NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン1 第8節
2023年2月18日(土)14:30 熊谷スポーツ文化公園ラグビー場 (埼玉県)
埼玉パナソニックワイルドナイツ 41-6 花園近鉄ライナーズ
“笑わない男”が受けた万雷の拍手。稲垣啓太、通算100試合出場
埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)が2試合ぶりのホストゲームで花園近鉄ライナーズ(以下、花園L)と対戦し、41対6で完勝。前半から4トライを挙げ主導権を握ると、最後までそれを手放さなかった。
日本代表でも主力として活躍する稲垣啓太がジャパンラグビー トップリーグ、リーグワン通算100試合出場を達成するということで注目が集まったこの試合は、入場のシーンから稲垣へのリスペクトにあふれていた。稲垣の名が最初にコールされると一人だけ少し先にフィールドに登場。背番号1の大きな背中がファンからの万雷の拍手を受け止めた。
「ここまでの感謝の気持ちを忘れずにフィールドに立ちました。ああいう形で一人だけでフィールドに入るのは初めてで。ファンのみなさんあってこその選手だと僕自身は思っているので、だからこそ節目の試合で自分のパフォーマンスを見せることができるのは本当にうれしかった」と稲垣。
この日、堀江翔太がゲームキャプテンとしてスタメンに入っていた。稲垣が尊敬するその先輩との息もぴったり。ヴァル アサエリ愛も加わったフロントローの3人は、抜群の安定感で埼玉WKの攻守を支えた。後半開始直後には堀江からのパスを受けて稲垣が縦に突進し大きくゲイン。スタンドが大きくどよめくシーンだった。
「あそこはもう絶対パスが来るだろうな、と思っていました。目線は僕のほうを向いていないんですが、堀江さんはそのスペースを絶対に見てくれているだろう、と。僕も自信をもってコミュニケーションが取れました」(稲垣)
後半9分にフロントローの3人が一気に交代となりベンチへと戻った稲垣。 “笑わない男”の異名どおりその表情を崩すことはなかったが、全身からあふれた充実感がスタンドの観客にも伝わってくるようだった。
「100試合という節目の試合をホストゲームの地である熊谷でできたこと、そして堀江さんと第1列に並ぶ形で起用してくれたロビー・ディーンズ監督の思いやりには本当に感謝しています。たくさんの方が自分にあたたかい声援を送ってくれて、本当に忘れられない1日になりました」
試合後、今後の目標について問われた稲垣は、「僕はもう(けがなどで)壊れたら終わりだと思っていますあとは、前にも言ったと思いますが『自分のプレーに満足したらそこまで』と。まだ自分のプレーに満足したことはないですし、もちろん現状にも満足していない。まだまだやれること、やるべきことを伸びしろとして感じていますから」とキッパリ。この思いがある限り、稲垣啓太の進化は止まらない。
埼玉WKは次節、2月26日14時30分にキックオフされるビジターゲームでコベルコ神戸スティーラーズと対戦する。
(関谷智紀)
埼玉パナソニックワイルドナイツ
埼玉パナソニックワイルドナイツ
ロビー・ディーンズ監督
「みなさん、稲垣(啓太)選手に質問があると思いますので短くしたいと思います。
いろいろなことを今日は祝福できるのではと感じています。まずはダミアン・デアレンデ選手をはじめ、いろいろな選手がグラウンドに出てプレーをしました。例えばですが、丹治辰碩選手は(NTT ジャパンラグビー リーグワンで)二つ目のキャップでしたがとても良いプレーをしてくれたと感じています。またエセイ・ハアンガナ選手も同様に良いプレーをしてくれました。
チームの観点から言いますと、花園近鉄ライナーズ(以下、花園L)さんをノートライに抑えられたことを非常にうれしく感じています。集中力の高いディフェンスができたとともに、守備面は選手たちのプライドが見えた内容だったと感じています。そういう部分でもこの試合には満足しています。
本日はなんといっても稲垣選手の100キャップ目ということで祝福を捧げたいと思います。いろいろなことを成し遂げてきた選手だと思います。チームの中でリスペクトを勝ち取っている選手でもありますので、この試合で堀江翔太選手とともにスターティングメンバーでプレーできたことをうれしく感じているのではないかと思います」
埼玉パナソニックワイルドナイツ
稲垣啓太選手
「まず、今日はみなさん来ていただきありがとうございました。グラウンドでも沢山の方に祝っていただきましたし、先ほどロッカールームでもチームメートから100キャップを祝っていただきました。
思えば僕が埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)に入団したときから、ずっと堀江(翔太)さんにはすごくお世話になっていて、堀江さんの背中を見ながら、ずっとプレーしてきました。こういう節目の試合でまた堀江さんと一緒に試合に出ることができて、すごく感慨深いなと思いますし、今日は堀江さんのプレーを見ながら、『堀江さんならきっとここにボールを放ってくれるだろう』とか、そういったことも思いながらプレーしていました。
堀江さんは、僕だけではなくて、埼玉WKだけでもなく日本ラグビー界全員がお手本にしている選手だと思います。そういった尊敬できる人と今日は一緒にプレーできてうれしかったですし、その試合が自分にとって100試合目だったというのは本当に幸運でした。
ただ、まだリーグ戦は続いていくので、一つの節目ですけれども、もう一度気を引き締めて自分のやるべきことをもう一回模索しながら、また課題に取り組んでいきたいと思います」
──100試合の中で一番印象に残っている試合は?
「個人的な考え方ですが、あまり勝った試合は覚えていなくて負けた試合のほうが悔しさとして残るんです。なので、どの試合がというのはちょっと選ぶのが難しいです。負けた試合については絶対に忘れないようにしています。それは自分として何ができていなかったのか、何ができていなかったから負けたのか…。そういうことを忘れないためにも悔しさという気持ちを大事にしているというか。勝った試合に関しては自分の反省点を振り返って終わりなんですが、負けに関してはその点を忘れないようにしています」
埼玉パナソニックワイルドナイツ
堀江翔太ゲームキャプテン
「ディフェンスでトライをゼロに抑えられたというところが良かったと思います。ひさびさにガッキー(稲垣選手)とスクラムを組むなど、一緒にプレーすることができ、ひさびさの一緒のプレーで、かつ(稲垣選手の)100キャップ目ということで『絶対に勝たなければならない』という思いがあったので、自分自身の中で変なプレーはできないという良いプレッシャーを掛けて、ラグビーができたんじゃないかなと思っています」
──稲垣選手についての思い出をお願いします。
「まずは、さっきのガッキーの言葉を一語一句切らずに紙面に載せてください。こういうことはなかなか言われないでしょう(笑)?
思い出ですか…。初めて一緒にプレーしたとき、フロントロー3人の中でも僕が一番走れるという自信があったのですけれども、チェイスとかディフェンスといったプレーで常に彼が僕の目の前にいるんですよね。僕が行かなければならないポジションにガッキーがいるし、来てくれると思えば必ずガッキーがそこにいるので『すごいヤツなんだな』とずっと思っていました。
フィットネスの面も含め、僕はガッキーの背中を見て『すごい選手だな』と常に思っていました。なので、僕は入団してすぐの若手選手に厳しくすることはしないタイプなのですが、唯一めちゃくちゃ厳しく接した選手はガッキーでした。
当時から、彼はもう絶対に成長しなければならない選手だと思っていました。僕はミスをしてもあまり怒らないですが、ガッキーに関しては試合中にイージーなミスをしたときにも『お前は絶対にそんなミスをするな』と厳しく言った記憶があります。
それだけの器のある選手だ、と昔から思っていました。もっともっとここからプレーにも磨きが掛かってくると思うので、上を目指してやってほしいと思います」
花園近鉄ライナーズ
花園近鉄ライナーズ
水間良武ヘッドコーチ
「今週は自分たちにフォーカスをし、マイクロスキルにこだわってやろうと臨みました。それを出せた部分も、良い部分もあったんですけれども、やはり勝負どころのラインアウトなどポイントとなるところでミスをして得点できずに、そこから切り返されてトライを取られた。
後半に関しても、最初にわれわれがペナルティゴールを決めて得点し『これから追い上げていこう』というところだったんですけれども、まあ相手のほうが試合巧者だったというところでこの点差になってしまいました。
ただ、確実にチームは前進しているのでこのまま小さいことにこだわっていき、それが勝利につながるようにやっていきます」
──「確実にチームは前進している」、との言葉があったが次節に向けてのポジティブな部分は?
「この試合で良かったところはスクラムです。スクラムは確実にドミネート(支配)できていたので、そこは次の試合でも武器になると思います。
また、チームとして前進しているところは、これまでだったら無理なパスをしたり責任のないプレーをしたり自分でなんとかしようという選手が多かったのですが、この試合では自分の役割をやり切る、そして次の選手がボールをつないでいく、というプレーができていた。その点は前進している、と評価できるところだと思います。次節以降、最終的にそれをスコアまで持っていくところまでつなぎたい。
試合後、サイア(シオサイア・フィフィタ)とちょっと話したのですが、(相手の)コンタクトが強いという彼からのコメントがあったので、その強いところをチームとして複合的なアタックで相手の判断を鈍らせて空いているスペース、作り出したスペースに運んでフィニッシュする。そういうところまでもっていきたい。
後半の途中からサイアをウイングの位置にポジショニングさせたことでチャンスがあったんですけれどもボールをうまく運べなかった…。今日はそういうシーンもありましたので、次はそのチャンスをつかみ切れるか、です」
──シオサイア・フィフィタ選手がちょっと元気がないような印象があるが?
「日本代表であったり、NTTジャパンラグビー リーグワン ディビジョン2のころは、サイア(シオサイア・フィフィタ)に良い状態でボールが渡るということが多かったと思います。試合後、本人とも話しましたが、いまのリーグ戦では良い形でボールが渡らない。彼はそこにフラストレーションを溜めています。ただ、日本代表であれ、ウチであれ、やるべきことは変わらない。彼の役割はモメンタム(勢い)を作ること、ボールキャリーだったらゲインラインを突破する。ディフェンスだったら前に出て圧力を掛ける。相手どうこうではなくて自分たちができること。いま、目の前にあることをやっていこう、という話はしています。
もう少し彼に良いボールが供給されてサイアが伸び伸びとやれたら、記者のみなさんの目にもそういうふうには映らなくなると思います、もう少しお待ちください」
──埼玉パナソニックワイルドナイツの稲垣啓太選手が100キャップを達成した。水間ヘッドコーチは選手としても一緒に彼とプレーした経験がありますが、今日は相手としてどんな印象でしたか?
「彼が1年目でチームに入ってきたときは社員選手でした。そのときから、とてもラグビーに対する意識が高くて、食事のことにも気を遣うなど、どうやったらもっと良い選手になれるか。常に自分を向上させるために取り組んでいた。
それが100キャップ…。いま10年ぐらいになるんですかね。この数字に到達するというのはケガもありましたけれども常に試合に出続けられるようにコンディションを調整して成長していったから。やはり、すごい選手だなと思います。
本当に彼はタフで、プレーオフの試合のときでしたか。何かで頭を切って出血して、それを試合中に3回くらい繰り返したんですよ。本人はフィールドに戻ると言っていたが、ドクターストップがかかって戻れなかったとかね。『感覚がないです』と言いながらプレーするタフな人間なので、これからも150試合、200試合と記録を伸ばしていってほしいと思います」
花園近鉄ライナーズ
野中翔平キャプテン
「勝敗を分けるにあたって大事な局面というところで自分たちのミスが出てしまった。チャンスをつかみ切れなかったところで、相手に主導権を握られてそのまま点差が開いていったというのが今日の印象です」
──埼玉パナソニックワイルドナイツは身長も含めてフィジカルの能力が高い相手だったと思うが、セットピースでの圧力はどう感じた?
「2節前の試合ですかね、ラインアウトの獲得率が悪かった。それを反省し今日は自分たちのスキルをやり切ろう、自分たちのテンポでプレーしよう、としていたのですけれどもやり切れなかった。例えば、自分たちのコントロールできないところ。マイボールラインアウトでの再開時に選手の交代であったり、それ以外のギャップの部分であったりというところでよくレフリーに止められていたシーンがあって、自分たちのテンポを出したかったですけれども出し切れなかった。また(レフリーにプレーを)止められた場合、自分たちがどう次に実行するのかというところまで詰められていなかったということが、最後ゴール前に行ったときにミスを招いてしまった結果かなと思っています。
この試合でしっかり学べたので、次はそのようなことが起こらないようにしたいと思います」