クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(D1 カンファレンスB)
家業はスクラム。プロップ一家の紙森陽太が未来を創る
バーベルスクワットで200kgを担ぎ、しっかりと3回しゃがみ込む。しかも、それは体幹をサポートして力を発揮するのに貢献する「パワーベルト」を腰に装着せずに、である。
並外れたパワーを持つ、その男の名は紙森陽太。幼少のころはラグビーとは無縁の生活で、小学校時代に打ち込んだのは空手と囲碁だった。しかし、力はクラスの中でもずば抜けて強く、中学校1年生のときの握力測定では63kgをマーク。高校生になると片手でリンゴを潰せるようになっていた。
ラグビーを始めたのは、2つ上の兄・大樹の影響だ。兄が中学でラグビー部に入り、そこで紙森は初めて「ラグビー」という競技を知った。「お前のお兄ちゃんもやっているんだから」と先輩に誘われ、同じ中学に進んだ紙森も入部。父・敏彦さんがセコムで活躍したラグビー選手だったことを知ったのは、そのあとのことだ。
「父は家庭でラグビーのことを全然話さない人だったんです。僕がラグビー部に入ったのは、本当に偶然でした」
その偶然が、さらなる偶然を生んだ。当時から体格の良かった紙森に与えられたポジションは、スクラム最前列のプロップ。そのことを父に告げると、意外な言葉が返ってきた。
「『そうか。俺も昔、プロップをやっていたからお前も頑張れよ』、と」
目に見えない力に導かれるように、中学ではナンバーエイトだった兄・大樹も高校でプロップに転身。もはや、家業がスクラム。気がつけば、紙森家は“プロップ一家”となっていた。
大阪桐蔭高校に進学すると、本格的なウエイトトレーニングも開始。初めて実施したバーベルスクワットで、いきなり120kgを挙げてみせた。その類まれなパワーは、近畿大学ラグビー部でもいかんなく発揮された。
「大学のウエイトルームにスポーツ生の挙上重量ランキングが張り出されるんです。僕は、スクワットは190kgで2位、1位は柔道部の重量級の選手でした。絶対に追い越したいと思って、頑張って210kgを挙げて1位になりました」
その柔道選手はベンチプレスでも170kgという記録を打ち立てて1位に。これに紙森も追いつき、170kgを挙げて1位タイ。スクワットとベンチプレスの二冠を達成するに至った。
「スクワットの重量が伸びていくと、スクラムを組むのがラクになったり、押しやすくなったりしました。また、ベンチプレスの重量を挙げられるようになると、起き上がるときのスピードが速くなったような感覚があります」
2022年にクボタスピアーズ船橋・東京ベイ(以下、S東京ベイ)に入団。同年5月、デビュー2戦目のウォームアップ中に左アキレス腱を断裂するも、今季第9節で公式戦に復帰した。前節の静岡ブルーレヴズ戦ではNTTジャパンラグビー リーグワン初トライを決めた。まさにいま、上昇気流の真っ只中。次節は控えメンバーとして、ホーム「えどりく」で横浜キヤノンイーグルスを迎える。
「控えからの出場なのでインパクトプレーヤーとしての仕事があると思います。その中でスクラムだったりサポートだったり、自分の仕事を全うしてチームを勢いづけるようなプレーをしたいです」
最後に、“家業”について聞いてみた。
「スクラムへのこだわり?あります!スクラムは自分の強みでもありますし、負けたくないです」
S東京ベイの未来を創る力がここにある。
(藤本かずまさ)
横浜キヤノンイーグルス(D1 カンファレンスB)
S東京ベイ撃破のキーマンは”イーグルス愛”に満ちあふれた男
前節、三菱重工相模原ダイナボアーズ(以下、相模原DB)との“神奈川ダービー”を制した横浜キヤノンイーグルス(以下、横浜E)は3位に浮上。交流戦を終え、通常のリーグ戦に戻る今節は、一つ順位が上の2位クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(以下、S東京ベイ)とのビッグマッチを戦う。日時は3月18日(土)。敵地である江戸川区陸上競技場で14:30にキックオフの号砲が鳴る。
前節の相模原DB戦は前半を終えて5-21と大苦戦。それでも、「逆転できると信じていた」(ジェシー・クリエル)横浜Eは、後半に“有言実行”を果たしてみせた。ついに3位に浮上した横浜Eだが、「決して満足はしていない」とジェシー・クリエル。「われわれはポテンシャルの高いチームだし、常に高みを目指している」(ジェシー・クリエル)という横浜Eの欲は、天井知らず。ましてや今節は2位に位置するS東京ベイとのビジターゲーム。勝ち点5差を詰めるのはもちろんのこと、前回対戦で最後の最後に追いつかれた悔しさを晴らすチャンスでもある。S東京ベイ戦を控えたジェシー・クリエルの言葉にも自然と力がこもる。
「S東京ベイはトップ4に入れる力があるし、チャンピオンにも挑戦できるチーム。自分たちの現在地がどこにあるのか。それが試される試合になるし、とてもエキサイティングなゲームになるだろう。もちろん、われわれがトップ4に値するチームであることを、結果で証明したい」
首位をひた走る前年王者・埼玉パナソニックワイルドナイツへの挑戦権を懸けた2位と3位の直接対決。注目度も高い今節イチのビッグゲームは、タフな試合になることも覚悟の上だ。南アフリカ出身プレーヤーは、こう言い切った。
「アタックではボールキャリーでチームを前進させ、ディフェンスでも体を張ってチームをリードしたい。ディフェンスに対する姿勢にこそ、チーム愛が表れるものだし、僕がチームを大事に思っている姿勢をしっかりと表現したい」(ジェシー・クリエル)
“イーグルス愛”に満ちあふれたジェシー・クリエルが、2位撃破のキーマンに名乗り出た。
(郡司聡)