NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン1(リーグ戦) 第15節 カンファレンスB
2023年4月14日(金)19:00 東大阪市花園ラグビー場 (大阪府)
花園近鉄ライナーズ 34-33 コベルコ神戸スティーラーズ
静寂のち歓喜。聖地で生まれたドラマチックな初勝利
花園近鉄ライナーズ(以下、花園L)が23点差をひっくり返す大逆転劇でコベルコ神戸スティーラーズ(以下、神戸S)を下し、NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン1で初勝利を手にした。
前半6分にペナルティゴールで3点を先制しながらも、前半だけで神戸Sに4トライを献上。「3トライ以内に抑えること」を勝利のポイントに掲げていたキャプテンの野中翔平のプランはもろくも崩れさったかに見えたが、敗れれば最下位が決定する花園Lが目を覚ます。
「いつか勝つ日が来ると信じていた」とシオサイア・フィフィタが意地の2トライを見せ、「その瞬間、瞬間に集中しようと思っていた」と巧みに攻撃をコントロールしたウィル・ゲニアが攻撃をけん引。
後半は花園Lが完全に試合のペースを握っていたが、神戸Sも後半27分にこの日5トライ目を決めて、花園Lを突き放す。
後半37分の段階でのスコアは27対33。屈辱の15連敗に向けて時計の針が進む中で、チームを救ったのは野中のジャッカルだ。「ペナルティだけはないようにと思っていました。ただ、あそこはいけると思っていました」と神戸Sに傾きかけていた流れを断ち切った。
そして、キャプテンの好プレーで攻撃権を握り返した後半39分のラインアウト。花園Lにとって最後のチャンスだったが、「最終的な判断は僕がしましたが、フォワードはみんな、飢えている目をしていましたし、バックスもここはモールをやろうというような雰囲気があった」(野中)。
モールで押し込むと、同40分、ベテランの樫本敦が飛び込んで、土壇場で1点差に攻め寄った。
4,942人の観衆が“関西ダービー”にふさわしい空気感を作り出したが、ジャクソン・ガーデンバショップのコンバージョンキックの瞬間、スタジアム全体に静寂が広がった。そして、美しい軌道を描いたキックが成功した瞬間、ノーサイドの瞬間、ピッチ上ではあたかも優勝を決めたかのような、歓喜の輪が広がった。
日本ラグビー界の“聖地”で、待っていた極上のカタルシス。「大きな結果から見ると、たかが一勝かもしれませんけど、それでも僕にとってはすごく忘れられない1日になりました」。試合後、感涙にむせんだ野中の言葉は、花園Lの選手、そして、後押ししたファンの誰もが噛みしめた感情だったに違いない。
(下薗昌記)
花園近鉄ライナーズ
花園近鉄ライナーズ
水間良武ヘッドコーチ
「今季、鍛えてきたスクラム、それが武器になって、先週、先々週から取り組み始めたディフェンスの部分、タックルの部分の出来が本当に良くて、相手のミスを誘ってそこからのアタックができました。アタックも我慢強くやれて、スコアまでいった。後半は素晴らしい戦いができました。本当に今季、野中(翔平)キャプテンを中心に、野中がチームを一つにして、力を結集して出した結果だと私は感じています。(みなさんが)たくさん話を聞きたいと思うので、あとは野中に任せます(笑)」
──開幕前から話をされていた『見る人を熱くする』という、点を取られたら取り返すというスタイルで初勝利を得られたことについてはいかがですか。
「本当は取られたくないんですけどね、取られることもあるので。ただ、自分たちのラグビーをすれば、しっかりとしたラグビーができるということを体現できて、勝利という結果がついてきたので、選手たちにとってもすごく自信になったと思います」
──勝利を決めたジャクソン・ガーデンバショップ選手のキックの前はどのような心境だったのでしょうか。
「まあ、入らなかったら、入らないでしょうがない。コーチボックスでも言ったんですけど、J(ジャクソン・ガーデンバショップ)で入らなかったら仕方ないし、チームとして、『今日はいいラグビーをしたな』と言っていました」
──シオサイア・フィフィタ選手もいいプレーでしたが、試合中に痛んでもピッチから下がらなかったところが印象的でした。水間ヘッドコーチはどのようにご覧になっていましたか。
「楽しそうにやっていましたね。いいパフォーマンスをして、彼が勢いを付けて、周りがサポートする。周りがしかけたところに彼が動く、本当にいい形が出ました。本人も相当痛いはずでしたが、チームを何とかしたいという気持ちが強かったから最後まで立ち続けた。終わってからも話をしましたが、『大丈夫ですよ』と言っていました」
──クエイド・クーパー選手についてですが、来週の試合に出場する可能性はどうでしょうか。
「来週までお待ちください(笑)。チームには合流して練習にもちょこちょこ参加しているので、来週どのようなメンバーになるか、お待ちください」
──金澤春樹選手のタックルが効いていましたが、今日の評価を聞かせてください。
「アタックもしっかりとゲインラインを切っていました。前半、自陣ゴール前のザワ(金澤)のタックルと、ワイ(ワイマナ・カパ)のジャッカルでピンチをしのいだのもすごく良かったですね。先週初めて先発して、今週2回目でやっぱり慣れてきたところもありますね。ザワはいつも(シオサイア・)フィフィタと一緒に練習をしてお兄ちゃんのように慕っていて、(シオサイア・)フィフィタが横にいるのも彼にとって自信になって、いいプレーができたと思っています」
花園近鉄ライナーズ
野中翔平キャプテン
「細かいことを話すといろいろとあるんですが、素直に花園近鉄ライナーズに所属してラグビーができてよかったなと、このチームでキャプテンをさせてもらってよかったなとあらためて実感できた1日でした。大きな結果から見ると、たかが一勝かもしれませんけど、それでも僕にとってはすごく忘れられない1日になりました」
──前半は少し、ディフェンスに苦しんだ場面がありましたが、後半の二つ目のトライは野中選手のタックルからターンオーバーして、まさに水間良武ヘッドコーチがおっしゃった、『ディフェンスからのアタック』という形が見られました。あの前半の展開から後半に気持ちを落とさず素晴らしいディフェンスができた要因は何でしょうか?
「今日まで、たくさんの失点をしてきてすべての試合で負けてきて、だからこそ、『結果ではなく自分たちのやってきたプロセスにこだわってやろう』とここ数カ月言い続けてきました。なので、前半でスコア的には苦しい時間帯もありましたが、(気持ちを)切らすことなく自分たちの、ここ1、2週間でやってきたディフェンスを出すことだけにフォーカスすることができたのが要因だと思います」
──今までの試合とディフェンスのやり方を変えた部分はありますか?
「変えたというよりは、ディフェンスはまるでアタックのように相手にプレッシャーを掛けるような、そういうディフェンスをしていこうと決めて、体現できたかなと思っています」
──新型コロナウイルスによる制限も緩まってホームの観客や、控えの選手の声援もかなり響き渡っていましたが、フィールドでプレーしていてどのように感じましたか?
「たぶん、スタジアム自体が観客と近いというのもありますけど、僕たちにとって“花園”はすごく特別で、しんどいときに奮い立つ原動力になりますし、きれい事ではなく本当に後押しされている感覚はあります」
──勝てない時期にも野中キャプテンが『自分たちの力はこんなものではない』と話をされていました。今日の試合に関しては実力を見せられたとお考えでしょうか。
「言葉を選ばすに言うと、もっとできると思っています。最終的には結果で上回ったのでよかったというだけの話で、自分たちにはもっと上があると思って、改善点もしっかりとあるので今日は喜んでリカバリーを挟んで、また次のスタート、次の試合が来る。それに向けて修正点を修正して、もう一段階上のディフェンスと花園近鉄ライナーズを見せたいと思います」
──入替戦も今後ありますが、1回でも2回でも勝利してそこに臨むのは大きいことになりますか。
「そうですね、自信というのは結果によって得られるものではないと思っていますが、やはり結果で得られる人もいるとは思うので、そういう意味ではいい追い風になるのではないかと思っています」
──試合前に『3トライ以下に抑えられれば、今日の試合は勝てる』と話をされていましたが、前半4トライを取られてもそこで折れることなく後半に向けて、仲間に声掛けされたことを教えてください。
「ラグビーで、フィールドの横70m、縦100mのすべてのエリアを守るのは不可能なので、自分たちの中である程度、こういう形のトライは仕方ない、ここでのトライは仕方ないと割り切っていたので、前半の4トライに関しても自分たちのシステム的にはいい意味で切り替えようと話をしました」
──後半30分過ぎに野中キャプテンのジャッカルがありましたが、あの時間帯にどのような気持ちで過ごしていたのでしょうか?
「必死のパッチ(極めて必死であることを示す関西地方の表現)でした。特に何も考えずに、目の前に相手が来たらタックルをするし、ジャッカルのチャンスがあったらジャッカルをする。その前に僕はブレイクダウンでペナルティもしていたので、ペナルティだけはないようにと思っていました。ただ、あそこは行けると思っていました」
──最後のトライは今季初めてモールからのトライでした。あそこをモールで行こうというのは何か話し合いがあったのでしょうか?
「そうですね、最終的な判断は僕がしましたが、フォワードはみんな、飢えている目をしていましたし、バックスも『ここはモールをやろう』というような雰囲気があったので、この判断をどうするのかというところで、本当にみんなが同じように思っていたのがトライ以上によかった点かなと思います」
コベルコ神戸スティーラーズ
コベルコ神戸スティーラーズ
ニコラス・ホルテン ヘッドコーチ
「前半と後半に完全に分かれる試合になってしまったと思います。前半はやりたいことができましたし、やろうとしたプランもできました。我慢強くしっかりと正しいエリアでプレーすることができ、得点に変える部分も求めていたとおりにできていました。ただ、後半に入って自分たちのミスで相手にチャンスを与えることもすごく多かったです。ここ数試合ずっと自分たちの課題となっている、最初のキックオフのところでミスをしてしまった。悪い形で後半に入り、スクラムでも相手にボールを与え、自分たちの規律が悪く、前半の最後にできていたエリアマネジメントの部分でも自分たちが後手に回る部分が増えました。そこで花園近鉄ライナーズさんに『戦えるぞ』という自信を与えてしまって、自分たちが常に乗られる状態になってしまう。その結果が今日の試合の結果につながってしまったと思っています」
──試合が始まる直前にメンバー変更がありましたが、その影響と理由を教えてください。
「最終的に試合の直前にアタアタ(・モエアキオラ)選手が交代になりましたけど、(リチャード・)バックマン選手に関しては水曜日に行った最後の練習のあとにけがが治らない、メンバーが発表になったあとに、これは無理だということが判明したのでメンバー変更になりました。アタアタ・モエアキオラ選手に関してはアップの最中におそらく手首の部分をけがしてしまって、これは無理だということになったので、メンバー外になりました。ただ、このけがによって自分たちが今日の試合で勝つことができなかったのかというとそうではない。前半も自分たちのプランどおりにやれている部分もありましたし、スコアにも表れているとおり、メンバー変更はありましたけど、自分たちができている部分もあるので、そこが理由とは言えないと思います。では、自分たちが後半、なぜうまくいかなかったのか。それは集中力なのか、それ以外のチームの大きな問題なのかは何とも言えないですが、メンバーの変更によって今日の結果につながったとは言えないと思います」
コベルコ神戸スティーラーズ
橋本皓キャプテン
「まあ、(ニコラス・ホルテン ヘッドコーチの見解と)一緒ですね。前半はスコアを重ねることができて、『後半もこの調子で』、と思ったんですけど……。後半に入って、個人を批判するわけではないですが、ここぞというところでボールがこぼれたり、選択したプレーのミスであったり、勝負どころできっちりと仕留められなかった。しっかりと守って、ここからというときにまたミスを繰り返す。そういったゲームになりました」
──ただ点を取られるままではなくプランを見直したと思いますが、混乱状態というかなかなか指示もとおらなかったのか。どのような雰囲気だったのでしょうか?
「取られ方がすごくあっさりとしているというか、簡単に取られたので、特に難しい声掛けはしていなくて次にやることを明確にしていました」