NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン1(リーグ戦) 第13節 カンファレンスA
2023年3月25日(土)14:30 豊田スタジアム(愛知県)
トヨタヴェルブリッツ 10-19 埼玉パナソニックワイルドナイツ
チームがより強固となるために。「少し澄ましていた」姫野和樹が気づいたこと
開幕から13連勝。埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)が3試合を残してプレーオフ進出を決めた。逆にホストチームのトヨタヴェルブリッツ(以下、トヨタV)は5位以下が確定。しかし、トヨタVは簡単にやられたわけではなく、王者からの勝利にあと少しまで迫った。
逆転可能な状況に持ち込むことができた充実感と、結果が出なかった悔しさ。今季、共同キャプテンを務める姫野和樹の柔和な表情の中に時折見せる厳しい目がその両方を感じさせた。埼玉WKとの前回対戦では前半途中に負傷交代し、およそ1カ月の戦線離脱を余儀なくされた姫野。今節は、自分たちの力を絶対に示さなければならない、その覚悟が必要な試合だったのだ。
姫野の負傷後、チームはなかなか波に乗れず上位争いに食い込めなかった。選手個々の力では決して劣っていないものの、チームが一丸になり切れていなかったのがその理由だった。
「僕も少し澄ましていた部分があった」と、姫野は振り返る。チームとして若い世代を育てていかないといけない中で、共同キャプテンとはいえ、あえて一歩引いて見守っていたのだ。
だが、なかなか好転しないチームを見て意識を変えた。
「やっぱりトヨタVというチームは、僕が前面に出てパッションを出してやっていく。リーダーとしてやっていくということをしないと奮い立たないとすごく感じました」(姫野)
チームもそれを求めていた。4年目のスクラムハーフ、福田健太が語る。
「ヒメさん(姫野)の言葉は重みがあるし、彼の人となりも知っている。今までの努力も見てきているので、その中でリーダーシップを取ってくれるのは、すごく僕たちとしてもありがたかった」
チームがより強固になるために必要だった姫野のキャプテンシー。言葉だけでなくピッチ上のタックルやジャッカルなど、プレーで引っ張ることで外国籍選手も付いていく。
「僕のチームへの影響力って、ものすごく高いんだなと感じましたし、僕がリーダーシップを見せることで、周りにいい影響を与えていくことがチームに必要だと感じています」(姫野)
当初の願いとはかけ離れた、降格の可能性のある順位にいるトヨタVだが、姫野という精神的支柱の下で一丸となり、きっとこの不安をかき消してくれるだろう。
(斎藤孝一)
トヨタヴェルブリッツ
トヨタヴェルブリッツ
ベン・へリング ヘッドコーチ
「今日の試合は天気に左右された試合だったと思います。それは両チームに共通するもので、まるでレスリングのように体を使う、そういった試合でした。その中でも埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)さんがすごくよくコントロールしていたところ‥‥、それはテンポだったり、ときには試合をスローダウンさせることだったり。その結果、われわれとしては正しくプレーすることができないところがありました。特にそれはセットピースの部分です。
ただ、その中でも戦い続けて、特にキックバトルのところはうまくコントロールして最後まで戦い続けることができました。最終的な結果としては非常に残念なんですけども、いま、チームは一丸になってまとまっていると思います」
── 一人ひとりが戦っていると感じた。守備の評価は?
「ディフェンスというのは、やはりチームがどれだけコネクトできているか。そして、チームがどれくらい一丸となれているか、そういう部分が非常に大事になります。その中で今日のわれわれに関しては、すぐに起き上がってまたタックルする。そして、それを繰り返すことができていたと思います。やはり、チームが一丸になっているとディフェンスもすごくいい状態です。今日はお互いをすごくカバーし合う、そういった状況があった中で、埼玉WKさんのアタックはもちろん強いですけど、最後までタックルをし切ったこと。それに関しては非常に誇りに思います」
トヨタヴェルブリッツ
姫野和樹 共同キャプテン
「結果としてはすごく残念です。埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)さんのほうが一枚上手だったと認めざるを得ないと思います。その中で前半、相手に主導権を渡してしまった部分がありました。自分たちはペナルティが多くあったところや、後半の大事な部分でラインアウトのミス。そういった小さなところの部分が少し試合で出てしまったかなと思うので、そういったところでしっかりスキがないように今後、準備していきたいと感じています。
ただ、本当にチームのメンタリティーのところはすごく変わってきているので、選手の取り組みは最高だったし、チームのみんなのことを誇りに思います」
──レフリーとコミュニケーションを取る場面もありましたが?
「コミュニケーションは取りましたが、そこで自分たちが変えられなかったところは至らない部分だと思うし、埼玉WKさんのプレッシャーに負けてしまって、自分たちがペナルティを犯す場面もありました。そういったところはもっと練習の中で意識付けしていく必要があると思っています」
──相手が14人だったときの手ごたえは?
「本当にスコアが狙える、相手が一人少ない状態の中で、自分たちが優位に試合を運べていたと思うんですけど、その勝負の大事な部分、大事なところでのミスが出た試合でした」
──その大事なところでミスが出た要因は?
「意思疎通の部分で、サインミスもありましたし、タイミングが合ってなかったこともありました。埼玉WKさんと比べると、そこのゲームコントロールのところで落ち着かせるとか、落ち着いてプレーをしっかりするとか、少し自分たちがあせってしまって、自分たちにプレッシャーを掛けてしまっていたというところ。ラインも速いテンポで取ろうという意識も分かりますけど、まずはサインが浸透していないとそれを実行できないし、自分たちで少し慌てて入ってしまうパターンが多かったので、そのゲームコントロールのところ、ラインアウトリーダーを含め、僕もそうですけど反省したいと思います」
──後半25分のペナルティゴールを決めた場面ですが、トライを狙うのではなくペナルティゴールにしたのは、そのあとの攻撃で逆転できると信じていたからですか?
「おっしゃるとおりです。(そのあとは)自分たちの信念を持ってコーナーに行くことをみんなが欲していたので、みんなの意思疎通を取ってコーナーに行こうと。結果的にそれがミスになってしまって。でも、勝負というのはそういうものなので、自分たちが至らなかったと思っています」
──とても戦えていたしポジティブなゲームだったと思うが?
「ここ数試合を見てもらったら分かるように、すごくチームでコネクトして、チームとしてラグビーができているというのが自分たちの強みになってきていて、そこはうまく機能し始めているからこそ、こういうタイトなゲームができているわけで、選手一人ひとりのメンタリティーはすごく変わってきましたし、チームとしてはすごくいい方向性で進めているんじゃないかと思います。ただ、その中でもやっぱり少しディテールを詰める部分とか、そういった小さなことの積み重ねをもっともっと意識しないといけないと思います」
──バイウィークを挟んで残り3試合だが?
「残り3試合、いまはかなり順位も拮抗しています。僕らとしてはやっぱりどれだけ高くいけるかというところにチャレンジしてやりたいと考えています。今回6連戦を終えて、チームとしても選手が一人ひとりすごく頑張ってチームのためにやってくれたので、まず体調を整えていい準備ができればと思います」
──あるタイミングから、リーダーシップを取ろうとやってきたと思うが?
「リーダーであるべき人間が、リーダーシップを取るということが大事だなと。もちろん若い世代の選手を育てていかなきゃいけない中で、僕も少し澄ましていた部分もあったし、やっぱりトヨタヴェルブリッツというチームは、僕が前面に出てパッションを出してやっていく、リーダーとしてやっていくということをしないと、奮い立たないというのはすごく感じました。僕のチームの中での影響力はものすごく高いんだなと感じました。なので、僕のリーダーシップを見せることで、周りの人間にいい影響を与えていくことがチームにとって必要だと感じています」
埼玉パナソニックワイルドナイツ
埼玉パナソニックワイルドナイツ
ロビー・ディーンズ 監督
「皆さん、ご覧になってお分かりだったように、天気のこともありまして、すごくタフなゲームでした。ただ、終盤にかけて、選手たちが自分たちの勝つ道を探し当ててくれたので、それはすごく良かったと感じています。
トヨタヴェルブリッツ(以下、トヨタV)さんに関しましては、彼ら自身、失うものが何もないというところから、背水の陣という気持ちで向かってきたと思うんですけど、私たちに向けてすごくいいプレッシャーを掛けてくださいました。ただ、その中でも後半の終盤には選手たちが立ち上がって相手を打ち負かすことができたと感じています。
選手個人に関しましては、(大西)樹選手が大けがから復帰したということで、彼が戻ってこられたことに関して、とてもうれしく感じています」
──試合のポイントはどこでしたか?
「前半に関しまして、最後の規律のところ以外を除いては、選手がすごくいい働きをしてくれたと感じていました。相手のフィールドのポジションを勝ち取っているとともに、コンタクトエリアでは相手を上回っていたと感じています。
ただ、前半終了のところで、ちょっと思わぬことが起こってしまったので、その結果トヨタVさんが、まだ勝負を自分たちに挑める立ち位置のところまで運んできてしまったという点がありました。そういうところをハーフタイムで話して、後半にかけましては、またエリアを取っていくということに専念していました。相手もそれをやってきていたので、そこでモールを押し出されていて、自分たちにプレッシャーが掛かってしまったと思います。
天気のところを言いますと、チーム自体はそれに適応しないといけないと感じていました。まあフィールドポジションを取りに行くと同時に、それはリスクでもあるということも考えていたので、自分たちが思っていた、描いていたような戦術が効果的にできなかったんじゃないかと感じています」
──トヨタVの戦いぶりにスティーブ・ハンセン ディレクター オブ ラグビーの色は感じたか?
「すごく彼のメソッドが見えた試合だなと思っていて、すごく明確になっていましたし、それがチーム内で共有できていました。自分たちにとってすごく挑戦的な試合になっていましたし、競争的な試合になりました。また彼のやるべきこととして、いろいろな場面で必ずストレスを自分たちに掛けてくるということをやってきますが、それを見てすごく経験のある監督だと思いますし、どこかスキを探すのがうまい監督だと感じています。
スティーブ・ハンセンさんとはいろんな歴史がありまして、すごく古い歴史になるんですけど、二人で一緒にコーチングをしていたこともあります。1997年にはニュージーランドのクラブチームで一緒にコーチをしていて、全国の大会でチームを優勝に導いたこともあります。その後、スーパーラグビーのほうにお互い移っていきましたが、そういう経験があります。その年が初めてプロフェッショナルなコーチとして、お金をもらってコーチングをしました。そのときは1年しかやらないと思ったんですが、気付けばいまこれだけ長い間コーチをしています」
埼玉パナソニックワイルドナイツ
坂手淳史キャプテン
「雨が降っていてコンディション的には悪かったですけど、すごくいいグラウンドで、1万人を超える方々の前でゲームができてすごく楽しかったというのがいまの率直な思いです。
ゲームに関しては、14人になった時間が二度あって、すごく難しい時間がありましたが、その中で一人ひとりが、10%ずつコミュニケーションを上げること、早く立ち上がって動くところ、そういったところをみんなよく頑張ってくれたと思いますし、ああいうところから勝ち切ることができたというのは、本当にチームを誇りに思いますし、これからさらに強くなると思っています。
ペナルティが多かったり、2枚のイエローカードが出てしまったりしたところは、無駄な部分がたくさんあったので、そこは今後に向けてチームをしっかりと引き締めていかないと、プレーオフに向けてやっていかないといけない部分だと思うんですが、まずはこの勝ちを喜んで、熊谷に帰りたいと思います」
──今日のゲームプランは?
「ゲームプランとしてはトヨタヴェルブリッツさんが、ここ2、3試合ぐらいすごくフィジカルを前面に出して、これまで以上にフィジカルとディフェンスのブレイクダウンでのしつこさ、そういったところに対してプライドを持ってくると分かっていたので、それに雨ということもあって、また同じようにそこにしっかりとプレッシャーを掛けてくるとチームで共有していました。なので、ボールを手放すところをしっかりと判断しながら良いエリアを取って、自信があるディフェンスというところでボールを奪い返すということをフォーカスしてやっていました」
──14人でのプレー中に感じていたことは?
「特に焦りや脅威というのはなかったですね。ディフェンスでのブレイクダウンのところと、タックル自体はすごく手ごたえを感じていたので、14人でも当分戦えるなという手ごたえはありました。ただ、バックビルドのところは難しかったと思うので、バックスはよく頑張ってくれたなと思います」
──来週はフォワード陣の日本代表の動きがあるが?
「代表ですか。頭をしっかりと切り替えないといけないと思います。ラグビーワールドカップというところは、大きなフォーカスとして持っていますし、いまこのリーグワンでしっかりとしたパフォーマンスを出し続けること、そしてまた成長していくことが次のワールドカップにつながってくると思って、頑張ってトレーニングをしていきます。そういうところも含めて、また集まってもう1回意思統一できるというところと、フォワードのところは、たぶんスクラムを少し組むんじゃないかという話を聞いているんですが、本当にセットピースは大事な部分になってくるので、短い時間ですけどいいコミュニケーションが取れたらと思います」
──プレーオフ進出が決まりましたが?
「プレーオフに進出できたということはいま知りました。忘れていました。すごくうれしいと思いますし、13個勝ちを並べることができたこと、それはチームの実力だと思います。しんどい試合ももちろんありましたし、今日も本当にどちらが勝つか分からない時間帯が長く続いたので、そういうところでも勝ち切れたというのは、チームとして成長しているなと、手ごたえも感じています。ただ、プレーオフに向けて、ここからまだ試合数もありますし、その試合でもう1回成長して、プレーオフで戦っていけるように、ここから3試合がすごく大事だと思うので、相手チームもロビーさん(ロビー・ディーンズ監督)が言っていたように失うものがない状態で僕たちに戦いを挑んでくると思います。僕たちもそこに立ち向かって、一つひとつの試合に勝って、全勝で上に行きたいと思います」