NTTジャパンラグビー リーグワン 2024-25
ディビジョン2 第2節
2024年12月28日(土)14:30 江東区夢の島競技場 (東京都)
清水建設江東ブルーシャークス 41-33 九州電力キューデンヴォルテクス
因縁のカードでリベンジ成功。その中心にいたのは、異国の地で奮闘する元オールブラックス
清水建設江東ブルーシャークス(以下、江東BS)が、九州電力キューデンヴォルテクス(以下、九州KV)を相手に41対33で勝利し、開幕2連勝を飾った。
江東BSにとって、この試合は単なるリーグ戦の一戦にとどまらず、2シーズン前のD2/D3入替戦で喫した大敗を払拭するリベンジマッチという特別な意味をもっていた。あの敗戦は、ディビジョン3への降格という結果だけでなく、ホストで応援するファンの前で屈辱を味わうという深い傷を残した。以来、チームはあらゆる面を見つめ直し、昨季、D2昇格を果たした。
そんな因縁のカードで江東BSは前半から九州KVを圧倒。試合は41対33とスコアを重ね、見事にリベンジを果たした。勝利の立役者となったのは、元ニュージーランド代表・オールブラックスの司令塔、リマ・ソポアンガだ。
開幕戦では、彼の武器であるキックが不調に終わり、ゴールキックは6回中4回を失敗。勝利こそ収めたが残ったのは悔しさだった。
「前回はすごくダメでした。自分の武器なのにうまくできなくて悔しかった。でも、そのぶんたくさん練習しました。(ほかの人に)見られてないところでも練習を積んで、もう一度自信を取り戻して臨んだ試合でした」
個人としてもリベンジマッチとなったこの日、彼はそのすべてを発揮した。5本のコンバージョンキックと1本のペナルティゴールをいずれも確実に決め、チームの勝利に大きく貢献。特に前半36分に左サイドの難しい角度から決めたコンバージョンキックは、ゴールポストの真ん中を美しく射抜いた。プレーヤー・オブ・ザ・マッチにも選ばれ、「努力が報われてうれしい」と試合後に満面の笑みを浮かべた。
しかし、この成功は一朝一夕のものではない。昨季から来日した彼にとって、日本の文化やプレースタイルに馴染むまでの道のりは決して平坦ではなかった。
「外国から来ているぶん、国の文化や言語、考え方などすべてが異なるので、やはり時間はどうしても掛かります。特に日本は『こうする』と言われたことをしっかりやりとおすといった姿勢が良しとされているところがあると思うのですが、そこに納得してできるまで時間が掛かりました。自分を表現したいし、食い違いがありました」
そんな中で、「お互いに時間を掛けて知っていくことで、日本のスタイルをやりながらも自分を表現することができてきた」という。
こうしたワールドクラスのベテランの課題に真摯に向き合い、結果で応えていく姿が、どれほどチームに影響を与えるだろうか。新戦力として今季加入した外国籍選手も多く、元オールブラックスの背中に感じるところがあるはずだ。
いよいよ“完全覚醒”した10番が、チームにも自身にもリベンジを成功させた。今季ここからどのようなプレーを見せてくれるのか。ファンたちもさらにホストゲームが楽しみになったことだろう。
(奥田明日美)
清水建設江東ブルーシャークス
清水建設江東ブルーシャークス
仁木啓裕監督兼チームディレクター
「まず、本日、江東区夢の島競技場でのホストゲーム開幕戦にあたってご尽力していただきました東京都協会の皆さま、関わった皆さん、本当にありがとうございました。試合前にも選手に伝えましたが、2シーズン前、ここ夢の島で(のD2/D3入替戦で)0対48で九州電力キューデンヴォルテクス(以下、九州KV)に負けたところがスタートだというふうに私自身は思っていました。今回、2年越しにリベンジが果たせて本当にうれしく思います。ありがとうございました」
──ゲームプランで想定どおりだった部分と、予想外だった部分を教えてください。
「夢の島は風が非常に強い競技場ということもありますが、今日は無風でした。なので、クリップス ヘイデンやリマ・ソポアンガの中でいろいろと考えが変わったかもしれません。ただ、ベテラン選手なので、グラウンドの状況に合わせて展開してくれたのかなと思います。キックゲームを想定していましたし、吉廣広征ヘッドコーチ兼マーケティングリーダー(以下、吉廣ヘッドコーチ)を筆頭に九州KVを分析してくれた結果かなと思います。具体的な戦術は控えますが、しっかりと選手が遂行してくれた結果かと思います」
──ハーフタイムにはどのような指示を出しましたか。
「前半の入りはとても良かったです。メンタル面でも良い状態でできたのは、応援してくれた『サンバチーム』(清水建設江東ブルーシャークス[以下、江東BS]ではノンメンバーを『サンバチーム』と呼んでいる)のおかげでもあります。ただ、九州KVとの対戦でこのままの展開で進むはずがないということは分かっていました。そのため、選手たちには『0対0のつもりでプレーしよう』と伝え、特に入りの10分間を意識するよう強調しました。まだ控えを使っていなかったので、『無理なら手を挙げていい』というくらいの覚悟で、後半最初の10分にかけるよう指示しました」
──今回の勝利の意味について教えてください。
「2シーズン前の入替戦を0対48で敗れた際、夢の島に集まってくださった多くのファンの方々ががっかりした表情で帰る姿を目にしました。今回、ディビジョン2での(ホストゲーム)初勝利をこの夢の島で挙げられたことで、ファンの方々が笑顔で帰られるのを見られたのはチームにとって大きな価値がありました」
──2シーズン前の入替戦では無得点で敗れましたが、今回は早い段階で得点を挙げたことについてどのように感じましたか?
「ウォーミングアップ中、選手間のコミュニケーションがあまり取れていないように見え、少し心配もありました。しかし、実際に試合が始まるとそんな雰囲気は微塵もありませんでした。降格してから、選手一人ひとりが本当にハードワークをしてくれましたし、スタッフもハードワークしてくれました。その結果がこのような形につながったのかなと思います」
──次の試合に向けた課題は何でしょうか?
「プレシーズンマッチから見えていた課題として、ペナルティが出て自陣に入り込まれるというものがありました。特に九州KVはモールが強かったので、モールで押し込んでゴールを取られるパターンがありました。これを改善しなければなりません。次の相手である日本製鉄釜石シーウェイブス(以下、釜石SW)も同じ戦術で挑んでくる可能性が高いですし、そこが今シーズンを通じて課題になってくるポイントだと思います。フォワードコーチや選手と連係し、全員で乗り越えていきたいと思います」
──ジョシュア・バシャム選手など今季初出場の選手もいましたが、初出場した選手の評価と、選手交代の狙いを教えてください。
「ジョシュア選手については、昨季の開幕戦でひざを負傷し、今季初めに復帰した際も再びけがに見舞われましたが、11月末に復帰して以降、エナジーも出してくれて練習では素晴らしいパフォーマンスでした。彼には多くの思いがあってピッチに立ったと思いますが、今日の試合では素晴らしい活躍をしてくれました。選手交代については、後半20分ごろから多くの選手が足をつり始め、インカムで連絡が相次ぎました。その中で、吉廣ヘッドコーチと権丈太郎フォワードコーチがよくコミュニケーションを取り合い、うまく対応してくれました。私は後ろでいつも見ている立場で、時折意見する程度なのですが、彼らがしっかりやってくれました。ただ、交代のタイミングは難しかったです」
──観客動員の増加についてどう感じていますか?
「江東区で活動を始めて4シーズン目になりますが、少しずつ地域の皆さまに認知していただけた結果だと思います。興行運営の担当者やスタッフが日々『どうすれば多くの方に来ていただけるか』を考え、試行錯誤をしながら新たな取り組みを実践してきた成果が表れたのではないでしょうか。本日もさまざまな試みがあったと思いますが、おもてなしの気持ちを込めてやってくれています」
──今回勝利したことによって、前回の対戦時よりもチームが成長していることは感じますか。
「満足というのは成長を妨げる一番の言葉だと常々思っています。満足の中に過信があったり自信があったりすると思うのですが、自信は自信として次につなげていけばいいと思っています。過信には絶対せずに、かつ次の釜石SW戦で負けてしまうとまた同じことになるので、一喜一憂は今日までにして、明日以降は次節を見据えて選手もスタッフもやってくれると思っています。また、勝利して反省する流れが一番良いと思います。チームとしても良い雰囲気を維持したまま次に向かっていけるので、そういう部分に関しては非常にプラスだと考えています」
──次の試合への展望をお願いします。
「今日もリーグ戦14試合中の1試合に勝ったという気持ちですし、まだ12試合残っています。ここで一喜一憂せずに、来年は釜石SW戦とのホストゲームにしっかり勝って、次の試合に臨みながら先のことを考えず、一つひとつの階段を上りながら選手とスタッフが一丸となって、ステップアップしていきたいです」
清水建設江東ブルーシャークス
尾﨑達洋バイスキャプテン
「まずは、ホストゲームに携わってくださった皆さま、本当にありがとうございました。九州KV戦は拮抗したゲームになるだろうと分かっていました。その中で、どう勝つかがポイントでしたが、『サンバチーム』、つまりシャークスのノンメンバーが仮想・九州KVとして練習をしてくれて、良い準備ができました。そのおかげで、試合の入りから良いゲームができたと思います」
──ピッチ上ではゲーム展開をどのように感じていましたか?
「やはり九州KVさんはブレイクダウンが非常に激しいチームだと分かっていました。それに対して、僕たちがどれだけブレイクダウンでプレッシャーを掛けられるかがカギだと思っていたのですが、そこがうまくハマって良い試合展開につながったのではないかと感じています」
──トライを挙げた瞬間を振り返ってください。
「みんながボールをつないでくれて、僕はトライをするだけでした。全員がハードワークをした結果がトライにつながって良かったと思います」
──今回の勝利の意味について教えてください。
「D2での初勝利ですが、それ自体を意識するというより、シーズンはまだ長いですし、その最初の2戦ではありました。その中で、この2勝がチームにとって非常に大きな価値をもつことは間違いありません。この結果を素直に喜びつつも、まだシーズンは始まったばかりなので一喜一憂せず、次の試合に向けて取り組んでいきたいなと思います」
──前回の入替戦で無得点に終わった経験が、今回の早い時間での得点にどう影響しましたか?
「0対48で負けた2年前の入替戦にも出場していましたが、そのときは試合の入りが非常に悪く、何もできないまま負けた印象が残っています。その経験から、試合の入りがいかに大事かを痛感しました。今回は試合序盤に3連続トライを挙げられたことで、流れをこちらに引き寄せることができたと思います」
──低いタックルやハードワークを続けられた理由を教えてください。
「精神的なところで、両チームとも非常に厳しい試合だったと思います。その中で、ノンメンバーも応援してくれましたし、多くのファンが応援に駆け付けてくださり、それが大きな力になりました。選手として多くの観客の前でプレーできるのは本当に誇らしいことですし、自分のモチベーションにもなります。バイスキャプテンとして、誰よりも体を張らなければという意識を持ち続けているので、今日はそれを実行できたかなと思います」
──次の試合に向けた展望をお願いします。
「2勝してチームとして勢いが出てきていますが、その勢いを落とさないことが大切です。過信は禁物なので、反省すべき点はしっかり反省しつつ、ポジティブな面はさらに伸ばしていきたいと思います」
九州電力キューデンヴォルテクス
九州電力キューデンヴォルテクス
今村友基ヘッドコーチ
「素晴らしいグラウンドと準備をしてくださった関係者の方々に深くお礼申し上げます。ゲームですが、序盤からミスが続き、江東BSさんのアタックの勢いを止められなかった前半がすべてだったと思います。後半はアタックをしながらトライを重ねることができましたが、要所でペナルティやシンビンもありました。規律については試合前から指摘していましたが、なかなか修正ができなかったです。本当に江東BSさんのアタックの勢いに今日はやられたところがあります。ただ、本来の自分たちの力が発揮できたかというと、それは出せなかったので、しっかり反省して次に生かしていきたいと思います」
──フィジカルで押していた部分もあったと思うが、どのような準備をしていましたか。
「準備としてはシンプルに、私たちはディフェンスを強みにしたいチームですので、一人ひとりの個のアタックに対してしっかりフィジカルを前面に出すことを準備してきました。しかし、逆に江東BSさんのフィジカルを受けた場面もあり、(体力を)削られながらディフェンスのセットが遅れ、相手のモメンタムを継続されてしまいました。それが向こうのトライにつながった要因だと考えています」
──メンタル的にはどのような動きがあったのでしょうか。
「江東BSさんのホスト開催ということで、ホストゲームの勢いが必ず来るだろうと話していました。その勢いに対して、先に自分たちがしかけようという話をしていたのですが、最初のミスが響き、そこが今日の敗因の一つになったと思います」
──リードを許した状態で前半を終えましたが、ハーフタイムではどのようなことを指示しましたか。
「残りの時間でしっかり勝ち切るというエナジーをチーム全員で出そうと指示しました。また、具体的にアタックとディフェンスの修正点も伝えました。できていた部分も多かったのですが、後半の入りで再び先に得点を許してしまったところは、修正し切れなかった部分として反省しています」
──次の試合に向けて、修正していきたいポイントはどこですか。
「次の試合まで2週間空きますので、あらためて九州KVが何を強みにしているのか、そして試合に勝つために何が必要かを全員で共有したいと思います。特にディフェンスがカギになると考えています。ディフェンスからリズムを作る必要があるので、そこを共有したと思います」
──九州KVの強みとしているディフェンスに、江東BSはどのように対応していたと見ていますか。
「江東BSさんはボールを大きく動かし、勢いのある選手にボールを預けるプレーを展開していました。それは非常に準備されたプレーだと感じましたし、そこに対応し切れなかった点が敗因の一つだと思います」
──江東BSの森谷直貴選手がキヤノンイーグルス時代に、バックスコーチとして同じチームにいた今村友基ヘッドコーチにたくさんのことを学んだと言っていました。彼の活躍をどのように見ていましたか。
「その時代から本当に良い選手でしたし、別のチームに移籍してからも気にしていました。毎試合映像を見るたびに、良いプレーや良いトライを決めているところを目にしていました。今回も注意すべき選手の一人でした。昔の教え子なので、彼が良いプレーをしたことについては試合後に『いいプレーだったね』と本人には声を掛けました。ただし、次に対戦する際には、こちらがしっかり準備をして対応したいと思います。」
九州電力キューデンヴォルテクス
ウォーカー アレックス拓也キャプテン
「まずは今日の試合を開催するにあたりまして、ご尽力いただきましたスタッフ、関係者の皆さま、本当にありがとうございます。今週、自分たちはフィジカリティーを目標にしていて、試合前に『最初の10分で圧倒しよう』という話はしていましたが、自分たちのミスもあり、逆に最初の10分で勢いに呑まれる形になってしまったというのが、今週の反省点というふうに思います。それでも、自分たちがやるべきことを遂行できた部分もありますし、もちろん反省すべき点も多くあります。福岡に帰ってしっかり修正をして、次の試合につなげていきたいと思っています」
──相手がリードしている状況で、選手間ではどのようなことを話し合っていましたか。
「試合中の苦しい時間というのはどの試合でもあると思うので、しっかり落ち着いて、次のプレーで取り返しにいこうという話を選手間で共有していました」
──相手を上回れなかった要因はどこだと考えていますか。
「そこはビデオを見て反省する必要があると思いますが、自分たちはやるべきことをしっかりやろうとしていました。しかし、江東BSさんの勢いをはね返せるほどのパフォーマンスを出し切れなかった部分は反省が必要です。福岡に持ち帰ってしっかり修正していきたいと思います」