NTTジャパンラグビー リーグワン 2024-25
ディビジョン1 第8節(交流戦)
2025年2月16日(日)12:00 三重交通G スポーツの杜 鈴鹿 (三重県)
三重ホンダヒート 38-37 三菱重工相模原ダイナボアーズ
トライを決めても「申し訳ない」と「みんなのおかげ」。“ミスターヒート”が呼び込んだ劇的な逆転勝利

「彼には申し訳ないな…と思いながら見ていました」
意外な感想を口にしたのは、三重ホンダヒート(以下、三重H)大逆転勝利の立役者となった小林亮太。試合終了間際に1点差へと詰め寄るトライを決めたあと、右サイドからコンバージョンゴールを狙う呉洸太に視線を向けながら、彼はそんなことを思っていたのだという。
「とても申し訳なかったです。昨季まで同僚だった李承爀も最後まで僕を追い掛けてきていたんですけど、それでももう少し中にトライできたはず…と感じていました。だから、洸太には『ありがとう』という気持ちでいっぱいなんです」
小林が見つめる中、呉のキックはゴールポストの間を抜けた。地面にボールがはずみ、アシスタントレフリーが旗を掲げる。これでスコアは38対37となり、その瞬間に試合終了の笛が鳴り響いた。逆転に導いた小林と呉の周りにチームメートが集まり、ファンとともに勝利の喜びを爆発させた。
2025年に入ってから5連敗を喫していた三重H。その悪い流れを断ち切るような劇的結末であった。プレーヤー・オブ・ザ・マッチにも選ばれた小林は、殊勲のトライの場面を感謝の言葉で振り返る。
「ラッキーでした。リザーブの選手たちがチームの勢いを作ってくれましたし、(逆転の)チャンスはあるなと感じました。中央でハードワークしてくれたメンバーにも、最後につないでくれたラリー(スルンガ)にも感謝したいです。僕はボールを置くだけでした。『みんなが取らせてくれたトライ』なんです。
われわれが『HEATER(ヒーター)』と呼ばせていただいているファンの方々が、いつも最初から最後まで熱い声援をくれています。ファンのみなさんが背中を押してくれることが大きな力になっていますし、勝利はそのおかげです」
今年で三重H加入から11年目を迎える“ミスターヒート・小林亮太”。感謝の思いを原動力にした全力プレーが、見る者すべての心を動かすドラマチックな試合を作り出したのだ。彼は今週末の横浜キヤノンイーグルス戦に向けて以下のようにインタビューを締めくくった。
「次もヒートらしい粘り強いラグビーをして、ファンのみなさんを熱くさせるようなプレーを見せて、また一緒に喜びたいです。今日は本当に最高でした!」
なお、この日の会場では、試合前とハーフタイムに三重高校ダンス部『SERIOUS FLAVOR』によるパフォーマンスが行われた。そして出番を終えたメンバーはスタンドに移って大きな声援を送っており、そのパワフルな姿がファンの間で話題を呼んだ。
劇的な試合を見た高校生に「今日はどうだった?」と聞くと、圧倒されるほど大きな声で答えが返ってきた。「たくさんの人にダンスを見てもらえて幸せでした。応援もとても楽しいです。また見に来たいです!」。
ラグビー初観戦の方も多かった『SERIOUS FLAVOR』の心もつかんだ三重Hは、23日も三重交通G スポーツの杜 鈴鹿でのホストゲームに挑む。ファンは再び「歓喜のドラマ」を期待しているはずだ。
(籠信明)
三重ホンダヒート

三重ホンダヒート
キアラン・クローリー ヘッドコーチ
「みんながやってくれた仕事に対して、とてもハッピーな気持ちでいっぱいです。その中でも一番ポジティブなことは、自分たちが計画していたプランを試合の最後まで遂行し続けることができたという点です。ポゼッションもできましたし、テリトリーも60%近くありました。自分たちのやりたいことができた結果、得点につなげることができました。前半に関して言えば、われわれはもっと点が取れたはずでしたが、そこは三菱重工相模原ダイナボアーズ(以下、相模原DB)さんのディフェンスがとても良かったのだと思います。後半は一時的に大きく得点差を広げられる場面もありましたが、今日はベンチから出てきた選手がインパクトを残してくれました。そこにとても感謝しています」
──2025年に入ってから5連敗でしたが、ようやく勝利できました。この勝てない時期にチームにはどんな変化があったのでしょうか。
「初めて負けたクボタスピアーズ船橋・東京ベイ戦は近い点差(5点)でした。その次の埼玉パナソニックワイルドナイツ戦に関しても後半に関しては勝負できていたと思っていました。ただ、選手はフィジカルのバトルで負けてしまって、うまくいかないことにがっかりする結果になっていました。さらに東芝ブレイブルーパス東京戦も、失点を重ねた数分間を除けばいい試合をしていました。ですので、今週の相模原DB戦に向けて、そこをしっかりと改善しようと話をしていたんです。パブロ(マテーラ)が話していたように、フィジカルの勝負というのはそのときにすぐ効果が表れるものではないのですが、試合の最初からどれだけ頑張ったかという部分が後半に生きてきたのだと思っています」
──小林亮太選手が2トライを決める大活躍でした。感動するようなプレーを見せてくれましたが、彼はどんな存在ですか?
「コバ(小林)は三重ホンダヒート(以下、三重H)そのもの。このチームを象徴している人物です。彼はもう11~12年(2014年加入)もの間、ここでプレーし続けています。三重Hの価値や哲学を体現してくれている選手です。また元キャプテンということもあり、背中で見せてくれるタイプです。自分がお手本になってチームを引っ張ってくれる。今日までしばらくけがでプレーできていなかったのですが、それを感じさせないくらいの準備をして、しっかりと戦ってくれました」
三重ホンダヒート
パブロ・マテーラ ゲームキャプテン
「自分からは、試合のテクニカルな部分は説明できないですね。というのも、いまはかなり興奮していますからね(笑)。あとでしっかり映像を見直さなければ分からない部分があります。ただ、全員が必死に仕事をしてくれた結果、最後の1分で勝利をつかむことができました。また、試合前から『今日は絶対にフィジカルでの勝負になる』と思っていました。早い段階で結果が付いてこなくても、最終的にはその勝負が違いを生んでくるだろうと。それを遂行し続けて、自分たちが信じたプランどおりに戦うことができた。それが(勝敗に)大きな影響を及ぼしたと思います」
──5連敗を喫した苦しい時期に、チームはどのようなことに取り組んでいましたか。
「毎週のようにわれわれは新しいことや違うものに取り組んできたと思っています。それは大きな変化ではなく、マイナーチェンジといえるものです。この試合に関しては、『相手はモールを得意としているチーム』だと考えていました。先週のトヨタヴェルブリッツ戦でも30mほど押し込んでいる場面がありましたし、フォワードとしてそれをどう止めるかという話をしていました。また、自分たちもモールを使うチームですので、今日はどちらがそこで圧倒できるかという点が大切になると考え、試合に臨みました。そして、その点に関してはよく戦えたと思っています」
──大活躍した小林選手はチームメートから見てどのような存在ですか?
「私は小林とプレーすることが大好きです。自分が思うに、彼は『ウォーリアー』。戦士のような選手だと感じています。試合になれば常に100%の力を出してくれますし、チームにとって大事な人物であり、リーダーの一人でもあります。その意味でも今日の試合で復帰してくれたことをとてもうれしく思います。正直に言えば、小林がトライを決めることは期待していなかったんですけど(笑)、その結果をつかみ取ってくれてとてもうれしく思います」
三菱重工相模原ダイナボアーズ
三菱重工相模原ダイナボアーズ
グレン・ディレーニー ヘッドコーチ
「とてもがっかりしています。われわれが後半の序盤をコントロールしていましたが、その後は相手に勢いを与えてしまいましたし、プレッシャーを掛けられました。自分たちがハンドルを握っていたところから相手に勝利を渡してしまった。そのような試合でした」
──試合前に、マット・ヴァエガ選手が「相手はフィジカルで押してくるチームだ」とお話しされていました。三重Hのプレーをどう想定されていましたか?
「フィジカルの面はフィジカルで止めなければならないものだと考えていました。相手にもいくつかのチャンスを与えてしまいましたが、一方でわれわれのフィジカルが上回って止めることもできました。そこはいい勝負ができたのではないかと思います」
──早い時間でウォルト・スティーンカンプ選手がけがで交代を余儀なくされましたが、その影響についてはどう考えていますか?
「けがはもちろん想定していませんが、それは自分たちが対応しなければならないものです。ルイス(チェッサム)を前半6分に投入して、それから50分ほどプレーさせたあと、変化を付けるためにマリノ(ミカエリトゥウ)に代えました。そして最後にそのマリノがけがをしてしまって、守備の人数が一人足りなくなったことで苦労したという事実もありました。ただ、けがもあるのがラグビーというものです」
三菱重工相模原ダイナボアーズ
岩村昂太キャプテン
「非常に残念な試合になってしまいました。ヘッドコーチもおっしゃったとおり、後半の途中からコントロールが不可能になり、自分たちのやりたいことができなくなりました。今日の試合は『パフォーマンスの一貫性を出したい』というテーマをもっていましたが、まだ波が大きいところを見せてしまいました。次こそはそれを達成できるように、もっと成長しなければいけません」
──ヴァエガ選手が言っていたフィジカルの部分、フィールド内ではどのように感じていましたか?
「攻撃の面で言えば、ボールキャリーの部分で『相手がどうこうというよりは、自分たちが正しい姿勢と正しい激しさをもってやっていこう』と言っていました。時に受けに回ることもありましたが、うまく戦えたのではないかと思います。そして、前半のゴール前のディフェンスにおいてはフィジカルで非常に対抗できていましたし、そこは良かったポイントの一つです」
──後半には同じような形で立て続けに失点。その原因はどう考えていますか?
「さまざまな要因はあると思うのですが、おそらく一人ひとりのマインドセットです。三重Hよりも泥臭く、そして激しく行こうという気持ちが、前半よりも欠けていたのかもしれません」
──10点差になった際のペナルティで、トライを狙わず3点を取ることを選んだ選択についてはどう振り返っていますか?
「得点差を見て、相手が射程圏内に入るかどうかという点などいろいろな要素を考えて判断したものだと思うんですが、そのときは僕がグラウンドにいなかったので詳しくは分からないんです。ただ、おそらく『敵陣に入ったから得点を取って帰ろう』とショットを狙ったのではないかと思います」
──後半にコントロールが失われた理由はどこにあるのでしょうか?
「ペナルティやミスなどの要因もあると思います。また、下に落ちたボールをどれだけ早くセービング(確保)できるかとか、そのような泥臭さも少し欠けていて、コントロールを失ってしまったのかなと思います」