2023.05.15NTTリーグワン2022-23 D1/D2入替戦 第2戦レポート(相模原DB 43-14 S愛知)
NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン 1/ディビジョン 2 入替戦 第2戦
2023年5月14日(日)14:30 海老名運動公園陸上競技場 (神奈川県)
三菱重工相模原ダイナボアーズ 43-14 豊田自動織機シャトルズ愛知
半世紀の歴史で初の1部残留。それも、退団選手を含めた全員のハードワークがあってこそ
三菱重工相模原ダイナボアーズ(以下、相模原DB)が入替戦を制し、約50年に渡るクラブ史上で初めての1部残留を成し遂げた。
時折強い雨が降る中での第2戦は、第1戦で勝利した相模原DBが前半、風上から3連続トライを奪って主導権を握る。豊田自動織機シャトルズ愛知(以下、S愛知)は得点差を詰めるため、第1戦で優位に立っていたセットピースからボールを動かすプレーに切り替えた。
これによって、相模原DBはレギュラーシーズン序盤に見せていた“粘り強い守備からのアタック”が生き始めた。S愛知は最後まで反撃を試みたが、逆にマット・トゥームアがインターセプトからトライを奪い、昨季のキャプテン、ヘイデン・ベッドウェル=カーティスがコンバージョンキックを決めて締めくくった。
相模原DBが2試合ともに勝ち点5を奪う完勝だった。
相模原DBは今季、例年よりも早い時期から練習をスタートさせ、タフなトレーニングを積んできた。レギュラーシーズン序盤で結果を残せたことが自信となり、中盤以降はなかなか勝ち星に恵まれなかったものの、やってきたことを信じ、負けからも学ぶ姿勢を見せ続けた。ディビジョン2カテゴリーのチームとの入替戦でその成長ぶりを形で示した。
試合後、今季限りで退団する選手のセレモニーが開かれた。退団選手は、川俣直樹、町野泰司、大塚憂也、小野寺優太、照井貴大、葛見達哉、土佐誠、ヘイデン・ベッドウェル=カーティス、ディラン・ネル、サム・チョンキット、大嶌一平、阿久田健策、ジェームス・シルコック、山本逸平、関本圭汰、川上剛右の16人。
岩村昂太キャプテンは「いまのダイナボアーズがあるのは退団する選手たちが歴史を築いてくれたからです。そういう方たちのハードワークがなければ、昨季のディビジョン1昇格や、今季のディビジョン1残留はなかったと思う」と敬意を表す。
相模原DBは、『2027年覇権』の目標に向けて、新たなステージに突入する。
グレン・ディレーニー ヘッドコーチは「来季も早い始動をしますか」という質問に、「若い選手は早めに練習を始めます。おじさんたちは、たぶん次の日。まあ考えます」と答え、ニヤリと笑った。
(宮本隆介)
三菱重工相模原ダイナボアーズ(D1)
三菱重工相模原ダイナボアーズ
グレン・ディレーニー ヘッドコーチ
「雨だったので相手のセットピースが有利になることは分かっていました。相手をリスペクトしつつ、強みを消すように1週間練習しました。その成果を今日見せることができたと思います」
──立ち上がりから20分間で3トライ。試合の最初からたたみかける狙いでしたか?
「そうですね。これが(入替戦の)2試合目というところもありましたし、自分たちがリードしているので、コイントスに勝って風上からいいスタートを切ることで相手にさらにプレッシャーを掛けられると思いました」
──今季を振り返って。
「素晴らしいシーズンでした。自分たち自身のチームのことや、ディビジョン1の厳しさなどいろいろ学びました。最初の1カ月でいい結果を残して、自分たちがここで戦える自信にもつながりました。厳しさもあり、自分たちのレベルをさらに上げないといけないとも学べました。シーズンを通していいパフォーマンスを出せたのは、岩村(昂太)キャプテンがチームを引っ張ることができたからです。その影響力に感謝しています」
──チームの成長を最も感じた試合は?
「(第12節の)埼玉パナソニックワイルドナイツ戦は前半、ちょっと自信なくプレーをしたところがありましたが、後半だけを見たらこちらが勝ったような展開になり、自分たちの自信になったと思います。このレベルでも戦えることが分かりました。勝った試合は印象に残りますが、一番学んだのは負けた試合です」
──来季に向けて、どこを修正すれば上位争いに食い込めるか、見えたことがあれば教えて下さい。
「一番大事なのは、毎日、自分たちが昨日よりもいいチームになるように努力することだと思います。岩崎弥太郎が150年前に三菱を始めたときにも同じ価値観を持っていたので、自分たちもなぜここにいるのかを考えながら、その価値観を持ちながら成長し続けることが大事だと思います。もちろんいろいろなことを改善しなければいけませんが、その価値観を持ちながら改善することが大事です」
──新シーズンも早い段階でキツい練習をするのでしょうか?
「若い選手は早めに練習を始めます。おじさんたちは、たぶん次の日。まあ考えます」
三菱重工相模原ダイナボアーズ
岩村昂太キャプテン
「先週の勝利から『一番のリスクはわれわれのマインドセット。油断するな』と言われていて、チーム内でもそういった雰囲気が出ないように一人ひとり自分の役割を果たすことを意識して1週間を過ごしました。試合でいい場面もあれば、スイッチが切れる場面もあったりして、来季につながる反省点も見つかりました。1週間やってきたこと、マインドセットの部分は試合で出せたと思うので、その辺に関してはすごく良かったと思います」
──来季につながる反省点とはなんでしょうか?
「前半の途中からスイッチが切れる部分がありました。相手のクイックスローでは、こちらがスイッチオンにしておけば点を入れられずに済みました。後半は、われわれのミスからずっと自陣に釘付けになりました。セットピースやディシプリンは改善点だと思います。来季に向けてまたイチから積み上げていきたいと思います」
──後半から雨足が強くなりましたが、それに対して選手同士で確認したことはありますか?
「10番のマット・トゥームアと『エリアをしっかり考えていこう。自陣から無理に攻めずに、どんどんエリアを取っていこう』と話をしました」
──今季を振り返って。
「タフなシーズンではありましたが、プレシーズンから自分たちの土台を作っていって、シーズン序盤で勝ったり、シーズン中盤では負けてうまくいかない時期もあったりしましたが、最後の入替戦でいいラグビーができました。本当に毎試合学ぶことがたくさんあって、高いプレッシャーの中で1週間前の課題をどれだけ克服できるかということをチャレンジしながらずっとやってきました。スタッフ、選手を含めて全員がハードワークした結果が、ディビジョン1でもう一度戦える結果につながりましたし、われわれ自身もディビジョン1で戦って、『戦えるな』という手ごたえも得ることができたので、タフでしたが充実したシーズンだったと思います」
──シーズンの苦しい時期はどのように乗り越えましたか?
「うまくいかないと、『何かをしないといけない』というメンタルになると思います。ただ、今までやってきたプロセスは間違っていないので、そのプロセスを高いプレッシャーの中でどれだけ出せるかが課題だと考え、どんなに苦しいときでも変えず、同じプロセスをやり続けることを意識していました」
──キャプテンを務めるのは初めてだと聞いています。振り返ってみてキャプテンはどんなものでしたか?
「全キャプテンにリスペクトを送りたいと思うくらい、いろいろなことがある役職だと感じました。キャプテンの行動次第でほかの選手がどう行動するのか決まってくる責任のある役職でもあるなと感じました。シーズンをとおして自分の行動をしっかりすることを意識していて、僕がそれてしまうとチームもそれてしまう。そこを意識して1年間やり続けたのは良かったなと思います。キャプテンとしての課題も見つかったので、また来季、キャプテンをやることがあれば、改善していきたいなと思います」
──退団する前キャプテンのヘイデン・ベッドウェル=カーティス選手、クラブキャプテンだった土佐誠選手などリーダーへの思いを聞かせてください。
「僕自身は三菱重工相模原ダイナボアーズ(以下、相模原DB)に入団して2年目ですが、いまの相模原DBがあるのは退団する選手たちが歴史を築いてくれたからです。そういう方たちのハードワークがなければ、昨季のディビジョン1昇格や、今季のディビジョン1残留はなかったと思うので、本当に感謝しています」
──退団するメンバーから影響を受けたというエピソードを教えて下さい。
「ヘイデン・ベッドウェル=カーティス選手のリーダーシップに関してはすごく学ぶところがありましたし、スーパーラグビーで培ってきたリーダーシップを相模原DBでもどんどん出してくれていて、試合に出ているときもグラウンド外の行動でも学ぶところがたくさんあり、すごくいい勉強になりました」
豊田自動織機シャトルズ愛知(D2)
豊田自動織機シャトルズ愛知
徳野洋一ヘッドコーチ
「三菱重工相模原ダイナボアーズ(以下、相模原DB)さん、ディビジョン1の残留おめでとうございます。悪天候の中、素晴らしい環境を作っていただいたこと、多くのファンの方々に応援いただき、相模原DBさんのチームと地域が一体となった雰囲気の中で大切な一戦をさせていただいたことを大変感謝しています。2戦とも完敗しました。今日の試合は38点差をひっくり返す必要があった中で、ある程度のリスクを冒しながら、失点に対してはそこまでネガティブに捉えることなく、最後まで得点を狙い続けました」
──1週間前と比べてチームが成長できた部分は?
「ボールを動かして戦うのがわれわれのスタイルです。入替戦の第1戦を踏まえて、この1週間、われわれがやってきたことをグラウンドでしっかりと表現するために準備をしてきました。天候が悪い中でボールがスリッピーで難しい状況になりましたが、要所でわれわれのアタックを見せることができたのは、選手が頑張ったおかげだと思います」
──ディビジョン1の壁を超えられなかった部分は?
「勝負どころでトライを取り切れる相模原DBさん、取り切れなかったわれわれ。ペナルティをしてはいけないところでしてしまったわれわれと、しなかった相模原DBさん。小さなところの差がありました」
──今季を振り返って、選手にどんなことを伝えましたか?
「日本人をしっかりと育成していくことを軸に置いています。リーグ戦を通して、育成と現場での成果を生んでいくという二つの軸を追い求めていく中で、難しい局面もたくさんありましたが、1年を乗り越えてくれた選手に感謝の思いを伝えたい。それぞれがベストを尽くしていることは間違いないので、この結果に下を向くのではなく、胸を張って来季につなげようというメッセージを選手、スタッフに伝えました」
──スクラムの強さはディビジョン1でも十分に通用すると思います。日本人選手の育成とも関連して、どうやって強くしたのでしょうか?
「日本人選手は、広いスペースで外国人選手と対峙しても難しい部分があります。ただ、スクラムは“よーいどん”でお互い8人で押し合えるので、日本人の我慢強さや勤勉さを強みに変えられます。スクラムに関してはフォワードのコーチを中心に3年間という中長期でプランニングしながら準備しています。選手のハードワークのおかげで、その成果が出ていると思います」
──後半の早いタイミングで交代カードを切った意図は?
「得点を積まなければいけなかったので、より走れる選手を入れました。試合時間が少なくなってくる中で、スクラムに時間を使うよりはインプレーで得点機会を増やすためです」
──相模原DBとは何度も入替戦を戦ったライバルのはずですが、今回、実力差を見せつけられた点を率直にどう考えますか?
「敗因はたくさんあります。いま、要因を一つ挙げることは難しいのですが、われわれのスタイルとしては“できないことをできるようにする”、“できる方法を考えてやっていく”というチーム作りをしています。ハード面、ソフト面で劣っている部分も含めて、それが結果としてつながることを“良し”とするのではなく、その状況の中でわれわれは、戦力が充実した素晴らしい相模原DBさんにどのように向かっていくのかを追い求めることにフォーカスしないといけないと思っています。比較というよりは、われわれの道で勝ち上がっていくことを見つめ直したいと思います」
豊田自動織機シャトルズ愛知
ジェームズ・ガスケル ゲームキャプテン
「チームメートを誇りに思います。得点することで接戦に持ち込みたかったです。来季も入替戦の舞台に立って、ディビジョン1に上がりたいです。自分たちが今季に体現したかったラグビーがここ数試合はできていましたので、来季はハングリーに戦って、しっかりと形にしていきたいです」
──1年間、一緒に戦い抜いた選手たちをどのように思いますか?
「自分たちに大きなポテンシャルを感じています。ここまでの成長の道のりの中で、そのことを感じました」