NTTジャパンラグビー リーグワン2023-24 ディビジョン1(交流戦)第11節
2024年3月22日(金)19:00 秩父宮ラグビー場 (東京都)
クボタスピアーズ船橋・東京ベイ vs 埼玉パナソニックワイルドナイツ
クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(D1 カンファレンスA)
逆襲は始まったばかり。“切り替える力”を
武器に挑む首位との決戦
奇跡的な逆転劇で金曜夜の秩父宮ラグビー場を熱狂に染め上げた前節の横浜キヤノンイーグルス(以下、横浜E)戦。試合直後のバックステージには、何やら納得のいかぬ表情を浮かべる選手がいた。
「前半から後半の序盤まで相手のアタックに翻ろうされていた中で、自分自身もっとディフェンスのやりようがあったのではないか、と。また、キックオフからの流れも、あまり良くありませんでした。もちろん(勝った)喜びはあったのですが、内容的には多くの課題が残った試合でした」
島田悠平。2020年にクボタスピアーズ(当時)に入団するも、公式戦出場の機会になかなか恵まれず、2022-23シーズンの開幕節でデビュー。そこから順調に試合出場を重ね、本領を発揮したのが昨季の2023年4月、第15節NECグリーンロケッツ東葛戦。バーナード・フォーリー、ゲラード・ファンデンヒーファーといった名キッカーを欠いた中、島田は9度のキック機会すべてに成功。難しい角度のキックも見事に決め、存在感を示してみせた。
しかし、この一戦を最後に、島田の名前はメンバー表から消えた。リーグ戦最終節の東京サントリーサンゴリアス戦、そしてプレーオフトーナメント準決勝、続く決勝戦のピッチにも彼の姿はなく、そして今季開幕節のメンバーリストにも彼の名が記されることはなかった。
「キックの成功率以外の部分で、例えばG(ゲラード・ファンデンヒーファーの愛称)と比較した場合、まだまだ自分に足りないところがあるということです。もちろん悔しい気持ちもありましたが、現状を受け止めて、課題と向き合っていくしかないと思いました」
「感情に変化が起こったときに、いかに対応していくか。そこはすごく大事なところ」と島田は語る。屈辱を味わったときこそ、次に自分が何をやるべきなのかを考える。前節の横浜E戦のときのような喜びを感じる状況でも同様で、この“切り替え力”が島田の武器にもなっている。
「悔しいからといって現状を認めないのも、それは違うと思います。(考えるべきは)現状を受け止めた上で、次にやるべきことは何かということ。そこは感情に左右されるべきところではないと思います」
2月に開催された「THE CROSS-BORDER RUGBY 2024」。ギャラガー・チーフスとの一戦にて、島田は久しぶりに出場。溜めてきた何かを一気に噴出するような生命感あふれるファイトは、最後のワンプレーまで勝敗の行方が読めないスリリングな攻防を生み出した。そして第9節、トヨタヴェルブリッツ戦でついに今季初キャップ。続く第10節、横浜E戦ではコンバージョンゴールを決め、自ら熱戦を締めくくった。
「例えば、練習試合でいいパフォーマンスを残せたと思っても、コーチの意見との相違はあるものです。すぐに試合に出られるわけではありません。自分が成長するために、コーチのアドバイスを受け入れて、次にやるべきことを考える。その結果、チャンスが巡ってきたんだと思います。このスタンスは、今後も変えずにいこうと思っています」
次節は3月22日、秩父宮ラグビー場でのホストゲーム。相手は首位を走る埼玉パナソニックワイルドナイツ。昨季プレーオフトーナメント決勝戦の再戦に、島田は15番を背負ってピッチに立つ。
「チームが(5勝5敗と)厳しい状況にある中、負けられない相手。いいチャレンジができる機会だと思います。自分自身も100%以上のパフォーマンスを発揮して、チームがいい結果を出せるように引っ張っていきたいです」
今こそ“切り替え力”を信じよう。逆襲は、まだ始まったばかりである。
(藤本かずまさ)
埼玉パナソニックワイルドナイツ(D1 カンファレンスB)
涙をぬぐったあのときの雪辱を。
松田力也がリベンジ達成の原動力になる
埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)3月22日午後7時キックオフのビジターゲームでクボタスピアーズ船橋・東京ベイ(以下、S東京ベイ)と対戦する。埼玉WKにとって、S東京ベイは昨季のプレーオフトーナメント決勝戦で敗れた相手。開幕11連勝を狙うチームは、因縁の相手にリベンジを果たして今季のプレーオフトーナメント出場へと突き進む。
昨季のプレーオフトーナメント決勝戦で、埼玉WKは15対17でS東京ベイに敗れてリーグ連覇を逃した。その試合後、松田力也はS東京ベイの優勝セレモニーをピッチサイドで眺めながら涙をぬぐった。
あれから10カ月、松田はこう振り返る。
「プレーオフトーナメント決勝戦では、チームとしてのプレーが昨シーズンで一番できなかった。どこかで自分たちに油断があったのかもしれない。あの悔しさは忘れられないし、自分たちのスタンダードを表現することで借りを返したいと思います」
王座奪還を目指す今季、松田のパフォーマンスには磨きがかかっている。司令塔としてゲームをコントロールしながらトライやアシストでも貢献。さらにキックの安定感も増している。第9節の東芝ブレイブルーパス東京戦や前節のコベルコ神戸スティーラーズ戦では40m以上のペナルティゴーを冷静に決めて得点を刻むと、勝利の原動力となった。
「距離は意識せずに、自分のキックをすることだけを考えていました。坂手(淳史)キャプテンとコミュニケーションを取りながら長い距離でも任せてもらっています。あの位置から決めることによって相手へのプレッシャーになればいい」
今節の相手である前年度王者のS東京ベイは、現在5勝5敗の6位。プレーオフトーナメント進出に向けて負けられない状況になっている。
「S東京ベイは昨季のメンバーを維持している中で、昨季の優勝チームということで、対戦相手が対策を練ってきています。いまは6位ですが、チーム力は高いので、自分たちはしっかりと準備するだけ。S東京ベイも気合いを入れて、僕たちに向かってくると思うので一つひとつのプレーの質にこだわってプレーしたい」
今節は、秩父宮ラグビー場での金曜ナイトゲーム。ホストエリアの熊谷からファンが駆けつけるほか、日本中のラグビーファンも昨季のプレーオフトーナメント決勝と同じカードのキックオフを期待して待っている。
「秩父宮は、大学時代から良い思い出のあるスタジアムだし、ラグビー専用なので大好きな場所。いつもどおり冷静にチームをドライブしたいし、個人としても成長した姿を見せたい。勝利のために自分の役割を遂行したい」
埼玉WK、そして松田にとって、S東京ベイ戦は負けられない戦い。松田の力強いランと、しなやかなキックが、勝利へのカギとなる。
(伊藤寿学)