2023.04.17NTTリーグワン2022-23 D1 第15節レポート(BR東京 34-36 トヨタV)

NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン1(リーグ戦) 第15節 カンファレンスA
2023年4月16日(日)14:00 秩父宮ラグビー場 (東京都)
リコーブラックラムズ東京 34-36 トヨタヴェルブリッツ

BR東京が秘めるポテンシャル。
この日集まった1万人とともに新しい景色を作り上げていく

リコーブラックラムズ東京の栗原由太選手。1万人を超える観客で埋まったスタンドに「試合前に泣きそうになった」

試合開始直前に鳴り響いた雷鳴によって、キックオフが65分遅れた。後半には再び30分の試合中断もあった。それでも秩父宮ラグビー場に駆け付けた観客は、11,060人にのぼった。

リコーブラックラムズ東京(以下、BR東京)にとって、トップリーグ時代を含め初の観客数1万人超え。黒く染まったスタンドを目にした栗原由太は「試合前に泣きそうになった」と打ち明ける。

「会場一体となった応援に、“ザ・ホーム”をとてつもなく感じさせてもらいました。『幸せ者だな』と」(栗原)

試合は、BR東京が試合終了間際に千葉太一のトライで逆転したが、ラストワンプレーでトヨタヴェルブリッツ(以下、トヨタV)の福田健太がトライを取り切る。そのあとのコンバージョンキックもティアーン・ファルコンが成功させ、再び逆転。トヨタVが36対34で勝利を収めた。

激戦の末に敗れたものの、BR東京は勝ち点1を獲得し9位以上が確定。最終節を前に、ディビジョン1 残留を決めた。それでも、誰一人として喜ぶ者はいなかった。ノーサイドの笛が鳴るとそのまま両ひざをつき、額を地面に押し付けたのは千葉。一時は逆転となるトライを決めたが、直後には思わず伸びた手がデリバレートノックオン(故意にボールをはたき落とす反則)を取られ、トヨタVにラストチャンスを与えてしまった。

「控えで出る選手がそういうことをしてはいけない。僕のせいで負けてしまった申し訳なさを感じていました」と悔しさを露わにする。

栗原も天を仰いだ。「ホストゲーム最終戦。多くの方が駆け付けてくださって、勝利で恩返しがしたかった」。誰よりも負けず嫌い。涙は勝手に込み上げてきた。

今節が初めてのフル出場となった佐藤康も、試合終盤にはひざをつき呼吸を整える姿を見せた。「試合の中断もあって、モチベーションを保つことが大変でした。体的にもメンタル的にもしんどかった」。だが、そんな状況下でも最後までピッチに立ち続けることができたのは、観客席の黒く染まった光景に後押しされたからだと話す。

『秩父宮真黒計画』と題したこの日。主導した西辻勤GMは言った。

「BR東京には、さまざまなバックグラウンドを有する選手が集まっています。多くの観客の前でプレーした経験が少ない選手もたくさんいます。だから、どうしてもたくさんのお客さんの前で選手たちにプレーさせてあげたかった」

今季、最後に勝ち切れない試合が続いた要因の一つを、大舞台での経験値が少ないことだと感じていた西辻GM。だからこそ選手、スタッフには、もっと自分たちのポテンシャルや価値を信じ、感じてもらいたかったのだ。

1万人の集客を目指し『新しい景色』を作り上げた裏には、これからのBR東京を見据えた思いがある。

「僕たちは、これから成長していくクラブ。今日来てくださった方々に来季も来てもらえるように。そしてこの1万人をベースとして、次は勝つチームを作っていきます」(西辻GM)

ホストゲーム最終戦、リコーブラックラムズ東京は新たなスタートの日を迎えた。

(原田友莉子)

リコーブラックラムズ東京

リコーブラックラムズ東京のピーター・ヒューワット ヘッドコーチ(右)、山本昌太ゲームキャプテン

リコーブラックラムズ東京
ピーター・ヒューワット ヘッドコーチ

「選手にも話をしてきたのですが、このゲームについて話をするのは難しいですね。こういうゲームは初めてです。メンタル面でもアップダウンの激しい形になりました。後半しっかりとトライを決めてから流れが変わり、試合終了前、残り2分まではリードしていました。チームのレジリエンス(困難を乗り越え回復する力)の強さが分かったかな、と思います。先週も言いましたが、(勝敗を分けた)差は小さいものだと思っています。自分たちとしてはこういったゲームを勝てるようにし、次のレベルに行かなければなりません。特に試合序盤、立ち上がりのモールディフェンスはもう少しチェックしないといけないですね。まだちょっと頭の中で『どんなゲームだったかな』とまとめている状態です」

──試合中断後のディシプリン(規律)が素晴らしかった。何か中断中に得るものがあったのでしょうか?

「今日は最低でも勝ち点1を取ることが重要だと分かっていたので、最初の目標はその1点を獲得すること。そして次の目標は試合に勝つことだと言いました。残り1分まで両方とも達成できていたのですが、試合は80分あります。あとちょっと足りなかったですね。『ディシプリンは改善しないといけない』という話をしていました。トヨタヴェルブリッツに苦しめられていましたし、モールも強かったです」

──ハーフタイムでパディー・ライアン選手を交代させたのはどのような理由でしょうか?

「ネイサン・ヒューズをハーフタイムで出そうというプランがありました。パディー(・ライアン)はスクラムのベースをしっかりと作ってくれましたね。(ネイサン・)ヒューズがいるとパンチ力が上がり、モールも良いので、(カテゴリー枠の意味での)戦術的な交代です」

──キックレシーブからのキッカーを変えたシーンも見受けられました。

「アマト・ファカタヴァのキックは、自分で判断したのかなと思います。アマト(・ファカタヴァ)はスキルの高い、レベルの高い選手です。彼が蹴れる、ということは分かりましたね(笑)」

──アイザック・ルーカス選手にプレッシャーが掛かっていたとみんなで考えたのでしょうか?

「マット・マッガーンや山本昌太からのキックも含め、もう一つオプションを持つことは考えていました。彼は良いプレーヤーなのでいつもプレッシャーが掛かります。かなりマークされているので、さまざまなオプションを準備して、プレッシャーが集中しないようにと考えています」

リコーブラックラムズ東京
山本昌太ゲームキャプテン

「本当に難しいコンディションでした。グラウンドに出たり入ったり、キックオフの時間がずれるのは今までにない経験だったので、非常に難しかったと思います。ですが、相手も同じコンディションなので言い訳せずにしっかり戦おうと、チームとしてレジリエンス(困難を乗り越え回復する力)を持って最後まで戦えたかなと思います。細かいところはもう一度レビューして改善します。あと一試合、僕たちには戦うチャンスがあるので、今日足りなかった部分を来週しっかりと見せたいです」

──逆転した試合終了間際、相手にもうワンチャンスが残っている中でどういう話をしていたのでしょうか?

「最後のキックオフで僕は交代してしまったのですが、『相手はショートキックで来る』と話し合っていました。マイボールにできたとしても、時間が2、3分残っているので、しっかりエリアを取ってディフェンスしよう、と。最後、ペナルティでゴール前に来られてしまい、本当に少し足りなかった。中断してからラスト1分までは本当に良い戦いができていたので、素直に悔しいです」

──後半の中断は影響が少なかったように感じます。どのような話し合いをしたのでしょうか?

「いま自分たちに必要なこと、してはいけないこと、やるべきことを再確認しました。ペナルティをして相手にチャンスを与えない、1対1のタックルをしっかり決める。その二つにフォーカスしようとしていました。ただスコアされたあとの中断だったので、自分たちとしては良いリセットができたかなと思います」

──ご自身の外への飛ばしのパスが効いていたと思います。

「自分たちのアタックができている部分でのことだったと思います。ボールキャリアーがしっかりと前に出て、良いブレイクダウンで早くボールを出す。スコアできていたときにはそれが良くできていたと思います。逆にそれができていないと、自分たちのアタックが難しくなります。来週の試合では、そのうまくできる時間を増やしていきたいと思います」

──リコーブラックラムズ東京として(今季のホストゲームでは)初めて1万人を超える観客の中プレーしました。お気持ちを教えてください。

「本当に素晴らしかったです。『声援が力になるとはこういうことだ』とすごく感じました。キックオフが遅れ、中断があった中でも最後まで会場で自分たち応援をしてくれたことは本当にうれしかったですし、感謝の気持ちでいっぱいです。こういう素晴らしい環境の中で、またプレーしたいなと思いました」

「(ピーター・ヒューワット ヘッドコーチも自らマイクを取って)僕からもファンの方々に感謝の気持ちを伝えたいです。今回、初めてラグビーを観に来た方もいたと思います。今日はその価値がある、エキサイティングなゲームだったのではないでしょうか。僕も選手たちも、このような悪天候の中、足を運んでくださった方々に本当に感謝しています。今後も誇りに思ってもらえるようなパフォーマンスを見せ続けて、サポートし続けてもらえるように頑張ります。今日は『ラグビー』が勝者だと思います。こんなにエキサイティングなゲームはないのではないでしょうか」

トヨタヴェルブリッツ

トヨタヴェルブリッツのベン・へリング ヘッドコーチ(右)、姫野和樹 共同キャプテン

トヨタヴェルブリッツ
ベン・ヘリング ヘッドコーチ

「非常にクレイジーなゲームでした。試合やコントロールできない部分でいろいろとあったような印象がありますので、そちらはまた別でレビューして欲しいと強く思います。特に試合の中断、再開が繰り返され、選手の中にはかなり苦戦している人もいました。選手のケアを徹底するという観点は今回の試合をとおしてハイライトされた部分でもあると思うので、今後そちらの課題が改善されることを願っています。そういった意味を含めて、両チームともに浮き沈みが激しい試合でした。その中でもわれわれは最後まで強いメンタルを持って、試合を手にすることができたと思います。今週のチーム内テーマとして『もう一度チャンスをつかむ」ということを話していましたが、その中で選手がリーダーシップを発揮してくれ、それが達成できたことをうれしく思います。今回の試合は、さまざまな意味で忘れられない、思い出になる試合になったと思います」

──試合開始が1時間遅れましたが、ヘッドコーチとしてどうフィジカルとメンタルのケアをしたのでしょうか?

「キックオフの30秒前に、試合開始が遅れるということに気が付きました。決断がかなりギリギリで、みなさんが気付いたのと同じようなタイミングでわれわれもその判断を知りました。そのような中でコーチ陣としては、チームがパニックに陥らないよう、むしろ団結できるよう冷静になることを心がけていました。マインドセットを整え、エナジーを上げるために音楽をかけたり、スタジアムの下をジョギングしたりと準備をしたのですが、ああいった形での準備が今後は(必要)ないことを願っています」

──後半途中でピーターステフ・デュトイ選手を交代させた理由を教えてください。

「ひざのけがが理由です。彼は本当にタフな人物なので、ひざを引きずって歩いている状態から『何かあった』ことが分かると思います」

トヨタヴェルブリッツ
姫野和樹共同キャプテン

「クレイジーゲームでしたね。(ベン・ヘリング ヘッドコーチが)おっしゃるとおり、僕自身も初めてだし、みんなも初めての経験だと思います。自分たち選手はキックオフに向けてコンディションとメンタルを整えていますし、命を懸けて戦いにいく中で出鼻をくじかれるのはしんどいな、と思います。自分たちが良い流れを保っていたにも関わらず、そこでの中断は僕たちとしてはかなりストレスの溜まる試合でしたね。そのあと、追い上げられましたが、最後勝ち切れたことは、前回リコーブラックラムズ東京(以下、BR東京)と対戦したときに比べて成長しているのではないかと思っています。勝てて本当に良かったです」

──中断中の準備、そしてゲーム再開に向けてどのような気持ちで向かったか教えてください。

「そこが自分たちの弱さだと思います。BR東京さんも同じ条件でやっていますが、自分たちが気の緩みを見せてしまった。そこは自分たちの弱さだと素直に認めるべきで僕の至らなかった部分です。もうちょっと、ちゃんとメンタル的な部分も準備をさせ、体のウォーミングアップをやったほうが良かったと反省点もあります。ですが、二度とこういうことがないことを願っています」

──同点に追いつかれたときにグラウンド上ではどのような言葉を交わされていたのでしょうか。

「ハドルで一番大切だったのは同じ絵を見ることだったと思うので、トライを取られた場合に自分たちはどういう選択をするか、と話をしていました。『もう一回自分たちのアタックをする』と。同じ絵を見て、一人ひとりの役割を遂行できたからこそ、もう一度ボールを奪いあのような形の結果を手にすることができたと思います。そこに関してはすごくうまく機能したと思います」

──中断前後でパフォーマンスが変わり、ペナルティがかさんでしまった理由は何だったと感じますか?

「自分たちの集中力の問題だと思います。トヨタヴェルブリッツはフォーカスする力はあるけど、途切れたら途切れたままになってしまうチームでもあります。そこは僕たちがチャレンジしていく場面であり、成長しないといけない部分だと思います。再開してからの25分は本当にペナルティがかさみました。BR東京さんは何も難しいことはしていないですし、自分たち自身が首を絞めたなと。自分たちの集中力の問題で、改善、成長の余地があるところだと思います」

──試合開始が遅れると聞いたタイミング、そしてその時間をどう過ごしていたか教えてください。

「ハドルを組んでいたときに最低30分は遅れると聞きました。天候は自分たちでコントロールできない部分。自分たちのコントロールできることにフォーカスしようと、もう一回リラックスしました。ずっとガチガチに固めていたら疲れるので、リラックスして時間になったらウォーミングアップしてと、切り替えは自分たちがコントロールできる部分です。なので、そこにフォーカスする。コントロールできない部分にストレスを感じてしまってもしょうがないので、そこにフォーカスしようとしていました」

──30分後のキックオフ予定がもう一度30分延びました。そこの過ごし方はいかがでしたか。

「1時間も時間があるので、ずっとウォーミングアップをしていたら疲れてしまいます。メンタル的にもずっとオンにしていたら疲れるので、音楽を流してリラックスし、来るべきときに備えてコントロールできることにフォーカスしていました」

──この1週間はどのような準備をして過ごしてきたのでしょうか。

「良い1週間でした。序盤は低迷していたときもありましたが、いまは正しい方向のレールに乗っているし、僕が火を着けなくてもみんなが目指すべきところを分かっています。『残りの2試合をストロングフィニッシュしよう』、と常にこの1週間は言っていました。今日と来週の2試合、しっかりと自分たちのやりたいこと、自分たちの成長を示そうと前を向いて準備できています。チームとして状態は良いかなと感じます」

──コントロールできることに集中することの難しさも気付いたと思います。そのあたりはどう改善できそうでしょうか?

「結果的に中断して、自分たちのラグビーができなくて自分たちで首を絞めてしまった。結果的に自分たちにフォーカスできなかったところがあります。そこに関してはこういうイレギュラーなことが起きないことを願っていますが、自分たちがコントロールできることにフォーカスするというのは今回に限らずいろいろなところで出てくる課題だと思います。そこに関しては一人ひとりが良い準備をできるようにやっていけたらと思います」

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