2023.03.14NTTリーグワン2022-23 D2 第8節レポート(釜石SW 19-92 浦安DR)

NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン2 第8節
2023年3月12日(日)13:05 釜石鵜住居復興スタジアム (岩手県)
釜石シーウェイブスRFC 19-92 浦安D-Rocks

悔し涙でにじんだ3月12日。
「この日を始まりの日に」

試合後、背番号11の小野キャプテンのリードでメインスタンドに向かって挨拶する釜石シーウェイブスRFC。浦安D-Rocksのメンバーも拍手で健闘を讃える

2011年3月11日から12年。その翌日にあたる3月12日に復興の象徴である釜石鵜住居復興スタジアムで行われた「東日本大震災 復興祈念試合」。ホストの釜石シーウェイブスRFC(以下、釜石SW)は特別な思いで臨んだが、首位の浦安D-Rocks(以下、浦安DR)に完敗。選手たちは悔しさを隠せなかった。

試合後、取材陣の質問にいつもどおり淡々と答えていたキャプテンの小野航大だが、会見の終盤、一度言葉を詰まらせたあと、涙を見せながら言葉を絞り出した。「この場所で後ろ向きな姿は見せたくないという思いだったので情けない」。

今季負けなしで、圧倒的な力を誇る浦安DRを釜石SWは止められなかった。「釜石の人たちに勇気を」という一心で臨むも、結局92点奪われる大敗だった。

それでも、「ずっと大漁旗を振って応援してくださってくれる方々がいるので『とにかく最後まで釜石のラグビーを見せよう』とみんなに伝えたいと思って」、後半からピッチに立ったのは35歳、片岡将だ。肉離れから復帰し、今季初出場となった。普段は全体練習が終わると、多くの若手選手が片岡将を囲み、技術を学ぶ。まるで「片岡塾」と呼びたくなる光景が印象的だ。常に刺激やエナジーを与えるベテランの復帰はいまのチームにとって心強い。「小野がキャプテンとしてチームをまとめられるように影ながらサポートしたいし、来季もディビジョン2で戦えるように最後までやり切りたい。大きな悔しさが残ったきょうをその始まりの日にしたい」(片岡)。

今節が行われたのは、「3月12日」。会場に向かう前、クラブハウスで須田康夫ヘッドコーチが選手に語りかけた話の中で、片岡将の胸に深く刻まれた言葉があるという。「震災が起きた3月11日は当事者もはっきり状況を理解できなかった日。その翌日の3月12日は“日常が変わってしまった”“ここから頑張っていかないといけない”と、多くの人が困難に立ち向かうことを決めた日。だからこそ、ひたむきに立ち上がる姿を見せよう」。

悔し涙でにじんだ「3月12日」。この日の光景を忘れず、釜石SWはまた新たなスタートを切る。ここからはい上がるだけだ。

(佐々木成美)

会見での釜石シーウェイブスRFC、小野航大キャプテン。言葉に詰まる


釜石シーウェイブスRFC

釜石シーウェイブスRFCの須田康夫ヘッドコーチ(左)、小野航大キャプテン

釜石シーウェイブスRFC
須田康夫ヘッドコーチ

「今日が特別な日だというのは十分に理解して、チーム全員でこの釜石の、被災した地で勇気を届けようということで挑みました。結果は大差での敗戦となってしまいましたが、選手たちが力を抜いていたわけではなく、100%やり切った中での結果なのでしょうがない部分があると思います。ただ、ゲームの入りの部分でルーズボールに飛び込むことなど、そういう部分はもう少しできたかなと思います。あと(残り試合が)最大で4試合になると思うんですけど、そこに向けて精一杯準備していきたいと思います」

──3月11日の翌日の試合ということで、試合前にはどのようなミーティングをして臨みましたか?

「試合前は、やってきたこと、特に前節で課題に挙がったディフェンスのところでのスペーシング、それに前回の対戦のときも課題だったアタックのブレイクダウンのレースは確認して入りました。あとメンタル的なところで勇気を届ける、与える、見せることを今日のテーマとして臨んだのですが……。選手たちは精一杯頑張ってくれたと思います」

──今節、選手起用で重要視した部分はどういったところですか?

「完全にフィジカルです。フロントライン、バックスのディフェンスライン、最前列という部分ではジョシュア・スタンダー、タタナ ダラス、石垣航平というような選手を並べて、相手の大型のバックスに対しても当たり負けしないようにというラインナップになっています。フォワードもよりフィジカルに特化した布陣でしたし、モールなどを期待した部分であったんですが、相手の方が一枚上手だったなと思います」

──アーリーエントリーの落和史選手が初出場でした。評価はいかがですか?

「合流して間もない中、しっかり練習から自分をアピールして、常にメンバーに入れるように狙っていましたし、実力もあるので、今日、ゲームを経験できてよかったと思います。パフォーマンスでもいい視野でキックなどを使ってチームを前に進めることができていたので、もう少し経験したらどんどんいい選手になっていくのではないかなと思います」

──片岡将選手が今季初出場。チームにとってどんな存在ですか?

「非常に高い経験値がありますし、ジャパンラグビー トップリーグ昇格を経験したチームにもいましたので、また釜石シーウェイブスRFC(以下、釜石SW)のことも知っていて、ラグビーを楽しむということはしっかりできているので、そういった部分ではチームの中で若い選手たちにもポジティブな影響を与えてくれる。コーチでもあるので、そういう存在だと思います」

──序盤、イーブンボールに飛び込めなかったのはこの試合に限ったことか、シーズンをとおしてのことか、原因が考えられるとしたらどういうことなのか教えてください。

「チーム全体のプレー自体は良くなっていると思うのですが、そういった勝ちを拾うではないですけど、マイボールにするというところは欠けているところがちらほら見える部分です。例えばボールを蹴ってみたり、イーブンボールをさらに蹴って、チェイスするのもいいんですけど、まずマイボール確保をできるようにしたい。細かいところなんですが、そういった姿勢はもう少しほしいという部分は見えました」

──次節に向けて改善していくポイントを教えてください。

「目標、修正という意味では4位を目指すしかないので、来週何としても勝ってその先にある順位決定戦に臨みたい。そこで勝つことでまたホームでできる。ホームで順位決定戦をしたいと思っています。良くなっている部分が非常に多いので、ボールを持っていればいいアタックができますし、今日ボールを継続できなかった理由であるブレイクダウンのところはしっかりフォーカスして挑みたいと思います」

──今季、上位陣相手にも粘り強く最後まで戦えている理由はどこにありますか?

「いまやれることをベストでやる。釜石SWの伝統だと思うんですけど、絶対に最後まであきらめないというのはあると思う。最後、ほぼ負けが決まってしまってからの得点なので、なかなか評価しづらい部分はあるんですが、最後までフィットネスは高い状態であると評価できると思っています」

釜石シーウェイブスRFC
小野航大キャプテン

「特別な日に特別な場所でプレーするということで、強い思いをもって臨んだゲームでしたが、結果的には完敗。自分たちの力不足だと思います。

今日のゲームを体感してどう変われるかがこれから先の試合、重要なことになると思うので、ただの大敗というゲームにするのではなく、今日のゲームから感じたことを自分たちのプレーに還元していければいいと思います。

このレベルがトップレベルだと思いますし、ディビジョン1に行くにはこういうレベルで戦えないといけないというのはみんなが感じている部分。もう一度、自分たちがやらなければいけないことを確認して次のゲームに向けて準備したいと思います」

釜石シーウェイブスRFC
武者大輔選手

──今日の試合の感想を教えてください。

「『悔しい』の一言に尽きます。会場に来るときにも旗を振って出迎えてくれる多くの方々がいたので、試合前から湧き上がる思いがありました。結果で恩返しできなかったのが残念です」

──今後どのようにチームを鼓舞していきたいですか?

「当たり前のことを当たり前にできるチームにならないとディビジョン2から上がるのは本当に難しいと感じました。しっかり体を当てるなど、ラグビー選手として当たり前のことをできないと厳しいと思うので、残り少ないシーズン、少しでも良くなるように上げていきたいと思います」

釜石シーウェイブスRFC
落和史選手

──アーリーエントリーで今季初出場。率直な気持ちを教えてください。

「メンバー入りを告げられ、『やっと来たか』という少しの驚きもありましたが、うれしさのほうが大きかったです」

──これからどんなプレーを見せていきたいですか?

「得意なのがキックとパスなので、キックから得点につながるプレーや個人的にはもっとランニングとフィジカルの部分を伸ばしていきたいと思います」

釜石シーウェイブスRFC
片岡将選手

──今季初出場でした。どんな思いでピッチに入りましたか?

「最後まで大漁旗を振って応援してくださってくれる方々がいるので、とにかく最後まで釜石シーウェイブスRFCのラグビーを見せようとみんなに伝えたいと思ってピッチに入りました」

──3月12日、しかも首位チームとの対戦で今季初出場となりました。

「いずれにせよ入替戦に向かうことは決まっているので、絶対にこのチームをディビジョン2に残して来季、さらにチームを良くしてディビジョン2でもう1回戦えるように最後までやり切ろうと、今日をその始まりの日にしたいと思っています」

浦安D-Rocks

浦安D-Rocksのヨハン・アッカーマン ヘッドコーチ(左)、竹内柊平バイスキャプテン

浦安D-Rocks
ヨハン・アッカーマン ヘッドコーチ

「まず今日、お越しいただいた両チームのファンのみなさんに感謝申し上げます。そして東日本大震災が起きた12年前の昨日(3月11日)、被災した方々に心よりお悔やみ申し上げます。そういった特別な日に自分たちがプレーできることに対して敬意を示して、今日は対戦相手にも敬意を払った上でいいチャレンジになるようにという気持ちで臨みました。序盤はいいスタートを切り得点を重ねることもできました。あとは課題としていたセットピースも改善できました。もちろん80分間の中でミスもあったので、そういったところは改善しないといけませんが基本的に80分間、精度の高いプレーを保てたので今日は満足しています」

──8連勝が懸かる試合でした。どういったテーマで臨みましたか?

「今まで勝ってきたものの、セットピースの一貫性のなさから試合の流れを失う部分があったので、そういった部分では80分間プレーをし続けるということが自分たちに足りなかった部分でした。セットピースのところを改善するという意識をもって試合に臨みましたし、セットピースでボールが出たあとの2フェーズのプレーにもかなりフォーカスを置いていました。あとは長距離移動の遠征で試練を強いられるような試合でしたが、その中でもビジターゲームでフィジカルを出して、自分たちの課題を改善していけるかというのがこの試合に臨むにあたってのフォーカスポイントでした」

──大差での勝利が続いていますが、昇格を目指すにあたって、どのようにチーム作りを進めようとお考えですか?

「常に試合後のレビューで意識しているのは、まずは自分たち自身を見つめ直すということ。スタンダードを下げずに自分たちが求めている基準をセットしてそれを出すための練習を意識しています。スコアで大差がついたとしても、その大差で自分たちを見失わずに勝ち方にこだわり、どうやったら自分たちが日々成長できるか念頭に置いています」

──釜石を訪れるのは初めてですか?

「釜石は初めてで素晴らしいスタジアムがあると思います。アシスタントコーチとも試合前にコーヒーを買いに行くときに話していたのですが、通り過ぎる人々がすごい熱意を持っていてすごく『ラグビーのまち』だなと感じました。素晴らしい経験になりました」

──被災した街を歩いて感じたことはありますか?

「自分自身、災害を経験したわけではないので被災者たちの気持ちになることはあまりできないことではありますが、その中でも災害を経験してまた復興していくという、人々の強さを感じましたし、世界の舞台でも活躍する日本の強さのようなものを、そういった困難を乗り越えて規律正しく団結して困難を乗り越えていくという強さを感じました」

──昇格へ向けての到達度というのはいまの時点でどれくらいでしょうか?

「自分たちの目標を考えればもちろん入替戦が重要になってくると思うのですが、まず新チームがスタートしたときにチームとして団結すること、チームとしての文化を築くことから始まりました。その団結力やチームとしての文化が自分たちのリーグ戦や入替戦に生きてくると思うので、まず、シーズンで最上位のランキングを目指し、そこから入替戦に集中するということになっていきます。チームとして大事にしているのは団結力と文化を出していくことですが、一番の試練になるのは対戦相手がディビジョン1で戦い慣れている、トップで戦ってきているチームと入替戦で戦うことになるので、そこで強度と精度を欠いてしまわないことが重要です。自分たちが練習中にもっとこういうところを練習したほうが良かった。もっと精度高く練習すれば良かったと後悔しないようにいつも自分自身に矢印を向けて、あとはいいラグビーをする、それを楽しんでやるということを意識しています」

浦安D-Rocks
竹内柊平バイスキャプテン

「特別な試合に参加できたことをすごく誇らしく思います。この試合のためにサポートや準備してくれたファンの皆さんや関係者の皆さまに感謝申し上げます。

釜石シーウェイブスRFC(以下、釜石SW)がアグレッシブに来ると分かっていたので、それを上回って80分間戦うということができました。自分たちの中ではすごく実りのある試合になったと思います」

──ファーストスクラムからこの試合への意気込みを感じました。スクラムを振り返ってみていかがですか?

「特にファーストスクラムを自分たちはフォーカスしていて、フロントローのリーダーを任されている僕からアグレッシブに行こうという気持ちで臨みました。それが形に出たので今日は自分の中ではとてもよかったです。

釜石SWのスクラムは8人がまとまってくるのが特徴的で、ほかのチームとのスクラムを分析してきた中でもすごくいいスクラムを組んでいました。その強みを僕たちが上回って制圧しようという話をしていました」

──復興の象徴のスタジアムでプレーした感想を教えてください。

「すごく特別なものでした。その感謝をプレーで表そう、プレーで相手を完全に圧倒することが僕らの釜石SWに対するリスペクトだと思ったので、チーム全体でそれを遂行できたのは良かったと思います」

──ここまで全勝。強さの要因についてどのように考えますか?

「自分たちが今までやってきたことに対しての自信だと感じています。今まで自分たちはディビジョン1、2のどこよりもきつい練習をしてきたし、チームビルディングを重ねて、本当に自分たちが本気でディビジョン1優勝を来年狙っているので、自分たちがやってきたことへの信頼だと思います」

浦安D-Rocks
グレイグ・レイドロー選手

──ご自身のプレーを振り返ってみていかがですか?

「満足しています。フォワードがいい仕事をしてくれると自分の仕事もラクになるのでそういったフォワードの後ろでプレーできて光栄です」

──チームも快勝。どういったところが良かったですか?

「いいスタートを切ることができました。また、接点のところで勢いを止めることができていて良かったです」

──特別な場所で特別なタイミングの試合でしたがいかがでしたか?

「特別な場所でできるのは光栄ですし、自分たちの敬意を示す、あとは2011年に被災された方に敬意を示してできるということを本当に光栄に思いました」

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