クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(D1 カンファレンスB)
205cmの長身ロックは、“タワー”の頂上からさらなる高みへ
水分を含み慣性が働く芝生の上で、205cm120kgの巨躯が猛威を振るった。雨天の中で行われた3月18日の横浜キヤノンイーグルス戦、そして3月26日のコベルコ神戸スティーラーズ戦。激しいフィジカルバトルを制し、2試合連続でプレーヤー・オブ・ザ・マッチを受賞したルアン・ボタ。今季は大腿部を負傷し約6週間の欠場を余儀なくされたが、3月11日の静岡ブルーレヴズ戦で復帰して以降、その憂さを晴らすかのようなダイナミックなプレーでチームの勝利に貢献している。
「欠場している間は、とてもラグビーが恋しかったです。こうして復帰できて、仲間の選手たちと一緒に試合に出られることがうれしいです」
1992年生まれ、南アフリカ出身の31歳。兄と弟も長身で、兄弟3人の中で一番背が低いのが彼だという。父親も背が高く、さらに父方の祖父の身長はなんと210cmもあったとか。5歳ごろから楕円球を手にしていたルアン・ボタも、成長期の15、16歳のころに一気に身長が伸び、ポジションをスタンドオフ、センターから現在のロックに転向。高校卒業後は大学に進学するつもりでいたものの、南アフリカ高校代表にも選出され、また複数のチームからの誘いもあり、プロの道へと進んだ。
「しかし、私は南アフリカ代表には選ばれることはなく、フラストレーションを溜めていました。自分のキャリアをもっとのばしたい、国際レベルで戦える国に移籍したい。そう考えるようになったときにいただいたのが、日本からのオファーでした」
かつてのチームメートであり、すでにヤマハ発動機ジュビロ(当時)でプレーしていたゲラード・ファンデンヒーファーに相談したところ、「『これはいいチャンスになるから、日本に来たほうがいい』というアドバイスをもらいました」。そして2018年、クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(以下、S東京ベイ)に入団。同じくロックのデーヴィッド・ブルブリング(199cm113kg)とのコンビは、人呼んで「ツインタワー」。フォワードの要として、存在感を発揮している。
「S東京ベイの強みは、フィールド内外問わず、みんながエンジョイできているところにあると感じています。日本人選手は日本人選手、外国人選手は外国人選手で固まることもなく、お互いが積極的にコミュニケーションを図ることで、チームとして一つになれていると思います」
4月8日、「スピアーズえどりくフィールド」に愛称を新たにしたホストスタジアムで花園近鉄ライナーズを迎え撃つ。当日、東京の天気予報は「曇り一時雨」で降水確率は50%。“悪天候に強い男”は、控えメンバーとしてベンチに入る。
「控えメンバーとしては、ベンチからフィールドに出てチームにエナジーをもたらすという仕事があります。そして、『相手をどれだけ圧倒できるか』という気持ちは、スタメンであろうが控えであろうが変わりはありません」
「日本代表として戦える日がくるのが待ち切れない」と、国際試合への情熱はいまも冷めることがない。S東京ベイが誇る規格外の大型ロックは、タワーの頂上からさらなる高みを目指す。
(藤本かずまさ)
花園近鉄ライナーズ(D1 カンファレンスB)
「アイム・プリティ・ハッピー」。この最終盤に、日本代表が待望の復帰
前節、横浜キヤノンイーグルス(以下、横浜E)に敗れ、開幕から13連敗。花園近鉄ライナーズ(以下、花園L)は11位以下が決定し、入替戦に回ることが決まった。
ウィル・ゲニアも「ここから5試合を楽しみにしています」と話したように、今季の花園Lは残された5試合でディビジョン1残留を懸けた戦いに挑むことになる。
もっとも、ウィル・ゲニアが口にした「楽しみ」と言う言葉は決して強がりではない。横浜E戦を終えて、バイウィークを挟んだチームにはポジティブな材料も数多く見られている。シーズン最終盤での復帰を目指すオーストラリア代表のクウェイド・クーパーが全体練習中も、チームメートに綿密にアドバイス。練習後にはバックス陣を集めて「クーパー塾」さながらの個人指導を行うなど、最下位という苦境にあっても花園Lはファイティングポーズを崩していない。
クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(以下、S東京ベイ)にはホストゲームで12対77と大敗を喫しているが、このタイミングで花園Lにとって頼もしい日本代表ロックがピッチに帰ってくる。
昨年10月のオーストラリアA代表戦で左肩を負傷。手術を余儀なくされ、長らくリハビリや別メニュー調整に励んできたサナイラ・ワクァが先発予定となっており、出場すれば今季初めてのプレーとなる。
「今週戻って来られたことについて、自分でもビックリしています。元々は、来週の神戸(コベルコ神戸スティーラーズ)戦をターゲットにしていたので」と、1週前倒しの復帰になったことに笑顔を見せたサナイラ・ワクァは、こんな本音も口にした。
「アイム・プリティ・ハッピー(とてもうれしいです)」
77点を献上したホストゲームではS東京ベイの強力なフォワード陣に圧倒され、マルコム・マークスに前半だけでハットトリックを許した。敵地に乗り込んでの一戦でもカギを握るのは、ディフェンスの耐久力になる。
サナイラ・ワクァの戦線復帰について水間良武ヘッドコーチは、「彼にはエナジーがあるので、それをチームのエナジーに変えていって欲しい」と試合に飢えた日本代表ロックに期待を寄せる。
連敗街道の真っ只中にあるチームをただ見続けるしかなかったサナイラ・ワクァだが、「自分の役割をしっかりと果たして、攻撃も守備もディテールにこだわりたい。対戦相手がどうこうではなく、自分にフォーカスして試合をしたいですね」と復帰戦への思いを口にした。
ディビジョン1生き残りに向けて、頼もしい男が帰って来る。
(下薗昌記)