NTTジャパンラグビー リーグワン 2024-25
ディビジョン1 第1節(リーグ戦) カンファレンスA
2024年12月22日(日)14:30 相模原ギオンスタジアム (神奈川県)
三菱重工相模原ダイナボアーズ 31-19 浦安D-Rocks
いきなり見せた“世界王者のすさまじさ”。
カートリー・アレンゼがもたらす好影響
浦安D-Rocks(以下、浦安DR)を迎えての開幕戦は、後半の巻き返しに成功したホストチームの三菱重工相模原ダイナボアーズ(以下、相模原DB)に軍配が上がった。
どこにそんなパワーを秘めているのか。そんな思いが頭をよぎる相模原DBの逆転トライシーンだった。
14対14の同点で迎えた後半21分、相模原DBは右サイドで前進したのち、左サイドに展開。すると、バイフ トニシオのラストパスを加速しながら受けたカートリー・アレンゼの前には広大なスペースが広がっていた。
カートリー・アレンゼは、ゴールライン手前で進行を阻むべくタックルをしかけた浦安DRの田村煕をはじき飛ばしてトライ。スタンドからは歓声に混じって、どよめきが沸き起こった。
身長176cm、体重80kgと決して大柄な選手ではない。それでも世界王者の南アフリカ代表の一員として、屈強な選手たちと競ってきたワールドクラスのプレーのすさまじさを見せつけた場面だった。
「スペースを与えたら、ああいう結果になるようなプレーヤーだと思います」と相模原DBのグレン・ディレーニー ヘッドコーチ。岩村昂太キャプテンも「爆発的なスピードが素晴らしい。カートリーのスピードを生かすために、われわれがどうやっていいスペースを作るのかということをやっていきたい」と実戦の中で感じたカートリー・アレンゼの能力の高さに驚きを隠せない。
一方、相模原DBの選手たちは、ピッチ外で見せる彼の人間性にも一目置いているようだ。
「カートリーが加入して一番良かったところは、実はフィールドプレーではなく、クラブハウスでの影響力がすごく強いことです」(グレン・ディレーニー ヘッドコーチ)
その実績とプレーからはやや近づきがたい印象だが、岩村いわく「すごいシャイボーイ」。
「練習時に小泉怜史にいろんなアイデアを伝えてあげているところをよく見ます。ロッカーの中でも選手とコミュニケーションを取って、チームに馴染もうとしています。すごい結果を残した選手で、生き方が素晴らしく、学ぶ姿勢を見せてもらっていて、みんなで学ぶところがあるなと思います」(岩村)
カートリー・アレンゼは「常に自分のスキルを改善できるように意識して努力しています。そしてほかの選手もスキルアップできるように自分ができることで貢献していきたいです」と口にする。
浦安DRにとってはスタンドオフの選手二人がケガとHIA(脳振盪の疑いのある選手を一時退出させること)で途中退場になったことが誤算だったが、セットピースで優位に立つなど、ディビジョン1で戦える手ごたえをつかんだようだ。今季のリーグワンでは、さらに熱く、激しい戦いが見られるだろうと予感させる一戦だった。
(宮本隆介)
三菱重工相模原ダイナボアーズ
三菱重工相模原ダイナボアーズ
グレン・ディレーニー ヘッドコーチ
「すごく寒かったということもありますが、前半と後半はまったく違うハーフになったと思います。前半はあまりポゼッションもなくて、ディフェンス(する展開)が多かった中、相手はいくつかのチャンスを得点につなげることができていました。後半は自分たちがもう少しボールを持つ展開になり、何ができるのかを見せることができたと思います。終わり方は良かったと思いますが、最後の相手のトライでボーナスポイントが取れなかったのはいい学びだと思います」
──後半に流れが変わったキーポイントは何だったのでしょうか。
「一番はボールポゼッションです。前半は相手が長い間、ボールを持っていました。風下のときは蹴ってもあまり陣地を取れないのでボールを持つことが多いです。(風下になった後半は)自分たちももっとボールを持って、まずはモールで前に出て、そこから外のスペースに出ることができて、そこでカートリー・アレンゼやベン・ポルトリッジの前にスペースができました。これはフォワードの活躍があったからだと思います。自分たちが最初からボールを持つことができたので、そこで勢いを変えることができたと思います。いつも風が強い相模原ギオンスタジアムでは、風上のときにいいプレーが多いと思いますが、この3年で初めて風上をうまく使えなかった試合だったと思います。前半に風上の選択をしたのは、キャプテンと二人で判断しました。また、(このチームで)デビューした選手が4人いて、ラグビーのやり方もちょっと変わっているというところもあるので、自分たちのコネクションをもう少し作らないといけません」
──カートリー・アレンゼのパフォーマンスの評価はいかがでしょうか。
「悪くなかったです。才能のある選手がわれわれのチームに来てくれて本当にうれしく思います。彼がトライを取ったところの前、エピネリ・ウルイヴァイティやウォルト・スティーンカンプのキャリーで勢いを作りましたが、彼(アレンゼ)はスペースの中でボールを持ったらああいうことができる選手です。スペース自体はチームで作り出したものですが、そうやってチームでスペースを作り出したことでアレンゼがトライを取ることができました」
カートリー・アレンゼが加入して一番良かったところは、実はフィールドプレーではなく、クラブハウスでの影響力がすごく強いことです。経験豊富な選手で、若い選手だけではなくベテラン選手にもいろいろ教えていて、日本の文化にもすごく興味を持ち、日本でプレーして貢献したいという気持ちがすごく伝わってきます。チームのみんながもっといいがプレーできるようにサポートしているところが一番大きなプラスになっています」
──フォワード第3列の吉田杏、佐藤弘樹、マリノ・ミカエリトゥウの組み合わせは今後も多くなるのでしょうか。
「フォワード第3列は一番層が厚いポジションです。ここ2、3年で層を厚くすることができました。吉田杏、坂本侑翼、鶴谷昌隆、みんな素晴らしい7番です。吉田杏はプレシーズンに素晴らしいプレーをしました。フィジカルの強化ができたのは新しいコーチのおかげです。今日出場した選手が今日のベストの選手です。ジャクソン・ヘモポもベンチスタートからでしたが、18試合を戦うために選手層が厚いことは重要なことです。試合終盤のエピネリ・ウルイヴァイティが6番、吉田杏が7番、ジャクソン・ヘモポが8番というのもいい組み合わせだったと思います。岩村昂太のパスのオプションが増えていると思います」
──チームとして今季強化したことは何でしょうか。
「昨季のディフェンス面のレベルは過去に比べて下がりました。フィジカル強化が大事だということでプレシーズンに多く投資して(時間を掛けて)、フィジカル面で使える選手が増えてきています。リーグで一番トライを与えにくいディフェンスにすることが目的です。ジョー・マドック、イーリ ニコラスの両コーチを始めとするスタッフのおかげで、アタックで点を取れるのは分かっているので、相手を止めるところが一番大事だと考えています。リーグの中で一番ハードワークするチームになるために努力してきましたし、ハードワークがどういう意味を持つのかということもすごく考えました。体を張るだけでなく、自分たちのプレーで子どもがラグビー選手になりたいと思ってくれたらそれもハードワークだと思います。ハードワークの深い意味を今季は大事にしてきました。三菱重工150年の歴史にわれわれも何かを足せるように、学びながら進もうとしています。今日は三菱重工業株式会社の社長が試合を観戦して、試合後にロッカールームでみんなに挨拶をしてくれたので光栄に思いました」
三菱重工相模原ダイナボアーズ
岩村昂太キャプテン
「前半はポゼッションが取れず、ペナルティで自らの首を絞めてしまったところがあったと思います。そこは自分たちの意識で改善できるところだと思うので、今後しっかり改善していきたいと思います。後半のようなラグビーができれば、われわれは本当にどこが相手でも戦えるようなチームなので、自分たちのラグビーを信じてこれからも戦い続けたいと思います」
──後半に流れが変わったキーポイントは何だったのでしょうか。
「フォワードのモールやボールキャリーです。ボールをちゃんと持ってフィジカルに前へ出られたことが流れをつかめた要因だったと思います。ただ、風上の選択をして、前半、あの点差で折り返したことに関してはちょっと想定外でした」
──いいゲームの締め方をするために必要なことは何でしょうか。
「ペナルティがもっと少なければ、アタックでボールを持って自分たちの強みを出せる時間も増えると思います」
──カートリー・アレンゼ選手が与えている影響はどう感じていますか。
「すごくシャイボーイですが、練習時に小泉(怜史)とよくコミュニケーションを取って、いろんなアイデアを伝えてあげているところをよく見ます。ロッカーの中でも選手とコミュニケーションを取って、チームに馴染もうとしているのがすごく見えます。素晴らしい結果を残してきた選手で、生き方が素晴らしく、学ぶ姿勢を見せてもらっていて、みんなも学ぶところがあると思います。
フィールド上では見てもらったとおり、爆発的なスピードが素晴らしいと思いました。カートリー(・アレンゼ)のスピードを生かすために、われわれがどうやっていいスペースを作るのかということをやっていきたいと思います」
──ハードワークの意味を深く考えることでチームはどのように変わりましたか。
「子どもに夢を与えることもそうですし、150年の歴史がある三菱重工でわれわれがなぜラグビーをできているのかについてもさらに深掘りできました。いま、与えられている環境が当たり前じゃないということも理解しながら、誰のためにわれわれがハードワークするのかが深掘りされて、ハードワークの意味の幅がさらに広がったと思います」
浦安D-Rocks
浦安D-Rocks
グレイグ・レイドロー ヘッドコーチ
「前後半で展開が違った試合になったと思います。前半は風下の中、よく戦いましたが、後半、規律の乱れから自分たちで試合を崩してしまったというところが課題だったと思います」
──後半で流れが変わってしまった要因は何だったのでしょうか。
「規律の乱れから相手にエリアを与えてしまう部分が一つ。あとはすごく流れが変わった局面がありました。ラインブレイクのあと、(敵陣)22m付近で飯沼(蓮)キャプテンがパスをしたときにオフサイドにいる相手選手に当たりましたが、(判定が)流されてしまって結局、最終的に三菱重工相模原ダイナボアーズ(以下、相模原DB)さんがそこから脱出できました。チャンスがあったのにそこのペナルティをもらえず、試合の流れがそこで変わったような形がありました」
──オテレ・ブラック選手が前半で交代した理由を教えてください。
「ケガをしてしまったので交代しました。(負傷箇所は)メディカルチェックのあとに確認します」
──控えにフォワードを6人置いた理由を教えてください。
「相模原DBの脅威に対策しましたが、自分たちがプレシーズンからも練習してきたフォワード6人、バックス2人のベンチ構成です。それによって後半に、例えばヤスパー・ヴィーセのような選手を入れるというような、大きな利点も見られたと思います。その反面、10番の選手が2名ケガをしてしまったという、かなり不運なところがあったと思うので、この先のシーズン中、ラグビーの神様が良い運を持って来てくれることを祈っています」
──後半9分にペナルティキックで3点を取りましたが、その選択した理由を教えてください。
「基本的に選手に任せています。3点を取ることでスコアボードのプレッシャーを掛けにいくことを意図したと思いますが、実際は選手に聞いてみないと分かりません」
浦安D-Rocks
飯沼蓮キャプテン
「ヘッドコーチも言ったとおり、前半はいいファイトができていましたが、後半、少しリードされたときに過去を引きずってしまって接点で少し引いてしまったし、焦りからペナルティをしてしまったところが響いてしまったかなと。どんなことが起こっても自分たちのやるところだけに集中してプレーできていれば勝てた試合だったと思いますし、課題が見つかった試合になりました」
──セットピースで焦ってしまった要因は何だったのでしょうか。
「10番の煕さん(田村煕)が脳震盪で交替するという、予想してない展開になったのが個人的には大きかったです」
──前半は風下でいい流れを持っていたが、ハーフタイムでは何を話したのでしょうか。
「リードはしている中で、やることは変えずに、自分たちはチャレンジャーなのでチャレンジャーらしくひたむきにしかけていくことでした。風上なのでしっかりとエリアをとってディフェンスしていこうと言っていました」
──逆転負けした要因は、スキルの部分、メンタルの部分のどちらでしょうか。
「メンタルが耐えられないというよりは、スコアボードや過去のプレーに影響されないこと(が必要でした)。次のプレーだけに集中するところをもっと突き詰めていかないと思っていて、それが一番大きいです」
──ディビジョン1で通用したところはありましたか。
「セットピースと、いつもどおりにアタックすれば後半の最後のように(スコアを)取り切る力はあるというところです。自分たちはタレントもそろっているので、常に80分間、自分たちのペースでいつもどおりにプレーすれば通用するのが分かりました。あとはメンタルのところですね。まだまだ試合が続くので一戦一戦、成長していきたいと思います」