2023.05.21NTTリーグワン2022-23 プレーオフトーナメント3位決定戦レポート(横浜E 26-20 東京SG)

NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン1 プレーオフトーナメント3位決定戦
2023年5月19日(金)19:00 秩父宮ラグビー場 (東京都)
横浜キヤノンイーグルス 26-20 東京サントリーサンゴリアス

ファフ・デクラークと田村優。名手2人が見せたビッグプレーが史上最高順位をもたらした

横浜キヤノンイーグルスの田村優選手。試合後はピッチに膝をつき、しばらく立ち上がれないほどだった

NTTジャパンラグビーリーグワン2022-23プレーオフトーナメント準決勝で昨季王者の埼玉パナソニックワイルドナイツに敗れた横浜キヤノンイーグルス(以下、横浜E)は、東京サントリーサンゴリアス(東京SG)との3位決定戦に臨み、26対20のスコアで接戦を制した。横浜Eにとって、3位はチーム発足以降、「史上最高順位」(安昌豪)。試合後の横浜Eフィフティーンは、試合外メンバーである“ライザーズ”とともに、勝利の歌で3位の喜びを共有していた。

プレーオフトーナメントに臨む前、田村優はあることを心に誓っていたという。

「プレーオフトーナメントの2試合は、僕とファフ(ファフ・デクラーク)がほかの選手にはできないことをやらなければいけないと思っていた」

南アフリカ代表のスクラムハーフと日本代表のスタンドオフで形成する“縦のホットライン”。今季、二人が奏でるハーモニーは対戦相手を大いに苦しめてきたが、東京SGとの3位決定戦は、田村の心の誓いを実証するかのように、それぞれが異次元のプレーでチームを勝利に導いた。

例えば後半6分。ファフ・デクラークは7対15という劣勢の中、ワールドクラスのプレーで秩父宮ラグビー場の観衆を魅了した。モールの展開からボールを引き出したファフ・デクラークは、対峙した相手にワンフェイントを入れてボールを運ぶと、前方にボールを蹴り出し、そのボールを自らが回収。そのままトライまで持ち込んだ。

「チャンスだと思ったので、躊躇せずにあのプレーを選択した」

劣勢の空気感を覆す“ビッグプレー”。このスーパートライで「チームにエナジーを与えた」ファフ・デクラークは、自らが逆転に向けた“起爆剤”となった。

そして、勝負を決定づける逆転トライを導いたのが田村だ。後半26分だった。梶村祐介のパスを受けた田村は相手をあざ笑うかようなチップキックでグラウンダーのパスを小倉順平に通すと、最後は松井千士がこの日2つ目のトライを奪った。スコアは24対20。さらに小倉がコンバージョンゴールも決め、横浜Eが3位決定戦を制した。

ノーサイド直後、「もう体がしんどかった」ファフ・デクラークも、殊勲の田村も、一歩も身動きが取れなかった。ピッチに膝をつき、しばらく立ち上がれなかったファフ・デクラークと田村。その光景は、2人のスター選手がチームの勝利のために、すべてを出し尽くした証だった。

(郡司聡)


ベテランも若手も戦い続けた。来季の栄光のために東京SGが見せた誇り高き前進

東京サントリーサンゴリアスの小澤直輝選手。昨季のベストタックラーでさえも、厳しい競争にさらされていた

東京サントリーサンゴリアス(以下、東京SG)、2年目のジャパンラグビー リーグワンはプレーオフトーナメント準決勝に続いて3位決定戦でもあと一歩届かず、シーズンを4位で終えることとなった。

だが、敗れはしたもののこの2試合とも東京SGが掲げる「アグレッシブ・アタッキング・ラグビー」を具現化するための3つのスピリッツ「プライド」「リスペクト」「ネバーギブアップ」が凝縮された試合だったと言える。

中でも感じたのは「プライド」だ。

3位決定戦後、今季を振り返り、「ノンメンバーの成長を感じた1年。今日はその代表としてプレーしよう、というのが僕の中のプライドだった」と語ってくれたのは、34歳のベテラン、小澤直輝だ。昨季のベストタックラーにもかかわらず、今季は3位決定戦も含めて出場はわずか2試合。そのひさしぶりの出場で意地のトライを決めてみせた。

「シーズン第1節に向けてのノンメンバーのトレーニングと比べて、シーズン終盤はもう全然違います。“誰が出ても同じラグビーをする”という東京SGのプライドを具現化するために、みんながシーズンをとおしてメンバーにチャレンジし続けた。その成長は目を見張るものがあります」

実際に成長ぶりを見せてくれたのは、今季12節まではノンメンバー。そこからプレーオフトーナメント2試合で先発に抜擢されたルーキー・細木康太郎。3位決定戦でも得意のスクラムを制し、雄叫びを上げる瞬間があった。それでも細木は「まだ足りない」と言葉を続ける。

「今日のパフォーマンスでは合格点が出せない。まだまだチームの中でやれることがある。波のある選手ではなく、常に高いパフォーマンスが出せるプレーヤーになれるように」

奇しくも、この日のメンバーには2022年度入部の同期が4人(小林賢太、雲山弘貴、河瀬諒介)も名を連ねた。その切磋琢磨にもプライドをのぞかせる。

「今日は出ませんでしたが普段なら山本凱がいつもメンバーですし、同期で集まって『もっと出たいな』と話すこともあります。ただ、周りが出ていても自分が出なければ意味はない。もっと『自分が自分が』と自分に矢印を向けて取り組んでいきたいです」

ベテランも戦い続けた。若手も競い続けた。敗れはしたものの、チームはプライドを持って前に進んだ。その積み重ねの先に、来季こそ栄光が待っている。

(オグマナオト)

横浜キヤノンイーグルス

横浜キヤノンイーグルスの沢木敬介監督(右)、梶村祐介キャプテン

横浜キヤノンイーグルス
沢木敬介監督

──後半は攻め合う中でも、東京サントリーサンゴリアス(以下、東京SG)を相手に勝ち切ったことは感慨深いのでは。

「自分たちが1シーズン取り組んできたことや1つの成長を、仲間やファンの方々に見せようと1週間準備をしてきました。いつもであればトライを取られたあと、ズルズルといきそうな時間帯でもカジ(梶村祐介)たちリーダーが引っ張りながら耐えることができました。それは成長したことです」

──史上最高の3位を獲れたこと、一度も勝てていなかった東京SGに勝てたこと、田中澄憲監督に勝てたこと。どれが一番うれしいですか。

「新しい景色を見られたことと、チームが成長した姿を見せてくれたのは喜ばしいことです。僕やカジが元サントリー(東京SG)所属だとか、そういうことは関係なく、サントリー(東京SG)に対しては、すごく苦手意識があったと思います。接戦に持ち込めるけど、勝てない。それが強いチームということなのでしょうけど、公式戦に勝ったことでさらに自信がつくと思います」

──ファフ・デクラーク選手と松井千士選手の今日の出来はいかがでしたか?

「キックオフで松井のサイドに蹴って、そのボールをダイレクトで取ってトライするという戦術を狙っていたのですが、それをまだできていないので、松井はまだまだだと思います。でも良かったと思います。今日のファフは、ファフ・デクラークでした」

──試合後には「ライザーズ(ノンメンバーのチーム内での呼称)おめでとう」という言葉がありました。その胸の内を聞かせてください。

「前日練習後にメンバー外の選手たち(ライザーズ)は泣いていました。チーム愛がすごく出てきたなと思ったので、みんなで勝ち取った勝利です」

──例えば松井選手は最初の東京SG戦で先発出場しても、パフォーマンスは芳しくなかったですし、またチャンスが巡ってきても決して良いプレーはできていませんでした。でも信じて使い続けて、今日こうして結果を残しました。松井選手が代表的な選手というわけではないですが、なぜそこまでライザーズのメンバーを信じることができるのでしょうか。

「それは松井うんぬんではなく、僕の我慢強さではないですか(笑)。力があることは若いころから知っていましたし、7人制日本代表でプレーして、そこから15人制に戻ってきても、なかなかフィットしませんでした。確かにチャンスは与えましたが、それをつかみ取るかどうかは、本人次第です。今日みたいな出来を毎試合、フィジカルの面でも発揮しないと、もっと上のステージの選手になれないと思います。いまはそのための良い期間になっていると思います」

──梶村キャプテンの働きぶりはいかがでしたか。

「今日の試合はフィジカルやタックルの部分で良いレベルでプレーしてくれました。あのレベルのプレーを毎試合やってもらうぐらいにならないと。ただ、キャプテンをやるといろいろなプレッシャーもあるし、ミーティングの準備や話す言葉など、いろいろなことを先回りしてやらないといけない立場です。どういう発言をすべきか。考えることも多いですが、それによって成長できます。そのプレッシャーを力に変えることができれば成長のスピードも速くなると思います。まだカジはキャプテン1年目で何が大事か、そういうことにも慣れてきていると思います。さらに良いリーダーになると思います」

──東京SGのパフォーマンスはどう見えましたか。

「良い若手選手がたくさんいますし、今日の試合も若手の選手をたくさん起用して、若手を育てようという姿勢が見られます。準決勝でもクボタスピアーズ船橋・東京ベイと、あれだけのゲームをしているわけですから、もっともっと良くなると思います」

──今後の横浜キヤノンイーグルスはどんなところに成長の余地がありますか。

「すべてにおいて、成長の余地があると思います」

──1シーズン、応援していただいたファンのみなさんへメッセージをお願いします。

「ファンのみなさんの力を感じた1年でした。とても感謝しています。日曜日にファンのみなさんとの感謝祭もありますし、その場で感謝の気持ちを直接伝えたいと思います」

横浜キヤノンイーグルス
梶村祐介キャプテン

──3位になったのもうれしいことだとは思いますが、古巣を相手に3位を勝ち取れたことに対してはどんな思いでいますか。

「横浜キヤノンイーグルス(以下、横浜E)として、1つのターゲットだったトップ4入りを果たせましたが、さらに上の順位を獲りたいというチームの空気感もありました。ただ、3位という成績はチームにとって大きなことだと思います。また、古巣である東京サントリーサンゴリアスさん(以下、東京SG)は、ほかのチームと対戦するときとは違うモチベーションになる相手です。そういう意味でも勝ったことがない相手にプレーオフトーナメントという舞台で勝てたのも大きいことだと思います」

──3位決定戦の相手が東京SGになったことは、さらなる発奮材料になったのでしょうか。

「ほかのチームメートも東京SGには負けたくないという気持ちはありましたし、『この1年間で積み上げてきたことを出していこう』と、その上で『勝って終わろう』という話はしてきました」

──1シーズン、キャプテンを務めたことで得られたものはどんなことでしょうか?

「横浜Eは僕以外にもリーダーを経験してきた選手が多いチームなので、グラウンドで一番チームを引っ張っていきたいと思っていました。言葉でどうこうではなく、パフォーマンスで引っ張ることは意識してきました。昨季よりは試合ごとの波は減ったと思いますし、チームを引っ張るという意味でも、少しずつ良くなっていったシーズンになったと思います」

──今日のファフ・デクラーク選手について。

「今日のファフ(・デクラーク)はいつも以上にフォワードの選手にプレッシャーを掛けていました。また、『スイッチを切るな』と、自分たちのフォワードの選手にずっと言っていました。いつもであれば、緩んでしまうような時間帯でも、彼がそうやって働き掛けることによって、80分間チームをコントロールしてくれました。練習では特に言葉を発するタイプではないですが、試合では常にチャンスをうかがっているので、そういったアグレッシブな姿勢がチームに良い影響を与えたと思います」

──1シーズン応援していただいたファンのみなさんへメッセージをお願いします。

「1シーズンをとおして、ファンのみなさんの熱量をとても感じました。それはホストゲームでも、ビジターゲームでも感じたので、感謝しています。来季はもっと上の順位を目指していきますので、また熱い応援をお願いします。1シーズン、ありがとうございました」

東京サントリーサンゴリアス

東京サントリーサンゴリアスの田中澄憲監督(右)、堀越康介 共同キャプテン

東京サントリーサンゴリアス
田中澄憲監督

──準決勝が終わってから今日までどのような気持ちで準備をしましたか?

「準決勝から中4日での3位決定戦だったわけですけども、モチベーション的にもフィジカル的にも難しい期間でした。それでも最後、しっかりと勝ち切ることをチームで統一して準備をしてきました。主にはリカバリー、そして頭の中をクリアにすることで、チーム一丸となってしっかりと準備ができたと思います」

──若い選手も先発で起用する布陣になりました。難しさはありましたか?

「本当に今回の準備はとても難しくて。中4日という日程で、準決勝も激しい試合をしましたので、これまでの陣形をなかなか維持できない。それでも、シーズン中から誰が出ても対応できるように準備はしてきましたし、その厳しいシーズンを重ねてきて若手も育ってきていますので、自信を持って送り出すことができました」

──サム・ケレビ選手とアーロン・クルーデン選手、途中で交代した理由は?

「一つには外国人選手の入れ替えの部分。また、サム(・ケレビ)に関しては復帰2戦目、しかも復帰してから初先発になりますから、当初の予定では60分がマックスで考えていましたが65分まで引っ張った形です。彼も65分まで頑張って、しっかりチームに貢献してくれたと思います」

──今季を振り返ってみてどのような思いを抱いているのか。そして、来季に向けての抱負をお願いします。

「年々リーグ自体もタフになってきていますし、世界から見てもこのNTTジャパンラグビー リーグワンは魅力あるリーグになるポテンシャルも持っていると思います。その中でも若い力が成長してくれましたし、選手全員がチーム内の競争を経験しながら、自分たちのラグビーはどのようなものかを考える時間も持てたと思います。

ただ、結果としては4位で終えました。今季獲得できたものはそういう『悔しさ』が一番なのかなと思います。それを忘れることはできないですし、その悔しさを来季につなげていくことを選手たちには期待したいです」

東京サントリーサンゴリアス
堀越康介 共同キャプテン

──準決勝が終わってから今日までどのような気持ちで準備をしましたか?

「横浜キヤノンイーグルス(以下、横浜E)相手にどうこうというよりは、まず自分たちで何をやるかというところにフォーカスしました。その点はいい準備ができたと思います」

──中4日ということで後半に少しパワーダウンしたようにも見えました。中4日の影響は?

「あるといえばあるんですけど、期間の短さは横浜Eさんも一緒ですから。ただ、後半はペナルティが多かったと思います。自分たちのリズム感を出せず、チャンスでも一発でいいキックを返されてしまった。横浜Eさんも我慢強くて、僕たちがそのプレッシャーを受けてしまったと思います」

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