2025.05.19NTTリーグワン2024-25 プレーオフトーナメント準々決勝レポート(S東京ベイ 20-15 東京SG)

NTTジャパンラグビー リーグワン2024-25
プレーオフトーナメント準々決勝
2025年5月18日(日)14:30 東大阪市花園ラグビー場 (大阪府)
クボタスピアーズ船橋・東京ベイ 20-15 東京サントリーサンゴリアス

まだ見ぬ“頂点の景色”へ―。突き動かすのは、「このチームで見たい」という思い

ゲーム終盤、フォーリー選手に替わって入った、クボタスピアーズ船橋・東京ベイの廣瀬雄也選手

そこは、敗者には何も与えられない無情な世界。気温27度、初夏とは思えぬ蒸し暑さに翻ろうされた東大阪市花園ラグビー場は、硬い空気に包まれていた。

レギュラーシーズン3位のクボタスピアーズ船橋・東京ベイ(以下、S東京ベイ)と6位の東京サントリーサンゴリアスが拳を交えたプレーオフトーナメントの準々決勝。「ノックアウトステージ」と呼ばれはするが、たとえKOできずとも、判定でも競り勝たなければ次のステージには昇れない。

ここまで18戦を戦い抜き、両チームともにその肉体は無傷ではない。グラウンドでは鋼のような攻防が続き、スコアボードは沈黙を貫いた。息を呑んで戦いの行方を見つめる観客。スタンドに沈殿した緊張感を、野生のリズムで跳び回るチェスリン・コルビのスーパープレー、そして根塚洸雅のパワフルなトライがときおりかき回す。

ともに1トライの活躍をみせた14番、東京サントリーサンゴリアスのチェスリン・コルビ選手(左)、クボタスピアーズ船橋・東京ベイの根塚洸雅選手

そんな非日常的な空間で、背番号22の男が試合の流れに揺らぎをもたらした。残り時間はあと10分。S東京ベイが17対12とリードするも、その点差はワンプレーで埋まるもの。その緊迫した局面でキックを託されたのは、バーナード・フォーリーに替わってピッチに立った廣瀬雄也だった。

ブレイクダウンでペナルティを得たS東京ベイは、ここでショットを選択。「正直、『マジか!?』と思いました」と、廣瀬はその瞬間を振り返る。中央ではあるが、ゴールまでの距離は30m以上。緊張の中で放たれた楕円球は、静かに、ゴールポストへと吸い込まれていった。

「ナード(バーナード・フォーリー)と交代すれば僕が蹴るという準備はしていました。ちょっと緊張はしましたが、この場面で蹴らせてもらえるということを前向きに捉えて、楽しみながら蹴りました」

かつて、リーグワンを制覇する前の立川理道も、同じようにその景色を知らなかった。廣瀬もまた、これまでのラグビーキャリアにおいて“頂点の光景”を見ていない。だからこそ、その景色を「このチームで見たい」。そうした思いが、いまの彼を突き動かしている。

「そのために自分ができることは何なのか。しっかり考えながら、やっていきたいです」

廣瀬のキックは1トライでは追い付けない余白をスコアにもたらし、そして同じく昨季入団のイジー・ソードも、この日堂々と3番を務めあげた。チームには疲労の色がにじむ。だが、そこにはたしかに新しい血が流れている。次の相手は、第17節で痛み分けに終わった埼玉パナソニックワイルドナイツ。物語は、続く。2年前に見た、あの光景まで―、あと2試合。

(藤本かずまさ)

クボタスピアーズ船橋・東京ベイ

クボタスピアーズ船橋・東京ベイのフラン・ルディケ ヘッドコーチ(右)、ファウルア・マキシ キャプテン

クボタスピアーズ船橋・東京ベイ
フラン・ルディケ ヘッドコーチ

──接戦を制した、現在の心境を聞かせてください。

「典型的なノックアウトラグビーだと思います。差は本当にわずかです。完璧な試合ではありませんでしたが、重要なのは何とかして勝つことができたということです。特に東京サントリーサンゴリアス(以下、東京SG)に得点されリードされたあと、落ち着いてペナルティを得て、トライにつなげられたことは重要です。ノックアウトラグビーでは、何が自分たちに有効かを知り、それを実行することが重要です。だからこそ、私たちは祝い、来週を楽しみにすることができます」

──チームにとっては久しぶりのプレーオフトーナメントで緊張する選手も多かったと思いますが、今回の勝因は何だと思いますか?

「選手たちはよく走り、決して止まりませんでした。そして、私たちはチャンスを作り続け、東京SGさんよりも多くのチャンスを作りました。それをどう生かすかが課題です。特にプレーオフでは、22mラインに入ったら結果を出したいです。ハーフタイム前のペナルティについては、相手にプレッシャーを掛け続け、イエローカードを引き出したかったです。ポジティブな姿勢を保つことも大事ですが、スコアボードにプレッシャーを掛けることも学ぶ必要がありました。受け入れて、来週に向けて改善していきます」

──約1カ月前に同じ会場で同じ相手と試合をして、勝利しています。今回、やりづらさはありましたか?

「今回の試合は私たちにとってより大きな挑戦となりました。なぜなら、サプライズを仕掛けられないからです。前回の雨の試合では、東京SGのミスを誘い、そこを突いて勝利しました。しかし、今回は天候も良く、オープンなアタックラグビーとなり、より拮抗した試合で、私たちはハードワークを強いられました。

今回の試合に限って言えば、ディフェンスを頑張ればチャンスが生まれると感じていました。そして、実際にそうなりました。多くのペナルティを得て、22mラインに侵入するチャンスも多くありました。フィニッシュの精度や最後のパスが課題で、あと少しのフェーズが必要でした。それは修正できるので、来週に向けて小さな修正点をもって臨むのは良いことです」

クボタスピアーズ船橋・東京ベイ
ファウルア・マキシ キャプテン

──チームにとって2年ぶりのプレーオフトーナメントになりますが、試合中の選手たちのマインドをどう感じましたか。

「昨季は悔しい思いをしましたが、今季は本当にチームも成長しています。久しぶりのプレーオフトーナメントですが、先のことを見ずに、目の前のことにしっかりとフォーカスをしてきました。東京SGさんが相手となる今週の試合は、タフな試合になることは分かっていました。過去も東京SGさんとのプレーオフトーナメントの試合は熱戦になりました。今日は自分たちにしっかりとフォーカスして、一つひとつのプレーに集中して、最後まであきらめずにやり切って、そこに結果が付いてきたと思います」

──前半に攻めあぐねた場面では、どのようなことを考えていましたか?

「プランどおりに、自分たちの強みをどんどん生かして相手のフォワードにしっかりプレッシャーを掛けていきたいと思っていました。必ずいつか点が入ると、自分たちをしっかりと信じてやっていました」

東京サントリーサンゴリアス

東京サントリーサンゴリアスの小野晃征ヘッドコーチ(右)、堀越康介キャプテン

東京サントリーサンゴリアス
小野晃征ヘッドコーチ

──前半を0対3で折り返した点について、評価をお願いします。また、試合全体のゲームプランについてもお聞かせください。

「相手がセットピースでゲームを組み立ててくるチームだということは分かっていたので、それに対して、セットピースでしっかり粘って、我慢する。我慢した結果、前半を0対3で折り返せたと思います。そこは本当にチームのエナジーにもなったと思います。逆にボールを持ったときには、しっかりとボールを動かす。前回戦ったときの修正点である、ランとキックのバランスを意識しました。今日はそこの割合はすごく良かったかなと思います。少ないチャンスで点を取れたと思います」

──ヘッドコーチ1年目のシーズンが終わりますが、1年を振り返ってどのような手ごたえや収穫がありましたか?

「まずは、自分が一番成長しないとダメだと思っています。今日は6位対3位の試合でしたが、6位という順位はシーズンとおして一貫性が足りなかった(からだと捉えています)。3位のチームのほうが一貫性をもって戦っていたチームだったと思います。来季に向けて、アタックとディフェンスともに、もっと一貫性をもっていきたいです。シーズン最後のほうに『ディフェンスを』という話ではなくて、ボールを持っていても持っていなくてもアグレッシブに一貫性をもってプレーするチームを作っていかなければならないと思います。

最後に、勝利したクボタスピアーズ船橋・東京ベイのみなさん、おめでとうございます。また、1シーズンをとおしてサンゴリアスファンの皆さまの応援が、選手の力になりました。引き続き、もっと強いサンゴリアスを作っていきたいと思います。今季は本当にありがとうございました」

東京サントリーサンゴリアス
堀越康介キャプテン

──80分をとおしてディフェンスですごく粘れていたと思います。どういうことを焦点に置いて戦っていましたか。

「第17節の埼玉パナソニックワイルドナイツ戦からフィジカルの面への意識を変え、まず(タックルを)二人で絶対に入ること、二人目がファイトし続けること、ずっとブレイクダウンでカオスを起こし続けること。それだけをフォーカスして、1週間トレーニングしました。(ブレイクダウンで)スローダウンにすることによって、僕ら前にもずっと出られる良いディフェンスができるので。そこは今日の試合はすごくいい点が出たんじゃないかなと思います」

──前半を0対3で耐えて迎えたハーフタイムにはどういう声掛けをしましたか?

「前半はずっと守って、プレッシャーをずっと掛けられている状態で、いいディフェンスで耐えた感じだったので、相手のほうが多分マインド的にも体力的にも疲れているんだろうなという話をしました。後半が始まってから10分、相手はおそらく勢いに乗ってくるので、もう1回後半のファーストプレーとファーストコンタクト、1分1分で勝っていくというイメージをもって話しました」

──良いディフェンスができたことについてはどう思いますか?

「いまのラグビーはアタックがよくてもディフェンスがよくないと強いチームと言えないので、そこは来季に向けての課題だと思っています。ただ、このディフェンスをコンスタントに、一貫性をもってシーズンをとおしてできれば、優勝に絡んでいけるチームになれると自信をもっています。そこは来季に向けてやっていきたいです」

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