NTTジャパンラグビー リーグワン2024-25
ディビジョン2 第7節
2025年3月8日(土)13:00 釜石鵜住居復興スタジアム (岩手県)
日本製鉄釜石シーウェイブス 35-24 レッドハリケーンズ大阪
感動と歓喜に包まれた復興祈念試合。苦難を乗り越えた先に待っていた光

リーグワンのホストゲームにおけるクラブ史上最多観客数を更新する4,426人が釜石鵜住居復興スタジアムに駆け付けた東日本大震災復興祈念試合。日本製鉄釜石シーウェイブス(以下、釜石SW)はこの大きな意味をもつ試合で立ち上がる姿、そして本来の力を示し、会心の今季2勝目を手にした。
“もっている男”がこのビッグゲームでも強い輝きを放った。
「岩手のみなさんのパワーをもらってトライすることができました。たくさんの(ファンが集まる)中で(勝利)できて幸せです」
岩手県出身の阿部竜二は特別な思いで試合に臨んだ。第3節の清水建設江東ブルーシャークス戦で右足首をねん挫し、4試合ぶりの出場となった阿部は「試合勘の部分で苦戦した」ものの、「この試合には絶対に出たかったし、絶対に勝ちたいという思いが自分自身を後押しした」と、自らを奮い立たせた。チームとして連敗が続く中、前半戦最後の試合で首位を走ってきたチームと戦う大一番は釜石、東北に復興の活力と感謝を示す試合でもある。その舞台で自身リーグワン初のハットトリックを記録し、勝利に大きく貢献。出色のパフォーマンスを見せた昨季のD2/D3入替戦第1節以来となる二度目のプレーヤー・オブ・ザ・マッチに選出された。
アタック同様、収穫となったのは我慢強いディフェンスだ。「ディフェンスで我慢できたことがトライにもつながりました。自分たちの目指すディフェンスができて、そこから流れをつかめた、いい試合だったと思います」と胸を張る。
チームは前半、2枚のイエローカードで二人が一時退場。13人で戦う時間帯もあったが、我慢を重ね、失点を1トライのみに抑えたことがリードのままハーフタイムを迎えることにつながった。また、阿部自身も後半9分、スタンドがどよめく豪快なタックルで相手を倒し、ターンオーバー。そこからラインアウトを獲得し、後半11分のチーム5トライ目につなげた。
人生もラグビーも我慢の時間は存在する。しかし、苦境を確かな意志と姿勢で乗り越えた先には、きっと“いいこと”が待っている。釜石SWがそんなメッセージを投げ掛けるようにして終えた復興祈念試合。試合後のスタジアムは、祈りを捧げる人たちの歓喜と感動で包まれていた。
(髙橋拓磨)
日本製鉄釜石シーウェイブス
日本製鉄釜石シーウェイブス
須田康夫ヘッドコーチ
「本日は東日本大震災復興祈念試合として行われましたが、釜石シーウェイブスとしてはここで巻き返しを図りたいという部分もありましたし、復興祈念試合ということでしっかり勝利したいということも意識して臨みました。我慢する時間も長かったのですが、選手たちは勝ちたい気持ちを前面に出して、最後まで走って勝利してくれました。そこに尽きると感じています」
──前節以前に比べてラインアウトが改善されたと思います。どのような準備をされてきたのでしょうか。
「オプションを増やしたことと、考え方を少し変えたところがあります。ラインアウトのテンポを上げるという面でも今日はよくできていたかなと思います。あとは『考え過ぎずにシンプルにオプションを選ぼう』というところを加えただけです。まだ少しエラーはありましたが、プレッシャーを受けた部分がある中で改善はできたかなと思います」
──今日の試合のテーマに「立ち上がる」ことを挙げていましたが、選手たちが見せた姿勢をどう評価されますか。
「素晴らしかったと思います。起き上がって、立ち上がって次のプレーに参加することに加えて、アティチュード(姿勢)の部分も見せられたと思っています。復興祈念試合にふさわしい態度だったと感じています」
──前半30分からハーフタイムまでの時間帯、何度もトライを奪われそうになりながら、我慢して失点を許さなかったことも試合結果に影響を与えたと思いますが、どのように捉えていますか。
「まさにそうですね。押し込まれそうになった場面もあったのですが、しっかり我慢してくれたのは大きかったと思います。今節だけでなく、前節もそういったケースがかなり多く見られたのですが、そこでのスタンダードを下げずにセットピースの改善をしてこのようなゲームができたので、その頑張りというのは今回だけのものではなくレベルアップしている部分だなと非常に感じています」
──阿部竜二選手が復帰戦でハットトリックの活躍を見せましたが、彼のプレーをどう評価されますか。
「結果として良かったとは思いますが、最初のタックルはダメですね(笑)」
──今季初出場となった村田オスカロイド選手の起用の理由と評価について教えてください。
「前節は13番のところでけっこうイージーなエラーがあったので、ラグビーですから(違う選手に)チャンスを与えるということで起用しました。彼はそのチャンスにしっかり応えるハードワークをしました。きっと(今季メンバー外が続いたことに対して)思っている部分もあったのではないでしょうか。非常に評価できる活躍だったと思います」
──今日の試合の収穫はどんなところにあると考えていますか。
「収穫としては自信です。もともとこういう力があるというのは選手たちも分かっていると思いますが、うまくゲームで(本来の力を)出せないことについてモヤモヤしていたと思います。そういった部分で今季首位を走ってきたチームに対して出せたことによって『自分たちのことを信じていい。疑わなくていい』と感じられた部分が一番の収穫だと感じます」
──後半立ち上がりから3トライを決めたことが大きかったと思いますが、ハーフタイムにはどのような修正を行ったのでしょうか。
「これまでやってきたことの再確認とチョップタックルの意識をもっと高めるといった部分だけで、特別な何かというものはありませんでした」
──後半11分のトライ以降、自陣でのプレーが多くなった印象ですが、次の試合に向けてどういった修正をしていこうと考えていますか。
「まずはセットピースの(ボール)獲得率が低いと思っています。そこから自陣に押し込まれて、脱出できずにまたターンオーバーしてしまうということが続いたので敵陣でプレーした印象がないのだと思います。改善すべきはトライを取ったあと相手のキックオフからのレシーブでボールを失う部分だと思います。ああいう重要な局面でボールを失ってしまうと勢いもなくなってしまいますので。そういったキーモーメントの部分は修正していきたいなと思います」
──次節もホストゲームとなります。そこに向けての意気込みをお願いします。
「前節のレッドドルフィンズさんとの試合ではやるせない形で敗れてしまった部分が大きいと思っています。ラインアウトの(ボール)獲得率50%、スクラムも(ボール)獲得率57%というゲームに勝つには難しいセットピースの数値だったのでそこを修正して挑みたいと思っていますし、そこが修正できれば勝てると確信しているのでそこを達成することを意識してやりたいと思います」
日本製鉄釜石シーウェイブス
村上陽平キャプテン
「東日本大震災復興祈念試合ということで、試合前からチームのみんなには『特別な試合だということを意識してプレーしよう』と伝えていましたし、それが結果に結び付いたことにひと安心しています。試合の総括としてはイエローカードを2枚出してしまうなど、厳しい時間帯もすごく多かったと思いますけど、その中でも一人ひとりがカバーに走るなどあきらめずにディフェンスをし続けられたことが今日の勝利の大きな要因になっていると思います。ただ、改善すべきポイントもあります。3月は4連戦ですし、シーズンはまだ半分しか終わっていないので、しっかりと切り替えて後半戦に弾みを付けられるように、また来週からいい準備をしてやっていきたいなと思います」
──ラインアウトの改善については、試合の中で修正ができたのでしょうか。
「試合の中での修正というよりは、準備してきたことがうまくいっていたので、それを使う形でした。ただ、うまくいかなかったときの打開策はあることを常にチームメートには伝えていました」
──前半、2枚のイエローカードで13人になった時間帯を乗り越えられたことも大きかったと思いますが、どんな声掛けをしていたのでしょうか。
「我慢するしかないと思っていました。基本的にチームのディフェンスとしては前に出てプレッシャーを掛けることを意識していますけど、人数が少ない中で前に出過ぎるとギャップが大きくなってしまうので、そこはコミュニケーションを取りながら前に出過ぎないように『コネクトしてスペースを埋めるというところを我慢してやっていこう』と話していました。一度、トライは奪われましたけど、そのあとも『13人の内はこの形で我慢するしかない』と話していましたし、結果としてそこで我慢できたことが80分間我慢し続けられたことにつながったと思います」
──今日の試合は復興祈念試合であり、大船渡市の山林火災がある中での試合でしたが、どのような思いをもって試合に臨んだのでしょうか。
「みなさんに元気になってもらう、活力をもってもらう、そういうことを私たちはラグビーをプレーすることでしかできないと思っています。だからこそ、『グラウンドの中でそれを体現すること、気持ちのこもったプレーをすることが大事だ』とメンバーに話しました。それが今日の結果につながったのが良かったと思います」
──今日の勝利は後半戦に向けてどんな影響をもつと感じていますか。
「上位を争っているチームに勝ったことは勢いにつながると思います。ただ、改善するポイントは複数あると思うのでしっかり改善して、今日のハードワークをスタンダードにして後半戦を戦っていきたいです」
──試合を見て、勝利を喜んでいる地域の方がたくさんいると思いますが、今後どのような姿を見せていきたいですか。
「引き続き、われわれが気持ちのこもったプレーを見せることで、みなさんを勇気付けたり、活気付けたりできるように頑張っていきたいと思います」
──今日は昨季の復興祈念試合を上回る4400人以上(4,426人)のファンが来場しました。釜石コールも普段以上に熱いものだったと思いますが、プレーしていてどのように感じていましたか。
「今日の勝利はメンバー一人ひとりのハードワークもありますが、みなさんの釜石コールが本当に選手たちの力になりましたし、それが勝利につながっていると言っても過言ではないかなと思います。本当にありがたかったです」
──後半立ち上がりの3トライについては、どんなことが良くなった結果生まれたものだと捉えていますか。
「ラッキーパンチみたいな部分もありましたけど、いつもは後半の立ち上がりにどこかふわっとした感じで試合に入ってしまって、受けに回ってやられるケースが多かったので、『開始の10分からこっちがしっかりモメンタムを作って、相手にプレッシャーを掛ける』ということを共有して、それをプレーできたことが3トライにつながったのかなと思います」
──レッドハリケーンズ大阪の松川功ヘッドコーチは「釜石に非常にプレッシャーを掛けられた」という話をしていました。そのあたりの手ごたえについてはいかがですか。
「ブレイクダウンのところでプレッシャーを掛けてスティールを狙うだったり、乗り越えていくところだったり、タックルからサポートプレーまで終始プレッシャーを掛けられたことが良かったかなと思います」
──先ほど課題についても話されていましたが、次節に向けてどんな修正が必要になってきますか。
「やはりイエローカードを2枚出してしまっているので、そこのディシプリンのところ。13人になってやっと『ディシプリンを守ろう』ではなく、最初から規律を守ることを一人ひとりが頭に入れなければいけないと思いますし、キャプテンとしてもそこは声掛け、アプローチしていかなければいけないところだと感じています」
──次節もホストゲームとなります。そこに向けての意気込みをお願いします。
「ヘッドコーチからもありましたが、セットピースの部分と今日のハードワークをスタンダードにして次の試合でも相手よりも高いワークレートでプレーし続けなければ釜石は勝てないと思っていますので、そこは次の試合でもやり続けなければいけないところだと思います」
レッドハリケーンズ大阪
レッドハリケーンズ大阪
松川功ヘッドコーチ
「素晴らしい環境の中で今日ラグビーができたことが良かったなと思っています。釜石シーウェイブスさんの運営の方、協会の皆さま、レフリーの皆さま、ありがとうございました。今日は復興祈念試合ということで、釜石さんも激しくこられて、自分たちも激しくいったんですけど、いい試合はできたかなと思います。見た方に少しでも元気を感じてもらえたのかなと思います。
試合の総括としては前後半通じて、釜石さんのプレッシャーの前に自分たちの形を崩してしまったところが多く、多くの時間を釜石さんの時間にさせてしまった。点数的にも大きなプレッシャーを与えられたので、そこから自分たちの形を少し崩して焦ってしまったというところです。次週からもう一回自分たちがやらなければならないことを見直して、そこを徹底してチームとして成長できるようにやっていきたいと思います。ありがとうございました」
──今季は少ないチャンスを決め切って首位を走ってきましたが、今日は決め切れずに終わる場面も多く感じられました。どのように受け止めているか。そしてその要因をどのように考えていますか。
「われわれは少ないチャンスでトライを取り切って勝ち星を挙げてきました。今日もチャンスはあったと思います。釜石さんのプレッシャーがある中で、予想していなかったハンドリングミスがあったり、『この選択をすればトライまでいけるのではないか』という場面で(別の選択をして)フィフティ・フィフティのパスをつないでみたり、そういうところで(トライを)取り切れなかった。そういったところからスコアにつながらず、自分たちでプレッシャーを感じて『またすぐ次で取らなければいけない』という思いから崩れてしまったのかなと思います。次週はそういった場面でも自分たちの形で取り切る。慌てずに急がずに一つひとつを丁寧にプレーすることにフォーカスしてやっていけたらなと思っています」
──今日はペナルティ、特にオフサイドが多く出てしまっていた印象です。ここまでペナルティ自体が少ないチーム状況の中、今日こうなったことについてはどのように分析していますか。
「釜石さんは非常にフィジカルなチームですし、今節は復興祈念試合ということもあるので、『コリジョンのところはしっかり前でアグレッシブに止めていこう』という話はしていました。コリジョンのところではしっかりファイトできたのですが、そこに至るまでの部分で焦りが出て、自分たちから立ち位置の部分などの形を崩してしまったことでオフサイドが多くなってしまったのかなと思います」
──今日でレギュラーシーズン前半戦が終わりました。ここまでをどのように総括されますか。
「われわれの強みがディビジョン2の中で表現できたと思いますし、弱みも出たと思います。そして、自分たちの特性にも気付けたのかなと思います。後半戦はそこを色濃くというか、自分たちの良さをさらに良く、自分たちの弱さを見つめ直して削っていくような作業を日々、丁寧にやっていけたらいいシーズンになるのではないかなと思っています」
レッドハリケーンズ大阪
山口泰輝バイスキャプテン
「まずは協会の皆さま、釜石シーウェイブスの皆さま、本当にこのような環境、会場を作ってくださりありがとうございます。試合の総括としては、前半はお互いにペナルティやシンビンが多いルーズな試合展開だったと思いますが、後半立ち上がりに勢いのあるアタックをされてトライを取られたことで自分たちが波に乗れませんでした。80分間をとおしてコリジョンのところで受け手になってしまいましたし、アタックの部分では勢いに乗ろうという場面で自分たちのミスが起こり流れをつかめなかったゲームだと思います。ただ、今月は3連戦が残っているので、しっかりいい準備をして、今日の課題を修正しながら、RH大阪らしいアタック、ディフェンスができたらいいなと思います。今日はありがとうございました」
──今季は少ないチャンスを決め切って首位を走ってきましたが、今日は決め切れずに終わる場面も多く感じられました。どのように受け止めているか。そしてその要因をどのように考えていますか。
「松川ヘッドコーチと重なる部分もありますけど、今までの試合では準備してきたことが出せて、取るべきところで取り切ることができていました。今日は取り急いでしまった部分があって、今まではチームとして戦ってきましたけど、最後の部分で個人でのプレーになってしまったり、一人ひとりがそれぞれ個人でどうにかしようとしたりするところがあり、チームではなく個人で戦っていた部分がありました。そこは見つめ直して、一人ひとりではなくチームで戦う。ほかのチームに比べてスーパースターのような選手はいないので、そこは15人、試合に出ている選手が団結してチームでアタックして、チームでディフェンスすることが自分たちの持ち味だと思うので、そこを練習から見つめ直して取り組んでいきたいと考えています」
──後半立ち上がりで3トライを奪われたことについて、どのような要因があったと考えていますか。
「ハーフタイムに『後半立ち上がり20分間が大事』ということは話していました。釜石シーウェイブスさんの準備してきたアタック(にやられた部分)もありましたが、自分たちのミスから失点につながった場面もあるので、自分たちのミスを修正することが必要ですし、15人全員がつながってディフェンスすることが大事だと実感しました」