NTTジャパンラグビー リーグワン2023-24 ディビジョン1(交流戦)第11節
2024年3月24日(日)14:30 三重交通G スポーツの杜 鈴鹿 (三重県)
三重ホンダヒート vs 三菱重工相模原ダイナボアーズ
三重ホンダヒート(D1 カンファレンスA)
基礎徹底、経験、そして地の利。
“90.2%”に理由あり
練習場に向かう車を降りた瞬間、傘がバキバキっと音を立てて裏返しになった。今日も、鈴鹿は風が強い。前節のディビジョン1初勝利の余韻を、冷たい風が容赦なく吹き飛ばしていく。
「どのチームの選手も『鈴鹿が一番投げにくい』と言いますね」
そう話すのは、ラインアウトでスローワーを務める李承爀だ。
「この環境で練習や試合をしているので、ほかの会場で風が吹いていてもあまり影響を感じない。それは強いかもしれませんね」
現在、三重ホンダヒート(以下、三重H)のラインアウト成功率はリーグトップの90.2%を誇る。前節・花園近鉄ライナーズ戦の2トライ目は、ラインアウトからモールで押し込み、李承爀がインゴールに飛び込んだものだった。「その前にしっかりみんなで話し合って、どの方向に押すかを決めていたので、イメージどおりのプレーでした」(李承爀)。
前節の勝因の一つでもあったラインアウトについて、選手は異口同音に分析する。
「鐘史さん(伊藤鐘史フォワードコーチ)からもよく言われるのですが、まっすぐ飛ぶ、ちゃんと上げるといった基本的なところにフォーカスしています。特別なサインプレーはしていないのですが、基礎的なことをいかにプレッシャーが掛かった状態でもやり切れるか、その意識は高いと思います」(秋山陽路)
「鐘史さんが基礎的なところをしっかりやろうと、夏から取り組んできたことが生きていると思います。ホンダ(三重H)の選手は全体的に身長が低いので、ジャンプやリフトのスピードを上げて、そこにしっかりと投げ込むことを意識しています。D1は少しズレただけでも引っかけられてターンオーバーされるので」(李承爀)
李承爀も毎日、スローイングの練習を「気がすむまで繰り返す」というが、夏から積み上げた基礎的なことに加えて、フランコ・モスタートの経験も大きいという。
「僕がコールをするときは、相手の動きを見て『ここが空いているからここに出そう』と考えるのですが、サインが決まったあとに相手も位置を変えることがあります。(フランコ・)モスタートはその駆け引きや読みが素晴らしいです」(秋山陽路)
「(フランコ・)モスタートが自分の投げやすいところにコールをしてくれます。練習中も試合中も密にコミュニケーションをとっています」(李承爀)
今節対戦する三菱重工相模原ダイナボアーズも1試合平均ラインアウトスティール数がリーグ2位(1.5)と、ラインアウトを強みとするチームだ。
「今までどおりにはいかないと思いますが、(フランコ・)モスタートとコミュニケーションをとって、うまく相手をズラしたいと考えています」
ラインアウトの攻防は、今節の見どころであり、勝負を分けるポイントになりそうだ。地の利を生かして、D1でのホストゲーム初勝利をつかみたい。
(山田智子)
三菱重工相模原ダイナボアーズ(D1 カンファレンスB)
器用貧乏ではなく、“すべてで専門家”。
飛躍を期す男が目指す“オンリーワン”
前節の東芝ブレイブルーパス東京(以下、BL東京)戦で敗れたものの、前半の劣勢を立て直し、最後までファイティングポーズを取り続けた三菱重工相模原ダイナボアーズ(以下、相模原DB)。今節の相手は、今季ディビジョン1に上がってきた三重ホンダヒート(以下、三重H)。2022シーズンのディビジョン2で、花園近鉄ライナーズとともに三つ巴でしのぎを削ったライバルと2年ぶりに相まみえる。
2022シーズンの対戦成績は相模原DBの1勝2敗。その2敗も、それぞれ1点差と2点差という大接戦だった。
「それぞれのチームがどんな強みを発揮すれば有利になるのか、お互いによく分かっています。ただ、僕たちは今週、相手のことではなく、“自分たちがやるべきことを遂行する”というのをテーマに練習してきました」
こう口にするのは、BL東京戦で後半途中から9番(スクラムハーフ)を実戦で初めて務めた福山竜斗。近畿大学時代にはU20日本代表にスタンドオフとセンターで選ばれたユーティリティープレーヤーだ。
「本来、21番は9番に入るスクラムハーフのポジションですが、僕がやれば、けが人が出てもいろいろなポジションをカバーできます。それが一番の強みになるとグレン・ディレーニーヘッドコーチから言われて挑戦することに決めました」
福山は今年を“飛躍の年”と見据えていたという。「高校や大学の最終学年とも重なる3〜4年目は、自分の人柄を一番見せられて、意見が言える居心地のいい時期。ここでチャンスがくることを想定していました」
今季のプレシーズンマッチでは存在感を見せていた。ここまでの背景をこう明かす。
「もともと自分の強みのコンタクトや思い切りのいいアタックは評価してもらっていましたが、コーチやスタッフとたくさん話すことで、自分をもっと理解してもらおうという姿勢を見せることが必要だと気づきました」
自分からガツガツいくタイプではないというが、その効果は出た。
「僕がどんな人間か分からなければ、思い切って使えません。『チームのことを理解しているぞ』と、話すことでアピールし、やりたいこととやるべきことが明確になったので、『福山は使える』と思われ始めていると思います」
「器用貧乏ではなく、各ポジションでスペシャリストになること」が目標という福山。三重H戦は、前節に続き控えで21番に入った。「自分のチャンスが9番、10番、12番、15番のどこでくるのか分かりませんが、すべてのポジションで出られる準備をして、求められた時間帯で求められた仕事をしようと思います」と意気込んだ福山が、“スペシャリティープレーヤー”への道を踏み出す。
(宮本隆介)