NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン1(リーグ戦) 第16節 カンファレンスB
2023年4月22日(土)14:00 東大阪市花園ラグビー場 (大阪府)
花園近鉄ライナーズ 26-43 NECグリーンロケッツ東葛
クウェイド・クーパー、約20秒の復帰。
最下位脱出はならずも入替戦に向け役者がそろう
NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン1 /ディビジョン 2の入替戦出場が決まっている花園近鉄ライナーズ(以下、花園L)とNECグリーンロケッツ東葛(以下、GR東葛)の顔合わせは、開幕節に続いてGR東葛が勝利した。
8点差以上で勝利すれば最下位から抜け出せたはずの花園Lは後半、一度は26対22と逆転に成功。しかし、「我慢し切るところで我慢し切れなかったというところがある」と水間良武ヘッドコーチは今季、何度も繰り返してきた悪癖を敗因に挙げた。それでも、入替戦に向けて頼もしい男がグラウンドに帰ってきた。
ディビジョン1昇格の立役者となったクウェイド・クーパーが今季初めてメンバー入りし、スタメン出場。キックオフ後、およそ20秒が経過した段階で交代するも、昨年8月の左アキレス腱断裂から孤独なリハビリに耐えてきたクウェイド・クーパーの“ワンプレー限定”とも言える起用法は、あくまでも2週間後に待つ入替戦を見据えた戦略だった。
「入替戦が決まってから、いろいろなストーリーを考えて、入替戦で勝ち残るにはクウェイド・クーパーというカードを持っておく必要があると判断したので、彼をワンプレーだけ起用しました」と水間ヘッドコーチは異例の起用の裏側を明かす。シーズン途中に登録され、当該シーズンのリーグ戦で出場歴がない選手は、入替戦に出場が不可能という規定が存在するためだ。
もっとも、クウェイド・クーパーにとっては規定をクリアするだけでなく、特別な意味を持つ時間だった。
「1秒でも意味はある」。ウィル・ゲニアとともにディビジョン2時代からチームを支え、「世界で最も楽しいリーグ」と昇格後のプレーを待ち侘びてきたクウェイド・クーパーにとって、いまの最大の目標はディビジョン1にチームを残すこと。交代後もインゴールの中でフィジカルメニューをこなし、早くも2週間後に待つ戦いへと準備を始めていた世界的名手は「この先、重要な2試合が待っているのでいいリハーサルになった」と初のディビジョン1でのプレーを振り返った。
GR東葛は連敗を6で止め、最下位転落は免れた。前半3つのコンバージョンキックを失敗しながらも、前半最後から後半にかけ、4本のコンバージョンキックを確実に成功させ8得点。勝負どころで花園Lを突き放すきっかけを作った金井大雪は「相手は関係なく、自分たちが規律を守れるかどうか。自分たちにフォーカスすれば大丈夫だと自信も持てた」と振り返った。
花園Lはクウェイド・クーパーの復帰を追い風に、GR東葛は7試合ぶりに手にした勝利を自信に、それぞれが運命の入替戦に挑む。
(下薗昌記)
花園近鉄ライナーズ
花園近鉄ライナーズ
水間良武 ヘッドコーチ
「相手の強いキャリアーに対してゲインラインを切られて、タックルを止められてスコアをされてしまった。やはりあそこの1対1で止められないと苦しくなってくる。前半にスコアされて、そこから盛り返して後半が始まる時点で8点差。いい流れに持っていけたんですけども、最終的にはやはりプレッシャーに負けてしまって不必要なパスをしてしまい、それを相手にスコアにつなげられてしまったところがありました」
──今日は最下位脱出のために点差を意識して試合に挑まれたと思いますが、実際に8点差以上の勝利も十分可能な展開だったと思います。逆転したあとに再逆転されてしまった分かれ目はなんだったのでしょうか?
「分かれ目……そうですね。ちょっとプレーの記憶を引っ張ってくるのは難しいんですけど、我慢し切るところで我慢し切れなかったところがあるんですかね」
──前半の立ち上がりに、自陣の深いところからなかなか抜け出せなかったところでも、耐えられた時間はありました。いいディフェンスができる時間があったと思いますが、リーグ戦16試合を終えて、まだ足りないと感じている部分はどのあたりでしょうか?
「いま、(先ほどの質問について)思い出しました。キックオフレシーブですね。前半もそうですけど、後半もスコアしたあとのキックオフレシーブで、主導権やせっかく傾きかけた流れを相手に持っていかれたところです。そしてタックルに関しては日々取り組んで良くなっていましたけど、やはり高く行ってしまう癖がまだ抜け切らないところが今日は出てしまいました」
──前半終了時点ではかなり僅差でしたが、そのときにバックスとフォワードがどのような意識を共有したのでしょうか?
「ユニットのところは各コーチに任せているので」
──選手全体に掛けた言葉や気をつけたい点のアドバイスや意識の共有などはどうだったのでしょうか?
「アタックはチャンスを作り出せていたので、ショートサイドの部分ですね。そこはチャンスがあったけどミスをしてしまっているので、変わらずに精度を高くやっていこうと。ディフェンスに関しては飛び出してコネクションが切れている部分がある。一人目が外されていて、二人目もしっかりと入れていないところがあったので一人がしっかりと入り、二人目もしっかりと入る。そして、しっかりと幅を保ってということを話して意思統一をしました」
──まだ現段階では入替戦の相手が分かりませんが(その後、浦安D-Rocksに決定)、入替戦に向けての意気込みをお願いします。
「とにかくこの入替戦2試合をとおして勝って残留して、来季も高いレベルでラグビーを続けられるように準備していきます」
──今日、最初の十数秒だけ出場したクウェイド・クーパー選手は、入替戦の出場資格を得るためだと思いますが、あらためて起用の意図を聞かせてください。
「いつもみなさんありがとうございます。一昨日ですかね、記者の方々に来ていただいて素直にいろいろなことに答えて、そのあと対応していただきました。出場資格を得るためにワンプレーだけ出るというのが今日の彼の役割でした。入替戦の出場が決まってから、いろいろなストーリーを考えて、入替戦で勝ち残るにはクウェイド・クーパーというカードを持っておく必要があると判断したので、彼をワンプレーだけ起用しました」
──クウェイド・クーパー選手は、状態としては2週間後の入替戦に問題なく出られるのでしょうか?
「今日の試合も続けようと思えば続けられる状態だった、というところです」
花園近鉄ライナーズ
野中翔平 キャプテン
「先週勝っていろいろなことを学びました。ただ先週はベストな自分たちのパフォーマンスではないとみんなにも伝えて、さらに上を目指してこの1週間準備してきたつもりではあったんですけど、今日の試合前のアップと試合中のコミュニケーション、一体感、つながり、そういったところがあまり良くなかった。何が原因で良くなくてどう修正したらいいのか、模索しながらチームを引っ張ろうとしていたんですけど、ちょっと僕の実力不足で、チームをバラバラにしたままゲームが進んでしまったなと。技術以外、戦術以外のところの問題があったように感じているので、それをもう1回自分で見つめ直して、いいふうにチームをリードできるように、入替戦に向けて頑張っていきます」
──今日は特別なデザインのジャージーを着て試合に臨まれましたが、実際に見て、着てプレーした感想はいかがですか?
「このジャージーだから、この格好でこのまま会見に来たんですけど、本当にこういう企画をして実際に形にして、それを自分たちが着る。プロ化するにあたってのチームの関わり方や配色に関してはちょっと花園近鉄ライナーズ(以下、花園L)っぽさというか、ひのとり(『特急ひのとり』。紅白戦でレギュラー組の意)の赤とか、しまかぜ(『観光特急しまかぜ』。紅白戦のサブメンバーの意)の青とかがあるのかなと思いつつ、ただ、特別なジャージーだけどいつもどおりプレーをしようと試合に臨んだんですが、ちょっとそこができなかったですね」
──選手全体に掛けた言葉や気をつけたい点のアドバイスや意識の共有などはどうだったのでしょうか?
「ちょっと誤解を招くかもしれないんですけど、結果よりプロセスにこだわってやっていこう、と。結果が出ていないからこそ、自分たちが何をすべきか、どういうアクションを起こすべきかにフォーカスしようという中で、『フェーズをしっかりと重ねれば、自分たちのシステムを信じてやり続ければ問題なく崩せる』という話をしました。でも、後半はそれを実行に移すことができずに、ちょっと行けるだろうというオフロードパスがつながらなかったり、そういったところで50:50のボールを相手に取られてしまって、そのままスコアされるケースもあったので、もう一度ショートカットせず、ラクをせずにアタックに関してはフェーズを重ね続ける。そこでの自分の役割を全うすることをもう一度クリアにしてやっていきたいと思います」
──まだ現段階では入替戦の相手が分かりませんが(その後、浦安D-Rocksに決定)、入替戦に向けての意気込みをお願いします。
「先ほども申し上げましたが、本当に喉から手が出るほど欲しい結果、(ディビジョン1に)残りたい気持ちは人一倍、キャプテンとしてというよりも僕が大学4年生のときに、入替戦で負けてトップチャレンジ(リーグ)でプレーした経験もあるので、来季入ってくる選手や、未来の花園Lに入りたいと言っている子どもたちのためにも必ず残りたい。だからこそ自分たちのやるべきこと、自分たちの仕事とプロセスにこだわっていい1週間、2週間を過ごしていきたいと思います」
──影響力があるクウェイド・クーパー選手が戻ってきたことをどう感じていますか?
「みなさんがどのようなイメージを持たれているか分かりませんが、クウェイド・クーパーという選手は、僕は会うまでは派手でトリッキーなスター選手というイメージでしたけど、僕が出会ったラグビー選手の中で一番細かいですね。本当に想像を絶するぐらいの細かさというか、ファーストフェイズで当てる位置が1m違うとプレーを戻すんですから。そういう彼のこだわりがチームのプロセスをいい方向に持っていってくれているので、プレーするしないにかかわらず、彼がリハビリを終えてオーストラリアから帰ってきてからは間違いなくチームにいい影響を与えてくれています。最終的に出るかどうかは本人のけがの状況と監督のセレクションなので僕が言えることはないですけど、チームメートとしてグラウンドでプレーすることを楽しみにしていますし、そうじゃなくても彼にできる仕事をいま100%でしてくれていると思います」
NECグリーンロケッツ東葛
NECグリーンロケッツ東葛
ロバート・テイラー ヘッドコーチ
「まずはNECグリーンロケッツ東葛(以下、GR東葛)のサポーターに『遠くまで来ていただき、ありがとうございます』と伝えたいです。また、今日は花園近鉄ライナーズ(以下、花園L)のサポーターもたくさんいた中、応援の勢いがあったというふうにも感じました。ボールを保持しているときのGR東葛の選手は、どうすれば得点できるかをよく見て判断していたので、その点もすごくよかった。花園Lにもけっこう、(われわれにとって)危機的なランナーというか怖いランナーもいるので、そこが、花園Lがポイントを重ねることができた理由だと思っております。
5週間、ここまでチャレンジングなゲームが続き、ここで本当に勝利がつかめたことを大変うれしく思います。また、ハーフタイムのときにはちゃんとリードで終えて、追い付かれたときにもまたしっかりとリードできたGR東葛に対して、本当に努力だなというふうにも感じることができました。本当にこのチームを誇りに思っております」
NECグリーンロケッツ東葛
レメキ ロマノ ラヴァ キャプテン
「楽しかったです、試合は。観ているお客さんもそうだし、花園近鉄ライナーズ(以下、花園L)もNECグリーンロケッツ東葛(以下、GR東葛)もいいアタックをたくさんできたと思います。最後の20分までどちらが勝つか全然分からなかったし、これからの入替戦に向けてどちらも勢いに乗ってできれば、ディビジョン1に残れると思うので、頑張ってほしい」
──今日の結果次第では最下位転落の可能性もある試合でしたが、試合に臨む前にどのような気持ちでしたか?
「まず、メンバー発表のときにクウェイド・クーパー選手が出てきて、花園Lがボーナスポイントを取らないといけないと分かっていたけど、まず何をしてくるのかが分からなかった。いいアタッカー、(ウィル・)ゲニアと(シオサイア・)フィフィタに加え、いい選手がたくさんいるので、何をしてくるのか分からない中でも、一応、ボールキャリーやボールキープを絶対すると思って、今週はディフェンスの意識をずっと高めていました。今までとシステムが変わって、今日は10番がウイングに入ったり、僕と13番、たまに10番と13番が入れ替わったりした。花園Lの強いランナー、(シオサイア・)フィフィタもそうだし、最初のゲインラインで勢いを作られるとすごくいいアタックを持ってくるけど、それを止めれば何も怖くないと思っていました。そのディフェンスのところを今週は意識していました」
──かなり苦しい時間帯もあったと思いますが、勝ち切れたことは入替戦に向けて弾みが付くのではないですか?
「(現時点では)三重ホンダヒートか浦安D-Rocksのどちらと対戦するか分からないけど、今週の試合の勝ち負けは関係なく、一番大事なのは入替戦に向けての勢いを付けたかったということです」
── 一度、逆転されてからもう一度突き放せたのはどのあたりが要因でしょうか?
「前半もそうだけど、毎回キックオフでボールを蹴ったら、花園Lの反応が遅くて、全部マイボールになるから、逆転されたときにもう1回高く蹴って、ボールを取ってくれれば、絶対にトライが取れる。トライを取られて、そのあとのキックオフで取り返したけど、一番はメンタリティー。たまにあるのはトライを取ったあとに集中が切れること。ずっとロケットスタートすれば、トライは取れるチームだけど、ウチのディフェンスがたまに緩い」