NTTジャパンラグビー リーグワン2024-25
ディビジョン1 第17節(リーグ戦)カンファレンスB
2025年5月3日(土)14:30 秩父宮ラグビー場 (東京都)
クボタスピアーズ船橋・東京ベイ 29-29 埼玉パナソニックワイルドナイツ
閃光は駆け、ヒーローの系譜に名を連ねる。ドラマチックな名勝負の行方は次章へ

春の潤いをかすかに残す初夏の陽光は、真昼の白色から夕陽のオレンジへとその色彩を変えようとしていた。ハリウッド映画のカーチェイスのような白熱したバトルに15,588人の観衆が集った秩父宮ラグビー場が巨大な感情の渦と化した中、後半39分30秒、タッチライン際を閃光のように走り抜けた男がいた。
ディビジョン1首位の埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)と2位のクボタスピアーズ船橋・東京ベイ(以下、S東京ベイ)の首位攻防戦。前半8分に埼玉WKが先制トライを決めると、同16分にはS東京ベイがスコアを取り返して反撃する。選手の肉体が激しく衝突するたびに、スタジアムにはうねるような歓声が響き渡った。そして、後半35分にはオッキー・バーナードがトライエリアにボールをねじ込んで埼玉WKが再逆転。スタンド席から、絶叫にも似た歓声と落胆のため息が漏れた。
「こういう大一番で抜擢されるということは、何かしらコーチ陣の意思があると思うので、自信をもって試合を楽しみたい」と、複数のポジションをこなすユーティリティーバックスの山田響は戦前に語った。右ハムストリングの肉離れで戦線から離れていた山田にとって、約2カ月半ぶりの実戦。けがからの復帰直後の抜擢というチームからの信頼に、彼は渾身のプレーで応えた。
残り試合時間はわずか30秒。リカス・プレトリアスからボールを託された瞬間、一気にギアを上げ、約50mの距離をトライエリアに向かって疾走。迫る追走をかわし、執念でトライエリアに飛び込み、同点トライをもぎ取った。欠場中は「けがをする前よりも強くなることを一番の目標にしていた」と、静かに目の前の壁と向き合い続けたという。だからこそ、「最後、あのような力強いプレー」ができたと振り返る。
ラストプレーとなったバーナード・フォーリーのコンバージョンゴールは決まらず、引き分けという名の余韻がスタジアムを包んだ。山田は「もっと(トライエリアの)真ん中までボールを持っていければ、ナード(フォーリー)も良いキックを蹴っていたのではないか」と悔やむが、敗者なき激闘に終わったからこそ、それらの一つひとつがドラマチックな意味をもつ。
勝負の行方は次章へと預けられた。だからこそ、物語は続く。ヒーローは、いつも突然舞い降りる。第7節の横浜キヤノンイーグルス戦でのハラトア・ヴァイレアしかり。第14節のリコーブラックラムズ東京戦での松下怜央しかり。そして、山田がそこに名を連ねた。プレーオフトーナメントの舞台で、また会おう。この日に抱いた興奮を、歓喜の涙に変えるために。
(藤本かずまさ)
クボタスピアーズ船橋・東京ベイ

クボタスピアーズ船橋・東京ベイ
フラン・ルディケ ヘッドコーチ
「こんにちは。とても激しい、どちらが勝ってもおかしくないバトルでした。お互いに今日の試合のために積み上げてきた(ものが出た)、良いバトルだったと思います。両チームともに失望感はないと思います。私たちのゲームの終わらせ方については、最後までギブアップせずに、チームの力を示すことができたと感じています。今後につながるスパイスとして良い要素がありました。勝つチャンスを見せることはできたと思います。
また、特にシーズンの終盤になると、暑さのことを考慮する必要があります。プレッシャー下でのこういう暑さにどれだけ耐えられるかも重要です。そして、前半のキックゲームにおける学びを生かして、後半はプレッシャーをさらに掛けることができたと思います」
──山田響選手の評価を聞かせてください。
「山田選手については、信頼をずっと置いていました。実際にできる選手で、能力もスキルも、しっかりある選手です。今日も必要なときにスコアをすることで、力を示してくれました。
彼はハムストリングのけがをして、そこから復帰して3週間程度しか練習できていませんでした。私たちは常に彼の能力を信頼していました。(欠場中も)S&C(ストレングス&コンディショニング)コーチが、彼を育ててくれました。彼はいつもチャレンジを見せてくれているし、今日もそうでした」
クボタスピアーズ船橋・東京ベイ
江良颯選手
「この試合に向けてしっかりチーム一丸となって、スナイパー(メンバー)、スポッターズ(ノンメンバー)どちらもすごく良い準備ができたと思います。その中で、ストーミー(スコット・マクラウド アシスタントコーチ)から『過去と未来を見ずにしっかりといまを見続けろ』と言われ、この試合にフォーカスし、チーム一丸となって挑みました。先のことを考えるのではなく、一つひとつしっかりとプレーを続けた結果、このような結果になったと思います。全然満足はしていないですけど、この引き分けという結果に対して、チャレンジした部分をセレブレートしないといけないと思います。
これから、(次節の)トヨタヴェルブリッツ戦、プレーオフトーナメントに向けて、チーム一丸となれる良い機会だと思います。一つひとつ、6月1日に行われる決勝で勝ち、優勝するために頑張っていきたいと思います」
──今日の試合でテーマとして掲げていたのはどのようなことですか?
「“スタンダード”というところを求めてチームとしてやってきました。そのスタンダードを、前半の入りから見せ続ける。プレーにおいても、一つひとつの正確なプレーでスタンダードを見せ続けるということをやってきました。難しくなったときも、そこにしっかりと戻れるという、フォーカスするポイントがあったので、そんなに焦ることなく、しっかりと最後は追い付くところまでいけたかなと思います」
──これからプレーオフトーナメント、そして優勝に向けてどのようなことが必要だと思いますか?
「本当に僕たちのスタイルは変わらないと思います。強みを前面に出しつつ、その中で磨き上げるところを磨き上げるために何をすべきか、フラン(・ルディケ ヘッドコーチ)やコーチたちからしっかりと教えていただけると思います。あとは、本当に自分たちを信じて、自信をもってプレーしたいと思います」
埼玉パナソニックワイルドナイツ

埼玉パナソニックワイルドナイツ
ロビー・ディーンズ監督
「今日は本当にラグビー日和だったと思います。良い競争ができました。結果は満足できるものではありませんでしたが、最後の場面で負けてしまう可能性があったことを考慮すると、そこはハッピーだったかなと感じています。これから自分たちが先に向かっていくための、良い準備になりました。
また、ディラン・ライリー選手、ラクラン・ボーシェー選手、山沢拓也選手たちがこのように復帰して、80分間プレーを続けられたということは、私たちにとってプラスになったと考えています」
──今日の試合では、深い位置まで攻め込むと確実に点を取っていたと思います。チームのアタックについてはどのように評価していますか?
「非常に良かったと思っています。大きい選手たちが立ちはだかって、勢いを作ることが難しい対戦相手ではありました。ですが、勢いがついて、うまく効果的にアタックできたのではないかと思います」
埼玉パナソニックワイルドナイツ
坂手淳史キャプテン
「本当に良い天気で、たくさんのお客さんの中でプレーできることがすごく楽しかったです。プレー的にも、やりたいことができた場面と、相手がやりたいことをやってきた場面が、多々見えた試合だったと思います。結果に関しては自分たちが欲しいものではなかったですが、プロセスや自分たちのプレーの質という部分では、良い成長が見られました。これからのレギュラーシーズン最後のゲームとプレーオフトーナメントに向けて、良い経験になったと思います」
──今日の試合にテーマとして掲げていたことはどんなことですか?
「いろいろな局面があると思いますが、そこでしっかりと、一つひとつの局面で勝っていくことをテーマにしていました。特に相手のスクラム、ラインアウト、モールは強力で、自信をもっている部分ではあると思うので、そこに対して戦っていくこと。ブレイクダウンの周りだったり、アタックのところのキックの競り合いであったり、いろいろな局面がラグビーの中にはありますが、その局面でしっかり勝っていくことにフォーカスしながら臨みました」
──次節で勝利すると、2位以内が確定します。その点についてはいかがですか。
「その勝負も大事ですが、それ以上に最後のホストゲームになるので、良い準備を続けて、来週の試合にもベストをもっていけるように、勝てる準備をしたいと思っています」