NTTドコモレッドハリケーンズ大阪(D3)
鳴かず飛ばずの野球部員だったキャプテンの目標達成。最後に、「今季のベストゲームを」
前節、NTTドコモレッドハリケーンズ大阪(以下、RH大阪)は、今季の目標としていたディビジョン3優勝とディビジョン2昇格を勝ち取った。プレーヤー・オブ・ザ・マッチは杉下暢が受賞。杉下には、自身がキャプテンとして率いたチームが優勝した記念すべき日が刻まれたキャップが贈られている。
ただでさえ難しいであろう再編された新チームで、杉下は今季、新キャプテンに就き、掲げてきた目標を果たしてみせた。けれど、杉下にはこれまでの人生でキャプテンはおろか副キャプテンの経験さえなかった。
ラグビーを始めたのも、他の選手に比べれば少し遅い。本人いわく「鳴かず飛ばずの野球部員」だった高校2年生のとき、「ラグビー部の先生が体格の良さを見て、声を掛けてくれ」、キャリアをスタートさせた。現在は30歳、立命館大学を卒業後に加入したRH大阪での成長が大きかったという。「学生時代は、ボールキャリーが楽しくてプレーしていた。そこから、これまでの8年で5人のヘッドコーチが指導してくれ、ラグビーについて深く学ぶことができた」。また、今季指名を受けたキャプテンについては、不安や苦悩がなかったわけではないが、「佐藤大朗選手や茂野洸気選手がキャプテンを務めていたのを見て学んでいた」と、目標を実現するまでチームを率いることができた。
チーム再編に伴い、昨季終了後にNTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安(現・浦安D-Rocks)からRH大阪にやってきたマット・コベイン ヘッドコーチにとっても「まだ深く選手を知らないうちにキャプテンを選ぶと、人選を誤る可能性もある。難しい選択だった」。だが、いまは笑顔で言う。「メッセージの内容やそれを伝えるタイミングの見極めなど、シーズンをとおしてキャプテンとして成長していた。メンバーに声を掛け、行動で示してくれた“スギサン”をリスペクトしている」。
チームの父的存在のボーク コリン雷神もまた、杉下のことを「ゲームを重ね、良い経験を積んでいる。みんなにリスペクトされた良いキャプテン」と話していた。
今季の最終戦となる第14節は、ディビジョン3の優勝を争い、切磋琢磨してきた九州電力キューデンヴォルテクスとの対戦。これまで杉下は、試合への意気込みは具体的かつ丁寧に語ってきていたが、最終戦への意気込みは、シンプルだが力のこもった一言だけだった。
「今季のベストゲームをします」
『Let The Wind Blow』を今季のスローガンとし、アップテンポで素早い風を吹かせるようなプレースタイルを目指してきたRH大阪。4月15日、赤く染まるヨドコウ桜スタジアムで、ディビジョン3最後の赤い旋風を巻き起こす。
(前田カオリ)
九州電力キューデンヴォルテクス(D3)
大事にしてきたのは文化を創ること。王者に勝ち、次のステージへ
3週間ぶりの試合となる九州電力キューデンヴォルテクス(以下、九州KV)だが、その間に今節対戦するNTTドコモレッドハリケーンズ大阪(以下、RH大阪)がNTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン3の優勝を決めた。2位が確定した九州KVは4月15日14時半から“王者の庭”でのビジターゲームに臨む。
「私たちのマインドセットはまったく変わらない。最初から入替戦に進み、そこで勝って昇格する計画でした。日野レッドドルフィンズの状況を含めても(自動昇格は)ボーナスのようなもの、私たちのフォーカスは何も変わらない」。ゼイン・ヒルトン ヘッドコーチは落ち着いて、こう話した。
ゼイン・ヒルトン ヘッドコーチは単に勝つことだけを求めてきたわけではない。大事にしてきたのは「キューデンの文化」だと話す。
「長い間、成功するためには簡単な修正では不可能です。一年だけ勝っても意味がない。私たちがやってきたことは、これから長く続けられるものを作り上げること。そうすれば、いまいる選手たちもこれから入ってくる選手たちにコーチングすることができるし、それが受け継がれていって文化になります」
12年前、九州KVにやって来たが、東日本大震災による余波を受け、会社が外国籍選手の人数を制限。選手が優先され、ゼイン・ヒルトン ヘッドコーチは2年でチームを離れることになった。しかし、横浜キヤノンイーグルス(以下、横浜E)のフォワードコーチ、ヘッドコーチなどを歴任後、2019年から九州KVに復帰する。
「『最初の3年で良いチームになろう』とみんなで話していました。4年前、ここに戻ってきたときに公式戦で勝てない時期が6年続いていました。今季は(プレシーズンマッチも含めて)20試合で12勝1分7敗。勝率は6割を超える。これは大きな成長です」
10年前、志半ばで九州KVを離れることになったが、横浜Eで指導をともにした今村友基バックスコーチを今季、チームに呼ぶことができたのは不思議な巡り合わせだ。今季、バックスコーチを招へいすると決まった際に「日本で一番のコーチだ」と今村バックスコーチを指名したという。その効果は絶大で伝統の守備は健在しつつ、さらに得点力が増した。
「今季は良いパフォーマンスをする、そのパフォーマンスカルチャーが良くなってきた」。勝つ、負けるは相手もあること。だからこそ、大事なのは常に自分たちが良いパフォーマンスを出せるか。それが九州KVの文化であり、「今季のチームで九州KVの文化をまた次のレベルに上げることができた」とゼイン・ヒルトン ヘッドコーチは胸を張る。
入替戦に勝って昇格する。ゼイン・ヒルトン ヘッドコーチはまったくブレていない。まずは今季の王者に勝ち、さらなる自信をつかみに行く。
(杉山文宣)