゴール前でターンオーバーされたことはどのように見ていますか?

「詳しくはビデオを見てみないと分からないですけど、あの時点でやはり、アドバンテージの使い方であったりとかというのは、われわれが足りない部分というか、もう少し時間を使いながらボールを扱うべきだったと思いますし、そういうところはレビューとして来週につなげたいなと思います。簡単にキックを蹴ってしまうのではなくて、やはりもう少し時間を使う、ボールをキープして時間を使うといったナレッジは必要かなと思います」

静岡ブルーレヴズ
クワッガ・スミス 共同キャプテン

「今日の試合は本当にタフな厳しい試合になりました。特に終わりのほうで、自分たちで作ったチャンス、たくさんチャンスを作ることができたんですけど、それを相手に明け渡してしまったところがありました。ただ、良いところもたくさんありましたし、そういうところは誇りに思っています。来週はショートウィークになりますが、(次節の)東京サントリーサンゴリアス戦に向けて準備をして、良い試合をホストゲームで見せていきたいと思います」

──昨季と似たような悔しい負け方が続いている印象です。同じようなことが起きていることをどう受け止めていますか?

「チャンスは作れていて、そのチャンスをしっかりと取り切るところ、もう本当にそういうところだと思っています。ディフェンス力は上がってきています。いま話している足りない部分に関して、個人的なスキルの問題とか、遂行力の問題で、そこがトライを取り逃しているところにつながっていると思います。ただ、昨年と同じチームであるとは思っていません。しっかりと成長していますし、昨年よりも失点が減っているところにもそれは表れていると思っています。今後に向けて足りていない遂行力のところを上げていきたいと思っています」

──今節で前半戦が終わりましたが、総括をお願いします。

「出だしは本当に苦労して始まったシーズンですが、自分たちは良いラグビーをしてきたと思っています。それを勝利に結びつけられず苦しみましたが、今日の試合でもすごく良いプレーがありましたし、良かった面がたくさんあったと思います。ただ、勝つことは簡単ではありませんので、毎週毎週、しっかりとレビューして、課題にフォーカスして取り組んでいきたいと思っています」

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