NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン3(リーグ戦) 第1節
2022年12月17日(土) 14:30 ヨドコウ桜スタジアム (大阪府)
NTTドコモレッドハリケーンズ大阪 22-18 九州電力キューデンヴォルテクス
目指したのは逆転勝利。同点のPGを狙わなかったワケ
12月17日、あいにくの雨天にもかかわらず、昨季のディビジョン3の平均入場者数を上回る2,012人の観客がヨドコウ桜スタジアムを訪れた。NTTドコモレッドハリケーンズ大阪と九州電力キューデンヴォルテクスの開幕戦は、ホストチームが22-18で九州電力キューデンヴォルテクスに劇的勝利を収めた。
80分のゲーム終了間際、NTTドコモレッドハリケーンズ大阪はペナルティーキックの好機を得た。その3分前、相手に逆転を許しており、3点ビハインド。ここでペナルティーゴールのキックを決めれば、同点に追いつく。
そこでNTTドコモレッドハリケーンズ大阪は、タッチへのキックを選択した。ピッチで最終判断を下したキャプテンの杉下暢は、「今シーズンにはずみをつけたいと考え、ラインアウトからモールでのトライで勝利しようと責任を持って決断した」。もしモールが崩れても、外に展開する練習も重ねている。しかし、どこかで失敗すれば開幕戦での勝点は取りこぼす。自分たちの積み重ねてきたものを信じ、最後のチャンスに今季の命運を賭けた。
モールは崩れたものの、積み重ねてきていた練習通り、外へ展開。つないだパスを金勇輝がキックパスで左奥へ、それを受け取った小村健太がそのままトライエリアに飛び込んだ。その後、川向瑛もコンバージョンゴールを成功させ、スコアボードを15対18から22対18に変え、試合を終えた。
セーフティーに同点を狙うのではなく、最後まで勝利をあきらめない勇敢な意志を示し、実際に劇的な勝利をつかんだチームを目の前にして、胸を熱くしなかった者がいようか。スタジアムからは思わず漏れた大きな歓声と割れんばかりの拍手が沸き起こった。
さかのぼること2週間前。プレシーズン最後の浦安D-Rocks戦では、敗れはしたが後半は相手のスコアを上回っていた。その試合後、マット・コベイン ヘッドコーチ、杉下、吉澤太一は、自分たちは「最後まであきらめずに戦える」と感じたと口にしていた。
感じていたものは、この結果で確信へと変わっただろう。
開幕戦で、新生・NTTドコモレッドハリケーンズ大阪がいかなるものかを十分に示した。しかし、これが全貌ではない。「私たちは新しいチーム。まだまだ学んでいる最中」(マット・コベイン ヘッドコーチ)。これからさらに進化を遂げていく。
(前田カオリ)
NTTドコモレッドハリケーンズ大阪
NTTドコモレッドハリケーンズ大阪
マット・コベイン ヘッドコーチ
「雨の中、タフなコンディションの中での非常に面白い試合ではあったのではないかと思います。試合中は、良いアタックなど良い部分はありました。3フェーズをしっかりやり切るというところに関してはよくできたと思います。ただ、やはり規律面でかなりやられてしまいました。簡単にペナルティーを取られてしまうシーンが多くあったので、規律面はしっかり向上させていく必要があると感じました」
──相手のペースになる時間も多かったが?
「ハーフタイムには、規律面に関する話を選手たちにしました。その中でも、ポジティブにい続けることも合わせて伝えました。前半は特に九州電力キューデンヴォルテクスさんのフィールドポゼッションがかなり高かったので、この状況を変えなければいけないということも伝えました。試合が終わったあとにチームのみんなにも話しましたが、私たちとしては新チームなので、まだまだ学んでいる最中。今回の試合もまた、一つの良い学びであったと感じています」
──最後に選手たちがピッチで行った判断について。
「最後のシーンに関しては、選手たちの判断と同様に、試合の流れから見ても、選択するのはショットではないだろうと私も感じていました。キャプテンの判断を信頼し、最終的に素晴らしい結果をつかむことができたのは、良かったと感じています」
NTTドコモレッドハリケーンズ大阪
杉下暢キャプテン(フランカー)
「勝利でスタートできたことは良かったと感じています。この開幕戦は、雨天の中でキックボールとモールが強い九州電力キューデンヴォルテクスさんとの試合ということで、このような試合展開になるだろうということは予想していました。ただ、予想以上に自分たちにファウルとミスがあったことと、フィル・バーリー選手のワールドクラスのキックにも苦しめられました」
──前半は特に苦しい時間が続いたが。
「スクラムに関しては、われわれは優位性を持てているのではないかと感じていました。拮抗した状態、中盤でのマイボールスクラムの時にエナジーを出し、そこでペナルティーを獲得して敵陣に入って得点に結びつけようと後半に臨みました。ブレイクダウンのところでプレッシャーを掛けられ、ボールキャリーを見てしまっている選手が何人かいたので、それをなくしてどんどん押し込んでいけば、雨なのでゲームもとれる。そういったところをフィックスして後半を戦いました。最後のシーンでは、ショットを選択すべきではないかという選手もいましたが、最後はキャプテンとして責任を持ってラインアウトからのモールの流れを決断しました」
NTTドコモレッドハリケーンズ大阪
吉澤太一選手(フルバック)
「最初から最後まで九州電力キューデンヴォルテクスさんのプレッシャーが強く、自分たちのラグビーができませんでしたが、最後に自分たちがやってきたことが出せたので本当に良かったです」
──最後のシーンで、ショットを選択しなかった判断について。
「杉下キャプテンが『引き分けではなく、この試合で勝って、チームにさらに勢いをつけよう』と。キャプテンだけでなく、ほかの選手たちも同じ思いでした。最後に勝利をつかむことができたのは、チームにとって大きな収穫です。チームがさらに一つになれる良いきっかけになったのではないかと感じています」
NTTドコモレッドハリケーンズ大阪
小村健太選手(ウイング)
──どのような気持ちで試合に臨んだのか?
「今日の試合がデビュー戦でした。ちょっとでもチームのためになれたらと思い、試合に臨みました。雨の中での難しい試合でしたので、ボールを落としたらどうしようという不安もありました」
──デビュー戦でありながら、劇的なトライを決めた。
「途中からの出場で、おいしいところをもらいました。金勇輝選手から良いキックのボールが来たので、そのままトライに(いきました)。逆転勝利となるトライを決めることができ、良かったです。ただ、これで満足しているわけではなく、もっともっとこれから良いプレーを示し、チームの主力になっていきたいです」
九州電力キューデンヴォルテクス
九州電力キューデンヴォルテクス
ゼイン・ヒルトン ヘッドコーチ
「まずは、NTTドコモレッドハリケーンズ大阪さんに『勝利おめでとう』と伝えたいです。私たちとしては試合に勝つために十分なことをしてきたと思っていましたが、彼らが上回ったので、称賛したいです。試合全体を通してテリトリーとポゼッションがこちらにあるように思えていましたが、こちらの規律が少し乱れてしまって、自陣に入られてしまいました。NTTドコモレッドハリケーンズ大阪さんは、素晴らしい試合運びだったと思います」
──次戦につなげたい収穫はあったか?
「エリアマネジメントのところでは、試合をしっかりとコントロールできたと思います。選手たちが戦術を考えてスマートに行動できるところは私たちの強みだと思っています。遂行できるチャンスは作っていたけれど、最後までやり通せなかったことが今日の修正点だと感じています。これからどのようにして遂行し切るか、というところを今後の課題として突き詰めていくことができれば、もっと良いものが見せられると思います。今日の試合でも、勝利に値するだけの実力は見せることができました。しかし、勝利することを目標にしていたので、今日勝てなかったことは非常に残念です」
──最後のシーンについて。
「ゲームの中で規律を守ることは非常に難しいことです。リスクを冒す、冒さないかという判断も難しいことです。最後のシーンに関しては、私たちは守備に自信がありますので、蹴った選手たちの判断に関しては問題ないと思っています」
九州電力キューデンヴォルテクス
高井迪郎キャプテン(フランカー)
「プラン通りにできた部分も多くありました。最終的にスコアでは負けてしまいましたが、ゲーム内容では負けてなかったと考えています。スコアで負けてしまったことは残念ですが、それはNTTドコモレッドハリケーンズ大阪さんの強さ、うまさがあったからだと感じています」
──今日の試合で得たものは?
「対戦相手にプレッシャーを掛け続けたいので、そこはできていました。ただ、そのプレッシャーを自分たちでリリースしてしまっている部分が前半にもかなり見えてしまったかと思います。ラインアウトのミスなど、スコアまでつなげられなかったことのすべてが、相手のプレッシャーにやられたか、と言えば、全部がそうだったとは言えません。自分たちのミスの部分を修正できれば、ずっとプレッシャーも掛けられると思いますし、スコアボードも変わってくるだろうと考えています。課題が明確になりました。簡単なことではないですが、修正できるよう前向きに取り組んでいきます」
九州電力キューデンヴォルテクス
山田有樹キャプテン(フランカー)
「対戦相手であるNTTドコモレッドハリケーンズ大阪さんの勝利を讃えます。自分たちのペナルティーにより、陣内に入ってこられてしまいました。そして、そこでうまくボールを運ばれてしまい、トライにつなげられてしまいました。この負けで得た課題を修正し、次戦に生かしたいと感じています」
──今日の試合で良かった部分、課題を具体的にお願いします。
「モールの部分に関してはチームとして準備してきたところなので、そこをしっかりできたことは良かったです。課題に関しては、規律のところでペナルティーをしてしまったことがきっかけで相手を陣内に入らせてしまった部分は見直すべき点だと感じています。試合の最後のシーンに関しては、自分たちのシステムではモールが弱くなってしまわないよう、トライを決められたゾーンには行かないことになっているので、戦術としてはきちんと遂行できていました」